注意!
このSSは作品集50・51の『現人神の居る道具屋シリ-ズ』から設定を受け継いでいます。
よければそちらを読んでおくことを強くお勧めします。
簡単に設定を語るとすれば、
・早苗は霖之助に好意を持っている
・私のハートがフリーズタッチミー!!
となっております。
以上の設定に嫌気が刺した方は今すぐブラウザを閉じた後念入りにウイルスチェックすることを
お勧めします(何
◇
守矢神社。妖怪の山の頂上付近に存在する神社である。
この神社の巫女もとい、風祝である東風谷早苗は境内の掃除をしていた。
彼女はやけに機嫌がよさそうである。
「~♪」
実は数日前まで幻想郷で話題になっていた、空飛ぶ宝船異変を解決してきたばかりであった。
諏訪子の力を借りてはいたものの、自分だけで異変を解決できたのはさぞ嬉しかったのだろう。
・・・その間に色々とあったのだが。
それはさておき、嬉しそうに掃除をする早苗の後から、ピョンピョンと蛙飛びで諏訪子が近づいてきていた。
諏訪子も早苗の様子に気付いたようである。
「あうー、ずいぶんと上機嫌だけどどうしたの?」
「あ、諏訪子様!おはようございます!
いやぁ、私と諏訪子様の力で異変を解決できたと思うと、嬉しくて・・・」
「あはは、私は特に何もしてないけどね~」
「いえいえ、そんな事は決して・・・」
他愛の無い会話をしながら、二人は笑いあう。
その様子は、はたから見れば仲の良い姉妹にも見える。
「そういや早苗、ひとつ聞きたいことがあるんだけどいい?」
「はい?なんでしょう諏訪子様?」
「終わったあと、愛しの森近に告白したの?」
その言葉を聞いた直後、早苗は派手に神社の鳥居の柱に頭をゴツンとぶつけた。
何やら煙のようなものが出ている。大丈夫だろうか。
「・・・・・・ど、どうしても言わないとダメですか・・・?
というかなぜ、諏訪子様がその事を・・・」
「あははは、あてずっぽで言ってみたんだけど図星だった?
んで、どうだったの?ん?」
諏訪子は相変わらず笑っているが、早苗の方はというと。
・・・何やらわなわなと体が震えていた。
「・・・・・・けないですよ・・・」
「?」
「できるわけないじゃないですかっ!いくら心の中では覚悟を決めてたとしても!
異変解決の後で気分がハイになっているとしても!そんな簡単に・・・
いえるわけないじゃないですかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そう叫ぶと柱にガンガンと頭を打ちつけはじめた。
ヤバイ、これはヤバイ。聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。
諏訪子は慌てて早苗を止めようとする。
「さ、早苗落ち着いてっ!?
機会ならまたいつでも作れるから!諦めちゃダメだよ!?」
その言葉を聞いた早苗はピタリと動作をやめると、諏訪子の方をクルリと振り返った。
笑顔だが、何やら額からちょっと赤色の濃いトマトジュースが出ているように見える。
「・・・そうですよね、まだ私が精神的に成長してからでも遅くはありません。
霖之助さんもきっと待っていてくれます!」
「あ、うん・・・・・・頑張ってね、早苗。」
「はい!」
そして早苗は本殿の方へ歩いていき・・・・・・・・・パタン、と倒れた。
「早苗ぇぇぇぇーーーーーーっ!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いやぁ、一時はどうなるかと思いましたよ。」
早苗が倒れてから1時間後、頭に包帯を巻いた早苗は笑いながらそう言った。
「あのねぇ・・・額を切っただけだったからよかったけど、もし割れてたりしたら
最悪閻魔のお世話になってたかもしれないよ?」
「大丈夫です!毘沙門天の弟子をも退けた私なら、閻魔なんて
ちょちょいのちょいですよ!」
「あーはいはい、そうだね。」
諏訪子は何故かやたらテンションの高い早苗に半ば呆れている。
トマトジュースと一緒に大事なものまで出てしまったのではないか?
・・・と、諏訪子がふと上を見ると、誰かが神社に降りてくるのが見えた。
「よう早苗。久しぶりにきてやったぜ!」
「あれ?魔理沙じゃない、元気?」
その人物は普通の魔法使いこと、霧雨魔理沙であった。
久しぶりの魔理沙の訪問に、早苗も諏訪子も驚いている。
「珍しいですね、こっちの神社に来るなんて。
何か御用ですか?」
「ああ、ちょっとお前に客をつれてきたんだぜ。ほら。」
そう言って彼女が指差した方向には、早苗にとって記憶に新しい人物が居た。
大きな錨を背負い、セーラー服のその少女は確か・・・
「ムラマサさんでしたっけ?」
「・・・惜しいですが違います。ほら、あの宝船の船長の・・・」
「あぁ!今思い出しました!○マトさんですよね!
あの船に乗ってイ○カン○ルへ波○砲を撃ちにいくんですね!」
「・・・覚えてないのなら覚えてないと言ってくれていいですよ?」
図星を指されて「あ、はい。」と素直に応じる早苗。
対するセーラー服の少女・・・村紗水蜜ことムラサは早苗の反応に苦笑している。
「それより、その包帯はどうしたんです?
最初に会った時は無かった気がしますが・・・」
「あ、これですか?ちょっとさっき鳥居の柱に頭をぶつけて
大変なことになったので、巻いたんです。」
「さすが早苗だぜ。」
何がさすが、なのかはムラサにはわからなかったが、笑っている早苗を見る限り
別にそこまで重傷でもなかったのだろう。
そう判断したムラサは、ここに来た目的を話すことにした。
「あー、それで、実はここまで来たのにはある理由がありまして・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・一週間後の宴会に出す料理に困っている?」
「はい、そうなります。」
ムラサがこの守矢神社を訪れた理由を聞いた早苗と諏訪子は、うーんと首をかしげる。
「それなら、なんで私等のところに来たの?
人里にあるお店の方がこういうことには詳しいんじゃ?」
「最初は人里を回ってそういうものは無いかと思ったんですが・・・
失礼ながらどれもしっくりこないものばかりでして。
カレーを宴会で出すというわけにもいきませんからね・・・」
「カレーねぇ・・・」
「そこで、何かそういうのに詳しそうな人はいないかと偶然、この白黒に聞いたら
ここに連れてこられたわけです。」
「早苗は外の世界の人間だからな、そういうのには詳しいんじゃないかと思ったんだぜ。」
そういや最近カレー食べてないなー、と諏訪子は呟く。
しばらく考えていた早苗だったが、何かを思いついたようだ。
「そうですね、ならシチューとかどうですか?
