夕暮れ──。
今日も今日とて参拝客など皆無な此処、博麗神社の縁側で私は何時も通りお茶を啜っていた。
「霊夢、私にもお煎餅を頂けるかしら?」
参拝客こそいないが、胡散臭い妖怪が一人、私の隣でさも当然のようにお茶を啜っていたりする。
──お茶とお茶請けをただ食いしていくような連中を、参拝客など誰も言うまい。
「……食べたければ、勝手に取ればいいじゃない。」
お茶請けは私と紫の間にある。だから私がとってやる必要なんかない。
「もう、つれない子ね。」
全く何を期待していたと言うのだろうか……。
至極残念そうな紫に対し、私はふんっと鼻を鳴らした。
──別に、機嫌が悪いわけじゃないんだけど。
どうしてだろう、紫を目の前にすると素直になれない。
「それじゃあ、お一つ頂こうかしら。」
紫の綺麗な手が、ゆっくりと煎餅へと伸びた。
そして形のいい唇まで運ばれていく──私ったら、何も煎餅にまで嫉妬しなくてもいいのに。
手を伸ばせば、紫の空いている手に触れる事が出来るだろう。
そんな短い距離。だけどそんな僅かな距離が、私と紫を隔てている。
相手が相手だけに、隔てているというよりは“スキマ”がある、の方がしっくりくるかも。
触れられないだけで、もどかしさを感じてしまう。
私の心にも、“スキマ”があるみたい……。
いつからだろう……こんな事を考えるようになったのは──。
いつから私は“心のスキマ”に気付いてしまったのだろう──。
「……? どうしたの、ぼーとしちゃって?」
紫の声で、はっと我に返る私。
「えっ? あっ、ううん。なんでもない。ただちょっと考え事を──」
しまった。
そう思ったときにはもう手遅れだった。
新しいおもちゃを見つけた子供のように、瞳を輝かせた紫がこっちを見ていた。
「一体、何を考えてたのかしら?」
「それは、その……。」
まさかアンタの事を考えてた、なんて言えない。
真っ直ぐ過ぎるその瞳に、私はつい、たじろいでしまう。
「アンタの能力って便利だなって。」
“スキマ”なんて考えてたから出た、咄嗟の嘘。
「……それだけ?」
「そ、そうよ。ほら、スキマ開いて移動したり、色々便利じゃない。」
「ふーん……そうねぇ。確かにスキマを開けられるのは私だけだけど、スキマは案外誰にでも簡単に閉じられるものよ?」
あれ? 苦し紛れの言い訳が通用する相手じゃないのに……。
訝しむ私を余所に、紫は悠然と微笑むばかり──いや、この顔は何か企んでる……一体何を──
ちゅ。
「……なっ!!!」
「ほらね。スキマなんて、意外と簡単に埋められるのよ。」
一瞬の出来事だった。
不意に紫が私の手を取ったと思ったら、次の瞬間にはもう、事が済んでいた。
紫のもう片方の手は私の顎へと添えられており、強制的に顔を上げさせられた私は、その姿勢のまま固まる他無かった。
──キスである。
私はたった今、紫に唇を奪われたのだ。
恥ずかしさと、悔しさと。そして何より嬉しさに、私の頭はどうにかなりそうだった。
「ひょっとして、初めてだった?」
悠然と微笑む紫。その笑顔はどこ艶かしいく、何かを誘っているようだった。
私は目を逸らそうと顔を背けるが、何故か視線が紫の唇から離れてくれない。
──っだめ、くせになりそう……!
