「だからね!時代はカタカナなのよ!」
八雲一家団欒の時に、紫が唐突に切り出した。
内心めんどくさいなと思いつつも、藍は紫に聞き返す。
「はぁ、カタカナ、ですか?」
「そうよ!ほら、私って『永遠の17歳☆八雲ゆかりん(はぁと)』として売り出してきたじゃない?」
「食事中におぞましい単語を出すのはやめてください。」
「私としてはまさに私のピチピチな可愛さを表現するのに適したあだ名だと思っていたの
だけれど、最近ようやく少し思うところがあってね。」
「ようやく自覚されました?」
「ええ、私は気付いたのよ!この幻想郷には「~りん」が多すぎてしまっているのよ。」
「ああ!確かに多いですよね!」
藍が『自覚はしていないんだな・・・・・・』とため息をつく一方で、
橙が紫に同意する。
「えーっと、紅魔館の美鈴さん、永遠亭の永琳さん、あと地霊殿のお燐ちゃん・・・・・・」
「新興勢力の命蓮寺にも二人居ましたね。」
「更に呼び名、あだ名も含めればもっと増えるわ。つまりね、もう『~りん』は飽和してしまっているのよ。そこで私が目をつけたのは、新しく来たあのネズミさんよ。」
「ああナズちゃん!おいしそうですよね!!」
橙の目が一瞬、素直な式のそれから野生の目へと変化したのを藍は見逃さなかった。
新しい勢力との火種になる(しかもこちらが一方的に加害者)不安を感じ、
あとで橙には教育的指導をしておかないなと思案する。
そんな藍をよそに、紫は更に進める。
「彼女はカタカナでありながら『~りん』であると言う新たな可能性を見せてくれたわ。
これは今の『~りん』界を揺るがす大きな出来事よ。」
「『~りん』界なんて聞いたことありませんが・・・・・・」
「つまりこれからは、可愛さを前面に出す『~りん』よりも、オシャレさを前面に出す
『-リン』の時代なのよ!それを踏まえて私は宣言するわ!」
ツッコミをスルーされ呆れる藍には目もくれず、紫は力強く立ちあがり、
拳を握って高々と宣言した。
「私は今日から、『ユカーリン』よ!!」
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八雲紫が『ユカーリン』に改名したというニュースは、『~りん』界を大きく揺るがした。
そのニュースは瞬く間に幻想郷全体に繋がり、『~りん』を持つ者を驚かせた。
『~りん』界では美鈴の次に古参である彼女の改名、それはまさに時代の流れがカタカナへと流れ始めたことを『~りん』界のメンバー達は悟った。
そしてこれもまた必然であろうか、『~りん』を持つ者が次々とカタカナへ改名していったのだ。
紅魔館の門番が「メイーリン」になった。
永遠亭の薬師が「エイーリン」になった。
花の妖怪が「ユウカーリン」になった。
豊穣の神が「ミノーリン」になった。
妖怪の山に住む河童が「ニトーリン」になった。
地霊殿の主が「サトーリン」になった。
命連寺の雲使いが「イチーリン」になった。
同じく命蓮寺の主が「ヒジーリン」になった。
世はまさに、○―リン時代へと移ろうとしていたのだ!
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「あたいはどうすればいいんだ!!」
地霊殿の一室、叫びながら頭を抱えるのは火焔猫燐。さとりのペットであり、
死体を運ぶことが大好きなにゃんこである。
「お燐、どうしたの?」
「お空聞いてよ!アイデンティティの危機なんだよ!!」
「あいでんてぃてぃ?おいしいの?」
「おいしくない!あのね、さとり様が改名したことは知ってるよね?」
「うん、サトーリン様、かっこいい名前だよね。」
「そう!今『~りん』をカタカナに改名するのがナウでヤングなんだよ。
でもあたいは「りん」だ、カタカナに変えても『-』を入れる場所が無いんだよ!
