暗くなった夜の道を歩く影が一つ。その背中に誰かを背負い、ゆったりとした速度で歩いている。
ときおり、背中にいる人物の方を見て起きていないかを確認し、すこし位置を直した後でまた歩きだす。
そんなことを何回も繰り返していた。
しばらく歩き、目的地まであと半分ぐらいになったとき、背負われている人物がもぞもぞと動き出し、寝ぼけた顔で周りを見渡した。
その様子に気が付き、声をかける。
「魔理沙、起きた?」
「アリス、ここはどこだぜ?」
アリスの背中に背負われて、起きたばかりなので今の状況を理解していない魔理沙がそう聞く。
「神社の宴会からの帰りよ」
「宴会からの帰りなのに、どうして私はアリスに背負われているんだ?」
はあっとため息を吐くアリス。
「がぶがぶペースも考えずに飲んで、さっさと寝ちゃった誰かさんと家が近いからって理由で、背負って帰らされることになったの」
「そうか。それは大変だな」
さも他人事のようにそう言う魔理沙。アリスは、やれやれ、と一つ呟いた。
「それで、どう? 気持ち悪くとかはない?」
「うーん、あえて言えば少し気持ち悪いかな。まあ、それほどきつくはないけど」
「そう。それだったらいいの」
てくてくとゆっくり歩いていく。アリスから伝わる揺れで、一歩あるくたびに魔理沙のおさげがゆれる。
二人の周りはもう木々が立ち並ぶ魔法の森の中で、時に不気味な鳴き声が聞こえてくる。
アリスに背負われているということに気付いた魔理沙が、アリスにこう問いかける。
「ところで、どうして飛んで帰らないんだ?」
「何が?」
「アリス飛べるじゃん」
「あのね、誰かさんを背負って、さらに箒も押しつけられて、いつも通り飛べるわけないでしょ」
「まあ、確かにそうだな」
(私ってそんなに重かったっけ?)
そんなちょっと乙女っぽいことを考える魔理沙。
するとアリスがちょっと困ったような、それでいて少し照れたように言葉を続ける。
「それに」
「それに?」
「私もちょっと酔っちゃったから、ゆっくり帰ろうかなって思ったの」
「・・・私を背負ったままで?」
「そう、あんたを背負ったままで」
「もの好きなんだな」
「もの好きなのよ」
そう言っていったん二人の止む会話。
空には満点の星が輝き、時たま宇宙の塵が地球に近づこうとして、燃え尽きたりしている。
目がさめた魔理沙はというと、もぞもぞとアリスの背中で動き一番自分が落ち着くことのできる位置を探している。
「もう、そんなに背中で動くと、歩きづらいじゃない」
「そんなこと言っても、落ち着きづらいアリスの背中が悪いんだぜ」
「人の背中で落ち着こうとするな」
その後も、ほんの少しもぞもぞと動いていた魔理沙だったが、結局はアリスの首に手をまわし、肩に頭を置く格好に落ち着いた。
「おお、これだとなかなかの居心地だぜ。いや、乗り心地かな」
「私は乗り物扱いか」
「まあ、今だけは魔理沙様専用の乗り物だな」
「よし、ここで降りなさい」
「冗談だぜ」
そう言って、へへへと笑う。そんな様子を見ながらやれやれとアリスはため息をつく。
アリスに背負われている魔理沙は、アリスの横顔を見ながら、ふとこんなことを思った。
「そういえば、この目線はアリスと一緒の目線なんだな」
「何よ、急に」
「いや、思いついただけだぜ。それにしても、私をより高いところから周りを見てるんだな」
確かに、いま魔理沙の目に入っている景色は、いつものものよりも少し、遠く見えた。
「当たり前でしょ。私の方が背が高いんだから」
「まあ、それはそうなんだが。それでも悔しいって言うかなんというか」
「でも、いつか私の背を追い抜くんじゃない? 魔理沙はまだ成長期でしょう?」
「まあな。じゃあ、アリスよりでかくなったら、その時は私がアリスをおんぶしてやるぜ」
「はいはい、じゃあその時を楽しみにしてますよ」
「おう、待ってろ」
自信満々にそう言う魔理沙に、自然と笑みがこぼれるアリス。
りんりんと虫が鳴く声が聞こえ、撫でる程度の風に、酒で火照った頬が冷まされていく。
