人里近くに建てられた寺、命蓮寺。
太陽の白い光が眩しい早朝、住職である聖白蓮は両手を組み伸ばして、ん、と一つ唸った。
目覚めてから暫く経つが、どうにも体がなまってしまっている。
腰に手を当て二三度捻ると、こきりこきりと小気味の良い音がした。
やはり、なまっているようだ。
小さく息をつき、吸う。
再び吐き出し、呼吸を整える。
涼しい朝の空気に肺を満足させ、白蓮は口を開いた。
「あぁたぁらしぃいあぁさがきたぁ」
「聖! ストップです!」
「あら、星、おはよう」
腹の底から歌っていた白蓮は、それでもさっと振り向き、寺の中から出てきた寅丸星に笑顔を咲かせる。
「さぁ、ご一緒に」
「きぃぼぉうのあぁさ――違う!」
「え、合ってるわよ? よろこぉびにむぁっ!?」
吠える星に首を傾げながら続ける白蓮。
だったが、星の物理的介入により中断。
具体的に言うと、手で口を押さえられた。
そっと外し、問う。
「お経バージョンの方が良かった?」
「んなもんありません」
「作ったんですもの」
えへんと胸を張る白蓮。
星が額に手をあてた。
南無三。
「何処か痛いの、星?」
「……ええまぁ。頭が痛い」
「痛いの痛いの飛んでけー!」
星の頭を撫で、白蓮は両手を広げる。
「……飛んでった?」
「意識ごと吹き飛びそうです」
「むぅ……魔法までもなまってしまったのかしら」
唇に指を当て唸ると、何処からか大きな溜息が聞こえてきた。三つほど。
「……星?」
「違いますよ」
「じゃあ、誰かしら」
「ともかく!」
「なぁに?」
ずぃと詰め寄ってくる星。
眉間に皺が出来ている。
結構深め。
「なんか色々削れていくのでそういう歌はお止めなさい!」
撫でて解してあげたいと思う白蓮に、‘なんか色々‘がまた削れていった。
「でもね、星。体がなまってしまっているのよ」
言葉に、怒気さえも漂わせていた星の視線が逸れる。
彼女は無論、知っている。
白蓮が途方もない永い時間、封印されていた事を。
体力が、魔力が、全盛期に程遠い事は想像に難くない。
喚起された心の痛みをどうにか沈め、平静な顔で星が振り向く。
「もどかしさを感じているのですね、聖」
「でも、九時頃になると眠くなっちゃうんだから仕方ないわね」
「そう言えば昨日は八時にお休みでしたね。ただの寝過ぎじゃないですか!?」
「早寝早起きは三文の得よ。あ、私の三文、星にあげるわ」
「虎ぉぉぉぉぉッッ」
腰を落とし、唸りをあげる星。
――の頭に、拳と錨が降ってきた。
「ふぎゃ!?」
ついでとばかりに鼠も一匹落ちてきた。ちゅー。
「ぐ、あ、あぁ、わかってる、わかっていますよ!」
「いや、あの、私は訳がわかんないんだけど」
「聖は解らなくてよろしい!」
「ごろごろ」
「にゃー」
じゃあとばかりに星の喉を摩る。
可愛らしい鳴き声が響いた。
白蓮大満足。
「ちがぁぁぁぁぁう!」
違うらしい。白蓮しょんぼり。
「いいですか、聖!
貴女が自身なまっていると思うなら!
その足でこの新天地、幻想郷を歩みなさい!」
びしぃと言い放つ星。
一理ある、と白蓮も頷いた。
「お散歩ね!」
「どうしてそう言う色々削れる言い方をしますか!?」
「え、あれ、ダメ? えっと、じゃあ、『はじめてのおさんぽ』」
今日一番の笑顔で言う白蓮。
「違うでしょう、そうじゃないでしょう、聖」
「でも、お寺も放っておけないし……」
「あー、それなら、大丈夫」
どっと疲れた顔の星だったが、こほんと一つ咳払いして気を取り戻す。
頭の上の鼠を撫で、傍らに下ろした錨に拳を当てた。
微笑みながら、言う。
「寺が出来てから、貴女は休みなく、妖怪に人間に説法を施した。
永い間お眠りしていた体には、一時の休憩が必要でしょう。
ですから――是は、私たち共通の申し出です」
星もまた、今日一番の笑顔。
「そう……じゃあ、お言葉に甘えさせて頂くわ」
だから、白蓮は四の五の言わず、その申し出を有難く受け入れた。
人妖問わず受け入れてきた。
しかし、自身はこの幻想郷に受け入れらているのだろうか。
小さな不安と大きな好奇心を胸に、白蓮は、なまった足に喝を入れ、歩み出すのであった――。
<幕>
白蓮が去った後。
「――で、ですね、聖。
散歩とは言え貴女ヒトリでは退屈でしょう。
そ、そこでですね、よければその、私も……!