材料もそんなにカレーと大差ないですし。」
「シチュー・・・ですか?それは一体どんな・・・」
「えーっと、シチューっていうのは・・・ちょっと説明は今は省きますけど、
とりあえず宴会とかパーティーにはいいと思います。」
「へえ、それはいいですね・・・で、材料は?」
「それが問題なんですよ・・・具の方はカレーと殆ど一緒でいいんですが、
ビーフなら赤ワインとかトマト、クリームなら牛乳と生クリームが必要不可欠ですからね・・・」
「・・・ずいぶん詳しいね、早苗。」
諏訪子のその質問に「シチューマスターと呼んでください!」と早苗は誇らしげに返した。
それに対し、ムラサは難しい表情をしている。
「うーん・・・牛乳とトマトなら命蓮寺にもあるのですが・・・ワインはちょっと・・・
生クリームというものにいたっては見たことが無いですね。」
「あ、そうですか・・・まあ、ワインも生クリームもこの幻想郷で
簡単に手に入るとは思えませんしね・・・」
ここは外の世界ではなく幻想郷だということを思い出し、早苗はガックリと落ち込んだ。
香霖堂にならワインぐらいはあるかもしれないが、ついさっきまでのやりとりを思い出すと
今は行きたい気分ではなかった。
どうしたものか・・・と考えていると、それまで黙って話を聞いていた魔理沙が唐突に口を開く。
「簡単・・・かはわからんが、手に入る場所なら一箇所知ってるぜ?」
その一言に、早苗もムラサも魔理沙の方を振り向く。
「魔理沙さん!その場所に連れて行ってくれませんか!?」
「え?あ、ああ、別に私は構わないぜ・・・?」
「じゃあお願いします!ほら、ムラさんもいきましょう!」
「ムラさんって・・・」
私はムラサですよ、といおうとした彼女だったが、すでに魔理沙と早苗は神社から
飛び立ってしまっていたのを見て、諦めてその後を追いかけた。
~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・・・・ということなんだぜ。」
「そう・・・大体の事情は察したわ。
つまり、そのシチューを作るための材料を分けて欲しいってことでしょう?」
「はい、そうなります。」
魔理沙につれられてきた場所は、紅魔館であった。
早苗は紅魔館には来たことはなかったが、確かにここにならあるかもしれない、と思ったのだろう。
特に文句をいうわけでもなく屋敷の中に入っていった。門番は寝ていたし。
今彼女達と話している人間・・・十六夜咲夜は、突然の見知らぬ人間の来訪に驚いたが、魔理沙が
事情を話すと、どうやら納得してくれたようである。
「別に材料を分けるのは構わないけどね、ただ・・・」
「・・・ただ?」
「一つ条件があるのよね。」
「じょ、条件・・・?」
「ええ、もちろん聞いてくれるわね?」
どこか不安そうに咲夜を見る早苗とムラサに、彼女はニッコリと微笑んだ。
もちろん二人に拒否権は無い。その事がわかっているからこそ条件を出したに違いない。
魔理沙は「大変だなこりゃ。」と第三者の立場をとっている。
咲夜はジーッと、まるで見比べるかのように二人を何度か見た後、早苗に目を止めた。
「・・・それじゃ、貴女に手伝ってもらおうかしら。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・にしても、何をさせるつもりなんだぜ?」
紅魔館内の咲夜の部屋の前で、魔理沙が彼女に聞いた。
「何・・・ちょっと仕事を手伝ってもらおうかと思っただけよ。
妖精メイドは役に立たないからねぇ・・・6日ぐらい働いてもらえばいいかしら。」
「あははは!じゃあ早苗がもし妖精メイドより役に立たなかったら?」
「そうね、なら妹様の遊び相手をしてもらおうかしら。」
「・・・そんなことしたらアイツ死ぬぜ?」
何やら恐ろしげな会話を交わす二人。
その不穏な空気を感じてか、ムラサは恐る恐る会話に割り込んだ。
「あの・・・事の発端は元は私なんですし、仕事の手伝いというならば私も・・・」
「貴女はいいのよ。別にやってもらいたいことがあるから。」
「はぁ・・・」
何をやらされるのだろう、とムラサが考えていると、ガチャッとドアが開いた。
そこからでてきた人物の姿に、3人は感嘆の息を漏らす。
「おお・・・?」
「あら・・・」
「わー・・・」
中から出てきたのは、咲夜と同じようなメイド服を着た早苗だった。
本人はものすごい恥ずかしいのだろう、顔が真っ赤である。
「普通に似合うじゃない、サイズもピッタリみたいね。」
「あうぅ・・・」
「んだなぁ、こりゃ香霖が見たら大喜びすること間違い無しだぜ。
今から教えてくるとするかな?」
「ちょ、ちょちょちょ待ってください!森近さんにだけは言わないでくださいよ!?」
「ははは、なら頑張って真面目に働くんだな。
んじゃ、私は図書館に行ってくるぜ!」
そう言い残すと、魔理沙は図書館のある方へと行ってしまった。
暫し呆然とする早苗に、後ろからムラサが声をかける。
「す、すみません・・・なんだか面倒な事になってしまって・・・
で、でもその服すごい似合ってますよ?私も着てみたかったなーなんて・・・」
「な、慰めでしたらいりませんよ・・・?」
「・・・ですよね。」
どうしてこうなったんでしょう・・・と呟く早苗。全くもってその通りである。
何やらドンヨリしている彼女にはいはい、と咲夜は苦笑しながら話しかけた。
「今更何をいおうと、約束は守ってもらうわよ?
