※一応これは[催眠術]の前日譚ですが、[催眠術]は読まなくても平気です。
ハーブが数種類出てきますがローズヒップス、バジル、ステビア
というハーブがあることだけ知っていれば大丈夫です。
ローズヒップス茶を一口だけ口に含む。コクリと飲み込み、変わりに言葉を吐き出す。
「上海、片付けて」
かちゃかちゃとまだ八割方残されているローズヒップス茶は人形と共に部屋の奥の方へと消えていく。
「不味いわ。やっぱりハーブティーはバジルかしらね」
私は新しく仕入れた本を読みながら次々と紅茶を作っては飲んでを繰り返していた。
自分の一番の好みを探すため1ページ目から行っている。今のところはバジルが最有力候補だ。
20ページのローズヒップス茶を作り終えたところで材料がなくなった。
「さてと、材料を集めてこようかしらね」
本の21ページ目から30ページ目までの主なハーブを書きとめ人形を数体つれて人里へ向かう。
「このメモに書いてあるものをもらえるかしら」
「おう、嬢ちゃん。すごいべっぴんさんだねぇ。サービスだ、これも詰めとくよ」
ハーブを売っているこの店の店主に会うのは3度目だ。サービスされるのも三度目だ。
「大丈夫ですか?そんなにホイホイあげちゃって」
「かまやしねーさ。美人さんには優しくしろって俺の親父もよく言ってたからな」
「私ってそんなに美人かしら」
今までは魔法の研究ばかりであまり人里におりたりも積極的に人と関わったりもすることが無いので容姿を意識した事が無かった。
「そいつはもう!ここらでは有名な二大金髪美少女」
「二大?それは他にも凄く美人が居るって事?」
「あぁ、アンタにも負けず劣らずの可愛い子だ。でも変わり者で魔法の森に住んでいるらしい。たまに草を買いに来るよ」
「あら、奇遇ね。私も魔法の森住みよ」
ハーブのつまった紙袋を店主から受け取りさっさと家へと帰宅する。
「美人……ね」
鏡を見つめながらふと先ほどの会話を思い出す。自分の顔では特に何も感じえない。可愛いってなんだろう。
人形たちに可愛いって思うのとはまた違うのだろうか。ハーブティーの飲み比べが終わったら顔だけでも見に行こうと思った。
その子を参考にすれば今より可愛い人形が作れると思ったからだ。やっぱり、人形だって可愛い方がいいわよね。
――――――――――――――――――――
魔理沙SIDE
「あれがこーでそれがどーで……あれ?材料が足りないな。仕方ないひとっ走り行くか」
壁に立てかけてあった箒を掴みドアを開け箒に飛び乗った。
「親父!ステビア売ってくれ」
「あー、すまない。さっき来た美人の女の子に全部上げちゃった」
「げぇ~、マジかよ。入荷はいつだ?」
「さあ?」
さ、最悪だ……。自分で探し回るなんてごめんだ。
「もういいよ、何処の誰が買ってったかわかるか?」
「すっごく美人の女の子だ。もうおじさんもいつもより多めにサービスしちゃうくらい」
「特徴と住んでるところを教えてくれよ。ちょっと売ってもらいにいってくる」
「魔法の森にすんでるって言ってたなぁ。特徴は……見たら分かる。常軌を逸した美人だ」
そんな曖昧な特徴で……まぁいいかステビアを地道に育てるよりは早いだろう。
「さんきゅ、じゃあもういくぜ」
箒に飛び乗り魔法の森を飛び回った。そしてようやく一軒の家を発見した。
元々魔法の森なんていい場所じゃないそんな場所に好んで住むやつだ。どうせ美人ったってそこまででもないだろう。
扉を軽くノックして件の相手の存在を確認する。
「だーれ?」
澄んだ声がした。一切のゴミが浮いていない湖に宝石を投げ込んだように澄んだ声。
「魔理沙だ」
「いやっ!わかんないわよっ!?」
随分とノリのいい奴らしい。これならさっさと譲ってもらえそうだ。
「ステビアの件で話がある、開けてもらえるか?」
キイッっと扉が開いて扉を開けた人物の顔が目に入る。
まぁ可愛いっちゃあ可愛いな。やはり魔法の森に好んで住むやつなんてこんな物だ。てか小さくないか?
