「さあ、紅葉の季節です」
「いぇーい! 実りの季節でもあるぞー!」
博麗神社恒例の宴会に、珍しく秋姉妹が参加していた。秋の素晴らしさを説くために参上! したらしい。
姉の静葉が紅葉の美しさを説明し、妹の穣子が合いの手を入れる。
皆は最初は聞き流していたのだが、ある言葉に反応をするのであった。
「――というわけで、秋の楽しみ方として最もお勧めなのが紅葉狩りですね」
「いぇーい! も・み・じ・が・り!」
『椛狩り――!?』
酒がいい感じでまわっている皆の脳裏に浮かぶは、妖怪の山において哨戒を務める白狼天狗、犬走椛の姿であった。
「紅葉狩りでは、その美しさを心行くまで観賞するのがポイントです。さらに、深呼吸なんかすると、心が洗われること間違いなしです。まさに心の洗濯、癒しですね」
「いぇーい! 癒しまくり!」
『椛を観賞? 深呼吸?』
椛がちょこんと座った姿を想像する一同。ふるふると震え、耳は垂れ、上目づかいで見られる。
どこからか唾を飲み込む音が聞こえてきた。
それが自分のものなのか、他人のものなのか――
「それはもう、お肌つるつる、滋養強壮、疲労解消、若返り、などなどの御利益があること間違いなしです!」
「いぇーい! G・O・R・I・Y・A・K・U!」
『――!!』
そして、少女たちは旅立った。
自分たちが狩るべき対象のもとへ。
犬走椛は今日も忠実に職務をこなしていた。
妖怪の山に訪れる脅威を真っ先に探知する大事な役目。それを椛は誇りに思っていた。
そんな彼女が有する能力は『千里先まで見通す程度の能力』。哨戒任務を預かるものとして最も必要となる能力だ。
とはいえ、スペルカードルール導入以降平和といえる幻想郷において、妖怪の山に攻めてくる馬鹿はほぼ皆無といっていいのだが。せいぜい紅白の巫女か白黒の魔法使いか――
「――!?」
そのとき、椛の視界に信じられないものが飛び込んできた。
遠くから妖怪の山目指して飛んでくるものがいる。それも複数。
「あれは……!?」
椛は絶句した。
つい先ほどその姿を思い浮かべていた巫女と魔法使いだけではなく、幻想郷において名の知られた妖怪たちが隊列を組んでこちらに向かってきているのだ。そして、その誰もが目つきが尋常ではない。
自分の力では事態収拾は不可能と即断した椛はすぐさま山の上へ向けて飛び立つ。哨戒の役目は敵と戦い倒すことではなく、脅威の質を正確に計り即座に報告することだ。
椛の判断は適格だった。その判断に至るまでの時間、そして判断後の行動の素早さ、どれも優秀であった。
しかし、今回は相手が悪かった。
「3秒遅かったわね」
そんな声と共に、椛の周囲を無数の隙間が取り囲む。椛は慌ててその場に踏みとどまり、周囲を見回すが、完全に囲まれていることを再確認することになっただけだ。隙間から見える異形の目が椛を睨みつける。
椛の本能が正面突破は危険と告げるが、かまわず刀を抜き放ち隙間に斬りかかり――
キィン!
