「河城さん~河城さん、睨めっこしましょ、笑うと負けよ、あっぷっぷ」
「えいっ」
にっこりと可愛らしい笑顔で、勢い良く工具箱を文に投げ付ける。
「酷い! 出会っていきなり工具箱投げるって、どんなバイオレンスな挨拶ですか!?」
「出会っていきなり睨めっこしてくる方が意味分からない。それに、ここは私の家なんだけど」
「それくらい知ってますよ。馬鹿ですか?」
「羽ちぎるよ?」
「怖っ!? まぁまぁ、落ち着いて下さいな。ほら、かの有名な紫式部がこんな言葉を残しているでしょう」
「紫式部が?」
「おにぎりが食べたいよぉ、って」
「初耳だよ! そもそも本当に言ってたとしても、だから何だという話だよ!」
「はいはい、源氏物語源氏物語」
「どんな宥め方だ!」
まともに相手をしなければ良いのに、にとりは律義にもツッコミを入れる。
なんだかんだで、仲が良い二人である。
初めて会った頃は、人見知りの激しいにとりが、積極的に接する文を警戒していた。
ただ、それも何度も何度も話をするうちに、にとりは次第に心を開いていった。最初こそ敬語だったが、今では完全に砕けた話し方になっている。
文の話術や接し方があったからこそ、にとりは安心出来たのだろう。
「文ってさ、仕事の時と今みたいな時で大分キャラ違うよね」
天狗社会においての文は、鋭い目付きに、絶対的な強さが滲み出る雰囲気を纏っている。
それが普段は、へにゃりとした笑顔に、人を警戒させずに寄せ付けるような空気という、ギャップの差が激しい。
にとりは改めて、目の前に立つ文を見上げる。胡座をかいて座っているにとりからすれば、首を上に向けてじっと見つめるのは少し辛い。
それに気付いた文は、にとりの隣りに座る。
それでも、文の方が身長が高く、正座をしているため、少し見上げる形になってしまう。
「う~ん……」
「どうしました? ギャップの差に惚れましたか?」
「仕事してる文の方が、格好良いけどね」
「酷い!」
よよよ……とわざとらしく泣き崩れる文。正座を崩し、お姉さん座りみたいになる。
すると、その綺麗で細い、けれどもしっかりと筋肉がついた脚の隙間から、魅惑の地帯が見えてしまいそうだ。
「文、ぱんつ見えちゃうよ」
「いや、今日穿いてませんから大丈夫。ぱんつが見える心配はありません」
「よりデンジャラス!?」
「まぁ嘘ですけど」
本当だったら、魅惑の地帯がデンジャラスゾーンへと進化するところだった。
「そういえば、文はさぁ」
「はい?」
「よく来るよね、ここ」
「んー?」
顔も広い。仲の良い友人もそれなりに居る。そんな文が、何故頻繁に自分の元へ訪れるのか、にとりには理解出来なかった。
機械を弄るくらいしか出来ない私よりも、弾幕ごっこを出来る相手とか笑い話を交わせる相手とか、もっと楽しい場所はあるだろうに。それが、にとりの素直な気持ちだった。
「あ、勘違いしないでね。別に迷惑だとは思って無いけどさ」
にとりは、自分の交友関係の狭さを自覚している。
そんな自分の元に、頻繁に訪れる文に、にとりは好感を抱いている。
「文には、もっと楽しい時間を過ごせる人居るでしょ?」
好きだからこそ、相手を想う。
好きだからこそ、もっと楽しみを味わって欲しいと思考する。
にとりには、自分と居て楽しめる要素は少ないと思えた。
「だからさ、こんな所に居ちゃいけないと思う」
天狗が、たかが河童個人と親密だと聞いたなら、良く思わない天狗も居るだろう。天狗は基本的にプライドが高い。内心では河童や鬼でさえも、見下していたりすることが多い。
文みたいな、天狗よりも人間や河童に親しくしている天狗は珍しいのである。
それでも文が嫌がらせなどをされないのは、天狗社会を越えて幻想郷においてもトップクラスな実力。それと仕事に忠実な部分があるからだ。
「にとり」
「なに?」