「……っ! ずるいわ。こんなの、紫にしかできないじゃない。」
今だ目の前にある甘美な誘惑に耐えながらも、私は精一杯の皮肉を言った。
「もう、ムードの欠片も無い子ね……こういう時ぐらい、甘い言葉の一つも言えないの?」
甘さならとうに堪能した筈なのに……。
それでもなお、もう一度味わいたいと、その甘さを確かめたいという強い衝動が、私の中から込み上げてくるようだ。
「ほら……もう一度……。」
もう一度…………でも流されるだけなんて、なんか悔しい……。
「だったら訂正……こんなの、紫としかできないわよ…………。」
「……ふふふっ、合格♪」
二度目のキスの、その甘美な痺れによって私はうっとりとするばかりで気付かなかった。
心のスキマは、紫がとっくに埋めてくれていたことに。
今日も今日とて参拝客など皆無な此処、博麗神社の縁側で私は何時も通りお茶を啜っていた。
「霊夢、私にもお煎餅を頂けるかしら?」
参拝客こそいないが、胡散臭い妖怪が一人、私の隣でさも当然のようにお茶を啜っていたりする。
──お茶とお茶請けをただ食いしていくような連中を、参拝客など誰も言うまい。
「……食べたければ、勝手に取ればいいじゃない。」
お茶請けは私と紫の間にある。だから私がとってやる必要なんかない。
「もう、つれない子ね。」
全く何を期待していたと言うのだろうか……。
至極残念そうな紫に対し、私はふんっと鼻を鳴らした。
──別に、機嫌が悪いわけじゃないんだけど。
どうしてだろう、紫を目の前にすると素直になれない。
「それじゃあ、お一つ頂こうかしら。」
紫の綺麗な手が、ゆっくりと煎餅へと伸びた。
そして形のいい唇まで運ばれていく──私ったら、何も煎餅にまで嫉妬しなくてもいいのに。
手を伸ばせば、紫の空いている手に触れる事が出来るだろう。
そんな短い距離。だけどそんな僅かな距離が、私と紫を隔てている。
相手が相手だけに、隔てているというよりは“スキマ”がある、の方がしっくりくるかも。
触れられないだけで、もどかしさを感じてしまう。
私の心にも、“スキマ”があるみたい……。
いつからだろう……こんな事を考えるようになったのは──。
いつから私は“心のスキマ”に気付いてしまったのだろう──。
「……? どうしたの、ぼーとしちゃって?」
紫の声で、はっと我に返る私。
「えっ? あっ、ううん。なんでもない。ただちょっと考え事を──」
しまった。
そう思ったときにはもう手遅れだった。
新しいおもちゃを見つけた子供のように、瞳を輝かせた紫がこっちを見ていた。
「一体、何を考えてたのかしら?」
「それは、その……。」
まさかアンタの事を考えてた、なんて言えない。
真っ直ぐ過ぎるその瞳に、私はつい、たじろいでしまう。
「アンタの能力って便利だなって。」
“スキマ”なんて考えてたから出た、咄嗟の嘘。
「……それだけ?」
「そ、そうよ。ほら、スキマ開いて移動したり、色々便利じゃない。」
「ふーん……そうねぇ。確かにスキマを開けられるのは私だけだけど、スキマは案外誰にでも簡単に閉じられるものよ?」
あれ? 苦し紛れの言い訳が通用する相手じゃないのに……。
訝しむ私を余所に、紫は悠然と微笑むばかり──いや、この顔は何か企んでる……一体何を──
ちゅ。
「……なっ!!!」
「ほらね。スキマなんて、意外と簡単に埋められるのよ。」
一瞬の出来事だった。
不意に紫が私の手を取ったと思ったら、次の瞬間にはもう、事が済んでいた。
紫のもう片方の手は私の顎へと添えられており、強制的に顔を上げさせられた私は、その姿勢のまま固まる他無かった。
──キスである。
私はたった今、紫に唇を奪われたのだ。
恥ずかしさと、悔しさと。そして何より嬉しさに、私の頭はどうにかなりそうだった。
「ひょっとして、初めてだった?」
悠然と微笑む紫。その笑顔はどこ艶かしいく、何かを誘っているようだった。
私は目を逸らそうと顔を背けるが、何故か視線が紫の唇から離れてくれない。
──っだめ、くせになりそう……!
「……っ! ずるいわ。こんなの、紫にしかできないじゃない。」
今だ目の前にある甘美な誘惑に耐えながらも、私は精一杯の皮肉を言った。
「もう、ムードの欠片も無い子ね……こういう時ぐらい、甘い言葉の一つも言えないの?」
甘さならとうに堪能した筈なのに……。
それでもなお、もう一度味わいたいと、その甘さを確かめたいという強い衝動が、私の中から込み上げてくるようだ。
「ほら……もう一度……。」
もう一度…………でも流されるだけなんて、なんか悔しい……。
「だったら訂正……こんなの、紫としかできないわよ…………。」
「……ふふふっ、合格♪」
二度目のキスの、その甘美な痺れによって私はうっとりとするばかりで気付かなかった。
心のスキマは、紫がとっくに埋めてくれていたことに。
やっぱゆかれいむは至高っすね
あまあま