注意!
このSSは作品集50『現人神の居る道具屋 四日目』から設定を受け継いでいます。
まずはそちらを読んでおくことを強くお勧めします。
◇
「森近さん、号外ですよ!」
「では、そこに置いておいてくれ。」
12月。幻想郷には雪が積もり、人妖ともに肌寒く感じる季節である。
伝統の幻想ブン屋こと射命丸文も、今日は首にマフラーを巻いて新聞を配っていた。
「あやや、今回の記事は特別ですよ?
なんたって、山の産業革命についての記事なんですから!」
「ふむ?」
自慢気に胸を張る文を横目に新聞を手にとって見ると、何やら見出し欄に【夢のエネルギー、ついに実現か!?】
という文字がでかでかと書かれている。
内容に興味を示した霖之助が新聞を読み進めていくと、何やら見慣れぬ建物と共にどこかで
見覚えのある少女が写った写真を見つけた。
「文、この建物はなんだい?」
「むむ、そういえば森近さんは行った事ありませんでしたっけ?
その写真は守矢神社って山の上の神社の写真ですよ。」
「守矢神社・・・というと、ここが早苗のいる神社か。」
改めて写真を見直すと、やはりその少女は早苗に見える。動きながら撮ったのか、多少ブレているが。
写真の中の彼女は、ぎこちない作り笑いではなく、本当に楽しそうな笑顔であった。
その顔を見事に撮影した文の腕前に、霖之助は驚く。
「しかし、よくこんないい顔の写真を撮影することができたね。
少し君を見直したかもしれない。」
「あや・・・お褒め頂くのは光栄ですけど・・・
実はその写真、少々妙な経路があるというか・・・」
「・・・ん?」
妙な経路?紫にでも渡された写真とでもいうのだろうか?
「ま、まあ!そんなことはどうでもいいんです!
それより、さっき神社で面白そうな事をしていましたよ!」
「面白そうな事?」
「ええ、私がいうより直接見に行った方がいいと思います。
では、これにて失礼します!」
そういうと、文は一枚のカードを取り出し「突風『猿田彦の先導』!」と言い放つと、
竜巻を纏ってそのまま扉をブチ破って行ってしまった。
風により店内は悲惨な結果である。
「待ちたまえ。」と言おうにも時既に遅し、文は遥か遠くまで飛んでいってしまった。
「・・・やれやれ、何故スペルカードを使う必要があるのか不明だが、
今は店内を片付けなければいけないようだね。」
その後は・・・久しぶりに神社にでも行ってみるか、などと考えながら、
霖之助は散らかった店内の片づけを始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~
「おやおや・・・これは、少し見ない間に随分と変わったものだな・・・」
博麗神社に訪れた霖之助が、まず最初に言った第一声がそれだった。
少し前に、局地的な地震によって神社が倒壊したと聞いたが・・・つい最近建て直されたのだろう、
今は新築の家特有の小奇麗さを見ることができた。
近くには温泉も湧き出ているようで、温泉目的に訪れたであろう人間や妖怪の姿も確認できる。
これは、アレを持ってきておいて正解だったようだ・・・と霖之助が思っていながら神社の縁側へ向かうと、
霊夢がいつものようにお茶を飲んでいた。
「あれ、霖之助さんじゃない。わざわざそっちから来るなんて、珍しいこともあるのね。」
「残念ながら僕も少しは人間だ、たまには外にも・・・って、これは前にも言った気がするな。」
「そう?」
では誰に言ったのだったかな?と霖之助は考えるが、そこまで重要な事でもないと判断したのか
持ってきた『アレ』を霊夢に手渡した。
「あら、この包みは何かしら?」
「神社を建て直したのだろう?だからその祝いの品・・・といっては少し物足りないだろうが、
人里で饅頭を買ってきた。食べるといい。」
「ふーん、じゃあ有難く頂くわね。
何なら今食べようかと思うんだけど、霖之助さんも食べる?」
「ふむ、ではお言葉に甘えるとしようかな?」
「じゃあちょっと待ってて、お茶持ってくるから。」
そういうと、霊夢は霖之助の分の湯飲みを取りに台所へと向かっていった。
香霖堂から博麗神社まで歩いてくるのは少々疲れたのだろう。「ふう」と一息つきながら霖之助は
縁側へと腰掛ける。
人里に寄った時、そういえば神社の分社のようなものが作られていたな、と思い返す。
恐らくは守矢神社のものだ。八坂の神を信仰する人がわざわざ妖怪の山にまで来なくてもいいように、と
作られたのだろう。
そういえば最近、早苗が店に来ないがどうしたのだろうか?