「はいって頂戴。話を聞くわ」
あの澄んだ声が聞こえた。扉を開けた人物じゃない。扉を開けた人物のその向こう側から。
そして急かす様に扉を開けた人物が喋る。
「ハイッテイイシャンハーイ」
中に入っていくと澄んだ声の主はそこに居た。
「あ、あうぅ……」
見たら分かる。店長の言葉を理解した。常軌を逸する。確か似そうだ。私はくぐもった声を上げることしか出来なかった。
なにせそこには何度生まれ変わっても会えないだろうほどの美人が優雅にハーブティを飲んでいるのだ。
いや、飲んでいたのだ。しかし彼女はこちらを見るなりそのままの姿勢で固まったまま動かない。
「アリス、ドウシタ?」
「い、いやっなんでもないわ!」
先ほどドアを開けた人と会話をしている。その姿も私の目をひきつけ私はただただ黙って見つめていた。
「あ、ごめんなさい。人形が喋って驚いたわよね。この子は上海。私はアリス・マーガトロイドよ」
ようやく平常心を取り戻した私は自己紹介を再度行う。
「私は魔理沙。霧雨魔理沙だ」
「よろしく、霧雨さん。それで?ステビアがどうしたって?」
「とある実験で必要なんだ。いくつか分けてくれないか?」
アリスは気まずそうな表情に変わりすっとティーカップを差し出した。
「これ」
「な、なんだ?飲めばいいのか?」
か、間接キッスじゃなかろうか。嫌じゃあない。むしろしたい。私はカップに口を近づけた。
「そうじゃあないわ。ステビアの……成れの果てよ」
間接キスを遮られたのとステビアが手に入らない事実とで落胆する。
「ご、ごめんなさい。まさか必要だとは思わなくて……」
「いや、いいんだぜ。知らなかったんだし」
「出涸らしでもいる?」
「魔法薬の調合にそんなもん使ったらきっと大惨事だ」
「魔法薬!?貴方まさか魔法使い!?」
「魔法を使う、ただの人間さ。そんなに怯えなくてもいいぜ」
「怯えはしないわ。ちょっとだけ同族かと思ってビックリしちゃっただけ」
「おまえ……まさか魔法使い?」
「そうね。怯えなくてもいいわよ?」
「誰が怯えるか」
ようやくいつもの調子で話が出来るようになってきた。美人とはいえ同じ生き物。緊張する必要は無い。
ただ他よりちょっと綺麗なだけ。綺麗なだけ。OK。完全に美人には慣れた。
「それで、まりさめさんはどうするの?」
「人の名前忘れんなよ。私は霧雨魔理沙だ。魔理沙でいい。アンタはなんて呼べばいい?アリス・なんたらトロトロさん」
「全然違うじゃないっ!?マーガトロイドよマーガトロイド」
「トロトロマーガリン?」
「マーガトロイド!!」
「マーガロイド。マガトロード。マガトロトロイド。マガトロとロイド。あれ?二人になった」
「アリス・マーガトロイド・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
「なんか増えたぞ!?」
「分かりやすいように改名してあげたのよ」
「というか元の奴でも長い!アリスでいいよな?」
「もー……いいわよ。魔理沙」
急に距離が縮まった気がした。名前で呼び合うってやっぱりいいな。そして……やっぱりコイツ美人だ。見た目だけじゃあなく。
こんな気持ちは初めてだ。ちょっとだけ今日の私はおかしいぜ。名残惜しいがここは引き上げるとするかな。
「とりあえず野生のステビアを探しに行く事にするぜ。また会おう」
「ハーブが野生に生えてたとしてもそれはあまり状態の良い物じゃあないかもよ。諦めた方が……」
「狙ったものは盗んででも手に入れるのが私の信条だ。それじゃあ行って来るぜ」
「えぇ、また会いましょう」
ティーカップを乱雑に掴み軽く一口だけいただいてアリスの家を離れた。
箒に跨り猛スピードで飛ばした。赤く染まったこの頬が、一秒でも早く冷めるように。
「やっぱり、今日の私はおかしいぜ」
――――――――――――――――――――
アリスSIDE
「魔理沙……か。驚いたな」
一目見て驚いた。可愛らしいってこういう事なんだろうなぁ。
鏡を見ながら自分の髪をみつあみに編んでみる。残念ながら先ほどまで自分の瞳に写っていた美人をもう一度見ることは出来なかった。
みつあみをほどきティーカップに入れられた冷めたステビアの紅茶を飲み干す。
「こんなに美味しいのは……きっとハーブの所為じゃあないわよね」
パタンとハーブティーの本を閉じ、研究室の方へ向かった。
「今日は人形作りがはかどりそうね」
数日後魔理沙は前回とはうって変わった勢いで私の家を訪ねてきた。
「入るぜっアリス!ステビアを見つけたんだ。見てくれ」
「ノック!!勝手に入らないでよ。ビックリするじゃない」
魔理沙からステビアを受け取りながらそう叱責した。
「ちゃんと入るって言ったぞ?答えは聞いてないけど」
「なんとなく貴方が分かってきた気がする。それとこのステビアはなかなかいいモノね。」
というかかなりの高品質だ。野生だなんて到底思えない……まさか。
「盗んできたんじゃないでしょうね」
「それがさー苦労したんだぜ。花に詳しい奴がいてさぁ」
「あー……有名な緑髪の破壊神?」
巷では有名な実力派。凄まじいパワーを持ち全てを蹴散らす悪魔……と聞いたことがある。
その区域は避けるように行動しているため実際に見たことは無い。妖精のくだらない噂にしても避けるに越した事は無いから。
だが魔理沙の話によると実際にいるらしい。避けていて正解だった。
「4回挑んでようやく貰えたんだぜ」
「よくやるわ。私はそのレベルの化け物とはあまり関わりたくは無いわね」
「そうだな、賢い考えだと思うぜ。私だって気乗りはしなかった。おかげで私は傷だらけだ」
「うぅ、やっぱり私はそんな凶暴な奴には関わりたくはないわ」
「大丈夫だ。悪戯に花を傷つけなければ8割位の人には優しいぞ」
「20%の確率で優しくないじゃない!」
「でもあいつのとこの花は相当綺麗だぜ。今度一緒に言ってみないか?」
花かぁ……意識してみた事は無いけど魔理沙が言うのだ。きっと綺麗なのだろう。
たまにはいいかな。自然に触れ感性を磨くのも魔法使いにとっては大切な事だしね。
「いいわよ。行きましょう。だけど念のため戦闘用人形を増産しとくわ」
「あははは、OKOK。じゃあ三日後にデート決定だ」
「デートじゃないわ。花見よ」
「花見って……まぁ合っているといやぁ合ってるのか?」
「桜だろうが何だろうが植物見るだけなら皆花見よ」
「きっとお前は2割の方だろうな。沢山人形作っとけよな」
魔理沙はそう笑いながら去っていった。私はハーブティーを一杯注ぎクイッっと飲み干した。
「ああもう!何でこんなに美味しいのかしら」
一目惚れってやつですな
とっても面白かったですよ。
>確立
確率
二人でいるのが楽しそうなマリアリですごく好きだ