「お菓子をくれなきゃ、悪戯しちゃうよ!」
「あら、ルーミアじゃない」
ノックの音に、アリスが扉を開くと、そこにはルーミアが立っていた。
いつもの服装の上に黒いマントを身に纏い、右手には白い袋を持っている。もちろん、麦藁帽子も忘れずに被っている。これのおかげで、ルーミアは陽にあたらずにすむ。
「えーと、何?」
「ハロウィン!」
「あ、あーなるほどねぇ」
納得、といったような声を出すアリス。
「でも、よく知ってたわね」
「前に文が教えてくれたの。お菓子を貰って回る日だって」
楽しそうに話すルーミアに、アリスは思わず笑ってしまう。
上海人形を使って、室内からクッキーの入った缶を持ってくる。
「これ、今日作ったやつだけど、これで良いかしら?」
ルーミアの手には、少し大きいくらいのクッキー缶。
それを受け取ったルーミアは、わぁっと嬉しそうに、顔を綻ばせた。
「ありがとう、アリス!」
「はい、どういたしまして」
アリスは軽く笑みを浮かべた。
ルーミアはクッキー缶を、持ってきていた白い袋へとしまう。もし衣装が黒じゃなくて赤だったら、ハロウィンよりもサンタに見える。
「どうする? 紅茶くらいはご馳走するけど」
「ぅー……ありがとう。でも、みんなの所、回る予定だから」
「そう、気をつけてね」
ひらひらと手を振るアリス。
ルーミアも、ぶんぶんと大きく手を振り、飛ぶ。
「ありがとう、アリス! またね!」
「ちょ、ルーミア! 危ない!」
「ふぇ? きゃうっ!?」
飛んで行こうと浮遊した瞬間、何か黒い塊が超高速でルーミアに激突した。
地面へと落ちてくるルーミアを、アリスが慌ててキャッチする。
「あいたたた、悪いなルーミア。急には止まれなかった」
「あんたか。ルーミアに謝りなさいよ」
「うぁぅ~……」
黒い塊、では無く魔理沙だった。
アリスは、ため息を吐く。そして、腕の中で目を回しているルーミアの状態を確認する。特に目立った外傷は無く、妖怪でもあるからすぐに回復するだろう。そう、判断した。
魔理沙の方も、目立った傷は無かった。
「いやぁ、悪い悪い」
「あ、あはは、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないでしょう、ルーミア。ほら、魔理沙がお詫びに食べてくれて構わないって」
「ちょ、食われる趣味は無いぜ!」
「誰だってそんな趣味無いでしょ」
なんとか回復し、アリスの腕から離れて自分の足で、しっかりと立つルーミア。
魔理沙とアリスは、ぎゃあぎゃあと仲が良いのか悪いのか、良く分からない会話をしている。
そんな二人を見て、ルーミアは思わず笑ってしまう。
「あはは、二人とも仲良いね」
「ルーミア、視力がおかしい恐れがあるわ。永遠亭へ行きなさい」
「同意だぜ。永琳なら治してくれる」
「同じことを前に、輝夜と妹紅に言われたよ。その時も言ったけど、私視力は良いよ?」
悪戯っぽく笑うルーミアに、うぐっと詰まったアリスと魔理沙は、なんとなく顔をそらす。
「そ、そうだルーミア。お詫びにこれを貸してやる」
「え? うわっ!?」
魔理沙が、少し乱暴にルーミアの麦藁帽子を取った。そして、代わりに魔理沙の帽子を被せた。
ルーミアには大きいその帽子は、深く被ると視界がいつもの半分くらいになるほどだった。
「ハロウィンだろ? なら、そっちの方がハロウィンらしいぜ」
「あぁ、確かに。似合ってるわね」
「そ、そうかな?」
見た目が魔女っぽくなったルーミア。
確かに、麦藁帽子よりは断然こっちの方がハロウィンらしい。
魔理沙は親指をグッと立てて、笑う。
「似合ってるぜ。さぁ、他にも行くんだろ? それで言ってきな」
