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「おめでとうございます、総領娘様」
「おめでとう、天子」
「ありがとう、ありがとう」
今日も賑やかな宴会。今夜の宴の中心人物は青髪の天人、比那名居天子である。
今日、十月四日。読めば、てんしと読める。つまるところ、天子の日、ということだ。
「注げ注げ、祭りだ!」
「食え食え、ほら、めで鯛、なんつって」
鬼達に絡まれて。だけど飲んだお酒と鯛はとても美味しい。バンバンと背中を叩かれてお酒を零しそうになったけど、気持ちよかった。
この鬼達は何かにつけて宴を開きたがる。私のお祝いなんて言っても、結局は自身が宴会を楽しみたいだけなのだろう。でも、それでも嬉しい。
「この私が食べさせてあげるのぜ」
魔理沙が、漬物を差し出してきた。箸で茄子のお新香を一切れつまみ、手を添えて。俗に言う「あーん」ってやつだ。
「は、恥ずかしいわね。自分で食べられるわよ」
「いいから、甘んじて私のあーんを喰らうんだぜ。はい、あーん」
「あ、あーん……もぐもぐ」
もぐもぐ、と味わって食べた。つもりだったが、味なんて意識していられなかった。とっても美味しかったのだが、それだけ。
「あーん」なんて初めてしてもらったものだから、気分が高揚してしまってつい顔が綻ぶ。
「私もしてあげるわ」
「ダメ、私がするんだから」
「何勝手に決めてるのよ!私があーんしてあげるんだから!」
霊夢、アリス、チルノの三方がやいのやいの言い合っている。こんなのって、ないわ。思わず涙が流れそう。
天界では不良天人などと蔑まれて、蔑視された。耐え難い苦痛だった。仕返ししてやろうと思った。
そして降りてきた幻想郷、異変起こして愉しんで、その上こんなこともあるなんて。天界なんかよりよっぽどいいところだわ。
「がばー」
「きゃっ、誰?」
「私よ」
紫だった。私が考えを巡らしていたというのに、こいつはお構いなしだ。
引き寄せられて身体が密着している。二の腕辺りに柔らかい感触がある。畜生、自慢しているのか。
「あの時は、ごめんね?」
「え?」
「お仕置き、痛かったでしょう?」
「あ、ああ」
紫ったらいきなり何を言い出すかと思えば謝ってきた。正直困惑する。こいつは何を考えているのかわからない。思わず言葉に詰まってしまった。
「あの時はね、ちょっと怒ってて正気じゃなかったの」
「今も正気な気がしないけどね」
「あはは、そうね。怒ってるかしら?」
「怒ってない」
「そう、よかった。本当にごめんね」
私にしな垂れかかってくる。鬱陶しいって振り払おうと思ったが、手が動かない。ますます距離が縮んで体と体がぴったりとくっ付いた。
「何抜け駆けしてるのよぉ、紫ぃ」
「あーっ!離れろ!」
「あらあら、いいところでしたのに」
「なっ、何がいいところよ。離れなさいよ」
「天子ちゃんってば、私が寄りかかっても嫌がらなかったじゃない」
「重たくてどけられなかっただけだ!」
「ひどーい、乙女に重いだなんて」
よよよと泣き崩れる。でもどうせ嘘泣きだろう、胡散臭いし。
「そんなことよりほら、あーん」
「私のを食べてくれるのよね?」
「あたいが食べさせるの!」
先の三方が我先にとお新香を私に向けてくる。 それを私は仕方なしに食べてやる。とりあえず霊夢のやつを食べてみた。
「きゃっ、私の食べてくれたわ」
「次はあたいのよ!」
「あっ、もう!」
まったく。人気者になってしまうと忙しい。次々やってくる娘たちを片付けて自分で酒を飲む。や、飲ませてもらう酒も美味いのだが。
そんなこんなしていると宴会もお開きな空気になってきた。それに乗じて、衣玖を連れてそそくさと帰る。無論引っ付いてくるやつは引き剥がして置いておく。
今日は愉しかった。宴会の主役になるというのも悪くない。
「今日はお楽しみでしたね」
「ええ。いいものね、主役になるというのも」
「そういうものですか。私は主役というものには興味が無いんですがね」
「竜宮の使いって奴にディスコの真ん中で踊られても困るわね」
「はは、ご尤も。私がこうして宴会に姿を現すのも、あまりよろしくはないのかもしれません」
「いいんじゃないの?別に決まりはないし」
「なんていうか、レア度が下がるんですよね」
「……レア度ねぇ。ところで、あなたは私の何?」
「総領娘様の何であるか、ですか。そうですね、恋人ってところでしょうか」
「へ?いやいやいやいや監視役とかじゃないの」
「そんな堅苦しいものではございませんよ。それに私は地震の予知、報告をしているだけで監視役ではありませんし」
「だから恋人になるというのがわからないんだけど」
「恋人なんて恋心を抱いた時からなるものですわ」
「待ちなさい、何勝手に恋人になってるのよ。私は付き合うって言った覚えはないんだけど」
「……天子様は嫌ですか?」
「跪かないで。上目遣いで見ないで。涙目にならないで。手を握らないで。そして何地味に距離縮めてるのよっ」
「嫌、ですか。申し訳ありませんでした」
「ちょ、ちょっと。嫌じゃないわ。むしろ、」
「そ、そうですか!嬉しいです!」
「ちょっと、きつく抱き締めすぎ、苦しい……あと胸が当たってる」
「当ててるんですよ」
「それってどういう──」
)」
──ッ。
胸がチクリと痛む。
自分は一体何を考えていたんだ。都合のいいことばかり、振り返ると恥ずかしいことこの上ない。
枕を抱き締めて、つうと涙を流す。簡素な小屋の中に、嗚咽する声が小さく響く。
ばんっ。
「衣、玖……」
天子は慌てて上体を起こす。そこへ、衣玖が歩み寄った。
おもむろに振り被り、そのまま右掌を横に薙ぐ。
バチィンッ!
