Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

そこそこにキャプテンが悪い話

2009/10/22 22:52:34
最終更新
サイズ
12.16KB
ページ数
1

分類タグ

 
 
 
 
 
 これは、下の方にある『どうしてもキャプテンが悪い話』の続きになっています。

 少しだけ読んでいた方が良いと思います。






















 怒っている女の子がいる。

 なら、持てる全ての力を使って笑わせるのが、船長として、友人として、当然で贅沢な権利だろう。















 右手に花束。
 左手にプレゼント。

 一輪と話した後、急いで里に出て手に入れた、気難しいぬえと話す為のアイテム。

 昔、ぬえが好きだと言っていた花を一つ一つ思い出して、花屋で纏めて貰った全体的に青い花束。
 とある人形遣いが作ったと、雑貨屋の店先に宣伝してあった、少し大きめのテディベアのぬいぐるみ。
 それらを抱えて、私は走る。
 代金はそれなりにしたけど、でも、彼女の機嫌を治せるかもと考えれば安い物だ。


 正直、いまだに、ぬえが何に怒っているのか分からないし。
 私の何がいけなかったのかすら、理解していないけれど。


「原因が私だって、はっきりと言われた以上。責任はちゃんと取る!」


 女子を引きこもらせて、そしてその原因が私にあると気づかずに三日も過ぎている。
 私が知らなかっただけで、私が悪いと言うなら、――――それは私が悪い!

 理不尽だの何だの、すでに起きた問題に対して、そんな不遇で二の足を踏む様な、情けないキャプテンムラサじゃない!

 ―――私は、何が何でも、ぬえと仲直りをするっ!

 心に業火を灯し、私は足音激しく、ぬえの部屋へと土煙を上げて向かうのだった。












 ◆ ◆ ◆











 私は、何がしたいんだろうね?

 カモメ柄のパジャマに何度目かの問いを投げかけて、私は、封獣ぬえは、淡く笑った。


 あの時の、ムラサの笑顔と言葉が消えずに、私はもう三日も部屋の中で怠惰にパジャマを抱きしめていた。

 ただ、一人で部屋の中でいじいじして、統一感のない室内の中、カモメの愛らしい絵柄を見て、それを着ていたムラサに、ふわりと抱きしめられた事を思い出しているだけ。

 思い出したら、顔が熱くて、小さく呻きながらごろごろしてしまうけど、それは嫌じゃなくて嬉しいからで。
 とにかく、私はずっと、ムラサの事ばかり考えていた。

 シンとした静かな部屋。
 気に入った物を見つけては拾い、洗って飾っただけの部屋は、住んでいる人間の趣向を完璧に正体不明にする、自分でもお気に入りの出来で、私はその真ん中で大きく溜息を吐いた。

「……あーあ」

 乱雑で統一感のない部屋なのに、それでも清潔にして整理整頓もしているのは、この部屋にムラサがよく遊びに来るからで、ムラサが物珍しげに、部屋の置物を手にとって、歓声をあげるからで……

「…………っ」

 ああ、またムラサの事を考えている。
 そればっかりだ……

 パジャマを、妄想のムラサを抱きしめるみたいに、ぎゅってしてみる。
 ムラサの匂いがしていたパジャマは、いつの間にか薄れて、逆に私の匂いがついていて。……それが、酷く気に食わなかった。

「……ムラサの、ばか」

 敷きっぱなしの布団の上でパジャマを抱いたまま身体を丸くして、ここにムラサがいたら、噛み付いてやるのになぁって、つらつらと考えた。
 でも、今はムラサの顔なんて見たくなかった。

 見たら、多分私はまた、酷い事を言ってしまうのだ。

 ……こう、

『――――ぬえ、私とお話をしましょう!』
「馬鹿じゃないの?」

 って感じに。

 どこか必死で、切羽詰った声をしているムラサに、あっさりと、冷たく拒絶と抵抗しか感じない声色を返してしまうのだ。

 …………………。

 うん?
 今、くぐもっていたけど、あれ?


『………は、ははは、馬鹿ですいません』


 はっ?!

 がばりと勢いよく起き上がる。幻聴じゃなかった。
 羽がぴーんと伸びて、適当に置いていた置物に二、三個ぶつかって派手な音をガチャガチャとたてた。

 え? う、嘘?!

 それは、間違いなくムラサの声で、私のせいでかなり消沈している様で、でもそこにいるのだ。
 部屋の外に、きっと、情けない顔のムラサがいるんだ……!

