Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

手回しミルの音楽。

2009/09/19 15:38:26
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――こんにちは。






「あら、いい香りね」

紫は突然、現れてはそう言った。

「あぁ、どうも」

僕はそれに少しだけ頷き、豆を挽く。
ミルの口からこぼれる音と、芳しい香りが店を覆う。

「それで?本日はどのようなご用件で?」

僕がそう彼女に問いただす。
彼女の表情は夏の晴れた日のようだった。

「暇つぶし、かしら?」

「そうか、なら、お帰り願うよ」

僕は挽いた豆を紙で出来たフィルターの上に乗せる。
ぐらぐらと煮立った薬缶のお湯を準備しながら。

「あら、冷たいわね?」

「ええ、大した御用でないならば。当店では愛想も無料じゃないんでね」

「ならば、商品を注文するわ」

「ほう?」

「コーヒーを、一杯」

見えない空を仰ぎながら、僕はすっと、カップを一つ追加した。







「代金は貰うよ」

「わかってますわ」

コポコポと、フィルターにお湯が染み渡っていく。
透明だったお湯は、粉の間を抜けて黒く染まっている。
僕はお湯からコーヒーに変わったばかりの液体を見つめた。
ぽた、ぽた、ぽた、と水滴が落ちいていく。

「本当に良い香りね」

「そうだね」

サイフォン式なら、もっと映えるのだろうか。
だが、残念ながら普段からコーヒーを飲む習慣がない僕は、
それを所持していなかった。
手元には、古ぼけた手回しミルと、塗装の剥げたドリッパー。
僕は彼らを大切に思っている。

「でも、コーヒーなのに薬缶でお湯を注ぐなんて変ですわ」

「そうかな。ティーポットは少し気取ってる気がしてね」

「普段から気取っていない、とでも?」

「まったく何を言っているのか分からないな」

そう言って僕はカップにコーヒーを注ぐ。
ゆっくりとコーヒー色に染まっていくカップ。

「ミルクと砂糖は?」

「ミルクだけ頂こうかしら」

僕はかちゃかちゃと音を立て、戸棚からティースプーンを取り出す。
ミルクピッチャーに少しだけ牛乳を注いで、蓋を閉める。
ぱたん。

「お茶菓子はないよ」

「それぐらいなら、ここに」

彼女の手には、小さなクッキーがある。
それを見て、まったく便利な能力だ、と思う僕は、
こんな生活にも慣れてきたということだろう。

「久しぶりに焼いてみたのよ」

「そうかい」

僕は真っ黒になったカップをソーサーに乗せる。
クッキーの甘い香りと、ほろ苦い香りが混ざり合うようだ。
こうして、僕らはテーブルに向かい合って座った。
小さく揺れる机と、コーヒーカップ。
僕は目の前にあるクッキーに手を伸ばし、
ゆっくりと息を吐いた。







「お邪魔しましたわ」

「毎度あり、と言いたいところだけど、
 ここは茶屋じゃないんで控えとくよ」

残念ながら、コーヒーの味は少しだけ薄かった。
本当なら一人分の豆なのに、お湯を増したからだろうか。

「コーヒー、美味しかったわよ」

「君のクッキーも中々だったよ」

机には、くしゃくしゃになった包み紙と、
空っぽになったコーヒーカップたち。
ミルクピッチャーなんて、蓋が開いたままだ。

「なら、いつでも焼いて差し上げますわ」

「勘弁してくれ。ひとりの時間も大切なんだ」

ミルとドリッパーたちはまさに物言わず、静かに眠っていた。
窓際から、夕暮れ時の柔らかい風と日光が入る。
結構な時間が過ぎていたことに、ようやく気づくとは。

「それでは、行きますわ」

「あぁ、出来れば暇つぶしなら控えてくれるとありがたい」

僕は大きく伸びをした。
ぐっ、と伸びる、背中の筋肉と間接。
そして、僕はそっと机に向かって歩き出した。
カップを重ねて流しに運び、包み紙をくずかごに入れる。
あとは、カウンターに座って本を読むだけだ。

「じゃあ、おやすみ」

「ええ、おやすみなさい」


僕らはそう言って、ありふれた日常に戻っていく。
また、とも、お元気で、とも言わない別れだ。
きっと、言わなくても伝わっているのだろう。

僕はもう一度だけ、大きく伸びをして、深呼吸をする。
少しだけ残った甘く苦い香りが、ふわふわと浮かんできるようだった。
ただ、なんとなく平凡なワンシーンを書いてみたかっただけです…。
大変、申し訳ありません。

コーヒーを豆から挽くと美味しいなぁ、というだけ。
でも、出来るならば、コーヒーだけでなく、
甘いものもあればより映えるってもんです。
調和、ってなかなか良いですよねー。

何はともあれ、
読んでいただき、ありがとうございました!

余談ですが、月桂冠「つき」の昔のCMが大好きです。
あれ以上、ほのぼのしたCMはそんなに無いでしょうし。
イメージとして参考にさせてもらいました。

たまにはゆっくりコーヒーを淹れようかなぁ。
ワタナベ
http://ameblo.jp/25ji/entrylist.html
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
まさに大人の時間、優雅なコーヒータイムですこと
2.名前が無い程度の能力削除
落ちついた雰囲気が非常に良いです。
3.名前が無い程度の能力削除
日常担当の香霖堂らしい平凡な一幕だから良い
4.名前が無い程度の能力削除
こういった雰囲気が似合うのはやはり大人な二人だからでしょうか。