「い、いったぁい!」
その掌は的確に天子の頬を捉え、打ち抜いた。そして少々のディレイの後、そのままだった体を元に戻すように、再度薙いだ。
バチッ!
「うっ……」
思わず天子は立って逃げ出す。が、衣玖に後ろ腰から手を回され、ガッチリとクラッチされてしまう。ネルソンの形へ移行しそのまま、衣玖は若干飛び気味に弓形に身体を反らし──
ドズンッッ──ッ!
「あ……が……ッ」
スープレックス。華麗なるそのスープレックスはまさにブリリアントドラゴンスープレックス。
天人くずれと言えど頑丈なものである。それでも立ち上がり、襲い来る衣玖から逃れるために光を目指して駆ける。が、それも虚しく腕を掴まれ──
「ひぎ……っ、痛い痛い!痛いよ衣玖ッ!」
腕十字。完全に極まったそれは外れる様子もなかった。天子はその道に精通していない。故に、切り返す手段など、力いっぱい暴れる他思い浮かばない。
「やめて!痛い痛い痛い折れちゃうッ!外してぇっ!」
懇願の言葉の通り衣玖は技を解く。ぐるりと、天子が返る。
天子は、ほっとした。しかし、その油断が更なる危機を呼ぶのである。
衣玖が、うつ伏せの天子に跨る。逆マウント、そこから繰り出されるのは、拳の雨……かと思いきや、背中のツボを押す行為、すなわちマッサージというやつだ。
「っ……あっ……」
ぐっ、ぐっ、と親指に力を込めて突く。勿論、それだけで終わるはずもなく。
「はぎゃああっ!?あ、あ、ああああッ!」
バチバチバチィッ!
辺りに雷光が弾け散る。目に優しくない、強い光が視界を蹂躙する。そして、それは天子の身体も同じく蹂躙していく。
「ああああッ!あっ、は、がぁっ……」
電流が通り抜ける。焼けるような痛みに遅れて、痺れがやってくる。身体を御しきれない。麻痺が四肢へ拡がっていく。
やがて衣玖は電流を止めると、天子を抱き起こす。そして、手に持った白いそれを──
べちゃっ。
クリームパイが天子の顔に叩きつけられた。天子の顔は、真っ白に染まる。
衣玖の手が止み、それから暫く無言の時が流れる。
沈黙を先に破ったのは、天子だった。というか、衣玖は沈黙を守り通したままだった。
「……ぇっ、ぇっ」
小さな嗚咽が聞こえる。
「うぇぇ……ひっく……ふぇぇぇん……えぅ」
天子は手をグーにして目の辺りのクリームを拭う。
衣玖はそれを制し、ハンカチを取り出して天子の顔を拭った。
「……」
「……」
「…………どうしてこんなことしたの」
「……」
「……答えてよッ」
「底へ落ちてから拾い上げられるのが、お好きではないのですか」
「……」
「どん底まで叩き落されてから猫かわいがりされるのが一番いいのではないのですか」
「……」
衣玖は一通り拭い終えると、天子の口の周りに舌を這わせる。
「……この辺りは丁寧に拭い取らねばなりません」
「……馬鹿っ」
じる、じる、と舌と舌が絡み合って淫靡な水音を立てる。
ひとしきり愉しみ終えて、唇を離す。
「今日は、総領娘様の日でございますね」
「もう、日付変わっちゃったよ」
「十月五日こそ、ですよ」
どうして。
──てんこあいしてる。
いやはや凄いです。また途中まで妄想w
天子可愛いよ天子。
冗談は置いといて、今回は初めから展開が読めてました。
類似(てか同じ手法)したネタって休ませた方が効果的かも、と感じましたね。
天子愛してる。読みはご想像にお任せします。
今日だとばっかり…
衣久さん酷いwww
てんこあいしてる
相変わらず尖ってるね!
妄想が幸せなほど悲しすぎるんだぜ!
あ、あと1時間、間に合わなくてもいいから公開するんです、いえお願いします。
てんこが寂しがって小屋で枕を濡らしているじゃないですか。
>2番目の名無しさん
その……そういうことでした。
>3番目の名無しさん
すいませんしたァッッ!
最近の火忍には妄想を多用する癖があるみたいです。
今回はオチとの対比に使ってみましたが、やはり「またこれか」と感じてしまうものでしょうか。
それにしても、こう、読んでくださっているんだなぁ、と感じます。
それは僕にとって非常に喜ばしいことですし、下さった意見はとても参考になります。
…長くなってしまいました(汗 それではこの辺で。
御読了ありがとうございました。
>4番目の名無しさん
「だから、何回も言ってるでしょ!私の名前は──」
飴と鞭で天子を蕩けさせる衣玖さんが私の正義。
>5番目の名無しさん
ブリリアントドラゴンスープレックスをさせてみたかったというのは内緒。
私もてんこあいしてる
>6番目の名無しさん
しんっ。
ううむっ、改名前から読んでいてくださったと申すか。感謝です。
……いえいえ、僕なんてまだまだ鈍らな槍ですよ。要精進。
気が向いたら僕なんかの作品でも流し流し読んでやってください。
>7番目の名無しさん
ああん、もっと罵って。
……こんなこと言うからいかんのか(汗
>8番目の名無しさん
お誕生日おめでとう御座います。プ、プレゼントなんてありませんけど。
てんこの顔についたクリームでもどうぞ。