「………あ!」

 ぱあっ! と理由も無く反射的に嬉しくて、駆け寄ろうとして、カモメのパジャマが視界に映って足が、止まった。
 あ……。

 ――――私は、ぬえの事けっこう好きよ。

 蘇る、声。

 それに、歯の根が震えるぐらい苦しかった事を思い出して、「っ」と引き戸に指を当てたまま、動けなくなる。

「…………」

 爽やかに『好き』と言った、ムラサの笑顔。
 エメラルドグリーンの瞳を、柔らかく細めて、心から言ってくれた、心からの、簡単な『好き』の言葉。

 私の想いと釣り合わない、天秤が一方に痛いぐらい傾く、重さの違い。
 手を伸ばしても、私ではない何処か遠くを見る、彼女の背中。
 それが眩しくて、苦しくて、でも一緒にいたい、大好きな彼女。

「……ぁ」

 勝手に、傷ついて、顔が見られなくて、悪態を吐く、こんな可愛くない女が、こんな気持ちのまま、ムラサに会って、いい訳がなかった。
 パジャマを、強く握る。

『あの、ぬえ?』
「……っ、何よ! 帰ってよ! あっち行ってよ! 大嫌い!」
『うぉ……』

 ショックを受けたみたいで、ムラサは、『えーと』とか、オロオロしているみたいだった。
 ぐっと下唇を噛んで、泣きそうなのが悔しくて、心の中で「ばかばかばか」と一杯に言ってやる。

 ……でも、私が一番に馬鹿だって知っているから。
 だから、私より馬鹿じゃないムラサに、馬鹿と言うしか、ない。

「何しに、来たのよ……!」
『……それはっ』
「わ、私は、ムラサの顔を見たくないから。お話なんて、したくもないから」

 ああああ。
 もうヤだなぁ……

 何で、こんな事しか言えないのかな?
 苦しさに、喉が痛みを感じるぐらい絞られて、嗚咽が汚く零れる。

 本当は、全部逆なのに……!

 理由なんてどうでもいい。此処にいるなら、それで嬉しいし。
 ムラサの顔がすごく見たくて、お話がしたくて、それで、私の想いを知って欲しくて。

 ヤだなぁ……
 何でかなぁ……
 どうして、私は好きな人にも、『正体不明』をしてしまうのだろう?

「……ッ」

 どうして! どうして?! 意識すればするほど、私の気持ちを嘘で隠して、本当を表に出来ないのよ?!

 本当は、本音は、ムラサにだけは、私の正体を、知って欲しいのに……!

「あ、あっち、行ってよぉ……!」

 此処にいて……!

 ポタリ、ポタリと、耳を澄ませば聞こえてしまいそうなぐらい、瞳から涙が零れていく。
 ああ、駄目だ。
 ムラサに気づかれてしまうかもしれない。ムラサは水が駄目だから、その気配には本当に敏感で、


