実はわたし、これで結構いろいろ考えちゃったりしちゃったりしてるのです。
ぴーんと伸ばした左手は西を向いていて。
でーんと伸ばした右手は東を向いていて。
でも真ん中のわたしがくるっと回れば、西が東に東が西に、北や南も仲間に入って、時々上とか下に変わることも
知っているのです。
もちろん、わたしはいつだってその中心ということもわかっているのです。
世界の中心、つまるところセンター・オブ・ユニバース。世界は薔薇色。
イライラしてきちゃったら愛を補充。道で出会った犬にだってハイボンジュール!
なんてつまらないことばっかし考え続けてればお脳がどんどん退化していくのでわたしはもうちょっぴり賢げな事
に頭をシフトするのでした。
こうして少しずつ少しずつ頭の良い事を積み木をつみつみするように考えてゆけばあの有名なナントカシュタイン
みたく物凄い考えをドカンと一発誕生させられるかもしれないので頑張ってね、わたしの頭。
という感じで。
ああ今日も考えた考えたと満足したらお腹がグニュルゥと鳴りましたが、わたしはもちろんわかっていました。
このくらい考えれてればそろそろお腹も空くだろうなんてこと、わたしほどの者になると容易に予想できます。
だからあなたのパターンはすべてわかっているのよと言うと、お腹は「そーなのかー」と言って納得します。
上下関係には厳しくいきたい。それがわたしの方針。
そしてごはんはどこかなとおめめパッチリ動かして左手の方と右手の方を交互に見ます。
ところでわたしのごはんは人間ですが、人間は食べません。人間を食べると怒られるのを知っているからです。
だから最近のわたしはちょっと頭の良いおサルさんをもしゃもしゃ食べます。
人間は食べちゃいけないけど、おサルさんは食べて良いのです。
人間って夜は寝るのだから、こんな時間にお外を動いている人間っぽいものは実は人間じゃなくて頭のいいおサル
さんなのです。
天才サル。頭脳明晰サル。
っていうとすごく凄そうですが結局サルなのでわたしは食べるのです。
でもこんな夜に動いてる人間っぽいものと見せかけて本当に人間って場合があることも当然わたしは知っています。
本当の人間を食べちゃったら良心は痛むしご両親も悼みます。やさしさ。
人間とおサルさんをどうやって見分けるのかというと、そこは詳しく言えませんが、ある鍵(きー)があるのです。
おっと待ってちょっと待って、おサルさん的物体発見!
右手の方に見えたのでくるりと右回り、東の右手は南にさよなら。
びゅんと飛んでいきますベイベー。そん時のわたしはもうほんと速い。
でもわたしいろいろ考えているので追っかけたらその獲物が逃げちゃうことは知ってますけど、逃げちゃうからっ
て追っかけないでいるとごはん食べれませんけど、追っかけたら逃げます。
ここにいわゆる世界の不条理みたいなものをわたしは見出しました。ままならぬものなのです。
ところで実はわたし、今せっせと追っかけてるあのアレが、おサルなのか人間なのかまだわかっちゃいません。
だって見かけは同じなのだもの。
味も同じなのだもの。
鍵(きー)はそこにはないのです。もうちょっとしたらわかるのです。アハハまてよこーいつぅー。
獲物は一生懸命逃げちゃいます。わたしはかわいい子なのにちょっと心外ですけど慣れてます。
獲物は大声あげて逃げていきます。
けどこんな真夜中。
大声は大声で大声のままわんわんと車車車くだけで誰が聞いてるわけでもありませんしー。でもうるさいのは勘弁
して欲しいな。とは言えません。わたしは頑張って声を聞きながら追っかけます。
ちなみにこの時もわたしの両手はバッチリ伸ばし体勢に入っているのですが、この伸びた両手がまた曲者で、彼ら
が伸びているからこそ私はキーンとばかりに常軌を逸したスピードで残像すら置き去りにして飛べるのです。
もちろん言いすぎですけど、速いので結構オールオッケーです。
あなたのおかげで、わたしはこんなにも素晴らしい速さで飛べるのよと言うと、両手は「そーなのかー」と言って
ちょっと照れ照れします。
お礼はちゃんと言うべし。それがわたしのスタイル。
そして両手の力を借りたそんなわたしなので獲物には簡単に追いつきますよ。
とりあえず足がぶり。
味はかわらないのでわからない。鍵(きー)を探してわたしはぎらぎら目を動かします。
獲物はごろごろすってんと転がって木にぶつかり、足を押さえてもっと大きな声を出します。
このくらい味見だから、別に人間でも問題ないと思います。
ずるずる。ちゅー。赤い汁も同じ味。
次はどこを味見しよっかなーとゆっくり歩いて近寄ります。獲物は足をがぶられたので走ったりできません。
とりあえずもう片方の足がぶり。まだわからない。
獲物の声がますます一生懸命になってきます。あっ。これだ。
そんでもって腕がぶり。
もう十分大きいのに、獲物の声はぐーんと大きくなって、甲高くなってきます。
鍵(きー)が見えました。よっしゃ。
こうなっちゃったらこっちのものさ。もう片方の腕がぶり。
声はどんどん高く甲高くなっていって高く高くどんどん昇り。
きー! って。
ほら。
そんなおサルさんみたいな声出しちゃってー。
さようなら人間さま。
こんばんわおサルさん。
いただきまーす。