・・・と、霖之助が考えていると、空から鳥が羽ばたくような音と共に一人の妖怪が降りてきた。
「あれ?・・・おにーさん、誰?」
「・・・うん?」
声をかけられるまで気付かなかったのだろうか、霖之助はやっとその妖怪・・・霊烏路空の存在に気付く。
「おや、君は誰だい?」
「うにゅ?私は霊烏路空。みんなからはお空って呼ばれてるよ!」
「ふむ・・・ではそう覚えておくとしよう。
僕は森近霖之助、魔法の森にある古道具屋、香霖堂の店主をしている。」
「にゅにゅ?こーりんどー?」
香霖堂、という単語を聞き、何やら考え込むお空。
もしや、霖之助の知らぬ間に香霖堂の名は広まっているのだろうか?
そうであってくれれば大いに有難いのだが・・・
などと考えていると、お空は知らぬ間に霖之助の横におかれた包みを開け始めていた。
ちょっと待て。
「・・・お空、何をしているんだい?」
「えっと、この包みから甘い匂いがしたから・・・食べてもいい?おにーさん。」
「まあ、別に構わないと思うが・・・」
霖之助がそう言うと、お空は間髪入れずに包みの中の饅頭をムシャムシャと食べ始めた。
その後、饅頭がよほど美味しかったのか、至福の表情で「うにゅぅ・・・」と呟く。
「・・・美味しかったかい?」
「うん!だっておねーさんはこんなお饅頭とか出してくれないし・・・あ、そういえば
こーりんどーって名前、よくおねーさんが言って・・・」
「あー!ちょっとアンタ、何勝手に饅頭食べてるのよ!?」
声のした方を見ると、霊夢が霖之助の分のお茶を入れた湯飲みを持ってきたようだった。
「え?だっておにーさんが食べてもいって・・・」
「これは私がもらった饅頭よ?霖之助さんがいいっていっても私が許さないわ!
・・・はい霖之助さん、お茶。」
そう言ってお茶を霖之助に渡すと、どこからともなく大量のお札と針を取り出す。
それを見たお空は一目散に逃げ出し、霊夢もその後を追いかけて飛んでいった。
やれやれ、といった様子で霖之助がお茶を一口飲むと、誰もいないはずの隣から声が聞こえた。
「お隣、宜しいかしら?」
声の主は誰かわかっている。境界の妖怪こと、八雲紫である。
彼女は霖之助が返事をする間も無く、スキマからその姿を露にし、霖之助の隣に腰掛けた。
「霖之助さんが神社に来るなんて、珍しいですわね。
てっきり、年中お店の中に居ると思いましたのに・・・」
「霊夢に神社の復興記念をと思ってね、人里で饅頭を買ってきた。
その様子だと、ここに来る前に香霖堂へ来たようだね。」
「ええ、でもすぐここに居るとわかったのですが。
・・・これかしら?その饅頭というのは。」
紫は傍にあった饅頭を一つ手に取ると、それをパクリと口に入れる。
「・・・へえ、悪くはありませんわね。
甘すぎるわけでもなく・・・お茶に合う甘さですわ。」
「そうか、それはよかった。」
ふと上を見上げると、お空と霊夢が弾幕ごっこをしていた。
かなり距離が離れているので、ここまで弾幕の流れ弾が届くことはあるまい。
「・・・それより、霖之助さん?
あの娘の様子は最近いかがでしょうか?」
「あの娘、とは?魔理沙のことかい?」
「ご冗談を・・・東風谷早苗の事ですわ。」
「早苗?」
霖之助が紫の方を見ると、彼女はどこから淹れたのかお茶を啜っていた。
「なぜ君が早苗の事を聞くのかわからないが・・・彼女は普通だよ。
店にはよく来てくれるし、商品も購入してくれる。
僕のような店にはなかなかの良客だ。」
「他には?」
「そうだな・・・たとえば、無縁塚で拾った外の世界の物についての僕の薀蓄も
よく聞いてくれているよ。まあ、元々早苗は外の世界の人間だったからだろうが・・・
たまに大笑いされたりするのは、恐らく本来の使い方と間違っているのだろう。
でも、それで考えを改め直すというのもいいものだよ。」
「それで?」
「・・・そういえば、最近は店に来なくなってしまったな。
本格的な冬に入って、すぐだったか・・・12月の中旬あたりからだね。」
「・・・・・・・・・。」
紫は暫く考え込むように顎に手を当てると、目の前にスキマを開き、そこから何やら取り出した。
手帳・・・のようにも見える。
彼女はそれをペラペラとめくり、一通り見終わると手帳をスキマに戻した。
「そうですか、ではもう十分ですわ。
お話を有難う、霖之助さん。」
「どういたしまして・・・というか、何故いきなり早苗の事を?」
「何、ちょっとした確認です。
それと・・・その娘は今日、ここに来ます。」
「何?」
霖之助が、何故そんなことがわかるのか、というような表情で紫を見ている。
対する彼女は、扇子で口元を隠しながら言葉を続けた。