今まで黙っていた文が口を開く。
声には少し怒気が含まれているようで、いつもの軽い感じでは無かった。
「あなたにとって、私は何ですか?」
「え?」
文の言葉の意味が、最初良く分からなかった。
表情は明らかに怒っていて、にとりはそんな文を初めて見た。仕事の時とは、また違う。目はしっかりと開かれ、視線がにとりを捉えていた。
私にとって文は何なのか、と考えるにとり。
ちょっかいを出してからかってきたりするけど、優しくて楽しい、大切な親友。そう、にとりは思っていた。
「大切な親友、かな」
そう、ぽつりと呟いた。
一緒だけ、文の表情が綻びるが、またすぐ怒った表情に戻る。
にとりには、何故怒っているのか全く分からなかった。
そんな気付いていない様子に、また腹を立てる。文がここまで感情を出すのは、珍しいことだ。
「私は、いえ私も、にとりを大切な親友と思っています」
「あ、ありがと」
真剣な表情でそんなことを改めて言われると、恥ずかしいなぁ。にとりはそう思い、少し頬を赤くした。
「だからこそ、私はにとりと一緒に居たくて、ここへ来ています」
「でも、私以外にもっと良い親友が居るだろう?」
「親友というものは、比較するものでは無いでしょう? どうしても比較しろと言うのならば、にとりを一番にしますけど?」
「あは、嘘だぁ」
「本当です」
文がにとりに会ったのは、気まぐれだった。
昔、カメラが壊れた時、直してくれる相手を誰でも良いからと捜していた。そして、たまたまにとりを見つけたのだ。
照れ屋で、恥ずかしがりで、人見知りで、だけど一緒に居て楽しい。理由何て無い。こういうものは、感じとるものだ。
ただ、心地良いのである。
「にとりはもう少し、自信を持った方が良いです。私が保証しましょう」
「文に保証されてもなぁ」
「む、失礼な」
「えへへ、でもありがとう」
照れくさそうに笑うにとり。
相変わらず、すぐに赤くなるなぁ、と文は思った。そして、少し頬を緩める。
「だからね、にとり」
「ん?」
「こんな所に居ちゃいけない、なんて悲しいこと言わないで下さい」
「でも……」
「お願いですから、私の心地良い場所を、否定しないで下さい……」
にとりは何も言えなかった。
文にこんなにも大切に想われているなんて、予想外だったのである。
嬉しいやら、恥ずかしいやらで、どうすれば良いか分からなかった。
「次、そんなこと言ったら、本気で怒りますからね?」
「え? ん、分かった」
そう言われて、頷くしか無かった。
にとりが頷くのを見て、文はやっと笑顔に戻った。
にぱっと、明るい笑みを浮かべている。
「じゃあ、これからは毎日来ますね」
「帰れ馬鹿天狗」
「酷い!? なら、百歩譲って一緒に住ませてもらうことにしましょう」
「悪化してるだろ!」
さっきまでの雰囲気はどこへいったのか。
文がふざけて、にとりが呆れながら対処する。
こんな、なんてことないやり取りが、二人にとって心地良いもの。
「あは、にとりは元気ですねぇ」
「誰かさんのせいで、その元気をほとんど消費してるのだけどね」
じっと、視線が交わる。
しばらくして二人とも、ほぼ同時に、ふにゃりと柔らかい笑みを浮かべた。
縁側でゆっくりとお茶を飲んでるようなほのぼの感がたまりませんw
あと、これで糖分0なら糖分100はどえらい事になりそうだw
ほのぼのっていいね
にとりあや
にとあや
にや
つまり、「にやにや」すると言う事は…おや、誰か来たようだ
楽しんでもらえてなによりです。ほのぼのって良いですよね。
>>奇声を発する程度の能力様
糖分は0ですw
>>3様
人一人が持つ糖度計は、人それぞれ違うらしいです。
>>4様
良いですよねほのぼのっ!
>>5様
その発想はありませんでしたw
>>6様
あくまで私基準ですから。
だが違うものが満ち溢れている・・・