Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

崇めよ、祀れよ、ごめん止めて

2009/10/22 00:01:32
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 人間の里からほど近いところに、一つの集落があった。
 暮らす人数も里に比べればさほど多くなく、畑を耕しながら日々の稼ぎを得ている。慎ましくも穏やかなその生活を、村の住人達は歓迎していた。
 ところが、だ。世の中というのは、往々にして平穏を好まない。
 豊穣の神すらサジを投げるほどの大飢饉が、その村を襲った。
 余波は他の集落や里にも及び、とても支援などしてくれない。村は村だけで飢饉に対処しなくてはならなくなり、当然のごとく村人達は困り果てた。
 今はまだ、若干の蓄えがある。しばらくなら保つだろうけど、そこから先はどうするのか。
 時間が経つにつれ、その恐怖は増大していく。村では諍いが絶えなくなり、村人達の心も荒んでいった。
 誰もがやがて訪れる村の終焉に恐怖し、半ばそれを受け入れようとしていた時のことだった。
 村人の一人が、あるものを見つけた。





 買い物以外の目的で里へ下りてくるのは、随分と久しぶりのように思えた。以前、神奈子達とお芝居を見に来た以来だろうか。
 物珍しげに通りの出店を眺めながら、早苗はそんな事を思っていた。
 隣の慧音がクスリと笑う。
 まるで子供扱いされているようで、不快そうに顔が歪んだ。すまないと謝りつつも、慧音の顔にはまだ若干の笑いが残っている。
「もう、仕方ないじゃないですか。山から里に降りてくるのは、飛べるからって楽じゃないんですよ」
「分かっているさ、だがあまりにも目を輝かせるからな。どうしても、くくっ」
「むー」
 拗ねるような態度が、ますます早苗の印象を子供っぽく見せているのだと当人だけは気付いていない。
 必死で笑いを堪えた慧音は、今更だがと付け加えて尋ねる。
「それで、私に何の用だ?」
 街を歩いている慧音を見つけ、これ幸いと呼び止めた。警邏の途中だと言うから付き従い、こうして歩いているのだが。
「実はですね、ちょっとお願いがあるんですよ」
「ほお、私にか?」
「ええ。少しばかり、この里の周りを案内して貰いたいんです。慧音さん、そういうのに詳しいって聞きましたから」
 本来なら阿求に頼み込もうとしたのだが、案内などの仕事は全て慧音に任せているからと断られた。単に出歩くのが面倒なだけではと邪推もしたが、真相は阿求のみが知っている。
 慧音は意表をつかれたように目を開き、すぐさま難しげな顔で考え込んだ。
「いや確かに里の人間の中では周りの集落にも詳しいほうだと思うが、一体そこへ行って何をするつもりだ? 妖怪でもないお前が、まさか危害を加えるとは思わないが。話によっては断らせてもらう」
 真剣な眼差しは、それだけ里や集落の人間を思っているから。早苗にやましい気持ちがあれば、咄嗟に目を逸らしたくなるような輝きだった。
 無論、やましい気持ちなど欠片もありはしなかった。
「近頃は新しい勢力も登場してきましたから。ちょっと八坂様達の素晴らしさを、集落の方々にも分かって頂こうと思いまして」
 例えどれだけ欲望にまみれた言葉であっても、当人がそれを自覚していないのなら純粋な発言に思えてしまう。慧音は頬を掻きながら、難しい顔を止めた。
「まぁ、単なる布教活動なら止めはしないさ。だが、それは不可能だと思うぞ」
「不可能? 何故ですか?」
 慧音は言った。
「里ならともかくとして、周りの集落には独自の宗教観を持つ連中が多い。しかも半端ではない、な。そこへ割り込むことは、はっきり言って徒労だと思うが」
「ご安心を。要はその神様達と一緒に、八坂様達も崇めてくれればいいんです」
「……それでいいのか、守矢の神々は?」
「早苗に全部任せるよ、って言ってくれました」
 大方、布教活動が面倒になったのだろう。二柱とも家でゴロゴロしながら、昼ドラの展開について熱い議論を繰り広げている。もう怒るのも馬鹿らしくなったので、仕方なく早苗は一人で布教活動に勤しんでいるのだ。
 改めてあの神様達のどこを信仰すればいいのだと聞かれれば、今だけは一瞬言葉に詰まる。
「まぁ、どうしてもと言うなら案内だけはするけれど。あまり期待しない方がいいぞ」
「はい、見ていてください!」
「お前も大概、人の話を聞かないな」
 呆れた慧音の呟きは、新天地での布教活動をどうするかでいっぱいの早苗には届かなかった。