さっさと覚悟を決めなさい。まずは貴女達に紅魔館の中を案内しないといけないから、
しっかりとついてくるように。」
「あ、はい・・・」
早足で先へ行こうとする咲夜の後を、早苗とムラサの二人は慌ててついていった・・・
~~~~~~~~~~~~~~~
○月△×日。なにとなく晴れ。1日目。
今日から紅魔館に一週間ほど住み込みで働くことになってしまいました。
理由はムラサさんがシチューを作るための材料を分けてもらうためです。
咲夜さんのと同じメイド服を着させてもらっているのですが・・・なんといいますか、ス、スカートが短・・・
妖精メイドが着ているようなロングは無いでしょうかと聞いてみると
「あら、見えないように振舞えばいいじゃない。
そうでなければパーフェクトメイドにはなれないわ。」
と返されました。別にパーフェクトメイドになる気は無いんですが・・・わがままばかり言うのもアレなんで
諦めておくとします。
ちなみにこの日記まがいのメモは、応接室においてあったメモ帳に書いてます。
勝手にもらっちゃいましたけど・・・大丈夫ですよね、たぶん。
えっと、ムラサさんは明日から来るそうで、諏訪子様達に伝えておいてくれるそうです。
ちゃんと働けるかなぁ・・・頑張ります。
○月△□日。どことなく曇り。2日目。
朝5時に咲夜さんにたたき起こされました。ちょっと早すぎます。
なんでも、今の時間から支度をしないとあの・・・レミリアさんでしたっけ?って吸血鬼が起きるまでに
ご飯等の準備が整わないんだとか。
ああ、妖精メイドとかの分もありますもんね・・・
私も厨房で料理の手伝いを頑張りましたが、咲夜さんの半分も動いていなかったような気が・・・
やっぱりメイド長って言われるぐらいだし、すごいに決まってますよね。
動きに全然無駄がありませんでしたし、あんな風に動けたら弾幕ごっこも強いんでしょうね。
PS 門番の人に食事を届けに行ったら仲良くなれました!美鈴さんっていう方らしいです。
ちょっとお話したらすごい楽しい人でした。こんな人もいるもんなんですね。
○月△◇日。恐らく晴れ。3日目。
3日目ともなるとだいぶこの服装にも慣れてきました。
最初は色々と抵抗がありましたが・・・こう改めて見てみると動きやすいし結構快適な気が
しなくもありません!デザインも可愛いですし!
見られないこと前提だから書きますけど、実は内心こういう服を着てみたかったなんて思ってたり・・・
だ、だってそう思いません!?あんなにフリフリで可愛いんですよ!?
前に街で見たメイドさんハァハァとかいってる男性の方々の気持ちも少しわかるってものですよ!
・・・おっと、そろそろ余白がなくなってきたのでこの辺で。
明日も頑張りますよ!
PS 朝着替えてる時に窓の外から視線を感じたんですが、気のせいでしょうか?
○月◇◎日。またもや晴れ。4日目。
今日は地下にある図書館で小悪魔さんと本の整理を手伝いました。
図書館、というだけあって膨大な量の本があって、しかもそれを分類別に分けないといけませんから
ものすっごい疲れました。
お昼12時くらいから始めて、なんとか夕食前までには終わりましたけど・・・
終わった後、小悪魔さんから、いつもはこの倍は時間がかかるので助かりました、とお礼を言われました。
やっぱお礼を言われると嬉しいですね。紫の人はずっと本ばかり読んでて無愛想でしたけど・・・
あと、ついさっき咲夜さんが紅茶をいれてくれました。美味しかったです。
PS 本の入れる場所が間違ってたとかで紫の人に呼び出されました。
すごい・・・眠いです・・・
○月◇*日。しっとりと雨。5日目。
今日は気のせいか、いつもより妖精メイドの数が少なかった気がします。
そのおかげでいつもより早く洗濯物の整理が終わったので、廊下をブラブラしていると厨房から美味しそうな
匂いがしてきたので寄ってみると・・・
なんと!ムラサさんが咲夜さんから料理を教わってました!
それもシチューの作り方を教わっているそうで・・・
なるほど、別にやってもらいたいことってこの事だったんですね!
せっかくなので味見させてもらいました。
なんというか・・・シーフードな風味?がなんとも・・・予想外に美味しかったです!
うむむ、肉の代わりに貝をいれるとは考えましたね、ムラサさん・・・
さすがにこれは咲夜さんも思いつかなかったでしょう!
追記 提案したのは私よ?
通りすがりのパーフェクトメイドより
~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ、今日で私がいるのも最後、ですね・・・」
「ええ、そうなるわね。」
6日目。紅魔館のロビーを早苗は咲夜と話しながら歩いていた。
早苗が紅魔館で働くのも今日で最後である。
「最初はずいぶんと手間取っていたけど・・・今ではそこいらの妖精メイドよりは
遥かに役立つようになったわね。」
「えへへ・・・まあ、家事は元々得意な方ですから。
それに一度でいいから、こんな大きなお屋敷に住んでみたかったんですよね。」
「じゃあ一生住み込みで働いてみる?給料はでないけど。」
「うーん、それはちょっと遠慮しておきます。
私には神社の仕事もあるので・・・」
「あら、それは残念。」
そう言うと、二人はクスクスと小さく笑い合う。
早苗は内心、自分が風祝をしていなければここで働いていたかもしれない、と思っていた。
たった5日の出来事ではあったが、彼女にとって紅魔館での5日間は本当に面白かったのである。
・・・と、そこへ外から美鈴の声が聞こえる。どうやらお客が来たようだ。
「あ、美鈴さんが呼んでるんで行ってきますね。
お客さんみたいです。」
「お客?こんな日に珍しい・・・私もついてくわ。」
早苗が急いで扉のところへ向かう後を、咲夜も遅れておいかける。
紅魔館の扉を開けると・・・そこには意外な人物が待っていた。
「・・・おや?どこかで見たような顔だと思えば・・・」
「ひゃっ!?も、森近さんっ!?」
「あら、霖之助さんではありませんか。
こんな館まではるばる歩いて?」
そこにいたのは霖之助だった。背中と両手には何やら大量の本が入ったリュックと手提げ袋をもっていた。
まさかの人物の登場に早苗は驚いている。
「うむ、ここの図書館から借りた本を返そうと思ってね・・・
それより、なんで早苗がここにいるんだい?」
「へあっ!?いや、あの、これはその・・・」
「臨時のバイトですわ。」
顔を赤くして慌てふためく早苗の横から、咲夜が霖之助の質問に代わりに答える。
「臨時のバイト?」
「はい、なんでも彼女は数日前からここで働いてみたいと言って来ましたもので・・・
働く資格があるかどうかの、体験テストみたいなものです。」
「ふむ・・・では、前に言っていた言いたい事というのは、
ここで働いてみたいということだったのかな?」
「はい、たぶんそうですわ。」
「え、それは違・・・」
否定の言葉を発しようとした早苗の口を、咲夜の左手がガッシリと塞いだ。
「お荷物を。図書館までご案内します。」
「ああ、頼むよ。」
「ンー!?」
「早苗さんは引き続き見回りをお願いしますわ。」
そう言うと、咲夜はパッと早苗の口から手を離した。
息をすることすらできなかったので彼女はゼーゼーと肩で息をしている。
ひどいですよ咲夜さん、といおうと顔をあげた時には、既に二人は離れた所へいってしまっていた。
その後姿を少し恨めしく思いながらも、早苗は言われた通りに見回りを続けた・・・
~~~~~~~~~~~~~~~
午後11時16分。
あたりはすっかり闇に染まり、紅魔館はその外見もあってか不気味な雰囲気を醸し出している。
その紅魔館の一室で、早苗は荷物を整理していた。
そこへ、ドアの開く音と共に咲夜が入ってくる。
「あら、まだ起きていたの?てっきり寝ちゃったのかと・・・」
「はい、なんだか今日で終わりだと思うと眠れなくて・・・」
「じゃあ、これをもってきて正解だったわね。」
咲夜の片手には、お盆に乗ったティーカップがあった。
カップからは紅茶のいい匂いと、うっすらと湯気が出ている。
「あ、わざわざ淹れてきてくれたんですか?」
「本当はパチュリー様のだけれど・・・さっき行ったら、何やら真剣な表情で本を
書かれていたから、邪魔するのも悪いと思って。」
「それじゃ、飲まないのもその紅茶に悪いですし、私が飲みましょうか?」
「そうね、お願いしようかしら。」
そう言うと咲夜は紅茶の入ったティーカップをコトン、と早苗の前に置く。
早苗はそれを口をつけたが、熱かったのかすぐに口をカップから離した。
「そういえば、霖之助さんが貴女の事を褒めていましたよ。
ここの給仕服も意外と彼女には似合うものだな、って。」
「むむぅ・・・それ、本当ですか?」
「私が嘘をつくとでも?」
「・・・思いませんけど。」
早苗の返答に、咲夜はゆっくりと部屋にある窓に近づき、振り向く。
「私には、そう言ってくれた事はないのだけどね。」
「そうなんですか?」
「ええ、恐らくこれがデフォルトだからでしょうね・・・私の。
でも紅魔館にはこれしか私の服はないし・・・」
「あ、じゃあ今度、神社から私の服持ってきましょうか?