「うん、ありがとう魔理沙!」
麦藁帽子は白い袋にしまって、今度は誰ともぶつかることなく、飛んで行った。
姿が見えなくなるまで、ルーミアはずっと手を振っていた。
二人きりになる。
「アリス」
「ん?」
「マスタースパーク・オア・トリート?」
「はいはい、なんか食べてく?」
「お、ありがたいぜ」
◇◇◇
「トリック・オア・トリート!」
「あら、びっくり。永琳、翻訳して」
「お菓子をくれなきゃ毒殺するぞ、という意味です」
「こら、嘘教えるな」
わざとらしくボケる永琳に、ツッコミを入れる妹紅。
輝夜は、本当にハロウィンを知らないようだ。
ルーミアが、一からちゃんと説明をする。
「まぁ、そんなことがあるの? 永琳、お菓子を持ってきてあげて」
「分かりました」
一瞬で消える永琳。
「どうぞ」
「はやっ!?」
数秒で、和菓子詰め合わせセットを持ち、戻ってきた永琳。
本当に底が知れないやつだ、と妹紅は思った。
「どうぞ、ルーミア」
「わぁ、ありがとう!」
永琳が詰め合わせセットを渡すと、ルーミアはふわりと柔らかい笑みを浮かべて喜んだ。
そして、輝夜が妖しく笑った。
何か嫌な予感、と身体を震わせる妹紅。
「妹紅はお菓子をあげないの? 詰め合わせセットは永遠亭からよ」
「あ、や、私は今手持ちが……」
「そう、なら……」
輝夜のやろうとしていることが、永琳にも分かったらしい。
ルーミアも、なんとなく分かったようだ。
「悪戯よ! ルーミア、やっちゃいなさい!」
「あはは、ごめんね妹紅」
「あ、こら、ちょ、くすぐった……きゃぅ」
輝夜と永琳が妹紅を押さえて、ルーミアがくすぐる。
謝ってはいるが、ルーミアは楽しそうだった。
妹紅は、ルーミア相手に炎を出すわけにもいかず、ただただ耐えた。
「死ぬよりきついわ!」
悪戯が終わり、妹紅が叫んだ。
みんな、笑っている。
「それじゃあ、行くね。ありがとう、みんな」
「またね、ルーミア」
「おー気をつけてな」
「いつでもいらっしゃい」
ふわりと浮き、ルーミアは永遠亭をあとにした。
◇◇◇
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞぉ!」
「ふん、面白い。悪戯出来るものならしてみなさい!」
「お嬢様、ハロウィンですから。弾幕はお止め下さい」
レミリアが弾幕を展開したが、咲夜が止める。
パチュリーは、そんな友人の姿に、ため息を吐いていた。
「大体、なんで中まで連れてきちゃうかなぁ。美鈴?」
「ひゃう! いや、顔見知りですから良いかなぁと」
レミリアの鋭い視線に、汗をかきながら、あははと苦笑い気味に答える美鈴。
「良いじゃない、お姉様」
「まぁ、別に良いんだがな。菓子だったか? 咲夜!」
フランドールの言葉に、割と丸くなるレミリア。
咲夜が、小さな袋を持ってきた。
綺麗に包装までされていて、手作りということが分かるものだった。
レミリアが、盛大なため息を吐く。
「ルーミアみたいなのが今日は多いのよ。妖精とかがトリックオアトリート、ってね。私の館をなんだと思ってるのか……いちいち相手するのが面倒だから、小悪魔と咲夜に菓子を大量に作ってもらった」
疲れたように、そう言う。
どうやら最初は、律義にもちゃんと相手していたようだが、さすがに面倒になったらしい。
「ま、美鈴が悪い子じゃない妖精だから、とか言って中に入れちゃうのも悪いのだけどね」
「ぅ……パチュリー様、お厳しい」
「あ、あは……私はそういう優しいとこ、美鈴さんの良いとこだと思いますよ」
パチュリーの言葉にバッサリ斬られた美鈴を、苦笑い気味にフォローする小悪魔。