椛の一撃が跳ね返される。
目の前に立ちふさがるのは魂魄妖夢。得物は同じく刀だ。今まで相手をしたことのない二刀流の使い手の出現に椛は刀を正眼に……構えようとして、自分の手に刀がないことに気づいた。
「ごめんなさい、私、今日は手癖が悪くて」
背後から聞こえてきた声に慌てて振り返ると、いつの間にかメイドが自分の刀を取り上げていた。
そして、この数瞬の足止めの間に、すっかり弾幕少女たちに取り囲まれていることに気づくのであった。
「な、なんのおつもりですか!? 一体何を考えているのですか!? まさか、妖怪の山と全面戦争を――」
「椛狩りよ」
「……は?」
霊夢の一言に、高まっていた椛の緊張が一気に萎えていく。
「あ、あの、もう一度おっしゃっていただけませんか?」
「椛狩り。なんでも秋のメインイベントとか」
「皆さん、何か思い切り勘違いをしているのでは……!?」
「そんなこと知らん! さあ、おとなしく狩られなさい! そして、私たちに深呼吸されるのよ!」
「い、いやあ~、変態!?」
椛の貞操が大ピンチな瞬間、椛の背後で何かが弾ける音がしたかと思うと、夜空にまばゆい閃光が走った。
目をやられた少女たちの悲鳴が響く中、直視していないとはいえあまりの光量に目を閉じていた椛は、誰かが自分を抱えて猛スピードでその場を飛び去るのを感じた。
このスピードと風を切る翼の音には覚えがある。
「文様!」
サングラスをした文が椛を抱きかかえて高速飛行をしている。
「私もいるよ!」
「にとり!」
そして、文の足に同じくサングラスをしたにとりがへばりついている。先ほどの光は、にとり印の照明弾だ。
3人は妖怪の山の滝のふもとでいったん降りる。
「あの、ありがとうございます、文様、にとり」
椛は感動していた。あのような化け物じみた強さの者たちが勢揃いの中、危険をおかして助けにきてくれるとは。やはり、持つべきものはいい上司と友達だ。
「感動しているところ、まことに申し訳ないんですが」
「私ら、単に一番乗りしたかっただけなんだよねー」
「え?」
プシュッ
椛の鼻めがけて刺激臭のあるガスが噴射される。にとり印の痺れガスだ。
そういえば、二人とも今日の神社の宴会に参加していたっけ。徐々に身体の自由がきかなくなる中、椛はそんなことを思い出していた。
「ふっふっふ、椛狩り達成」
「さて、あとは――」
もみじもみもみ。
「秋はですね! 素晴らしいんです! 全てです! もう素晴らしくて涙が止まりましぇん!!」
「いぇあ!! しゅばらしー!!」
自家製芋焼酎をたらふく飲んでできあがっていた秋姉妹は、その場に残ったみょんの半霊相手にいつまでも秋を熱く語るのであった。
「いぇーい! 実りの季節でもあるぞー!」
博麗神社恒例の宴会に、珍しく秋姉妹が参加していた。秋の素晴らしさを説くために参上! したらしい。
姉の静葉が紅葉の美しさを説明し、妹の穣子が合いの手を入れる。
皆は最初は聞き流していたのだが、ある言葉に反応をするのであった。
「――というわけで、秋の楽しみ方として最もお勧めなのが紅葉狩りですね」
「いぇーい! も・み・じ・が・り!」
『椛狩り――!?』
酒がいい感じでまわっている皆の脳裏に浮かぶは、妖怪の山において哨戒を務める白狼天狗、犬走椛の姿であった。
「紅葉狩りでは、その美しさを心行くまで観賞するのがポイントです。さらに、深呼吸なんかすると、心が洗われること間違いなしです。まさに心の洗濯、癒しですね」
「いぇーい! 癒しまくり!」
『椛を観賞? 深呼吸?』
椛がちょこんと座った姿を想像する一同。ふるふると震え、耳は垂れ、上目づかいで見られる。
どこからか唾を飲み込む音が聞こえてきた。
それが自分のものなのか、他人のものなのか――
「それはもう、お肌つるつる、滋養強壮、疲労解消、若返り、などなどの御利益があること間違いなしです!」
「いぇーい! G・O・R・I・Y・A・K・U!」
『――!!』
そして、少女たちは旅立った。
自分たちが狩るべき対象のもとへ。
犬走椛は今日も忠実に職務をこなしていた。
妖怪の山に訪れる脅威を真っ先に探知する大事な役目。それを椛は誇りに思っていた。
そんな彼女が有する能力は『千里先まで見通す程度の能力』。哨戒任務を預かるものとして最も必要となる能力だ。
とはいえ、スペルカードルール導入以降平和といえる幻想郷において、妖怪の山に攻めてくる馬鹿はほぼ皆無といっていいのだが。せいぜい紅白の巫女か白黒の魔法使いか――
「――!?」
そのとき、椛の視界に信じられないものが飛び込んできた。
遠くから妖怪の山目指して飛んでくるものがいる。それも複数。
「あれは……!?」
椛は絶句した。
つい先ほどその姿を思い浮かべていた巫女と魔法使いだけではなく、幻想郷において名の知られた妖怪たちが隊列を組んでこちらに向かってきているのだ。そして、その誰もが目つきが尋常ではない。
自分の力では事態収拾は不可能と即断した椛はすぐさま山の上へ向けて飛び立つ。哨戒の役目は敵と戦い倒すことではなく、脅威の質を正確に計り即座に報告することだ。
椛の判断は適格だった。その判断に至るまでの時間、そして判断後の行動の素早さ、どれも優秀であった。
しかし、今回は相手が悪かった。
「3秒遅かったわね」
そんな声と共に、椛の周囲を無数の隙間が取り囲む。椛は慌ててその場に踏みとどまり、周囲を見回すが、完全に囲まれていることを再確認することになっただけだ。隙間から見える異形の目が椛を睨みつける。
椛の本能が正面突破は危険と告げるが、かまわず刀を抜き放ち隙間に斬りかかり――
キィン!