『―――――……ああ、もう!』


 苛立ちを交えた、ムラサの声。

 ハッ、とした時には、ベキベキと木片が壊れる、暴力的で一種、独特な破壊音がして、
 ブゥン! と。私の横を、見覚えがありすぎる錨が飛んでいって―――

 引き戸が、縦に割れていた。


「……押して駄目なら!」


 あ、って。
 声が喉の奥で萎んで、涙が、止まって。
 目の前で、ガラガラと引き戸が崩れて、その先で、眩しいぐらい乱暴に笑う、全然船長らしくない、ムラサが。


「――――何処までも、強引に押し切る!」


 青い花束と、可愛いくまのぬいぐるみを抱いて、私を真正面から強く見つめて「ね?」とにかっと笑うムラサに、
 私は、真っ赤になって、


 やっぱり好きだ……って、思った。












 ◆ ◆ ◆












 正直、私こと村紗水蜜はとっても反省して、正座をしていた。

「ま、まったく。普通に考えて、施錠もしてなかった戸を壊すって、馬鹿じゃないの!」
「……はい。言い訳のしようもないです」

 あ、あははぁ、やっちゃった。

 あれから、ごしごしと埃が入った目元を乱暴に擦ったぬえに、かんかんに怒られていた。

「どうするのよこの部屋!」
「はい、責任を持ちます! 直します!」
「……責任」

 ほぼ土下座する私に、少しは怒りの溜飲を下げたのか、ぬえが追求の手を緩める。

 にしても、と。
 私は情けなさに、いますぐ自分で穴を掘って入って埋まりたかった。

 私にもよく分からない、危機感というか勘というか、とにかく何かに攻め立てられて、穏便にいこうとしていたのに、おもいきり錨を振るってしまった。

 こんな短気。船長失格。

 今日は本当に、キャプテンとして最低だった。

 おかげさまで、ぬえの部屋は滅茶苦茶だし……

「……ばか」
「はい、馬鹿です」

 誠心誠意頭を下げる。
 それで、その。

「……ぬえ」

 どうにもタイミングが外れて、抱いたままだった花束とぬいぐるみを、どうしても渡したくて「はい」って両腕を一杯に伸ばして渡した。

「え?」
「いや、その……」

 お詫びの品、って渡すのは間違いじゃないけど、今の雰囲気で言ったら怒られそうだし。
 ぬえとの仲直りのアイテムなんて、正直に言ったら同じく怒られるし。
 だから、

「受け取って、下さい」

 とにかく、受け取って貰おうと、真剣にお願いした。
 ぽっ、と頬が赤くなったぬえが、私と花束とぬいぐるみを交互に見ていって、すぐにきっと睨んでくる。

「あ、当たり前でしょ! 貰うわよ! か、返さないから、ね?」

 あ、良かった。受け取ってもらえた。
 ほっとして、「勿論」と微笑んだ。
 彼女の顔が、耳まで赤くなる。

「……ムラサなんて、嫌い」

 少しにやけたのが悪かったのか、ぷいっとそっぽを向かれて言われてしまった。
 あはは、と苦笑。

「きらい、きらい、きらい、きらい、きらい」
「……いや、そこまで言わなくても」
「きらいで、きらいで、きらいで、きらいで」
「……傷つくよ? 傷つくからやめてあげて?」

「世界で一番、だいきらい」

 むぎゅっ。
 テディベアの手で、頬にパンチされた。

 花束とぬいぐるみを持ったぬえは、正直絵的に嘘なぐらい可愛くて、さっきから「きらい」を連呼されているのに、どうにも怒れなかった。
 むしろ、しょうがないなぁって、優しい気持ちになる。

「ムラサ!」
「ふえ?」
「気づいてよ」
「うん?」

「逆、なんだからね……!」

 またパンチ。

 ぬいぐるみの心地よい布の感触を頬に、きょとりとして、ぬえが顔を花束で半分以上隠しているのが不思議で、その半分だけの顔が真っ赤なのも不思議で、私は、疑問符を浮かべるしか出来ない。

「……えぇと?」
「…………」

 逆?
 えっと? 何が?

 頓知が苦手な私は困って、でもこれ以上ぬえとの関係を崩したくなくて、今更だけど、部屋の中はぐちゃぐちゃ。いまだ引き篭った理由も分からなければ、私が何をしたのかすら謝れていないし、解決もしていない。

 という状況を深く考慮して。

 ……ずるいけど、誤魔化す事にした。


「ぬえ」
「!」

 立ち上がって、見下ろしていた彼女と同じ目線に立って、そのルビーの瞳に微笑む。
 「ぅえ?!」と真っ赤になる彼女の顎に、そっと右手の人差し指を当てて、引き寄せた。


 昔、地底にいた悪名高き海賊船の船長から聞いた話。
 陸に置いてきた愛すべき女性に、いつも出航前に機嫌を崩す彼女に苦笑して、ご機嫌をとっていた、そのとっておきの方法。

 花束とプレゼントと。


「そんなに、暗い顔をしないでよ。―――可愛い顔が台無しだから」

 
 優しくて、甘い台詞と、頬への口付け。



 心を込めて贈る。
 それは、百発百中の、ご機嫌の治し方。


















 ――――で。

 そうして、機嫌は治ったけど、何故か弾幕とか拳とか投げた錨とか、とにかく色んなもので殴られた私。
 包帯だらけのまま、ぬえに引きずられて夕食の席に座り、もくもくと食事を取っていた。

 ……何でだよ。


「やはり、食事は皆で食べるのがおいしいわね」

 にこにこする聖に、すさんだ心が一瞬で癒される。
「……くぅ!」と内心悶えて、ああ、何か頑張って良かったかなって、報われて、「そうですね!」と返したら、何故か聖以外の皆に冷たく見つめられて、大人しくした。

 ……あぁ、やっぱ納得いかねぇ。

「船長には、これからも気をつけて貰いたいものだね。女心は複雑なんだよ」

 あはは、ナズめこのぉ! 私も女だよ!