ルーミアは、お菓子を受け取る。
「ありがとう、レミリア」
「だから様をつけろと……」
「ありがとう、様レミリア」
「お前、絶対わざとだろう!? あぁ!?」
「お嬢様、落ち着いて」
「あはは、みんなありがとう!」
そう言って、背を向けて歩くルーミア。
「もう行くの? 紅茶くらいなら淹れるのに」
「ううん、まだ回らなきゃいけないから。ありがとう!」
「ふん、さっさと行け」
「素直じゃないなぁ、お姉様」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ紅魔館メンバーを見て、いつも賑やかで楽しそうだなぁとルーミアは思った。
そして、次の場所へと向かった。
◇◇◇
「トリック・オア・トリート?」
「まさか、私の元へ来るとは思いませんでした……」
文と向かい合った状態から、動かない。
どうどうと正面から侵入してきたルーミアを、他の天狗たちに「顔見知りのお前が対応しろ」と言われた文。
「前にも言いましたが、せめて私の家に来て下さい」
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうよ」
「話、聞いてませんね。まったく、今日は何て厄介な日なのでしょう。鬼は来るし、ルーミアさんも来ますし……処理しなきゃならないのは、知り合いである私なんですよ?」
文が愚痴を零した瞬間、何も居なかった筈の文の背後に、霧がすぅっと発生する。
ルーミアは、それだけで霧がなんなのか、分かった。
しかし、文は気付いていない。
「特に、あのチビ鬼ときたら……暇潰しとかいうくだらない理由で山に来ないで欲しいです。姿が見えただけで、山は大騒ぎ。見た目幼女のくせに、酒呑みまくるし……」
「文、後ろ」
「はい? あ、あはは~……これはこれは、萃香さん」
笑顔で、そう物凄い笑顔で、萃香が立っていた。
文は、汗びっしょりになるのが分かった。ルーミアは、ただ苦笑いを浮かべている。
萃香が、文の首を片手で掴む。もちろん、眩しいくらいの笑顔で。
「す、萃香さん……聞いてました?」
「んー? 大丈夫、全然怒ってないよぉ」
「首の骨が、めしめしと音を立ててるのですが……ぅ」
「さすが文。まだ喋れるんだ」
「痛い痛い!」
気を失うギリギリのラインで、手を離す。
咳き込む文。
ルーミアは、ただ見てることしか出来なかった。
「とりあえず、お菓子ならあげますから帰って下さい。ついでに、そこのチビチビ鬼娘、じゃなかった……萃香さんを持って帰ってくれるとありがたいです」
「よし、文。天狗が鬼の腕力に、どこまで耐えられるか試してみよう」
「ぎにゃぁぁぁ!?」
萃香が、文を道具みたいに肩に担ぐ。
暴れるが、鬼の力にはいくら天狗でも敵わない。
「ごめん、ルーミア。文は今から私と楽しい遊びをするから、お菓子の代わりにこれあげる」
「ふぇ? お酒だ」
どこから取り出したのか、一升瓶をルーミアに手渡す萃香。
文はぐったりとしている。
「霊夢によろしく言っといてね、ルーミア」
「うん、ありがと萃香! あ、文!」
「……はい?」
「えーと、頑張って?」
「何をですか! 助けてくださ……ぎみゃぁぁぁ! 人さらいだぁ! チビ鬼!」
萃香が文を持ち、走り去った。物凄い速さで走っていた。あれは、担がれている文からすれば、たまったもんじゃ無いだろう。
「よし、帰ろう」
空はいつの間にかもう、茜に染まっていた。
◇◇◇
「ただいま、霊夢」
「おかえりなさい」
「あ、ルーミアさん、おかえりなさい」
「あ、リリーだ! 久し振りだね」
「はい、えへへ……遊びに来ちゃいました」