外の世界の服はたくさんバリエーションがありますし、私に着れるやつなら
咲夜さんもきっと似合いますって!」
「ふふ、ありがとう。」
咲夜はニコリと笑うと、部屋にあるテラスの方へと歩いていく。
「外、出てみる?ちょっと冷えるかもしれないけど。」
「あ、テラスに出るんですか?じゃあ失礼します!」
早苗の要望に答え、咲夜はガチャリ、とガラス窓の鍵を開ける。
テラスへと出た早苗の目に映ったのは、月の光に美しく照らし出された景色だった。
彼女は思わず感嘆の息を漏らす。
「わー・・・こうして出てみると、すごい綺麗なんですね。」
「そう?私はよくお嬢様とこの景色を見てるけど・・・
そんなに綺麗なものかしら?」
「はい!私はすっごくいいと思いますよ!」
外の景色を見ながら、テラスに置いてあるテーブルのイスに早苗は静かに腰掛ける。
そのテーブルには、さっき早苗が口につけたティーカップもいつの間にか置かれていた。
再びそのティーカップに彼女は口をつけ、丁度良い具合に冷めた紅茶を飲んだ。
暫く黙って景色を見つめていると、咲夜が唐突に口を開く。
「そういえば、香霖堂に見慣れないマフラーがあったけど・・・
あれは貴女が作った物って本当?」
「え?なんで私が作ったってわかったんです?」
「聞いたら霖之助さんが教えてくれましたから。」
咲夜の返答に、やっぱりそうですよね・・・と、早苗は小さく呟く。
照れているのか、頬が少し赤い。
「確かにあれは私が作ったマフラーですけど・・・
その、初めて作った物なんでちょっとへたっぴなんですよね・・・はは・・・」
「そうかしら?私は上手に出来てると思うけど。
だって気持ちがいっぱいこもってるじゃない。」
「気持ち・・・ですか?」
「ええ、霖之助さんが好きだっていう貴女の気持ち。」
あまりにも平然と言われたその言葉に、へっ?と早苗は驚いている。
そしておそるおそる早苗は咲夜に聞いた。
「あの・・・なんで私が森近さんの事を好きだと・・・?」
「いやいや、貴女の今日の反応を見れば誰だってわかると思うわよ?」
「そ、そうですか・・・」
早苗は、どうも自分はそういう感情を隠すのが苦手だという事を今自覚したようだ。
本人は隠してきたつもりだったのだろうか・・・
「・・・それで、霖之助さんとはどこまでいったの?」
「いや、あの・・・どこまでいったとかそういうのじゃなくて・・・
好きなことに変わりはないんですけど、その一言をいえないというか・・・
いざ!って時にいえなくてずっと平行線といいますか・・・」
「ふぅん・・・そう・・・」
咲夜は中身が空になっていたティーカップをスッと持つと、ゆっくりと部屋の中へと戻ろうとする。
そして部屋の中に入った瞬間、早苗は予想外の言葉を聞いた。
「なら、私と同じね。」
「え?」
予想だにしなかった言葉にしばし、早苗の脳内が混乱する。
今、咲夜さんは何と?私と、同じ・・・?
目をパチクリさせている早苗を尻目に、咲夜はそそくさと部屋を出て行ってしまう。
夜風で体がブルリと震えるまで、彼女はテラスでずっと固まっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~
「それじゃ、短い間ですがお世話になりました!
材料を分けてくれて有難うございます、それに作り方まで・・・
これで今日の宴会で聖達をビックリさせることができます!」
「それはよかったわ、是非頑張ってくださいね?」
「はい!ではこれにて!」
紅魔館門前で、咲夜は早苗とムラサの二人を見送っていた。
美鈴は今は花壇の水やりをしているので、その姿は見えない。
ムラサは咲夜に何度も礼をいうと、もらった材料を持って急いで人里の方へ飛んでいってしまった。
その場には、咲夜と早苗の二人が残る。
「・・・私も、短い間ですけどお世話になりました。
いつか暇な時にでも遊びに来ようかなと思います。」
「貴女は普通に良識があるみたいだしね、いつでも歓迎するわ。」
「有難うございます、咲夜さん。」
礼の言葉とともに、早苗はニッコリと笑い、その笑顔につられてか、咲夜も自然と笑顔で返す。
一瞬の沈黙の後、早苗が静かに言葉を紡いだ。
「それじゃ、お仕事頑張ってください。」
「ええ、貴女もね。」
そして早苗は、ムラサの飛んでいった後を追うように人里へと飛んでいった。
PS 最終日の夜、咲夜さんがいった言葉の意味を考えてみました。
私と同じ、ということは、咲夜さんも密かに森近さんの事が・・・っていう意味ですよね。
あー、でもどうなんでしょう?ただの冗談かもしれませんし・・・
でも、森近さんを案内してる時の咲夜さんの表情、楽しそうだったし・・・うーん・・・?
ま、まあそんな事はあとでじっくり考えるとして、一つだけ確実に分かった事があります!
それは・・・
悪魔の犬、とかって言われてても、中身は普通の女の子なんですよ?
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・早苗は霖之助に好意を持っている
・私のハートがフリーズタッチミー!!