「つい数日前、妖怪の山の上にある神社の神が私の元を訪れまして・・・
山の産業革命成功の祝いと、勝手な事をしたお詫びとしてこの博麗神社にて
宴会を本日、開かせてほしいと頼まれたのです。
まあ、麓の妖怪達の信仰も集めたいという意図が丸解りですけどね。」
「それで・・・許可は出したのかい?」
「ええ、勿論。」
紫はニコリと笑うが、扇子に隠されてその口元まで笑っているのかは確認できなかった。
「私も楽しい事は大好きですから。いつもなら冬眠しているこの時期でも、
宴があるというのなら話は別です。
霖之助さんも、宴会はお好きでしょう?」
「・・・嫌いではないがね。あまり騒がしい宴会はあまり好みではないな。
落ち着いた場所で、泥酔しない程度に酒を嗜むのが僕の好みだ。」
「そうですか、いかにも霖之助さんらしいですわ。」
「・・・なるほど、早苗の信仰する神が主催する宴会だから、
彼女もここに来るのは当然、ということか。」
「ええ、ですが・・・」
もう一度、霖之助が空を見上げると、霊夢達の姿は消えていた。
何処に行ったのだろうか?と探す彼の横で、紫はどこか冷酷に言い放つ。
「あの娘が、無事に来れるかどうかはわかりませんが。」
「・・・うん?」
その言葉に秘められた意味を聞こうと霖之助が紫の方を向くが、そこに彼女は既にいなかった。
無事に来れるかどうかわからない?それは一体どういう事だ?
早苗に何か起こるのだろうか?それとも、紫お得意のただのハッタリか?
何か、大変な事でも起きなければいいのだが・・・
沈みつつある日の中、帰ってきた霊夢に声をかけられるまで、霖之助はその言葉の意味を考え続けていた。
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「うぅ・・・まさか、冬空を飛ぶのがこんなに寒いなんて・・・」
守矢神社のある妖怪の山と、博霊神社のある場所の丁度間とも思える所を早苗は飛んでいた。
太陽は既に沈み、空に浮かぶ月の光だけがあたりを照らしている。
冬の夜は寒い。それは吐く息が真っ白ということからあきらかだ。
「早く麓の神社にいかないと、お二人が心配してしまいます・・・」
ふと神社のある方角を見ると、何やら博麗神社であろう場所が明るくなっているのが見えた。
きっと、麓の妖怪や人間達が集まっているのだろう。これは急がなくては。
・・・そういえば、霖之助も宴会に来てくれているのだろうか?
来てくれていたらとても嬉しいのだけれど・・・
そんな考えが頭をよぎり、早苗は思わず笑みをこぼした。
彼女の手元には、何やら小さな小包が抱きかかえられている。
早苗が数日前から香霖堂に来ていなかったのは、その小包の中身を作っていたからに他ならない。
せっかく作ったこれを、霖之助は受け取ってくれるだろうか?
などと考えながら飛んでいると、不意に声をかけられる。
「あら・・・随分と楽しそうですけれど、何処へ向かうおつもりで?」
「・・・?」
早苗は立ち止まり、キョロキョロと前後左右を見回すが、誰一人としてその姿を確認できなかった。
空耳か?と思い、再び前方を向くと、先程誰もいなかったそこには・・・・・・・・紫がいた。
「・・・こんばんは、妖怪の山の人間さん。
こんな夜分遅くに、何処へ行かれるのでしょう?」
「・・・まず、貴女は何者ですか?少なくとも、私の知り合いには
貴女みたいな方はいないのですけど・・・」
早苗は紫に対して警戒心を抱いているようだった。
さっきいなかった場所に突然現れるなど、只者ではない。
警戒している早苗を見て、さも楽しむかのように紫は答える。
「・・・ただのしがない妖怪、とでも言っておきましょうか。
わざわざ名乗るほどの名は持ち合わせてはいませんゆえ・・・」
「・・・そうですか、では私は神社へ急いでいるので。
これにて失礼し・・・」
「それはできませんわ。」
「え?」
それはどういう・・・と早苗が聞こうとした時、ヒュンという音と共に彼女の右の頬を何かが掠めた。
掠った部分を触ってみると、じわり、と血が出ていた。
次第に表情が強張っていく早苗に、紫はクスクスと笑いながら言い放った。
「だって・・・・・・私は貴女に罰を与えるために起きているんですもの。」
紫がどこまで本気なのかがきになる。ついでに文の態度も気になる。
・・・・まさかのヤンデレエンド?
紫の饅頭の感想で、「美味しすぎもせず、不味すぎもせず」ってのが違和感感じました。
美味しすぎもせずはまだしも、不味過ぎもせずってのは普通の味の食べ物に対する感想じゃないようなw
よし
ゆかりんころす
相変わらず良かった。