「とりあえず信仰活動をするのなら、この集落がいいだろう。そこそこ人口は多いし、里からもほど近い」
 飛べばすぐに着くような、それほど近いところにある小さな集落。点在する家々の間隔は遠く、景色の殆どは畑やら田んぼで埋め尽くされていた。
 しかし、その畑や田んぼに早苗は目を奪われる。これでも一応は現人神。見ただけで、その土地の持つ力というのが分かってしまうのだ。
「これは……凄いですね」
「ああ。念のために言っておくが、ここに豊穣の神が訪れたことはない。だが、この集落は里でも話題になるほどの収穫量を誇っているのだ」
 大抵は一回の作物を作るごとに、その土地の力というのは弱々しくなっていく。だから肥料なり豊穣の神の力なりで、それを回復させていくのだ。怠れば土地は衰弱してしまい、作物が獲れない荒れ地と化す。
 だが、この土地たるやどうだ。肥料も神もいらないぜと豪語しているような男らしさ。それが土地の隅々からにじみ出ている。
 迂闊にエンドウ豆をまこうものなら、天界まで届く豆の木が生えそうな勢いだ。
 こんな土地があるだなんて。豊穣の神が知ったら卒倒しそうである。
「しかし、これが何の手も加えられていない土地だなんて、信じられません!」
「私も訝しげに思ったんだが、なんでも新しい行事を行ったところ、急に土地が活性化したそうだ。一時期は大飢饉で滅びる寸前だったと聞くから、よほど強力な行事なんだろう」
 こんな芸当、豊穣の神でもできそうにない。だとしたら、一体どんな神様が?
 慧音は神の力で無いと思っているようだが、こんな奇跡は人間には起こせない。おそらくかなり神格の高い神様が、何らかの形で関与しているのだろう。
 だとしたら見過ごすわけにはいかない。どんな神様で、どんな風に土地を生まれ変わらせたのか。
 この目でしかと見るまでは、守矢神社に戻られない。
「それにしても、人が少ないですね」
 家々からは人の気配がせず、かといって畑にも姿が見えない。
 まるで廃村だ。
「まぁ、里に比べればどうしてもな。だが、今日はあまりにも少ないな……」
 辺りを見渡す慧音。しかし探せども探せども、村人の姿は一向に見あたらない。
 困り果てた二人は村の中を見て回り、やがて中心部へと足を運んだときのことだ。
 大歓声が聞こえ、拍手の音が耳へと届く。
「なんでしょう?」
「さてな。行ってみれば分かるだろう」
 二人は駆け出し、声の元を辿った。
 村の中心部。そこに村中の人間が集まっているのではないかと思うぐらいの人がおり、土俵のようなものを囲んでいた。
 唖然とする二人。一体、何が行われているというのか。
「おや、これはこれは慧音様ではないですか」
「ん、おお、村長殿。お邪魔させて貰っている。ところで、一体これは何なのだ?」
 当然の質問に、年老いた村長は胸を張って答えた。
「豊作を祈願する行事ですじゃ」
 早苗は耳を疑った。これが問題の行事?
 確かに人々の熱気は凄まじいものがある。里の祭りにも匹敵し、あるいは凌駕するかもしれない。
 だが、ここには神の力を感じ取ることができなかった。早苗を欺けるほどの力を持っていても、祭事では絶対に隠すことができない。神とはそういうものであり、だからこそ神の力が感じられないことに疑問を持ったのだ。
 まさか本当に、神無しであんな土地を?
 俄には信じられない。
「初めて見たが、これは凄いな……」
 言葉を絞りだしたような慧音の声。迫力に呑まれているのだろう。
 村長は髭を撫でながら、自慢げに説明をする。
「儂らも最初は半信半疑でした。ですが、騙されたと思ってやってみたら、あれよあれというまに大豊作。大飢饉など何処吹く風で、今年も食うに困ることはありませんでした」
「あの」
 得意気な村長の目が、初めて早苗の方へ向けられる。まるで孫を見るような愛おしげな目で、優しい声をかけられた。
「何ですかな、可愛らしいお嬢さん」
「一つ教えて貰いたいんですけど、この行事は一体誰が考え出したんですか?」
 効果はどうであれ、ともかく行事の発案者に話を聞くべきだろう。そう考え、早苗は村長に質問をしたのだ。
「誰と言われれば答えることはできませんな」
「どうしてです?」
「これは教えて貰ったのではなく、見つけたのですから」
「見つけた?」
 遠い目をして、村長は語り出した。長くなりそうな気配を感じた。
「あれはそう、儂らが大飢饉で苦しんでいたときのこと。空から不思議な本が落ちてきましてな、儂の頭の上に覆い被さったのです。その中身を見た瞬間、儂の中で電撃が走りました。そうだ、これだと!」
 さっきは半信半疑だと言っていたのに。どうも思い出がかなり自分の都合に合わせて変化しているようだ。
「そして、儂らはその本に書かれている通りのことを演じてみたのです。結果はもう、見ればお分かりになるでしょう?」
「そ、その書物はいまどこに!」
 預言の書か、はたまた魔法の道具か。いずれにせよ、その本が全ての鍵を握っているのだ。
「祭事ですからのお。ここにありますじゃ」
 そう言って、村長は懐から一冊の本を取り出した。貢献度の割に、随分とずさんな所に保管してある。
「そ、それは……!」
 村長の取り出した書物。それを見て早苗は絶句した。
 見覚えがあったのだ。その本に。
「誰が書かれたものは分かりませんが、最後の方には夜天綺羅姫という文字があったので、おそらくこれが名前ではないかと」
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
 早苗はは突然悶え苦しんだ。頭を抱え、ゴロゴロと地面の上を転がっている。
 こうかはばつぐんだ。
「し、しかもこの絵。一見すると素人が模写しただけの絵柄に見えますが、これはおそらく敢えて印象をぼかしているんでしょうな。そうすることで見る者によって印象を変える効果があるのではないかと」
「殺して! いっそ殺して!」
 大の字に寝そべりながら、ただただ叫び続ける早苗。
 仕方あるまい。かつて自分が高校生だった頃、気の迷いで書いた同人誌が目の前にあるのだから。
 しかも何故か勘違いされて、妙にべた褒めされているのだからタチが悪い。
 そんな事情を知らない慧音と村長は首を傾げながら若干ひきつづ、早苗を無視して話を続けた。
「それで、その本にはどんな祭事について書かれていたのだ?」
「詳しくは分かりませんが、とにかく男と男が裸になってぶつかりあう絵が多うございました。それで儂らは相撲か何かではないかと思い、それに近いような事を再現してみたのです」
 かつて、早苗の書いた同人誌をうっかり見てしまった神奈子は、苦々しい顔をしながらそういう道もあるよねと呟いた。
 どういう内容かは早苗の名誉の為に伏せておく。
「ご覧ください。村でも屈指の力持ちどもが、荒々しくぶつかっておるのが見えるでしょう?」
「違うんです! そういうことじゃないんです! いや、そういう需要もあるかもしれないけど少なくとも私が思っていたぎゃー!」
 発作のように突然叫んだ早苗は、祭りが終わる頃には泡を吹きながら卒倒していたという。
 相撲で勝ち残った真の男が彼女を担ぎ上げ、高らかに掲げたのは言うまでもない。
「オッヨメサーン!」
 後日、その集落に御柱が降り注いだ。
 
