※阿呆な思いつき。暇な方だけお付き合いくださいまし
『弾幕はパワー』
迫撃砲手の私の口癖だ。私の名は魔理沙。霧雨魔理沙。
最前線で戦う女性兵士。そういうと聞こえは幾分いいか。
しかしその実態は、血と硝煙と汗の臭いの中で、垢も落とせぬ汚らわしさに耐え、獰猛残虐な妖怪ゲリラに怯え、脱走する仲間の背を見つめ、動かぬ肉と変わった友の骸を埋葬し、そしてそれら全てをガンパウダーで紛らわせる戦いの日々。
妖怪の襲撃は昼夜を問わない。時間も数もばらばら。陸から来るか、空から来るかさえも。
真正面からつっこんでくる妖怪は下等な、どこにでもいる妖怪だ。統率など勿論とられていない。一匹一匹が、光る米粒を無茶苦茶に乱射しながら、思うままこちらにやってくる。
無垢たる少女の顔をして、少女そのままの爪で、牙で、しかし妖怪の力でもって、弾幕に怯んだ兵士を引き裂く。可憐な姿になってもなお、絵巻の中のむごたらしさがそこには残されている。
私はその慣れきった光景に特に感じるところもなく、敵が密に集まっているところを狙って、砲の仰角を変え、一匹でも多く殺さんと砲撃を加える。
人間は弾幕を形成できない。しかし、科学の力をもってすれば妖怪どもに対抗できる。
せいぜい中世レベルだったはずの幻想郷の科学技術が飛躍的に進歩したのは、ひとえに博麗にかしずくあの胡散臭いスキマ妖怪のおかげだろう。
それと――、あの仲の良かった河童の置き土産。
とにもかくにもスキマがなぜ人間に味方するのか。末端の私には知る由もないし、知ったところでここから逃げられるわけでもない。
爆音が耳をつんざく。何も聞こえなくなるが、仲間の悲鳴も遮断されてマシと思えた。
妖しい愛らしさをもった少女達が、爆風に吹き飛ばされ、あるいは砕けていく。
圧倒的な暴力と血と死。これらが、目に映る全てだ。
――だが、その苛烈に彩られた風景が、やつを隠していた。
そう、私はまだ気付いていなかったのだ。
一際小さな緋い少女が、ゆっくりと私達に挑みかかったということを。
* * *
聴覚を支配していた金きり音も去る頃、また新たな地獄が始まっていた。
鮮血の飛沫を上げて、ぼろきれのように吹き飛ぶ兵士たち。
視界の先、奴はいた。
静かに歩いてくる少女が腕を振るうたび、悲鳴と、赤と、鈍い音がセットになって私の目の前を彩るのだ。
「……リア、スカーレット……」
誰かが呟いた。私はそれに遅れて、息を呑む。
ゆらゆらと、陽炎のように揺れてこちらに迫ってくる小さな脅威が、私を心の底から震え上がらせた。
逃げなくては。今すぐ。足、動け。
息もおぼつかなかった。凄まじい威圧感。これが悪魔の力なのか。
その時だ。
「でやぁああああああ!」
仲間の一人が小銃をこん棒のようにして、奴に挑みかかったのだ。
「や、やめろ! 死ぬぜっ!」
その忠告は、いささか遅すぎた。
次の瞬間には、無残に血を滴らせ骨まで突き出た肉人形がひとつ、増えただけ。
しかし私は鞭に打たれたように気を取り戻した。
目の前の凄惨な死が、火事場のクソ力でも呼び起こしたか。
拳銃で牽制しながら、私は後退する。
そして、思考を巡らす。
どうにかして、奴を撃退する方法はないか。
純銀弾の残りは十発もない。ヴァンパイアの動きは俊敏だ。当てられるか。
……そうだった。奴の動きを考えれば、私はとっくに、死んでもいい頃だ。
そして気づいた。私は、奴に舐められているのだと。
ならば、勝機は見出せるかもしれない。
死の淵にあって湧き出でた反骨精神。我ながら頼もしく思えてくる。
しかしそれは、闇に灯る一本の蝋燭に変わりないだろうが。
鉛弾を捨て、純銀弾を装填。
チャンバーに残っていた弾丸を撃つ。
微動だにしない。当たらない運命だと知っていたのか。
――運命。その言葉に大きな武者震いがした。
死への恐れと、勝利への期待。
自然と、口角が釣り上がる。頭がいよいよおかしくなってきたのかもしれない。
さらに二発発砲。砲手の勘に任せた。当たってくれる。
だが、見届ける間もなく側にあった、人だったものから、あるものをひったくる。
そして、肩口から煙を吹く奴に、思い切り投げつけた。
小気味良い金属音。賭けだった。生死をかけた大博打。
「貰った――」
無表情に悪魔が掴む水筒を狙って、私は、純銀の弾丸を射出した。
「……ふっ、ぐぅうう……」
熱したフライパンに水をかけたように、黒い煙が吹き上がる。
流水が吸血鬼の肌を焼いているのだ。
私は間髪入れず、半狂乱で、残りの純銀弾を撃ちまくった。
一発命中するたび肉を裂き、骨を砕き、悪しきものを内側から焼く魔法の弾丸。
黒煙が去ると、そこにははらわたを引き裂かれ、胸に穴が開き、水で半身を爛れさせた悪魔の姿があった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
どうやら、勝ったのか。
奴は動き一つない。霧散していないから、死んではいないはず。
後方から、人の声がする。
振り返れない。振り返った瞬間に、こいつが飛び掛って、喉笛を引き裂くかもしれないのだから。
声が。たくさんの声が。波のように押し寄せ、私を飲み込んだところで、意識は途絶えた。
* * *
「そういえば、あの悪魔は?」
「ああ、あいつね。今頃は天日干しでしょうね」
「……」
たとえ恐ろしい悪魔が霧散しても、妖怪はまだまだいる。
私は戦い続けることになるだろう。
今回は生き残れたが、次は、あるのだろうか。
私は恐ろしくなって、震える手を実包に伸ばした。
あんたにとっては軽くても、他の人には憎悪の対象。
そんなケースだってありえるのよね。
それだけ気いつけて呉れや。
偉そうに奈に言ってんのお前?
わざわざここに投稿するより、その方が多くの人に読んで貰える可能性は高いです。
まぁ、軽いノリということですし、そこまで深く書くつもりは無いなら仕方ありませんが。
ぜひとも続きが読んでみたい。