「…………はあ」
大きなため息が出た。
おいおい、と声をかけられて、もう一度、はあ、と息を吐く。
「何だよ。ため息なんか吐いて」
「ちょっとね。……魔理沙は幸せそうで羨ましいわ」
「あー? 何を薮から棒に」
はてな、と首を傾げられる。
皮肉で口にしたのになあ。そう反応されると普通に困る。
「アリスは幸せじゃないのか?」
「人並みには幸せよ。ただ、困ったことがあって」
む、と眉をしかめて納得いかないといった風な表情をする魔理沙。
私の言葉をどう取ったのか、不機嫌そうに口を尖らせた。
「お前、悩みがないとか言ってただろ」
魔理沙の目には不機嫌さと、純粋に心配しているような感じが見て取れて。
……この娘は、どうしてこういう時だけ気を使ってくれるのだろう。
いつもひねくれているくせして、こいつは案外真っすぐなのだった。
「そうね。訂正するわ。あんたに対する悩みで頭がいっぱい」
まあ、返答は皮肉じみた本音だったのだけれど。
これが、本当に困っているのだから仕方がない。
ため息しか出ないくらいには、困っている。
「私は困らせることはしてないつもりだぞ。そんなには」
「している自覚はあるのね……」
そんなにではなくて、しょっちゅうだと思うのだけれど。
はあ、とまたため息を吐く。魔理沙は気に入らないらしく、また眉をしかめた。
「ため息は幸せが逃げていくんだぞ」
「幸せが逃げたからため息が出るの」
うー、と唸り声をあげられる。
別に、私がため息吐くくらいどうでもいいでしょうに。
「よし、分かった。私がどんなことで困らせてるか言ってみろ」
「言えば改善してくれるのかしら?」
「場合によってはしてやらんこともない」
珍しい。いつもそんなに素直なら困ることもないのだけれど。
……いや、素直で従順な魔理沙なんて気持ち悪いか。調子が狂いそうだし。
「で、困りごとって何だ?」
魔理沙は偉そうに腕組みをしながら聞いてきた。
聞き入れるかどうかは私の気分次第なんだからなー、とでも言いたげな態度である。
その態度含め、言ってやりたいことはたくさんあるけれど、目下のところは――
「私の家を私物化するのを止めてもらえる?」
ここのところの、一番の困りごとはそれだった。
けれど、魔理沙は不意を突かれたかのようにきょとん、とした表情をする。
「私は私物化なんてしてないぞ?」
「あんたね、どの口でそんなことを言うのよ」
「この口だな」
あっはっは、なんて明るく笑い飛ばされてしまった。
……前言を撤回しよう。この娘はひねくれてるんじゃなくて、性格がねじまがっている。
「じゃあ部屋の隅に転がってるあんたの私物をどうにかしなさいよ」
魔理沙はなんだかんだで家に来る。
しかし、最近は暇つぶしだなんだと理由を付けて物を持ってくることが多くなっていて。
部屋の一角は魔理沙の物で埋まっている。
特に本が多いのは魔理沙だからだろう。
「む。それは、難しいな」
うーん、と複雑な表情をする魔理沙。
何が難しいというのだろう。持って帰れば済む話だろうに。
返答によっては本をパチュリーのところに強制返還だ、と睨んでやる。
それだけじゃなくて、くだらない理由だったら爆発させてやるんだから。
人形じゃなくて、魔理沙を。
「いや、私の家、置き場が無くなっちゃってな?」
「…………」
さて、火薬はどこに置いてあっただろうか。
「ちょ、ちょっと待て! 悪いとは思ってるんだ! 本気で! ごめん!」
静かに立ち上がった私の腕を掴みながら魔理沙は叫ぶ。
悪いと思いつつ、人の家を占領する方がたちが悪い。ええい、離せ。
何が、な? なのよ。私の家だって人形とかを置くので精一杯なのだ。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ魔理沙に、息を吐く。
まったく、困った娘だと思う。
「はあ。……あんたの家って片付ければ、まだ入るんじゃないの?」
「ふぇ? ああ。まあ、詰めれば、入りそうだけど」
急に話し掛けたからか戸惑う仕種を見せながら魔理沙はそう答える。
私の意図が掴めないのか、魔理沙は何だよ、と不思議そうに問いかけてきた。
「近日中に片付けて取りに来ること。難しいようだったら、手伝ってあげるから」
「え? あ、うん。……ありがとう」
素直にお礼を言われて、少し戸惑ってしまった。
うん。やっぱりこいつが素直なのは調子が狂う。
もやもやとした気持ちを解消させるために、なんとなく魔理沙にデコピンしてやる。
ムキになってやり返されて、またケンカになるな、ともう何度目か分からないため息をつく。
もしかしたら、一番の困りごとはこういう日常が楽しかったりすることなのかもしれない。
いくら逃がしても、この幸せが尽きることはないのだろう。