椛の一撃が跳ね返される。
目の前に立ちふさがるのは魂魄妖夢。得物は同じく刀だ。今まで相手をしたことのない二刀流の使い手の出現に椛は刀を正眼に……構えようとして、自分の手に刀がないことに気づいた。
「ごめんなさい、私、今日は手癖が悪くて」
背後から聞こえてきた声に慌てて振り返ると、いつの間にかメイドが自分の刀を取り上げていた。
そして、この数瞬の足止めの間に、すっかり弾幕少女たちに取り囲まれていることに気づくのであった。
「な、なんのおつもりですか!? 一体何を考えているのですか!? まさか、妖怪の山と全面戦争を――」
「椛狩りよ」
「……は?」
霊夢の一言に、高まっていた椛の緊張が一気に萎えていく。
「あ、あの、もう一度おっしゃっていただけませんか?」
「椛狩り。なんでも秋のメインイベントとか」
「皆さん、何か思い切り勘違いをしているのでは……!?」
「そんなこと知らん! さあ、おとなしく狩られなさい! そして、私たちに深呼吸されるのよ!」
「い、いやあ~、変態!?」
椛の貞操が大ピンチな瞬間、椛の背後で何かが弾ける音がしたかと思うと、夜空にまばゆい閃光が走った。
目をやられた少女たちの悲鳴が響く中、直視していないとはいえあまりの光量に目を閉じていた椛は、誰かが自分を抱えて猛スピードでその場を飛び去るのを感じた。
このスピードと風を切る翼の音には覚えがある。
「文様!」
サングラスをした文が椛を抱きかかえて高速飛行をしている。
「私もいるよ!」
「にとり!」
そして、文の足に同じくサングラスをしたにとりがへばりついている。先ほどの光は、にとり印の照明弾だ。
3人は妖怪の山の滝のふもとでいったん降りる。
「あの、ありがとうございます、文様、にとり」
椛は感動していた。あのような化け物じみた強さの者たちが勢揃いの中、危険をおかして助けにきてくれるとは。やはり、持つべきものはいい上司と友達だ。
「感動しているところ、まことに申し訳ないんですが」
「私ら、単に一番乗りしたかっただけなんだよねー」
「え?」
プシュッ
椛の鼻めがけて刺激臭のあるガスが噴射される。にとり印の痺れガスだ。
そういえば、二人とも今日の神社の宴会に参加していたっけ。徐々に身体の自由がきかなくなる中、椛はそんなことを思い出していた。
「ふっふっふ、椛狩り達成」
「さて、あとは――」
もみじもみもみ。
「秋はですね! 素晴らしいんです! 全てです! もう素晴らしくて涙が止まりましぇん!!」
「いぇあ!! しゅばらしー!!」
自家製芋焼酎をたらふく飲んでできあがっていた秋姉妹は、その場に残ったみょんの半霊相手にいつまでも秋を熱く語るのであった。
●もみじもみもみ
●もみじもみもみ
おっと間違えた。
文が出たときにオチが見えました。
●もみじもみもみ
●もみじもみもみ