ルーミアが神社へ帰ると、縁側でリリーと霊夢がお茶を飲んでいた。
白い袋の中身を、二人に見せる。
「あぁ、ハロウィンだったのね」
「ハロウィンって何ですか?」
首を傾げるリリーに、霊夢とルーミアが説明をする。
ほぇ~、とリリーは頷きながら、理解した。
「そうだったんですか」
「ねぇリリー、ちょっと耳貸して」
「はい?」
霊夢から少し離れて、リリーに耳打ちをするルーミア。
何を話しているのか、と首を傾げる霊夢。
しばらくして、リリーとルーミアは軽く笑った。
何をする気か、霊夢の前に二人並ぶ。
「霊夢、トリック・オア」
「トリートですっ!」
「……へ?」
まさか自分が言われるとは思って無かった霊夢は、予想外で一瞬止まってしまう。
ルーミアやリリーが、こんな戸惑う霊夢を見るのは初めてだった。
二人とも、思わず笑ってしまう。
「……よし、二人とも来なさい」
霊夢にそう言われて、二人とも近寄る。
完全無防備な二人。
「そりゃあっ!」
「あぅひゃぅたっ!?」
「ひゃぁうぅっ!?」
片手ずつでそれぞれに、一気にデコピンをくらわせた。四連デコピンをくらって、ふらふらとなるリリーとルーミア。
「霊夢酷い!」
「痛いです~」
「私に悪戯なんて、五年早いわよ」
「うぅ~、えいっ!」
ルーミアが、霊夢の余裕たっぷりの隙を突いて、横腹をつついた。
「ひゃ、ちょっと何するのよ!」
「リリーも!」
「分かりました!」
「あ、こら、あんたら……後で覚えてなさいよ。くっ、あはは!」
リリーとルーミアにくすぐられて、笑い声を上げる霊夢。
もうそろそろ夜になるというのに、神社はいつまでも騒がしかった。
やっぱこのルーミア良いですね。
彼女を取り巻くまわりの雰囲気もいつも通りほんわかしてて
いつもこの作品で癒されます。
ありがとうございました。
一周年記念おめでとうございます!
これを読んでる時は時間がゆっくり進んでる気がするくらいまったり出来ます。
…でもすぐに読み終わっちゃうんだなw
というわけでもう一回読んできます。
一周年おめでとうございます!
これからも執筆頑張って下さい!!
そしてこのアットホーム感が大好きです
1周年おめでとうございますー
ますー
すー
一周年おめでとうございます。これからも蜂蜜の用に甘い作品が投稿されるのを心待ちしています。
一周年おめでとうございます!
ルーミアの服装を想像すると可愛い。
これからも期待しております。
この雰囲気が堪らなく良いな。
喉飴さんの作品にはいつも癒されますw
ルーミアが可愛すぎますwww
ほんわかなお話を心掛けています。
るみゃにはそれが似合うと思っています。
>>sirokuma様
ありがとうございます!
>>3様
約2ヶ月ぶりでしたw
そう言ってくださると、嬉しいです。ありがとうございます。
>>4様
ありがとうございます!
これからも、ゆったりまったりと書いていきたいです。
>>5様
ありがとうございます。
記念に、今までのみんな出演でしたw
>>地球人撲滅組合様
ハロウィンにるみゃはピッタリですよねw
ありがとですー!
>>7様
ありがとうございます。これからも、マイペースにまったりと書いていきます。
>>8様
ありがとです。ほのぼの、ほんわかしてくださると、嬉しいです。
>>9様
ちょっと似てますもんねwただ、幼い方がるみゃです!
ありがとうございます。
>>10様
るみゃ可愛いですよね。
ありがとうございます!
>>11様
ありがとうございます。ほんわかぬくぬくな空気、楽しんでもらえてなによりです。
>>12様
ありがとうがざいます!
るみゃにほんわかしてくださると、嬉しいです。
そして、るみゃ可愛い!