このままじゃ時代に取り残されてしまうよ!!」
あまり頭の良くないお空でも思った。
この猫、なんてくだらないことで悩んでいるのだろうと。
「えーっと・・・・・・『リーン』にすればいいんじゃないかなあ。」
「いやだよそんな間の抜けた名前!!」
(他の名前と大差ない気がするけどなあ・・・・・・)
「かと言って『-リン』じゃなんて発音すればいいのかわからないし・・・・・・
くそぅ、どうすれば・・・・・・」
呆れるお空をよそに半泣きになるお燐。
二人とも途方にくれていたところに、唐突に救世主が現れた。
「『オーリン』でいいんじゃない?お燐にかけてさ。」
それはいつの間にかその場所に紛れ込んでいたこいしであった。
この人が唐突に現れるのはいつものことなので、いまさら二人が驚くことはない。
(えー、オーリン?どうなんだろうそれ・・・・・・)
微妙な反応を示すお空に対して・・・・・・
「それだ!!!!」
目を輝かせ立ち上がるお燐。
(え!アリなんだ!『リーン』と何が違うんだろう・・・・・)
お空の釈然としない思いを残しつつも、今この瞬間、お燐は『オーリン』へと生まれ変わったのだ。
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「僕はどうすればいいんだ!!!」
頭をかかえて叫ぶのは森近霖之助。香霖堂の店主である。
彼の通称は『こーりん』、彼もまた、『~りん』界を支える一人であった。
「何をそんなに悩んでるんだよ、こーりん」
「ああ、来てたのか魔理沙・・・・・・これは由々しき事態だよ。
君も知っているね、今幻想郷で改名ブームが起きていることを。」
「ああ、ユカーリンとかエイーリンとかのアレか。
さっきにとりに会ったらアイツもニトーリンになったって言ってたな。
正直どうかと思うけどな。」
「時代だよ。時代の流れが来ているのさ。そして僕も同様に改名しようと思った。」
「すんのかよ。」
「しかし障害が発生した。改名の方法は「りん」を「-リン」にすること。
しかし僕の愛称は『こーりん』。既に「-」が入っているんだ!
これじゃあ改名しても『コーリン』、まったく変化が無いんだよ!!」
力説する霖之助を魔理沙は冷めた目で見ていた。
全力でどうでもいい。別にひらがなだろうがカタカナだろうがこーりんはこーりんだし、
何をそんなにこだわっているのだろうと。それに・・・・・・
「簡単な解決法があるじゃないか。」
「何!?教えてくれ!!」
「そ、そんなに必死になるなよ、流石の私でもちょっと引くぜ。
・・・・・・ほら、そもそも『こーりん』は『香霖堂』から来てるんだろ?
つまり厳密に言えば『こうりん』だ。ほら、これなら出来るんじゃないか?」
「そうか・・・・・・その手があったか!!よし、今日から僕も『コウーリン』だ!!」
「い、いや、お役に立てたなら幸いだぜ。」
霖之助は魔理沙の手を握って全力で感謝の意を表している。
本人からすれば感極まっての行動だろうが、魔理沙からしてみれば気恥ずかしいことこの上無い。
少し赤くなった顔をごまかすために、魔理沙は手を払い後ろを向いた。
「で、でもアレだな!ある意味こーりんにはピッタリかもな!」
「そう思うかい?」
「ああ、だって・・・・・・」
「『小売り』みたいじゃないか。『小売―リン』、店だけに。」
香霖堂は凍結した。
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「私はどうすればいいんだ!!!」
頭を抱えているのはナズーリン、ある意味この騒動の原因でもある。
皆が皆自分の名前を真似し始めて、彼女はとても困っていた。
「ナ、ナズーリン!どうしたのですか!」
「聞いてくれよご主人!!」
「は、はい!」
「こんなことがあったんだよ・・・・・・」
―――――――――――――――――――――――――――
そう、それは私が一輪と談笑している時だった。
廊下を歩きながらたわいもない話をしていた。
そこに後ろから船長が声をかけてきたんだ。
「あ、イチーリン!」
そして、私と一輪は同時に振り返って
「なんだい船長。」
「なぁにムラサ。」
同時に返事をしてしまったんだ・・・・・・
そしたら船長はなんて言ったと思う?