次に魔理沙は、首に回していた腕を少しきつくして、顔をアリスの背中にぐりぐりと押しつけた。
「ちょっと、どうしたのよ急に?」
「いや、なんかいい匂いがするなと思って」
「ちょ、何言ってるのよ!」
「ホントにいい匂いがするんだぜ。ほれ、ぐりぐり~」
「あっ、くすぐったいわよ!」
「いい匂いのするアリスがわるいんだぜ~。もっとぐりぐり~」
「あふっ、もう! そんなことしてたら降ろすわよ!」
「あう、それは嫌だ」
「じゃあ大人しくしてなさい」
そう言われてしまったため、すこししゅんとしながらも、顔を押し付けることを止め、アリスに全体重を預ける。
再び落ち着ける体勢を探す魔理沙は、先ほどのように肩にではなく、首元に頭をあずけるような形にした。
すると、自分に残った酔いと、静かな上下の揺れと、布越しに伝わるアリスの暖かさでまた眠気が襲ってきた。
目をつむった状態でアリスに話しかける。
「また眠たくなってきたぜ」
「え? でも、あとちょっとで着くわよ」
「いや、この眠気には勝てないんだぜ。それから、明日の朝ごはんに味噌汁が飲みたい」
「なに?」
「それから起きた時に、誰かにそばにいてもらいたい気分なんだぜ」
「えっと」
「誰にとは言わないが、そうお願いしていないこともないかもしれない」
「・・・分かったわよ。泊まればいいんでしょ」
「誰もそう言った覚えはないぜ」
「もう、・・・ばか」
そうこうしているうちに魔理沙の家が見えてきた。
アリスの背中で嘘寝をしている魔理沙と、それに気付きながらわざとゆっくり歩くアリス。
ドアノブに手をかけ、開けようとしたとき、背中の方からこう言われた。
「ありがとな」
ドアノブに手をかけたまま少し止まって、やわらかな笑みを浮かべるアリス。
「どういたしまして」
寝言かもしれない魔理沙の言葉にそう返して、ドアを開けて魔理沙の家に入る。
魔法の森に静かにドアのしまる音が響いた。
===================================================
「ネエネエシャンハイ?」
「ドウシタノホウライ?」
「アノフタリ、ドウオモウー?」
「オンブシナガラモゾモゾウゴイテ、オンブノシアイッコヲヤクソクシテ、セナカニカオヲオシツケテヨロコンデ、コレカライッショニネルッテイッテタネー」
「バカップルジャネーノ?」
「チョ、ソレシャンハイノセリフ・・・」
ときおり、背中にいる人物の方を見て起きていないかを確認し、すこし位置を直した後でまた歩きだす。
そんなことを何回も繰り返していた。
しばらく歩き、目的地まであと半分ぐらいになったとき、背負われている人物がもぞもぞと動き出し、寝ぼけた顔で周りを見渡した。
その様子に気が付き、声をかける。
「魔理沙、起きた?」
「アリス、ここはどこだぜ?」
アリスの背中に背負われて、起きたばかりなので今の状況を理解していない魔理沙がそう聞く。
「神社の宴会からの帰りよ」
「宴会からの帰りなのに、どうして私はアリスに背負われているんだ?」
はあっとため息を吐くアリス。
「がぶがぶペースも考えずに飲んで、さっさと寝ちゃった誰かさんと家が近いからって理由で、背負って帰らされることになったの」
「そうか。それは大変だな」
さも他人事のようにそう言う魔理沙。アリスは、やれやれ、と一つ呟いた。
「それで、どう? 気持ち悪くとかはない?」
「うーん、あえて言えば少し気持ち悪いかな。まあ、それほどきつくはないけど」
「そう。それだったらいいの」
てくてくとゆっくり歩いていく。アリスから伝わる揺れで、一歩あるくたびに魔理沙のおさげがゆれる。
二人の周りはもう木々が立ち並ぶ魔法の森の中で、時に不気味な鳴き声が聞こえてくる。
アリスに背負われているということに気付いた魔理沙が、アリスにこう問いかける。
「ところで、どうして飛んで帰らないんだ?」
「何が?」
「アリス飛べるじゃん」
「あのね、誰かさんを背負って、さらに箒も押しつけられて、いつも通り飛べるわけないでしょ」
「まあ、確かにそうだな」
(私ってそんなに重かったっけ?)
