「ごめんね。お母さん、中二の三学期くらいにしか見えないとかで。……面接、断られちゃった。えっちなお店なら、荒稼ぎ出来ると思ったんだけど」
誰だって児童福祉法は怖いもん。仕方ないよ。
「だからね。この魔界神ってお仕事、やってみようと思うの。サービス残業だらけで凄惨らしいけど……時給いいし。今やってる、アホ毛の内職なんかよりずっと稼げるのよ」
やめてよ。魔界神なんて、部下の尻拭いと過労死が仕事みたいなものだって、皆言ってる。
「いいのよ……アリスちゃんは賢いものね。幻想郷に留学して、沢山勉強してね。それで、出世して……出世したら……。ごめんね、お母さん今、おっきなお家建てたアリスちゃんと、同居したいって思っちゃった。二世帯住宅なんて、迷惑だよね」
そんな事、ないよ。
「――留学費用、皆で貯めたから。アリスちゃんの夢、幻想郷で叶えてきて……」
……お母さん。
私、必ず立派な魔法使いになる。そして、お母さんに楽させてあげる……!
「アリスー、夜雀の店で飲んでこーぜー」
「行く行くー」
仕送りなんか貰ったら、遊ぶに決まってるじゃないの。
おかげで毎日が楽しい!
女の子は可愛いし。酒は美味い。幻想郷いいとこ、一度はおいでウハハハハハ……はは。母。
世界の全てにごめんなさい。
勉強してねっス。こっちに来てから覚えた魔法といえば、美少女を模した人形に「アリスだーいすき」と喋らせるものくらいだ。
「そーれいっき! いっき! いっき! いっき!」
……生ビール美味いなぁ。脳と現実に距離を空けてくれる、アルコールさんマジ偉大。
それにほら、なんだ。酔い潰れてお持ち帰りされそうになってる魔理沙を見ろ。こういう自分以上に駄目な人がいると、何故か「私はまだ大丈夫」と安心できるのだ。
「それではー、魔理沙の内定を祝って、かんぱーい!」
……安心させて下さいよぅ。
幹事さん、今なんと?
「それがさ。魔理沙の奴、遊んでる様に見せかけて、しっかり就職活動してたのよ」
ちゃ、ちゃちゃちゃちゃうわ。これ動揺して震えてるんちゃうわ! 武者震いや! 武者は武者でも落ち武者か私? あれ?
「ほら、最近吸血鬼の挙動が怪しいじゃない? なんか異変起こすらしくってさ」
おつまみに手を出す。……イカの刺身、まっず。どのタイミングで飲み込めばいいのかわかんない。吐きそう。
やっぱ和食って嫌い。味噌汁なんて出された日には、キレるからね私。これをご飯にかけただけの代物が、主食だった幼少時代を思い出すのだ。いわゆるトラウマ。……そっかぁ。お母さん、食費抑えてまで私の留学費用貯めてくれたのかなぁ。貧乏だったもんなー。そんな健気な親を裏切ってるのかー。
死にたい。
「紅魔郷っていう、シューティングゲームが出るそうよ。魔理沙、それの主人公に内定決まったらしくて」
霊夢さん余裕っスね。
「うん。あたしも主人公やるから」
……希望ないなー。どこに売ってる? 買うわ、二百円までなら。
全財産、二百円。っかしいなー酒飲んで服買って魔理沙と遊んだらすぐ金欠だ。また仕送り増やして貰うよう、ねだらなくては。
「アリスは、普段何してるの?」
え?
「いっつも私達と遊んでるし。収入、どうしてるのかなーって気になって……ご、ごめん。聞いちゃいけない事だった?」
「いやいやいや! ほら、私は在宅で稼げるキャリアウーマンだから! プログラマー! デザイナー! ワーキングプア!」
「すっごーい! よくわかんないけど、カタカナ職業って自由時間多いらしいものね。尊敬しちゃうかもー」
霊夢の無垢な眼差し。平時ならば御褒美だが、今は罪悪感を刺激するだけのブツ。
「そっか。お金有るなら、アリスには関係無いよね」
「……何が?」
「紅魔館が、魔女を一人募集してるのよ。正社員で交通費も出るらしいんだけど、アリス? どこ行くの?」
ここから始まるマーガトロイド伝説!
吸血鬼の館で頼れるオンナとして君臨、増え続ける預金残高と名声。そんでもって豪邸建ててお母さんと同居して、ペットも飼う。友達もいっぱい出来る。
計画性溢れる将来像を糧に、履歴書を亜光速でやっつける。その勢いを殺さずに面接会場へ乗り込んだ!