となっております。
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お勧めします(何
◇
守矢神社。妖怪の山の頂上付近に存在する神社である。
この神社の巫女もとい、風祝である東風谷早苗は境内の掃除をしていた。
彼女はやけに機嫌がよさそうである。
「~♪」
実は数日前まで幻想郷で話題になっていた、空飛ぶ宝船異変を解決してきたばかりであった。
諏訪子の力を借りてはいたものの、自分だけで異変を解決できたのはさぞ嬉しかったのだろう。
・・・その間に色々とあったのだが。
それはさておき、嬉しそうに掃除をする早苗の後から、ピョンピョンと蛙飛びで諏訪子が近づいてきていた。
諏訪子も早苗の様子に気付いたようである。
「あうー、ずいぶんと上機嫌だけどどうしたの?」
「あ、諏訪子様!おはようございます!
いやぁ、私と諏訪子様の力で異変を解決できたと思うと、嬉しくて・・・」
「あはは、私は特に何もしてないけどね~」
「いえいえ、そんな事は決して・・・」
他愛の無い会話をしながら、二人は笑いあう。
その様子は、はたから見れば仲の良い姉妹にも見える。
「そういや早苗、ひとつ聞きたいことがあるんだけどいい?」
「はい?なんでしょう諏訪子様?」
「終わったあと、愛しの森近に告白したの?」
その言葉を聞いた直後、早苗は派手に神社の鳥居の柱に頭をゴツンとぶつけた。
何やら煙のようなものが出ている。大丈夫だろうか。
「・・・・・・ど、どうしても言わないとダメですか・・・?
というかなぜ、諏訪子様がその事を・・・」
「あははは、あてずっぽで言ってみたんだけど図星だった?
んで、どうだったの?ん?」
諏訪子は相変わらず笑っているが、早苗の方はというと。
・・・何やらわなわなと体が震えていた。
「・・・・・・けないですよ・・・」
「?」
「できるわけないじゃないですかっ!いくら心の中では覚悟を決めてたとしても!
異変解決の後で気分がハイになっているとしても!そんな簡単に・・・
いえるわけないじゃないですかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そう叫ぶと柱にガンガンと頭を打ちつけはじめた。
ヤバイ、これはヤバイ。聞いてはいけない事を聞いてしまったようだ。
諏訪子は慌てて早苗を止めようとする。
「さ、早苗落ち着いてっ!?
機会ならまたいつでも作れるから!諦めちゃダメだよ!?」
その言葉を聞いた早苗はピタリと動作をやめると、諏訪子の方をクルリと振り返った。
笑顔だが、何やら額からちょっと赤色の濃いトマトジュースが出ているように見える。
「・・・そうですよね、まだ私が精神的に成長してからでも遅くはありません。
霖之助さんもきっと待っていてくれます!」
「あ、うん・・・・・・頑張ってね、早苗。」
「はい!」
そして早苗は本殿の方へ歩いていき・・・・・・・・・パタン、と倒れた。
「早苗ぇぇぇぇーーーーーーっ!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「いやぁ、一時はどうなるかと思いましたよ。」
早苗が倒れてから1時間後、頭に包帯を巻いた早苗は笑いながらそう言った。
「あのねぇ・・・額を切っただけだったからよかったけど、もし割れてたりしたら
最悪閻魔のお世話になってたかもしれないよ?」
「大丈夫です!毘沙門天の弟子をも退けた私なら、閻魔なんて
ちょちょいのちょいですよ!」
「あーはいはい、そうだね。」
諏訪子は何故かやたらテンションの高い早苗に半ば呆れている。
トマトジュースと一緒に大事なものまで出てしまったのではないか?
・・・と、諏訪子がふと上を見ると、誰かが神社に降りてくるのが見えた。
「よう早苗。久しぶりにきてやったぜ!」
「あれ?魔理沙じゃない、元気?」
その人物は普通の魔法使いこと、霧雨魔理沙であった。
久しぶりの魔理沙の訪問に、早苗も諏訪子も驚いている。
「珍しいですね、こっちの神社に来るなんて。
何か御用ですか?」
「ああ、ちょっとお前に客をつれてきたんだぜ。ほら。」
そう言って彼女が指差した方向には、早苗にとって記憶に新しい人物が居た。
大きな錨を背負い、セーラー服のその少女は確か・・・
「ムラマサさんでしたっけ?」
「・・・惜しいですが違います。ほら、あの宝船の船長の・・・」
「あぁ!今思い出しました!○マトさんですよね!
あの船に乗ってイ○カン○ルへ波○砲を撃ちにいくんですね!」
「・・・覚えてないのなら覚えてないと言ってくれていいですよ?」
図星を指されて「あ、はい。」と素直に応じる早苗。
対するセーラー服の少女・・・村紗水蜜ことムラサは早苗の反応に苦笑している。
「それより、その包帯はどうしたんです?
最初に会った時は無かった気がしますが・・・」
「あ、これですか?ちょっとさっき鳥居の柱に頭をぶつけて
大変なことになったので、巻いたんです。」
「さすが早苗だぜ。」
何がさすが、なのかはムラサにはわからなかったが、笑っている早苗を見る限り
別にそこまで重傷でもなかったのだろう。
そう判断したムラサは、ここに来た目的を話すことにした。
「あー、それで、実はここまで来たのにはある理由がありまして・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・一週間後の宴会に出す料理に困っている?」
「はい、そうなります。」
ムラサがこの守矢神社を訪れた理由を聞いた早苗と諏訪子は、うーんと首をかしげる。
「それなら、なんで私等のところに来たの?
人里にあるお店の方がこういうことには詳しいんじゃ?」
「最初は人里を回ってそういうものは無いかと思ったんですが・・・
失礼ながらどれもしっくりこないものばかりでして。
カレーを宴会で出すというわけにもいきませんからね・・・」
「カレーねぇ・・・」
「そこで、何かそういうのに詳しそうな人はいないかと偶然、この白黒に聞いたら
ここに連れてこられたわけです。」
「早苗は外の世界の人間だからな、そういうのには詳しいんじゃないかと思ったんだぜ。」
そういや最近カレー食べてないなー、と諏訪子は呟く。
しばらく考えていた早苗だったが、何かを思いついたようだ。
「そうですね、ならシチューとかどうですか?