そんなちょっと乙女っぽいことを考える魔理沙。
するとアリスがちょっと困ったような、それでいて少し照れたように言葉を続ける。
「それに」
「それに?」
「私もちょっと酔っちゃったから、ゆっくり帰ろうかなって思ったの」
「・・・私を背負ったままで?」
「そう、あんたを背負ったままで」
「もの好きなんだな」
「もの好きなのよ」
そう言っていったん二人の止む会話。
空には満点の星が輝き、時たま宇宙の塵が地球に近づこうとして、燃え尽きたりしている。
目がさめた魔理沙はというと、もぞもぞとアリスの背中で動き一番自分が落ち着くことのできる位置を探している。
「もう、そんなに背中で動くと、歩きづらいじゃない」
「そんなこと言っても、落ち着きづらいアリスの背中が悪いんだぜ」
「人の背中で落ち着こうとするな」
その後も、ほんの少しもぞもぞと動いていた魔理沙だったが、結局はアリスの首に手をまわし、肩に頭を置く格好に落ち着いた。
「おお、これだとなかなかの居心地だぜ。いや、乗り心地かな」
「私は乗り物扱いか」
「まあ、今だけは魔理沙様専用の乗り物だな」
「よし、ここで降りなさい」
「冗談だぜ」
そう言って、へへへと笑う。そんな様子を見ながらやれやれとアリスはため息をつく。
アリスに背負われている魔理沙は、アリスの横顔を見ながら、ふとこんなことを思った。
「そういえば、この目線はアリスと一緒の目線なんだな」
「何よ、急に」
「いや、思いついただけだぜ。それにしても、私をより高いところから周りを見てるんだな」
確かに、いま魔理沙の目に入っている景色は、いつものものよりも少し、遠く見えた。
「当たり前でしょ。私の方が背が高いんだから」
「まあ、それはそうなんだが。それでも悔しいって言うかなんというか」
「でも、いつか私の背を追い抜くんじゃない? 魔理沙はまだ成長期でしょう?」
「まあな。じゃあ、アリスよりでかくなったら、その時は私がアリスをおんぶしてやるぜ」
「はいはい、じゃあその時を楽しみにしてますよ」
「おう、待ってろ」
自信満々にそう言う魔理沙に、自然と笑みがこぼれるアリス。
りんりんと虫が鳴く声が聞こえ、撫でる程度の風に、酒で火照った頬が冷まされていく。
次に魔理沙は、首に回していた腕を少しきつくして、顔をアリスの背中にぐりぐりと押しつけた。
「ちょっと、どうしたのよ急に?」
「いや、なんかいい匂いがするなと思って」
「ちょ、何言ってるのよ!」
「ホントにいい匂いがするんだぜ。ほれ、ぐりぐり~」
「あっ、くすぐったいわよ!」
「いい匂いのするアリスがわるいんだぜ~。もっとぐりぐり~」
「あふっ、もう! そんなことしてたら降ろすわよ!」
「あう、それは嫌だ」
「じゃあ大人しくしてなさい」
そう言われてしまったため、すこししゅんとしながらも、顔を押し付けることを止め、アリスに全体重を預ける。
再び落ち着ける体勢を探す魔理沙は、先ほどのように肩にではなく、首元に頭をあずけるような形にした。
すると、自分に残った酔いと、静かな上下の揺れと、布越しに伝わるアリスの暖かさでまた眠気が襲ってきた。
目をつむった状態でアリスに話しかける。
「また眠たくなってきたぜ」
「え? でも、あとちょっとで着くわよ」
「いや、この眠気には勝てないんだぜ。それから、明日の朝ごはんに味噌汁が飲みたい」
「なに?」
「それから起きた時に、誰かにそばにいてもらいたい気分なんだぜ」
「えっと」
「誰にとは言わないが、そうお願いしていないこともないかもしれない」
「・・・分かったわよ。泊まればいいんでしょ」
「誰もそう言った覚えはないぜ」
「もう、・・・ばか」
そうこうしているうちに魔理沙の家が見えてきた。
アリスの背中で嘘寝をしている魔理沙と、それに気付きながらわざとゆっくり歩くアリス。
ドアノブに手をかけ、開けようとしたとき、背中の方からこう言われた。
「ありがとな」
ドアノブに手をかけたまま少し止まって、やわらかな笑みを浮かべるアリス。
「どういたしまして」
寝言かもしれない魔理沙の言葉にそう返して、ドアを開けて魔理沙の家に入る。
魔法の森に静かにドアのしまる音が響いた。
===================================================
「ネエネエシャンハイ?」
「ドウシタノホウライ?」
「アノフタリ、ドウオモウー?」
「オンブシナガラモゾモゾウゴイテ、オンブノシアイッコヲヤクソクシテ、セナカニカオヲオシツケテヨロコンデ、コレカライッショニネルッテイッテタネー」
「バカップルジャネーノ?」
「チョ、ソレシャンハイノセリフ・・・」
もう結婚しろよおまえら
ゆがみねえな・・・