大きなため息が出た。
おいおい、と声をかけられて、もう一度、はあ、と息を吐く。
「何だよ。ため息なんか吐いて」
「ちょっとね。……魔理沙は幸せそうで羨ましいわ」
「あー? 何を薮から棒に」
はてな、と首を傾げられる。
皮肉で口にしたのになあ。そう反応されると普通に困る。
「アリスは幸せじゃないのか?」
「人並みには幸せよ。ただ、困ったことがあって」
む、と眉をしかめて納得いかないといった風な表情をする魔理沙。
私の言葉をどう取ったのか、不機嫌そうに口を尖らせた。
「お前、悩みがないとか言ってただろ」
魔理沙の目には不機嫌さと、純粋に心配しているような感じが見て取れて。
……この娘は、どうしてこういう時だけ気を使ってくれるのだろう。
いつもひねくれているくせして、こいつは案外真っすぐなのだった。
「そうね。訂正するわ。あんたに対する悩みで頭がいっぱい」
まあ、返答は皮肉じみた本音だったのだけれど。
これが、本当に困っているのだから仕方がない。
ため息しか出ないくらいには、困っている。
「私は困らせることはしてないつもりだぞ。そんなには」
「している自覚はあるのね……」
そんなにではなくて、しょっちゅうだと思うのだけれど。
はあ、とまたため息を吐く。魔理沙は気に入らないらしく、また眉をしかめた。
「ため息は幸せが逃げていくんだぞ」
「幸せが逃げたからため息が出るの」
うー、と唸り声をあげられる。
別に、私がため息吐くくらいどうでもいいでしょうに。
「よし、分かった。私がどんなことで困らせてるか言ってみろ」
「言えば改善してくれるのかしら?」
「場合によってはしてやらんこともない」
珍しい。いつもそんなに素直なら困ることもないのだけれど。
……いや、素直で従順な魔理沙なんて気持ち悪いか。調子が狂いそうだし。
「で、困りごとって何だ?」
魔理沙は偉そうに腕組みをしながら聞いてきた。
聞き入れるかどうかは私の気分次第なんだからなー、とでも言いたげな態度である。
その態度含め、言ってやりたいことはたくさんあるけれど、目下のところは――
「私の家を私物化するのを止めてもらえる?」
ここのところの、一番の困りごとはそれだった。
けれど、魔理沙は不意を突かれたかのようにきょとん、とした表情をする。
「私は私物化なんてしてないぞ?」
「あんたね、どの口でそんなことを言うのよ」
「この口だな」
あっはっは、なんて明るく笑い飛ばされてしまった。
……前言を撤回しよう。この娘はひねくれてるんじゃなくて、性格がねじまがっている。
「じゃあ部屋の隅に転がってるあんたの私物をどうにかしなさいよ」
魔理沙はなんだかんだで家に来る。
しかし、最近は暇つぶしだなんだと理由を付けて物を持ってくることが多くなっていて。
部屋の一角は魔理沙の物で埋まっている。
特に本が多いのは魔理沙だからだろう。
「む。それは、難しいな」
うーん、と複雑な表情をする魔理沙。
何が難しいというのだろう。持って帰れば済む話だろうに。
返答によっては本をパチュリーのところに強制返還だ、と睨んでやる。
それだけじゃなくて、くだらない理由だったら爆発させてやるんだから。
人形じゃなくて、魔理沙を。
「いや、私の家、置き場が無くなっちゃってな?」
「…………」
さて、火薬はどこに置いてあっただろうか。
「ちょ、ちょっと待て! 悪いとは思ってるんだ! 本気で! ごめん!」
静かに立ち上がった私の腕を掴みながら魔理沙は叫ぶ。
悪いと思いつつ、人の家を占領する方がたちが悪い。ええい、離せ。
何が、な? なのよ。私の家だって人形とかを置くので精一杯なのだ。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ魔理沙に、息を吐く。
まったく、困った娘だと思う。
「はあ。……あんたの家って片付ければ、まだ入るんじゃないの?」
「ふぇ? ああ。まあ、詰めれば、入りそうだけど」
急に話し掛けたからか戸惑う仕種を見せながら魔理沙はそう答える。
私の意図が掴めないのか、魔理沙は何だよ、と不思議そうに問いかけてきた。
「近日中に片付けて取りに来ること。難しいようだったら、手伝ってあげるから」
「え? あ、うん。……ありがとう」
素直にお礼を言われて、少し戸惑ってしまった。
うん。やっぱりこいつが素直なのは調子が狂う。
もやもやとした気持ちを解消させるために、なんとなく魔理沙にデコピンしてやる。
ムキになってやり返されて、またケンカになるな、ともう何度目か分からないため息をつく。
もしかしたら、一番の困りごとはこういう日常が楽しかったりすることなのかもしれない。
いくら逃がしても、この幸せが尽きることはないのだろう。
俺のものも俺のもの