「・・・・・・いや別にアンタは呼んでないわよ。
それでね一輪、明日の見張りの件だけど・・・・・・」
――――――――――――――――――――
「うおおおおおおお!!!!!」
「お、落ち着いて!落ち着いてください!!」
「確かに聞き間違えたのは私だよ!それは認めるよ!
でもしょうがないじゃないか!そのイントネーションは私だけのものだったんだ!
『-リン』って言われたら私だと思っちゃうじゃないか!!」
「わ、わかります!わかりますから!!」
「君に分かるものか!私があの時どれほど気まずかったか!恥ずかしかったか!!
これだけじゃない!他にもあったんだよ!!」
――――――――――――――――――――
そう、それは私が一人で歩いている時だった。
「ヒジーリン!ここに居たんだー!」
それはぬえの声だった。私はとっさに振り向いてしまったんだ。
しかし彼女の目が写していたのは私ではなく、私の前方を歩いていた聖だった。
そう、私はまたやってしまったのだった。
「あらぬえちゃん、何かしら?」
そして聖は振り向き、私を追い越してぬえの元へと・・・・・・
――――――――――――――――――――
「ちくしょうめええええ!!!!!」
「止めてくださいナズーリン!それはあなたのキャラじゃありません!」
「うるさい!キャラなんて知ったことか!
みんなしてみんなして真似しやがって!何がユカーリンだ!何がメイーリンだ!
『-リン』は私だけのものなんだあああ!!」
騒ぐナズーリンとそれを宥める星。
てんやわんやとしたその場はしばらく収まらないものかと思われたが・・・・・・
「じゃあナズちゃんも改名しちゃえばいいんじゃない?」
意外な人物がその場の荒れた空気を静ませた。
多々良小傘、たまたま命蓮寺に遊びにきていた妖怪の一人である。
「私が・・・・・・改名?」
「そーだよ!みんなやっているんだからさ!」
「でも私は元々カタカナだし、皆と同じようにしても意味は・・・・・・」
「あ!じゃあこうすればどうでしょう!」
星が手をポンを叩き、ひらめいたように提案した。
「みんながカタカナにしてるんだから、あえてひらがなに・・・・・・」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結果から言うと、ナズーリンの改名は大成功であった。
『なずりん』という名に変更した彼女は、そのクールな性格とかわいい容姿のギャップもあり、
新たなかわいいキャラとして人気を集めに集めたのだった。
更に他の『~りん』のキャラが揃いも揃ってカタカナに改名していたこともあり、
彼女は『~りん』界の新たな頂点として君臨することとなったのだ。
「な、なずりん様!」
「ああ、君は確かユカーリンだったね。」
「お願いです!私に『ゆかりん』と再び名乗る権利をください!
やっぱり私はあの4文字じゃないとしっくりこないの!」
「ダメだよ。聞いてみれば君が改名騒動の発端だったそうじゃないか。
つまり君は私の本名を奪ったんだ、わかるね?」
「お願いです!名前なら返しますから!境界いじりますから!どうか!」
「ユカーリン(笑)」
「いやああああああ!!」
結局、なずりんが『ナズーリン』になりユカーリンが『ゆかりん』に戻ったのは、
カタカナブームが完全に消えて皆が元の名前に戻し始めた三ヵ月後だったという・・・・・・
了
めちゃくちゃ笑いました。
ユカーリンはねえわwwww
にしてもユカーリンおぞましいなw
こっそり追加しました
なずりんを流行らせるべき
登場時立ち絵の名前がなずりんだったら俺は呆然としたまま被弾していたに違いない。
これはいい……。
ドラクエ5の主人公の名前を「オーリン」にしたらパパスに「『~リン』って女っぽくないか」と文句いわれたでござる。
>オーリン
錬金術師の弟子?
おもろかった。
しかしユカーリン(笑)
こーりんは少女だった…?