材料もそんなにカレーと大差ないですし。」
「シチュー・・・ですか?それは一体どんな・・・」
「えーっと、シチューっていうのは・・・ちょっと説明は今は省きますけど、
とりあえず宴会とかパーティーにはいいと思います。」
「へえ、それはいいですね・・・で、材料は?」
「それが問題なんですよ・・・具の方はカレーと殆ど一緒でいいんですが、
ビーフなら赤ワインとかトマト、クリームなら牛乳と生クリームが必要不可欠ですからね・・・」
「・・・ずいぶん詳しいね、早苗。」
諏訪子のその質問に「シチューマスターと呼んでください!」と早苗は誇らしげに返した。
それに対し、ムラサは難しい表情をしている。
「うーん・・・牛乳とトマトなら命蓮寺にもあるのですが・・・ワインはちょっと・・・
生クリームというものにいたっては見たことが無いですね。」
「あ、そうですか・・・まあ、ワインも生クリームもこの幻想郷で
簡単に手に入るとは思えませんしね・・・」
ここは外の世界ではなく幻想郷だということを思い出し、早苗はガックリと落ち込んだ。
香霖堂にならワインぐらいはあるかもしれないが、ついさっきまでのやりとりを思い出すと
今は行きたい気分ではなかった。
どうしたものか・・・と考えていると、それまで黙って話を聞いていた魔理沙が唐突に口を開く。
「簡単・・・かはわからんが、手に入る場所なら一箇所知ってるぜ?」
その一言に、早苗もムラサも魔理沙の方を振り向く。
「魔理沙さん!その場所に連れて行ってくれませんか!?」
「え?あ、ああ、別に私は構わないぜ・・・?」
「じゃあお願いします!ほら、ムラさんもいきましょう!」
「ムラさんって・・・」
私はムラサですよ、といおうとした彼女だったが、すでに魔理沙と早苗は神社から
飛び立ってしまっていたのを見て、諦めてその後を追いかけた。
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「・・・・・・ということなんだぜ。」
「そう・・・大体の事情は察したわ。
つまり、そのシチューを作るための材料を分けて欲しいってことでしょう?」
「はい、そうなります。」
魔理沙につれられてきた場所は、紅魔館であった。
早苗は紅魔館には来たことはなかったが、確かにここにならあるかもしれない、と思ったのだろう。
特に文句をいうわけでもなく屋敷の中に入っていった。門番は寝ていたし。
今彼女達と話している人間・・・十六夜咲夜は、突然の見知らぬ人間の来訪に驚いたが、魔理沙が
事情を話すと、どうやら納得してくれたようである。
「別に材料を分けるのは構わないけどね、ただ・・・」
「・・・ただ?」
「一つ条件があるのよね。」
「じょ、条件・・・?」
「ええ、もちろん聞いてくれるわね?」
どこか不安そうに咲夜を見る早苗とムラサに、彼女はニッコリと微笑んだ。
もちろん二人に拒否権は無い。その事がわかっているからこそ条件を出したに違いない。
魔理沙は「大変だなこりゃ。」と第三者の立場をとっている。
咲夜はジーッと、まるで見比べるかのように二人を何度か見た後、早苗に目を止めた。
「・・・それじゃ、貴女に手伝ってもらおうかしら。」
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「・・・にしても、何をさせるつもりなんだぜ?」
紅魔館内の咲夜の部屋の前で、魔理沙が彼女に聞いた。
「何・・・ちょっと仕事を手伝ってもらおうかと思っただけよ。
妖精メイドは役に立たないからねぇ・・・6日ぐらい働いてもらえばいいかしら。」
「あははは!じゃあ早苗がもし妖精メイドより役に立たなかったら?」
「そうね、なら妹様の遊び相手をしてもらおうかしら。」
「・・・そんなことしたらアイツ死ぬぜ?」
何やら恐ろしげな会話を交わす二人。
その不穏な空気を感じてか、ムラサは恐る恐る会話に割り込んだ。
「あの・・・事の発端は元は私なんですし、仕事の手伝いというならば私も・・・」
「貴女はいいのよ。別にやってもらいたいことがあるから。」
「はぁ・・・」
何をやらされるのだろう、とムラサが考えていると、ガチャッとドアが開いた。
そこからでてきた人物の姿に、3人は感嘆の息を漏らす。
「おお・・・?」
「あら・・・」
「わー・・・」
中から出てきたのは、咲夜と同じようなメイド服を着た早苗だった。
本人はものすごい恥ずかしいのだろう、顔が真っ赤である。
「普通に似合うじゃない、サイズもピッタリみたいね。」
「あうぅ・・・」
「んだなぁ、こりゃ香霖が見たら大喜びすること間違い無しだぜ。
今から教えてくるとするかな?」
「ちょ、ちょちょちょ待ってください!森近さんにだけは言わないでくださいよ!?」
「ははは、なら頑張って真面目に働くんだな。
んじゃ、私は図書館に行ってくるぜ!」
そう言い残すと、魔理沙は図書館のある方へと行ってしまった。
暫し呆然とする早苗に、後ろからムラサが声をかける。
「す、すみません・・・なんだか面倒な事になってしまって・・・
で、でもその服すごい似合ってますよ?私も着てみたかったなーなんて・・・」
「な、慰めでしたらいりませんよ・・・?」
「・・・ですよね。」
どうしてこうなったんでしょう・・・と呟く早苗。全くもってその通りである。
何やらドンヨリしている彼女にはいはい、と咲夜は苦笑しながら話しかけた。
「今更何をいおうと、約束は守ってもらうわよ?
さっさと覚悟を決めなさい。まずは貴女達に紅魔館の中を案内しないといけないから、
しっかりとついてくるように。」
「あ、はい・・・」
早足で先へ行こうとする咲夜の後を、早苗とムラサの二人は慌ててついていった・・・
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○月△×日。なにとなく晴れ。1日目。
今日から紅魔館に一週間ほど住み込みで働くことになってしまいました。
理由はムラサさんがシチューを作るための材料を分けてもらうためです。
咲夜さんのと同じメイド服を着させてもらっているのですが・・・なんといいますか、ス、スカートが短・・・
妖精メイドが着ているようなロングは無いでしょうかと聞いてみると
「あら、見えないように振舞えばいいじゃない。
そうでなければパーフェクトメイドにはなれないわ。」
と返されました。別にパーフェクトメイドになる気は無いんですが・・・わがままばかり言うのもアレなんで
諦めておくとします。
ちなみにこの日記まがいのメモは、応接室においてあったメモ帳に書いてます。
勝手にもらっちゃいましたけど・・・大丈夫ですよね、たぶん。
えっと、ムラサさんは明日から来るそうで、諏訪子様達に伝えておいてくれるそうです。
ちゃんと働けるかなぁ・・・頑張ります。
○月△□日。どことなく曇り。2日目。
朝5時に咲夜さんにたたき起こされました。ちょっと早すぎます。
なんでも、今の時間から支度をしないとあの・・・レミリアさんでしたっけ?って吸血鬼が起きるまでに
ご飯等の準備が整わないんだとか。
ああ、妖精メイドとかの分もありますもんね・・・
私も厨房で料理の手伝いを頑張りましたが、咲夜さんの半分も動いていなかったような気が・・・
やっぱりメイド長って言われるぐらいだし、すごいに決まってますよね。
動きに全然無駄がありませんでしたし、あんな風に動けたら弾幕ごっこも強いんでしょうね。
PS 門番の人に食事を届けに行ったら仲良くなれました!美鈴さんっていう方らしいです。
ちょっとお話したらすごい楽しい人でした。こんな人もいるもんなんですね。
○月△◇日。恐らく晴れ。3日目。
3日目ともなるとだいぶこの服装にも慣れてきました。
最初は色々と抵抗がありましたが・・・こう改めて見てみると動きやすいし結構快適な気が
しなくもありません!デザインも可愛いですし!