あぁいや、なんでもない、なんでもないですっ!
あ、ですが、そう、私、美味しい蒲焼屋さんを知っているんですよ!?」
「いや、ご主人様」
「ナズーリンに聞いたんですけどね、ですが、場所がちょっと説明しにくくて!」
「ご主人。星様」
「い、一緒に――って、っきゃー!」
「何乙女叫びしてるんですか、おっきな猫」
「誰が虎ですか、ナズーリン!?」
「失礼。ロールに失敗してしまって」
「それなら仕方ありません。……あー?」
「細かい事は置いといて」
「細かいかしら……」
「聖様、もう行っちゃいましたよ」
「え? あれ……えぇぇぇぇ!?」
「えぇぇぇぇ、じゃありません」
「だって、だって!」
「だってでもありません。ご主人様は回りくど過ぎます」
「せ、精一杯頑張りました!?」
――ちゅーちゅーちゅーちゅー!
――ふにゃふにゃふにゃふぎゃぁ……。
「……おぉ。あれぞまさしく嬲ーリン」
「一輪、上手い事言ったって顔してないで」
「まぁねぇ。わからんでもない。さんざ練習台にされたしね」
「あら、そんな事言いつつ満更でもなかったんじゃない?」
「可愛い星って珍しいから。センチョもでしょ?」
「ほどほどには、ですね」
――きゃっきゃうふふ。
「あんたらって、何時もこんな感じなの?」
「……」
「そっかぁ。……ついていくの間違ったかなぁ」
「……」
「あ、あ、冗談! 冗談だからそんな泣きそうな顔しないで!?」
――ウンザーン。
それはそれで宜しくやっている、命蓮寺の諸々であったとさ。
「け、けれど、ナズーリン! 誘おうとした心意気は進歩したと言えるんではないでしょうか!?」
「はぁ……。そんなだから、‘白‘って文字を見ただけでキャーキャー言うんじゃないですか」
「ちょ、それ、秘密!? あ、こら、みんな笑うな、呆れるな、愛でるなぁーっ!?」
星以外。
<ウンザーン>
太陽の白い光が眩しい早朝、住職である聖白蓮は両手を組み伸ばして、ん、と一つ唸った。
目覚めてから暫く経つが、どうにも体がなまってしまっている。
腰に手を当て二三度捻ると、こきりこきりと小気味の良い音がした。
やはり、なまっているようだ。
小さく息をつき、吸う。
再び吐き出し、呼吸を整える。
涼しい朝の空気に肺を満足させ、白蓮は口を開いた。
「あぁたぁらしぃいあぁさがきたぁ」
「聖! ストップです!」
「あら、星、おはよう」
腹の底から歌っていた白蓮は、それでもさっと振り向き、寺の中から出てきた寅丸星に笑顔を咲かせる。
「さぁ、ご一緒に」
「きぃぼぉうのあぁさ――違う!」
「え、合ってるわよ? よろこぉびにむぁっ!?」
吠える星に首を傾げながら続ける白蓮。
だったが、星の物理的介入により中断。
具体的に言うと、手で口を押さえられた。
そっと外し、問う。
「お経バージョンの方が良かった?」
「んなもんありません」
「作ったんですもの」
えへんと胸を張る白蓮。
星が額に手をあてた。
南無三。
「何処か痛いの、星?」
「……ええまぁ。頭が痛い」
「痛いの痛いの飛んでけー!」
星の頭を撫で、白蓮は両手を広げる。
「……飛んでった?」
「意識ごと吹き飛びそうです」
「むぅ……魔法までもなまってしまったのかしら」
唇に指を当て唸ると、何処からか大きな溜息が聞こえてきた。三つほど。
「……星?」
「違いますよ」
「じゃあ、誰かしら」
「ともかく!」
「なぁに?」
ずぃと詰め寄ってくる星。
眉間に皺が出来ている。
結構深め。
「なんか色々削れていくのでそういう歌はお止めなさい!」
撫でて解してあげたいと思う白蓮に、‘なんか色々‘がまた削れていった。
「でもね、星。体がなまってしまっているのよ」
言葉に、怒気さえも漂わせていた星の視線が逸れる。
彼女は無論、知っている。
白蓮が途方もない永い時間、封印されていた事を。
体力が、魔力が、全盛期に程遠い事は想像に難くない。
喚起された心の痛みをどうにか沈め、平静な顔で星が振り向く。
「もどかしさを感じているのですね、聖」
「でも、九時頃になると眠くなっちゃうんだから仕方ないわね」
「そう言えば昨日は八時にお休みでしたね。ただの寝過ぎじゃないですか!?」
「早寝早起きは三文の得よ。あ、私の三文、星にあげるわ」
「虎ぉぉぉぉぉッッ」
腰を落とし、唸りをあげる星。
――の頭に、拳と錨が降ってきた。
「ふぎゃ!?」
ついでとばかりに鼠も一匹落ちてきた。ちゅー。
「ぐ、あ、あぁ、わかってる、わかっていますよ!」
「いや、あの、私は訳がわかんないんだけど」
「聖は解らなくてよろしい!」
「ごろごろ」
「にゃー」
じゃあとばかりに星の喉を摩る。
可愛らしい鳴き声が響いた。
白蓮大満足。
「ちがぁぁぁぁぁう!」
違うらしい。白蓮しょんぼり。
「いいですか、聖!
