空には星が輝き、大地には暗闇が蔓延る。夜という妖怪の時間が、湖のほとりにも訪れていた。
そんな暗闇の中、一つだけほのかに光る明かりが見える。どうやら屋台の提灯がその正体らしい。
でかでかと「八目鰻」と書かれた暖簾が、かすかに吹く風に揺れており、その中で交わされている話声があたりに響いている。
「そこでね、あたいは言ってやったのよ。いつまでも正面が安全だと思うなってね!」
「今日のチルノちゃん、調子が良かったもんね」
「もぐもぐ、そうーなのかー」
「みすちー、鰻の白焼きと焼酎おかわり」
楽しそうに話しているのはこの屋台の店主の顔なじみの、いつもの四人だった。
今日の魔理沙との弾幕ごっこの様子を詳しく話すチルノに、そばでその様子を見ていたのにもかかわらず真剣にその話を聞く大妖精。
話半分に目の前のつまみを食べまくるルーミアに、我関せずのリグルだ。
「ちょっとリグル!あたいの話聞いてるの!?」
「聞いてるよ。魔理沙との勝負に勝ったんでしょ」
「うん、聞いてるのならいい!それでね、そっからがすごいのよ」
身振り手振りを加えてさらに説明に熱が入る。しかし、まともに聞いているのは大妖精だけのようだ。
そんなチルノを横目で見ながら、ミスティアはリグルに話しかける。
「ねえリグル、あの話何回目だっけ?」
「もう4回目よ。それだけ嬉しかったってことでしょうね」
今日の自分の弾幕の出来を得意そうに説くチルノの話を、大妖精は相槌を打ちながら熱心に聞いている。
「大ちゃんもさっきからずっと聞きっぱなしだしね」
「まあ、大ちゃんはチルノのファンみたいなもんだから。うん、やっぱり白焼きはおいしい」
「白焼きも、でしょ」
「違いない」
そう言って白焼きをぱくつくリグル。飲んでいる焼酎はお湯割りで、風に吹かれて湯気が立ちあがっている。
あむあむと食べ進めるリグルを、本日20枚目の蒲焼を食べ終えたとなりのルーミアが見ている。
「ねえ、リグル?それおいしい?」
「あ、うん。おいしいよ」
「じゃあ、みすち~。リグルのやつ私も頂戴!五つ!」
「はいはい、待っててね」
食べすぎなルーミアの注文にもつつがなく答える。これくらいの量はいつも通りなのだ。
そして、どうやら四回目の勝利の瞬間を説明し終えたチルノと、それを聞き終えた大妖精も同時に声を上げる。
「そのルーミアのやつ、あたいも!」
「あ、私もお願い」
「はいよ、了解」
捌き終えた鰻の半身を慣れた手つきで次々と串に刺していき、刺し終えた物から順に火にかけていく。
じゅぅ、という音とともに炭に油が落ち、香ばしい匂いが立つ。焼きあがるまで我慢できないルーミアが、身を乗り出してその様子をうかがっている。
「まだなのか?」
「まだまだよ、ちょっと待ってなさい」
裏返して焼き加減を見る。こんがりと焼けた皮や香りは食欲をそそるには十分なものだった。
少し強い風が吹き屋台の暖簾を揺らし、屋台の中もかけていく。
秋の夜だけあって、その風は涼しいというよりもどちらかといえば寒いというもので、季節の変わり目を感じさせるものだった。
そんな風を浴びて、ミスティアが口を開く。
「それにしても涼しくなったわね。この前までの暑さが嘘みたい」
「そうだよね。朝も明けるのが遅くなって、虫の知らせサービスが忙しくなっちゃった」
「食欲の秋、なのか」
「ルーミアはいっつもお腹空いてんじゃん」
「確かに、ルーミアちゃんのお腹には季節は関係ないね」
「それには賛成。はい、白焼き出来たよ」
ことり、と三人の前に置かれる白焼き。ミスティア特製の塩だれが塗られているものであり、お酒との相性は抜群である。
チルノと大妖精には一枚、ルーミアには五枚の白焼きが皿の上に乗っている。
「わは~。いただきま~す」
「うおっ、おいしいぞこれ」
「チルノちゃん、こぼしてる」
早速食べ始める三人。その味はその様子を見るだけで分かる。
一口かむと脂が口の中に広がり、二口かむと今度は脂とミスティア特製の塩だれが合さり風味が広がる。
少し味が濃く付けられているため、酒の方も進んでいるようだ。
ルーミアとチルノはごくごくと飲んでいるし、大妖精もちびちびながら飲んでいる。
「ぷはあ、うまいっ!」
「おいしいのだ~!」
コップの中の酒を一気に飲みほすルーミアとチルノ。そして二人とも一緒にコップをミスティアにつきだす。
「「おかわり頂戴!」」
「はいよ、ルーミアは熱燗でチルノは冷酒ね」
「私も下さい」
「ほいほい、大ちゃんは人肌だよね」
そうして次々と出される注文に応えていく。どんどんとなくなっていく屋台の酒だが、この四人のときは大抵つけである。
全く利益が見込めないながら、まあ自分も楽しいからいっか、と感じているミスティアなのだ。
そうやって、気心のしれた五人の小さい宴は、今日も深夜まで続いていく。
「はい、じゃあ次の注文は何かな?」
暖かいなぁ…
しかしお腹が減ってくる作品ですね