見られないこと前提だから書きますけど、実は内心こういう服を着てみたかったなんて思ってたり・・・
だ、だってそう思いません!?あんなにフリフリで可愛いんですよ!?
前に街で見たメイドさんハァハァとかいってる男性の方々の気持ちも少しわかるってものですよ!
・・・おっと、そろそろ余白がなくなってきたのでこの辺で。
明日も頑張りますよ!
PS 朝着替えてる時に窓の外から視線を感じたんですが、気のせいでしょうか?
○月◇◎日。またもや晴れ。4日目。
今日は地下にある図書館で小悪魔さんと本の整理を手伝いました。
図書館、というだけあって膨大な量の本があって、しかもそれを分類別に分けないといけませんから
ものすっごい疲れました。
お昼12時くらいから始めて、なんとか夕食前までには終わりましたけど・・・
終わった後、小悪魔さんから、いつもはこの倍は時間がかかるので助かりました、とお礼を言われました。
やっぱお礼を言われると嬉しいですね。紫の人はずっと本ばかり読んでて無愛想でしたけど・・・
あと、ついさっき咲夜さんが紅茶をいれてくれました。美味しかったです。
PS 本の入れる場所が間違ってたとかで紫の人に呼び出されました。
すごい・・・眠いです・・・
○月◇*日。しっとりと雨。5日目。
今日は気のせいか、いつもより妖精メイドの数が少なかった気がします。
そのおかげでいつもより早く洗濯物の整理が終わったので、廊下をブラブラしていると厨房から美味しそうな
匂いがしてきたので寄ってみると・・・
なんと!ムラサさんが咲夜さんから料理を教わってました!
それもシチューの作り方を教わっているそうで・・・
なるほど、別にやってもらいたいことってこの事だったんですね!
せっかくなので味見させてもらいました。
なんというか・・・シーフードな風味?がなんとも・・・予想外に美味しかったです!
うむむ、肉の代わりに貝をいれるとは考えましたね、ムラサさん・・・
さすがにこれは咲夜さんも思いつかなかったでしょう!
追記 提案したのは私よ?
通りすがりのパーフェクトメイドより
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「ふぅ、今日で私がいるのも最後、ですね・・・」
「ええ、そうなるわね。」
6日目。紅魔館のロビーを早苗は咲夜と話しながら歩いていた。
早苗が紅魔館で働くのも今日で最後である。
「最初はずいぶんと手間取っていたけど・・・今ではそこいらの妖精メイドよりは
遥かに役立つようになったわね。」
「えへへ・・・まあ、家事は元々得意な方ですから。
それに一度でいいから、こんな大きなお屋敷に住んでみたかったんですよね。」
「じゃあ一生住み込みで働いてみる?給料はでないけど。」
「うーん、それはちょっと遠慮しておきます。
私には神社の仕事もあるので・・・」
「あら、それは残念。」
そう言うと、二人はクスクスと小さく笑い合う。
早苗は内心、自分が風祝をしていなければここで働いていたかもしれない、と思っていた。
たった5日の出来事ではあったが、彼女にとって紅魔館での5日間は本当に面白かったのである。
・・・と、そこへ外から美鈴の声が聞こえる。どうやらお客が来たようだ。
「あ、美鈴さんが呼んでるんで行ってきますね。
お客さんみたいです。」
「お客?こんな日に珍しい・・・私もついてくわ。」
早苗が急いで扉のところへ向かう後を、咲夜も遅れておいかける。
紅魔館の扉を開けると・・・そこには意外な人物が待っていた。
「・・・おや?どこかで見たような顔だと思えば・・・」
「ひゃっ!?も、森近さんっ!?」
「あら、霖之助さんではありませんか。
こんな館まではるばる歩いて?」
そこにいたのは霖之助だった。背中と両手には何やら大量の本が入ったリュックと手提げ袋をもっていた。
まさかの人物の登場に早苗は驚いている。
「うむ、ここの図書館から借りた本を返そうと思ってね・・・
それより、なんで早苗がここにいるんだい?」
「へあっ!?いや、あの、これはその・・・」
「臨時のバイトですわ。」
顔を赤くして慌てふためく早苗の横から、咲夜が霖之助の質問に代わりに答える。
「臨時のバイト?」
「はい、なんでも彼女は数日前からここで働いてみたいと言って来ましたもので・・・
働く資格があるかどうかの、体験テストみたいなものです。」
「ふむ・・・では、前に言っていた言いたい事というのは、
ここで働いてみたいということだったのかな?」
「はい、たぶんそうですわ。」
「え、それは違・・・」
否定の言葉を発しようとした早苗の口を、咲夜の左手がガッシリと塞いだ。
「お荷物を。図書館までご案内します。」
「ああ、頼むよ。」
「ンー!?」
「早苗さんは引き続き見回りをお願いしますわ。」
そう言うと、咲夜はパッと早苗の口から手を離した。
息をすることすらできなかったので彼女はゼーゼーと肩で息をしている。
ひどいですよ咲夜さん、といおうと顔をあげた時には、既に二人は離れた所へいってしまっていた。
その後姿を少し恨めしく思いながらも、早苗は言われた通りに見回りを続けた・・・
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午後11時16分。
あたりはすっかり闇に染まり、紅魔館はその外見もあってか不気味な雰囲気を醸し出している。
その紅魔館の一室で、早苗は荷物を整理していた。
そこへ、ドアの開く音と共に咲夜が入ってくる。
「あら、まだ起きていたの?てっきり寝ちゃったのかと・・・」
「はい、なんだか今日で終わりだと思うと眠れなくて・・・」
「じゃあ、これをもってきて正解だったわね。」
咲夜の片手には、お盆に乗ったティーカップがあった。
カップからは紅茶のいい匂いと、うっすらと湯気が出ている。
「あ、わざわざ淹れてきてくれたんですか?」
「本当はパチュリー様のだけれど・・・さっき行ったら、何やら真剣な表情で本を
書かれていたから、邪魔するのも悪いと思って。」
「それじゃ、飲まないのもその紅茶に悪いですし、私が飲みましょうか?」
「そうね、お願いしようかしら。」
そう言うと咲夜は紅茶の入ったティーカップをコトン、と早苗の前に置く。
早苗はそれを口をつけたが、熱かったのかすぐに口をカップから離した。
「そういえば、霖之助さんが貴女の事を褒めていましたよ。
ここの給仕服も意外と彼女には似合うものだな、って。」
「むむぅ・・・それ、本当ですか?」
「私が嘘をつくとでも?」
「・・・思いませんけど。」
早苗の返答に、咲夜はゆっくりと部屋にある窓に近づき、振り向く。
「私には、そう言ってくれた事はないのだけどね。」
「そうなんですか?」
「ええ、恐らくこれがデフォルトだからでしょうね・・・私の。
でも紅魔館にはこれしか私の服はないし・・・」
「あ、じゃあ今度、神社から私の服持ってきましょうか?
