賢明なる読者なら既にお気づきだろうが、レミリア・スカーレットは反復横とびが大好きである。
食事中にぴょんぴょん。就寝前にババババ。リズムはアン、ドゥ、トロワ。優雅に、華麗に、軽やかなステップを刻む様は、紅魔の主たる威厳を衆愚に知らしめるのだ。
セレブも羨む丑三つ時。レミリアは一汗かいたところでふんわりタオルを咲夜から受け取り、ご機嫌な顔で言う。
「ほら、私って反復横とびが得意じゃないか。計測していないけれどきっとワールドレコード」
「えっ?」
タオルを差し出す咲夜の表情が固まった。
「もう。ノリが悪いわね、咲夜」
「え、ええ、すみません、お嬢様」
レミリアとて何も闇雲に反復横とびをしているわけではない。反復横とびをすることにより、集中力、反射神経、美容、健康、カリスマに運命を操る程度の能力。吸血鬼として必要な要素全てを鍛えることができるのだ。さらに見るもの全てを恐怖と絶望の淵に陥れるおまけつきである。これをやらない手は無いだろう。
「このリズムはスペルカードにも応用できそうね。ホラ、鬼たちの3……なんとかって言うヤツ」
「ああ、3の倍数で馬鹿になるアレですね」
先ほどの失態を取り戻すかのように、瀟洒に応える咲夜。レミリアは咲夜の回答に満足し、再び反復横とびをし始める。夜はまだまだこれからである。
レミリアと反復横とびとの出会いは、生後一ヶ月にまで遡る。記憶の片隅に残る父親の背中、ゆらゆらり。今は亡き父の面影を思い出すたびに、レミリアの身体も左右に揺れるのだった。父の面影に、愛する妹、フランドールの影が重なる。そうだ、あの娘は父親の顔を知らなかったのだ。
「スペルカードの開発はまた今度だな。今日はフランの誕生日だった」
「今日で496歳になりますわ」
「ふむ……」
伝えなければなるまい。偉大なるスカーレット卿の生き様を。伝承しなければなるまい、スカーレットに生きる意味を。
レミリアは筋肉痛の限界を超えたふくらはぎを弾ませ、地下室へ駆ける。
重たい扉を難なく開ける。フランドールの居る地下室には、誕生日であることを示す496本のロウソクが所狭しと並んでいた。
「フラン!」
「お姉様! 誕生日プレゼントはぱんつが良いわ」
「うふふ、そんなものよりもっと良いものをあげるわ」
レミリアはおもむろに左右へ跳躍する。語るに言葉は要らない。スカーレットの名を継ぐ者ならばきっとこの動きに刻まれた歴史を感じ取ってくれるはずだ。愛する妹、フランドール。彼女に、全身全霊を込めて最高の反復横とびを!
だが、レミリアは失念していた。反復横とびは用法、容量を守って一日の必要量以上にやってはならないことを。妹に対する愛情が、レミリアの身体を突き動かしていたのだ。程なくしてレミリアのドロワに鮮血が飛び散る。ふらっと脚がもつれ、地面へと倒れる。レミリアの視界の隅には何かを言いたげな表情で困惑しているフランドール。
意識が闇の底に落ちる瞬間。唇に柔らかいぬくもりが触れた気がした。
フラン。私は貴女に全てを伝えたわよ――。
力尽きたレミリアはダビデの星になった。
-終-
否、反復横とびSSだろw
そんな図式が脳内でできあがりました。