Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

踏み切り

2009/10/12 01:35:51
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・・・今年も、この季節がやってきた。
風が踊り、紅葉が舞う秋の季節。
この季節になると、私の心は、どこか高揚してくる。・・・紅葉だけに。
・・・でも、あれほど楽しみにしていた秋も、今は物寂しい。




早苗がいなくなって、どれくらい経つだろうか。
あまり年月は経っていない。それどころか、半年を越えてすらいない。
それなのに私には、十年、百年・・・あるいは、千年の年月が経たようにすら思えてくる。
私の前から早苗が消えて以来、私の心は・・・
俗に言う『ぽっかりと穴が空いた』、まさにそんな状態であった。
まるで早苗が、私の心を抉り取って持ち去ってしまったようにも感じた。




真っ暗な部屋の中で携帯電話を開くと、ちょうど日付が変わったことがわかる。
・・・今もアドレス帳には、早苗の番号とメールアドレスがある。
電話をかけてみても、『現在使われておりません』という音声が聞こえるだけ。
メールをしてみても、返事は一切なかった。
早苗は・・・一体、何処に行ってしまったのだろうか。

「・・・早苗・・・」
ふと、早苗の名を呟いてみた。
そんなことをしたって、早苗が戻ってくるはずもない。
その事実は、紛れもなく私が一番知っているはずなのに。

窓を開けてみると、冷たい風が部屋に吹き込む。
秋も半ばを過ぎて、外はすっかり寒くなっているようだ。
・・・そういえば、最後に早苗に会ったときにも、さっきのような冷たい風が吹いていた。



あの時は、ごく普通、本当に普通の瞬間だった。
私にとってはとりとめもない、あわただしい毎日のほんのワンシーン。
いつもどおりの帰り道を歩きながら、いつも通りの会話をする。
そして何気なく手を振り合い、何気なく「またね」と声を掛け合う。
夕焼けが、世界を紅く染めている中で。
・・・私にとってはさり気ない一瞬でも、早苗にとっては、あの時は、
本当の本当に、重要な別れの儀式だったのかもしれない。
早苗がいなくなってから時折、私はこんな思念をめぐらせていた。
彼女はどこに行ったのか。それを考えるだけで、眠気が和らいでしまうのだ。


しかし、最後は眠気に負けてしまい、いつの間にやら眠りに落ちてしまう。
けれど最近、奇妙な夢をよく見ている。
私が、紅い夕日に照らされた踏切の、その傍らに立っている夢だ。
いつまで経っても何も起きない。
ただ、真っ赤な夕日に照らされた踏切があって、私はそこに立っているだけ。
・・・でも、一度だけ違った。
何も起きないはずだったのに、その時は遮断機が降り、どこの路線かもわからない電車が通り過ぎる。
そして電車が通り過ぎ、踏み切りの向こうに立っていたのは――――――、
というところで、私は目が覚めた。
夢というのは、どうして肝心なところで目を覚ましてしまうものなのだろうか。
と、この時ばかりは思った。
もしかすると、あの踏み切りの向こうに立っていたのは・・・。

ふと、眠気が私にのしかかってくる。
日頃の疲れが眠気にでも変わったのだろうか。
そんなことを思いつつも、私は深い眠りへと入っていった・・・。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「紫様。客人が来ておりますが、如何しますか?」
「あら、こんな夜更けに?誰かしら」
「最近山に移ってきた神社の巫女、と言っていますが・・・」
「そう。じゃあ、通してちょうだい」

ここは、博麗大結界の境界にある、すきま妖怪―――八雲紫の家である。
彼女の性格を示すかのように、この家は様々な場所に現れ、所在不明とされている。
しかし、ここ最近は彼女の気まぐれか、ある場所に留まっていたのだ。

夜も更けきったところに、最近、妖怪の山の頂に居を置いた洩矢神社の巫女―――
東風谷早苗は、誰にも内緒で、ここ、八雲邸を訪れたのだ。

「珍しいお客人ねぇ。どうかしら?ここでの生活は」
「ええ、少しずつ慣れてきました。博麗神社とのいざこざも少々ありましたが・・・」
「ああ、そんなこともあったわね。あの子、妖怪にばかり好かれているから、仲良くしてやってね」
「はい・・・、努力します」
「・・・それで?今日はどんな用事で来たのかしら」
紫がその質問をするのと同時に、場に冷たい風が流れ込む。

「実は・・・、貴方に、折り入って頼みがあるのです」
「へえ・・・、どんな?」
「貴方は境界を操る力で、様々なことができると、以前、お聞きしました。
 空間の裂け目でワープするとか、夢の中に入り込むとか・・・。
 私、ある人の夢の中に入り込んで、伝えたいことがあるんです」
「で、それをするために私の力を借りたいのね?」
「・・・はい。出せるものであれば何でも出します。ですから、是非・・・」
それから、場に沈黙が流れる。

「・・・いいわ。協力してあげる。ただし!」
「ただし?」
「お代として、お酒を一本、頂戴するわ」
「はあ・・・」
「じゃ、早速始めましょうか。夜はまだまだ長いけど、やる事は手早く片付けなきゃ」
そう言うと、紫は立ち上がった。


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・・・また、この夢だ・・・。
真っ赤な夕日。それに照らされる、世界。そして、踏み切りの前に立つ私。
最近見る夢と全く変わらないないようだ。
これは一体、何を示す夢なのだろうか。そんなの、到底わからない。
もしかすると、誰かが私に、夢を通してメッセージを伝達しようとしているのだろうか・・・。
それは・・・まさか、早苗・・・?