凄いわ、やれば出来るじゃない私!
「……この、空白期間中は何をなさっていたのでしょうか」
やってくれるわね面接官……!
メイドの癖してドジっ子オーラが無い。むしろ銀髪が眩しいキツめの美人で、どこまでも粗探ししてきそう。
「そ、その、人形を作ったりとかしてましたぁ……」
「人形。それは紅魔館の勤務において、どの様に活かされると思いますか」
「えっと、抱き枕の上位互換とか……?」
「既に美鈴が抱き枕です。我々が求めているのは、魔法を用いて主を補佐する、クレバーな人材でして」
クレバー。
魔道書をほっぽり出して、飲み会へ行く様な魔女とは正反対の単語である。
「……ていうかまあ、とっくにパチュリー様が内定してるのよね。お嬢様の古い友人だし、秘書検定合格してるし」
コネ有り資格有り?
なんだその出来レース。死ね。
「気の毒だけど、他を当たってくれるかしら。紹介状なら書いてあげるから。……泣いちゃダメよ。ね?」
『桃っ子倶楽部』
メイド長に紹介された店だ。
ちなみにデリバリー形式。客の注文次第では、様々な衣装が着れる接客業と聞く。
ふむ。時給が不自然に高いし、覇道のスタートラインとしては及第点ね。
「新人さーん。指名入ったよー」
「はーい」
ええっと、スキマの向こうへお住まいの八雲紫さんね。
青田買いの常連さんらしい。
何故か店長から渡された、鞭を片手に訪問。
「どうもー。ご指名ありがとうございまーす、みるく(源氏名)でーす!」
「チェンジ」
今酷いこと言われた気がする。
「ちょっとどういう事よ! 黒髪で腋を露出させた巫女装束の子よこせって言ったのに、全然違うのが来たじゃない!」
うわークレームが具体的過ぎて、特定しちゃったわコイツの本命。
「……まあいいわ。料金分きっちり働いてくれたら、それでいいの」
「具体的に、何をすれば」
「む、夢想封印と叫びながら、ぶって欲しいの」
退廃的過ぎる。コイツの性癖、どこにもノーマルな要素が無い。
「……ムソーフーイン。ムソーフーイン」
「ああっ! いい……っ!」
しなる鞭。
うなだれる私の首。
「……ふう。貴方、中々見込みが有るわよ。藍や幽々子に続く、逸材かもね」
「そっスか」
「決まりだわ」
静かに、紫は呟いた。
「次回作の、妖々夢なんだけど。丁度、魔法を使うクールなボスキャラってのが欲しかったの」
「どうせパチュリーなんでしょ? 眼鏡の似合う秘書検定合格者。はいはい高スペック魔女」
「違うわ。……貴方よ。貴方こそが――!」
俺、このSS読み終わったら親のカード持って賭場に行くんだ……。
……いや、内定が決まっている分自分よりましか。
凄いギャグなような痛烈な風刺のような……
ごめんよ母さんほんとごめん……
がんばれ神綺さま
しかし、なぜか今日は腹ではなく胸が痛いです。
どうしてでしょうか、病気でしょうか、病気だったらよかったのに……
いろんな意味でどきどきします
あと息も何か上手く出来なくなった。
面接……行かなきゃ……
なんていうか・・・
・・・ものすごく泣きながら笑いながら腹筋壊れたw
中二の三学期…ずいぶん具体的な。私が個人的に雇いますので連絡先を教えてください。
笑いながら胸が切ないコトってあるんだね
魔理沙のちゃっかりしっかりぶりもイイ
博麗大結界よ機能してくれ
涙腺(悲哀)とハート(無情)と腹(マジ笑)のトリプルコンボだぜ
ちゃちゃちゃちゃうわボケっ、これはあくまで幻想郷の話であって、現実に生きる俺はしっかりやれとんじゃ
とりあえず仕送り無しでも暮らせる仕事に就けるといいね、アリス
ゆかりん……あんた自分の式や友達にまでこんなことを……
将来怖いよう…。
こう・・・長ドスで突き刺されて傷を抉られた様な痛みが胸に・・・
俺の心にぐっさりぐっさり刺さってくるううう!
大丈夫、アリスは今人気キャラだからきっと親孝行できてるさ
ちょ、なにこれ、その、みんな大変なんだなあ……。
おいやめろ馬鹿、胸が締め付けられて死にそうだ
心が痛ぇ・・・。