外の世界の服はたくさんバリエーションがありますし、私に着れるやつなら
咲夜さんもきっと似合いますって!」
「ふふ、ありがとう。」
咲夜はニコリと笑うと、部屋にあるテラスの方へと歩いていく。
「外、出てみる?ちょっと冷えるかもしれないけど。」
「あ、テラスに出るんですか?じゃあ失礼します!」
早苗の要望に答え、咲夜はガチャリ、とガラス窓の鍵を開ける。
テラスへと出た早苗の目に映ったのは、月の光に美しく照らし出された景色だった。
彼女は思わず感嘆の息を漏らす。
「わー・・・こうして出てみると、すごい綺麗なんですね。」
「そう?私はよくお嬢様とこの景色を見てるけど・・・
そんなに綺麗なものかしら?」
「はい!私はすっごくいいと思いますよ!」
外の景色を見ながら、テラスに置いてあるテーブルのイスに早苗は静かに腰掛ける。
そのテーブルには、さっき早苗が口につけたティーカップもいつの間にか置かれていた。
再びそのティーカップに彼女は口をつけ、丁度良い具合に冷めた紅茶を飲んだ。
暫く黙って景色を見つめていると、咲夜が唐突に口を開く。
「そういえば、香霖堂に見慣れないマフラーがあったけど・・・
あれは貴女が作った物って本当?」
「え?なんで私が作ったってわかったんです?」
「聞いたら霖之助さんが教えてくれましたから。」
咲夜の返答に、やっぱりそうですよね・・・と、早苗は小さく呟く。
照れているのか、頬が少し赤い。
「確かにあれは私が作ったマフラーですけど・・・
その、初めて作った物なんでちょっとへたっぴなんですよね・・・はは・・・」
「そうかしら?私は上手に出来てると思うけど。
だって気持ちがいっぱいこもってるじゃない。」
「気持ち・・・ですか?」
「ええ、霖之助さんが好きだっていう貴女の気持ち。」
あまりにも平然と言われたその言葉に、へっ?と早苗は驚いている。
そしておそるおそる早苗は咲夜に聞いた。
「あの・・・なんで私が森近さんの事を好きだと・・・?」
「いやいや、貴女の今日の反応を見れば誰だってわかると思うわよ?」
「そ、そうですか・・・」
早苗は、どうも自分はそういう感情を隠すのが苦手だという事を今自覚したようだ。
本人は隠してきたつもりだったのだろうか・・・
「・・・それで、霖之助さんとはどこまでいったの?」
「いや、あの・・・どこまでいったとかそういうのじゃなくて・・・
好きなことに変わりはないんですけど、その一言をいえないというか・・・
いざ!って時にいえなくてずっと平行線といいますか・・・」
「ふぅん・・・そう・・・」
咲夜は中身が空になっていたティーカップをスッと持つと、ゆっくりと部屋の中へと戻ろうとする。
そして部屋の中に入った瞬間、早苗は予想外の言葉を聞いた。
「なら、私と同じね。」
「え?」
予想だにしなかった言葉にしばし、早苗の脳内が混乱する。
今、咲夜さんは何と?私と、同じ・・・?
目をパチクリさせている早苗を尻目に、咲夜はそそくさと部屋を出て行ってしまう。
夜風で体がブルリと震えるまで、彼女はテラスでずっと固まっていた。
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「それじゃ、短い間ですがお世話になりました!
材料を分けてくれて有難うございます、それに作り方まで・・・
これで今日の宴会で聖達をビックリさせることができます!」
「それはよかったわ、是非頑張ってくださいね?」
「はい!ではこれにて!」
紅魔館門前で、咲夜は早苗とムラサの二人を見送っていた。
美鈴は今は花壇の水やりをしているので、その姿は見えない。
ムラサは咲夜に何度も礼をいうと、もらった材料を持って急いで人里の方へ飛んでいってしまった。
その場には、咲夜と早苗の二人が残る。
「・・・私も、短い間ですけどお世話になりました。
いつか暇な時にでも遊びに来ようかなと思います。」
「貴女は普通に良識があるみたいだしね、いつでも歓迎するわ。」
「有難うございます、咲夜さん。」
礼の言葉とともに、早苗はニッコリと笑い、その笑顔につられてか、咲夜も自然と笑顔で返す。
一瞬の沈黙の後、早苗が静かに言葉を紡いだ。
「それじゃ、お仕事頑張ってください。」
「ええ、貴女もね。」
そして早苗は、ムラサの飛んでいった後を追うように人里へと飛んでいった。
PS 最終日の夜、咲夜さんがいった言葉の意味を考えてみました。
私と同じ、ということは、咲夜さんも密かに森近さんの事が・・・っていう意味ですよね。
あー、でもどうなんでしょう?ただの冗談かもしれませんし・・・
でも、森近さんを案内してる時の咲夜さんの表情、楽しそうだったし・・・うーん・・・?
ま、まあそんな事はあとでじっくり考えるとして、一つだけ確実に分かった事があります!
それは・・・
悪魔の犬、とかって言われてても、中身は普通の女の子なんですよ?
よし、次は咲霖でお願いします<<<<
早霖ルートが完結したら是非、咲霖ルートもお願いします。
ここで咲夜もとなると、ちょっと唐突すぎる感じ?次回も期待してます
公式で、霖之助と咲夜は顔見知り(商売人と客の関係)だし。ちょくちょく咲夜が香霖堂に買い物に来てると考えると、そこから「交流があるかも」と妄想し易い。
まあ、このssではハッキリと咲夜の真意ってのが明かされてないから何とも言えんだろうがね…