「あやややや、せっかくのスクープがどこかへ落ちてしまったみたいですね」
八重結界
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コメント



1.名前が無い程度の能力削除
や○い>>>(越えられない壁)>>>秋姉妹、か
しかも邪気眼にまで開眼してるとか風祝の御利益マジぱねぇw
>>かつて自分が高校生だった頃
しかも結構最近の話じゃないですかw
2.名前が無い程度の能力削除
これはまさにタイトル納得
3.名前が無い程度の能力削除
秋姉妹涙目wwwwwwww
池○乙女ロー○の住人まとめてアフリカ連れてけば
食糧危機・自然問題即解決wwwwwww
4.名前が無い程度の能力削除
奇跡というより奇癖だなwwww
5.名前が無い程度の能力削除
神奈子さまはやさしいな
6.Taku削除
なにが なんだか わからない
7.名前が無い程度の能力削除
そういう道もあるよね。
8.名前が無い程度の能力削除
タイトルに納得wwwこれはひどいwww
9.名前が無い程度の能力削除
これは信仰するしかない!・・・よな?
10.名前が無い程度の能力削除
\(^o^)/オッヨメッサーン

これが奇跡を起こす程度の能力の力か…
11.名前が無い程度の能力削除
まさかの○女子
どこに雨乞いの要素があったんだwww
そして何故効果があるwww
12.名前が無い程度の能力削除
確かに相撲は豊作祈願の神事であることがミソ。
これはあれだ、あの……なんだ?
13.名前が無い程度の能力削除
オッヨメサーンくそ吹いたwwwww
14.名前が無い程度の能力削除
こいつぁひでぇや!(あくまで褒め言葉)
15.名前が無い程度の能力削除
何という黒歴史…w

やばいこれ面白い。
16.名前が無い程度の能力削除
知らず知らずのうちに早苗さんに信仰心が集まっていたとは
17.名前が無い程度の能力削除
早苗さんを崇めた結果、奇跡が起こったのか?
なんていうか……うん、早苗さんご愁傷さまですw
18.名前が無い程度の能力削除
早苗さん、それはさすがにフォローききませんよ(泣)