「ムラサ、お疲れ様です。でも、もう喧嘩は駄目ですよ」

 穏やかに微笑む星に、曖昧に微笑んで、実は何も解決していないんだけどね、と、ぐったりする。

「まあ、お疲れ、ムラサ」

 もう、瞼の腫れは消えて、いつも通りの一輪に、「ありがとう」と返して、でも、泣かせた罪悪感に少し笑顔がひきつる。
 ……今度からは、本当に泣かせない様に気をつけよう!

 そして、ぬえは。

「…………」

 何でだろう?

 私の隣にぴったりとくっついて、時折、頬を撫でながら、赤くなって怒りながらご飯を食べていた。
 ……?
 いや、本当にぬえが一番分からない。
 正体不明にも程がある、訳の分からなさに、私は、ひたすら首を傾げるしかなかった。


「……ムラサ」
「うん?」
「分かってるとは思うけど」
「はん?」

 もぐもぐとご飯を飲み込んで、お茶を口に含みながら返事をすると、ぎゅっと服を引っ張られる。

「私の部屋、壊れたから」
「――うぐ」

 しまった。それもまだあったと、つまり、徹夜で修理しろって事かと、げんなりして肩を落とす。
 せめて、今日は休ませて欲しいと、上目遣いにぬえを見れば、ぬえは「…ぐ」と口を引き結んで、ぷいっとまたそっぽを向く。


「だから! 今日からムラサの部屋で寝るからね!」


 ―――は?


 引っ張られて、耳元で言われた小声の宣言に、私は箸をバキリと折りながら、大きく目を見開いたのだった。














 そして、
 癒しを求めて一輪に膝枕して貰っていたら、何故かまた拳骨を喰らい、部屋に帰ると、ぬえが無くした筈の私のカモメ柄のパジャマを着て、プレゼントしたぬいぐるみを抱いて、花瓶に花をしっかりといけて、仁王立ちしながら「遅い!」と怒る。




 …………。

 もしかして、これは船長としての器の大きさを測られた試練なのだろうかと、心の底から疲れて、私はぬえに引っ張られるまま、同じ布団で、ぬえの抱き枕として、非常に寝苦しさを感じながら眠るのだった。






 ああ、急に、これだけは言いたくなった。

 ぬえの胸に、ぬいぐるみと一緒に抱き寄せられたまま、むにむにと幸せそうに眠る寝顔に、力がごっそりと抜け落ちながら、私は思う。


 きっと、絶対に、何が何でも。

 私は悪くないっ!
 
 
 
 

 
 
 
 ムラサとぬえの仲直り(?)編。
 
 三歩進んで二歩下がるを地でいく二人。
 
 とりあえず、一歩は進んでいるからいいかなって、もしかしたら進展していないかもと反省しつつ思います。
 
夏星
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いえ、船長は悪いお方です
2.名前が無い程度の能力削除
今までで一番船長が良い意味で悪かったです
3.名前が無い程度の能力削除
ラフメイカーな船長ですね
4.名前が無い程度の能力削除
最近の心の癒しです
もっとやってください
5.名前が無い程度の能力削除
船長、そろそろ自分が悪いってことを認めてください。
6.名前が無い程度の能力削除
船長の悪さが心に染みました。
7.名前が無い程度の能力削除
村紗は悪くないよ!愚かしいだけだよ!
8.名前が無い程度の能力削除
汚い、さすが船長汚い。
9.名前が無い程度の能力削除
ぬえが勇気を出して素直に想いを告げるか。
キャプテンがストレスで倒れるか家出するか。
地獄のタイムアップレース開幕ですね。
しかしキャプテンの本命が恋愛的にも聖だった場合、この寺はどうなってしまうのか……。
10.名前が無い程度の能力削除
>羽がぴーんと伸びて
俺の心を正体不明な感情が襲った
11.名前が無い程度の能力削除
船長が悪いのではない。空気を読めない船長が悪い
12.名前が無い程度の能力削除
船長ったら悪いおかた
13.名前が無い程度の能力削除
そろそろ情状酌量の余地無しだな。
14.名前が無い程度の能力削除
これはもう船長が責任とるしかないな。
15.奇声を発する程度の能力削除
船長…。
16.名前が無い程度の能力削除
やだ…この船長悪い…
17.名前が無い程度の能力削除
有罪
18.名前が無い程度の能力削除
もうこのシリーズ楽しみすぎて仕方が無い
船長はぬえに責任取るの決定だな
19.名前が無い程度の能力削除
ほんにキャプテン様は悪いお方
20.名前が無い程度の能力削除
船長は罪なお人だ…
21.名前が無い程度の能力削除
いいねぇ