今日の夢は、いつもとは違うパターンだった。
遮断機が降りて、電車が通り過ぎる。
静かな空気は電車によって一時的に掻き乱され、そしてまた静寂に戻る。
そして、踏み切りの向こうに立っていたのは―――――、紛れもなく、彼女だった。



「・・・早苗?」
まるでそこに顕現したかのように、早苗は神妙な面持ちで立っていた。
その格好も、私が知っている早苗の姿ではない。
まるで・・・、そう、神に仕える、巫女のような・・・そんな姿だった。
そして、閉じていた目蓋を、ゆっくりと開く。

電車はもう通り過ぎたのに、遮断機は下りたままだった。
まるで、私と早苗を、文字通り『遮断』しているかのようだ。

「早苗・・・どこに行ってたの?私、心配してたんだよ。
 ・・・ねえ、こっちおいでよ、早苗。ねえ、さな」
「駄目。私はもう、そっちには行けない」
早苗は、横に首を振る。
「もう行けない・・・?じ、じゃあ、私がそっちに」
「駄目。あなたはこっちに来てはいけない」
早苗はもう一度、横に首を振る。
「・・・どうして・・・?」
「私は、もう『幻想になってしまった』の。こっちは幻想。そっちは現実。
 私はもうそっちには行けないし、あなたもこっちには来てはいけない」
「じゃあ・・・もう、この夢から覚めたら、もう早苗には会えないの?
 嫌だ・・・そんなの、嫌だよ。早苗がいるなら、夢から覚めなくてもいい!」
寂しさとか、怒りとか、色々なものが混ざってよくわからなくなったものが、涙となって溢れてきた。
「駄目。いつかは夢から覚めなくちゃいけないの。ちゃんと現実と向き合わなくちゃいけない。
 いつか私は、皆の記憶から消え去る。いつか、あなたの記憶からも。
 でも、心配しないで。こっちはこっちで楽しくやってるから。周りもとても賑やかだよ」
今まで暗い顔をしていた早苗は、心配をかけまいと、明るい笑顔を浮かべた。
それを見て、私も、涙を拭う。

「・・・うん。わかった。・・・・・・またいつか、会えるかな」
「わからない。でも、またいつか、会えるといいね」
「・・・そうだね。じゃあ、」「うん・・・。じゃあ、」



「「またね」」


私たちはあの時と同じ、あの頃と同じ笑顔で手を振り合い、声を掛け合った。



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「・・・これで満足かしら?」
「・・・はい・・・、・・・・・・っく、ぅ・・・」
そう言った早苗の目からは、涙が溢れ出して止まらなかった。
必死で堪えようとすると、今度はそれが嗚咽となって漏れ出す。
「泣いちゃ駄目よ。あなたたちがここに来ると決めた時点で、
 多くの別れを遂げることはわかっていたはず。だから、それを今悔いてしまってはいけない。
 ・・・でも、一度に多くに別れを告げるのは辛いわね」
「貴方は・・・、っう、辛くないんですか・・・」
「まあね、何年も生きてきたんだもの。別れの悲しみも、数を重ねると薄れてくるものよ」
ぼろぼろと涙を零す早苗を横に、紫はいつものように、涼しい顔をしていた。



「早苗ー!」
夜も明けてきた頃、二注の神の片割れ、洩矢諏訪子が八雲邸を訪れた。
もちろん、誰にも内緒でここに訪れた早苗を、迎えにきたためである。
「心配したよ、早苗!起きたらもぬけの殻だったもんで、そこら中を探し回ったんだから!」
「す、すいません・・・」
「うちの巫女がお世話になったね。礼を言うよ」
「いえいえ。あ、そうそう、この子に頼みごとを賜ったので、お代として
 お酒を一本いただけないかしら?」
「・・・へ?・・・早苗、何を頼んだの?」
「あ、えっと・・・あはははは・・・」
涙でくしゃくしゃになった早苗の顔も、いつしか綻んでいた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


目を開けると、いつも通りの天井が目に入った。
でも、顔には涙の跡があった。
これは、確かに、私が早苗と再会したことの証拠だ。
たとえ夢だとしても。私が早苗に会ったのは事実なのだ。
頬いっぱいの涙の跡が、何よりの証拠である。


「早苗・・・・・・またいつか、会えるよね」


いつか、また会える。私は、そう確信していた。
また、いつも通りの日常が始まる。
身支度をして、朝食を食べ、慌しく家を出る。
外に出た私は、思い切り空気を吸い込み、吐き出した。



私も相変わらずだよ、早苗。だから早苗も、私のこと、心配しないで。
いつか私も、早苗のことは忘れるかもしれない。
でも、時々思い出したい。私の青春と共にあった、『東風谷早苗』という少女の存在を。
だから、君にも思い出してほしい。かつてここにいた頃の思い出と共に。
私は、居るはずのない彼女に向けて語りかけるように、晴れ渡る秋の空を見つめていた。



―――――――早苗、またね。
初めて投稿させていただきます。
東方のヴォーカルアレンジ(主に早苗関連)を聞いていたらティンときました。
早苗も、幻想郷に来るときは沢山の人に別れを告げたんだろうなーと思い、
その別れの一部(というかその後日談)をピックアップしてみました。
時系列としては、風神録での騒動の一ヶ月か二ヶ月ほど後です。
読んでいただく皆さんに楽しんでいただければ嬉しいです。
柚子饅頭
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
気になる点もあるけれどまとまってて良かったです