貴女が自身なまっていると思うなら!
その足でこの新天地、幻想郷を歩みなさい!」
びしぃと言い放つ星。
一理ある、と白蓮も頷いた。
「お散歩ね!」
「どうしてそう言う色々削れる言い方をしますか!?」
「え、あれ、ダメ? えっと、じゃあ、『はじめてのおさんぽ』」
今日一番の笑顔で言う白蓮。
「違うでしょう、そうじゃないでしょう、聖」
「でも、お寺も放っておけないし……」
「あー、それなら、大丈夫」
どっと疲れた顔の星だったが、こほんと一つ咳払いして気を取り戻す。
頭の上の鼠を撫で、傍らに下ろした錨に拳を当てた。
微笑みながら、言う。
「寺が出来てから、貴女は休みなく、妖怪に人間に説法を施した。
永い間お眠りしていた体には、一時の休憩が必要でしょう。
ですから――是は、私たち共通の申し出です」
星もまた、今日一番の笑顔。
「そう……じゃあ、お言葉に甘えさせて頂くわ」
だから、白蓮は四の五の言わず、その申し出を有難く受け入れた。
人妖問わず受け入れてきた。
しかし、自身はこの幻想郷に受け入れらているのだろうか。
小さな不安と大きな好奇心を胸に、白蓮は、なまった足に喝を入れ、歩み出すのであった――。
<幕>
白蓮が去った後。
「――で、ですね、聖。
散歩とは言え貴女ヒトリでは退屈でしょう。
そ、そこでですね、よければその、私も……!
あぁいや、なんでもない、なんでもないですっ!
あ、ですが、そう、私、美味しい蒲焼屋さんを知っているんですよ!?」
「いや、ご主人様」
「ナズーリンに聞いたんですけどね、ですが、場所がちょっと説明しにくくて!」
「ご主人。星様」
「い、一緒に――って、っきゃー!」
「何乙女叫びしてるんですか、おっきな猫」
「誰が虎ですか、ナズーリン!?」
「失礼。ロールに失敗してしまって」
「それなら仕方ありません。……あー?」
「細かい事は置いといて」
「細かいかしら……」
「聖様、もう行っちゃいましたよ」
「え? あれ……えぇぇぇぇ!?」
「えぇぇぇぇ、じゃありません」
「だって、だって!」
「だってでもありません。ご主人様は回りくど過ぎます」
「せ、精一杯頑張りました!?」
――ちゅーちゅーちゅーちゅー!
――ふにゃふにゃふにゃふぎゃぁ……。
「……おぉ。あれぞまさしく嬲ーリン」
「一輪、上手い事言ったって顔してないで」
「まぁねぇ。わからんでもない。さんざ練習台にされたしね」
「あら、そんな事言いつつ満更でもなかったんじゃない?」
「可愛い星って珍しいから。センチョもでしょ?」
「ほどほどには、ですね」
――きゃっきゃうふふ。
「あんたらって、何時もこんな感じなの?」
「……」
「そっかぁ。……ついていくの間違ったかなぁ」
「……」
「あ、あ、冗談! 冗談だからそんな泣きそうな顔しないで!?」
――ウンザーン。
それはそれで宜しくやっている、命蓮寺の諸々であったとさ。
「け、けれど、ナズーリン! 誘おうとした心意気は進歩したと言えるんではないでしょうか!?」
「はぁ……。そんなだから、‘白‘って文字を見ただけでキャーキャー言うんじゃないですか」
「ちょ、それ、秘密!? あ、こら、みんな笑うな、呆れるな、愛でるなぁーっ!?」
星以外。
<ウンザーン>
続きを希望します!!
にしても、この白蓮さんは神綺さまと絡んで欲しくなるなぁw
そして星ナズのこの時代のあえての星白…いいね!
道標さんの聖さん達は正義って事は確信しました。
雲山可愛いです雲山。
僕は白蓮様を信じますがね
しかし天然白蓮様いいなぁwww