Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

姉妹の時間

2009/10/25 22:09:04
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 目の前に並ぶ、多数の遊戯盤。
 将棋、囲碁、麻雀、花札……エトセトラ・エトセトラ。当然、地霊殿にあった物。暇つぶしにはもってこいの品達。
 それが何故、私の目の前に並べられているのか? 答えは簡単。目の前にいる、この子に聞けばいい。

「お姉ちゃん! 勝負よ!」

 なんのこっちゃ。




「あがり」
「あーもー! また負けた!」

 これで十二勝四敗。
 戦績としては、まずまず。元より、互いの手の内がわかっている。ならば、クセを読んでいくしかないという、若干セオリーを無視せざるを得ない。こいしも、その辺りは分かっているはず。
 そして、この手の遊戯に私の能力はよろしくない。相手の思考が読めてしまえば、あとはこっちの経験次第。ルールさえ把握していれば、勝てるということも少なくない。そんなわけで、心を読まないように第三の目には布をかけていた。いくら読めないこいしであっても、遊ぶなら公平な条件が良い。悪く言えば、手加減。しかし、心が読まれるよりマシってものでしょう。
 こんな気遣いも、こいしには無用。目を閉じたことで、すでに私にも読めない。
 
「お姉ちゃん大人気なーい」

 トランプを放り投げるこいし。こらこら、誰が片付けるの。

「ぶー」

 ふくれてしまった。ふむ。ちょっと休憩したほうがいいわね。座ってばかりで、肩も凝るし。そもそも、二人で遊戯っていうのも単調になってしまう。もっと大勢でやればいいのだけれど、私たちの他にはペットしかいない。
 ……煎餅でも焼こうかしら。七輪でも持ってきて、炭火でこう……。ああ、でも持ってくるより台所に行ったほうが早いわね。
 移動開始。

「れっつごー」

 何故か、こいしが幼く感じる。昔は、ここまで明るくもなかったけれど幼くも無かった。これも、目を閉じた弊害かしら。
 ま、大した害でもないし無視しましょう。

「とぅ!」

 痛い!
 乗るな乗るな! この年とサイズになってまで、おんぶも無いでしょう! うっ。首を絞めないで……! 私は、こんなじゃれ合いで分かり合える性格じゃないわよ!

「甘いわね、お姉ちゃん」

 何?

「勝負は、まだ終わっていないのよ!」

 だから、今休憩するって言ってるんでしょうがああああ!
 拳骨。悶えるこいし。響く悲鳴。慌てて飛び出すペット一同。痛む拳。
 一気に騒がしくなる、地霊殿。
 こんな事態は、本当に久しい。
 本当に、本当に。






「あら? そういえば、お燐とお空は?」

 地底の主力ペットの二匹が、こんな騒がしい場面に出てこない。煎餅を齧りながら、それに気付いた。お燐はともかく、お空なら煎餅の焼ける匂いに釣られてきそうなものなのに。

「お空は、お山に行ったよー。お燐は、知らない。」

 口から煎餅を撃たないの。そんな、ばっちぃ弾幕は認められません。

「そんなの誰が決めたのよ!」

 本気だったの?! ああもう、唾まで飛ばさないの! 力説しなくてもわかったから!
 宥めるのに、しばらくかかった。こいしは、自分がこうと決めたら突き進む傾向ができたようね。いつの間にか、エントランスの剥製も増えているし。正直、私はアレ好きじゃないのよね。

「もぐもぐ」

 せめて、落ち着いて食べなさい……。
 昔から、読めない子だったけど暫く会わないうちにもっとわからなくなった。とは言っても、不仲だったわけじゃない。
 覚は、同じ種族の相手を読むことは出来ない。例えば、こいしの思考を私が読んだとする。読んだ内容が心に浮かんだ時、こいしもまた私を読む。それをまた、読んで、読まれて、読んでを繰り返す。それは、合わせ鏡にも似ている。読めないことも無いけれど、それがとてもわかりにくくなる、の方が正確かも知れないわね。
 そんなわけで、普段は相手のことを読める覚の妖怪も、親族だけは弱点になる。何せ、何でも相手の考えていることがわかるのに、自分の味方のことが一番分からない。
 自分たちの普通が通用しないっていうことは、やっぱり不安のひとつ。
 それ故に、孤立しがちになった。地底でも同じ。怨霊にさえ、忌み嫌われる。動物に好かれるのは、ちょっとした救い。
 
「おかわり!」

 ……救いも、妹のことまでは届かない。仕方ない、これは私の責任と権利だものね。
 両手に煎餅を持つこいしを見て、口が歪むのがわかる。可愛いやつめ。私は多分、生涯この子に振り回される。恐らく、迷惑をかけて駆け回ることもある。もしかしたら、大喧嘩もするかもしれない。
 でも、この子を愛でずにはいられない。目を閉じても、こいしはこいしのまま。覚から外れたとしてもたった一人の可愛い妹。
 ……姉というより、母親の気分ね。
 そんなことを考えていると、こいしが勢いよく頭を上げる。口の周りには、煎餅の食べカス。

「さ、勝負の再開よ! ここから、私の逆襲が始まるわ!」

 はいはい。せめて、口の周りを拭いてからね。
 私は、席を立って部屋に向かうこいしを追う。








 もうちょっとだけでも、少しでも長くこの時間が続きますように。
さとりのような姉がほしかった。
小宵
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ぼくもほしいです
2.名前が無い程度の能力削除
癒されますねえ。
この姉妹の日常のスケッチ、感銘を受けました
3.名前が無い程度の能力削除
布かける程度で防げるのかwww
さとりんはいい姉だ…
4.名前が無い程度の能力削除
かいがいしいさとりが、もう…
確かに彼女のような姉がいたなら。こいし羨ましす…