「世は全て、わたしのために回っている」
と、どこかの独裁者のようなことを言いながら往来(廊下)を闊歩する少女がいる。
その名は、レミリア・スカーレット。見た目、誰が見てもロリロリ娘なのだが、実はこう見えても吸血鬼で、しかも五百年生きているというおまけつきである。つまり、『この子は十八歳以上だからいいんです!』というわけだ。何がいいのかは知らないが。
さて、そういう年齢なら、普通は老練な『何か』を想像するだろう。その深謀遠慮ぶりには神すらも舌を巻く、など。
だが、しかし。
この娘の場合、頭の中身もほとんどお子様と一緒なのである。自分勝手でわがまま一直線。何せ、夏の日よけのためだけに霧を呼び出して、ここ、幻想郷を丸ごと包んでしまうというほど、どうでもいいことで自分の力を誇示するような娘なのだから。
まぁ、そんな娘であるから、確かにカリスマはないこともないのだが、どちらかというと、そのカリスマの半分は『かしこまりました、お嬢様』というお子様に向ける意思で構成されていないような気がしないでもない。
「あら? 床の絨毯に汚れが……。
ちょっと。今日の廊下掃除は誰かしら?」
「あ、申しわけありません。まだこちらには掃除の手が行き届いていなくて」
「今、何時だと思っているの? あなた達の仕事はそんなに遅いのかしら」
小間使いとして雇っているメイドを一人、適当に捕まえてお説教。ちなみに現在の時刻、午後の三時を少し回った頃だ。吸血鬼ならむしろ夜行性なんじゃないかと思うのが当たり前だが、そうであるなら、夏の日差しよけに霧を呼び出したりはしないのだろう。今の世の中、吸血鬼もフレックスタイム制度を導入しているのだ。
「すいません。今日は、ちょっとお仕事が多かったものですから。すぐにお掃除に参ります」
「そう。
……ところで、仕事が多い、ってどういうこと?」
「今日は、一斉に、紅魔館の中に飾られている花瓶などの花を入れ替える日なんです。美鈴さまがお育てになりましたお花畑の花はとてもおきれいですから。それを、館内で利用しない手はないんじゃないか、と。メイド長が」
「なるほど。それなら、仕方ないかもしれないわね」
そして、そのお嬢様は、とある従者がお気に入り。このお嬢様を前にして会話などに詰まった場合、その人物の名前を出しておけば大抵切り抜けられる、というのは、この館の有名な都市伝説である。都市ではないが。
「その咲夜は、そう言えばどこにいったのかしら?」
「さあ? 自室ではないでしょうか」
「わかったわ。ありがとう」
せっかくだから、お茶でも飲ませてもらおうかしら、と思いながら歩みを進めるお嬢様。
そこに漂うカリスマに、メイド達からの憧憬の視線が向けられる。なかなか気持ちがいいわね、と胸を張って歩くお嬢様なのだが。
「ほんと、かわいいわよね~」
「うんうん。階段を、よいしょよいしょ、って上っているところとか最高よね~」
と言う事実もあったりするのだが、気にしてはいけません。
そうして、やってくる部屋の前。
先のメイドの話を信じるなら、咲夜はここにいるはずね、などと思いながらドアをノックしようと手を伸ばす。
――と、
「……あら。誰か他にいるみたいね」
ドアの向こうから複数の声。
部屋の主――咲夜以外のものがここに住んでいるという話は聞いたことがないから、恐らく、誰かを客として迎えているのだろうと察する。
レミリアは、ふむ、とうなずくような仕草を見せた後、改めて手を伸ばす。
しかし。
『フランドール様、美味しいですか?』
『うん、甘くておいしー』
「あら、フランがいるのね」
聞き覚えのある、甘ったるい声。それは、彼女の妹の声。何だ、客はフランか、などと思う。
しかし、ここからが違った。
『フランドール様、その食べ方、ちょっと違いますよ』
「あら、美鈴の声もするわね……」
何を話してるのかしら。
部屋の中には、最低でも三人の人物。何やら微笑ましいノリで交わされている会話だったので、少しだけ、ドアに聞き耳を立てるという、およそ、品がいいとは言えない行為に走ってしまうのだが、この場合は――。
『そうなの? でも、フランは上よりも下の方が甘くて好きだよ?』
『そうですよね、やはり、このとろとろの部分が美味しいですよね。
美鈴、あなたの意見は間違いなのよ』
『なっ……! それってひどくありませんか? 咲夜さん。
やっぱり、上の、このふわふわ部分が美味しいと思いますよ? 私は。下のとろとろ部分も美味しいことは美味しいですけど……何というか、舌の上に粘つくような感覚が……』
「……はい?」
待て。ちょっと待て。
何だ、この会話は。何、不穏当なこと話してるんだ、こいつら。
思わず、レミリアは体を乗り出してしまう。
『でも、フランはどっちも好き。ふわふわの甘いのも、とろとろの甘いのも。
お口に入れると、溶けていくんだもん』
『ですけど、フランドール様。やっぱり、下のこの部分は邪道だと思うんです。上の柔らかさのプラスがなければ、ここに魅力なんてありませんよ』
『甘いわね、美鈴。やっぱり、下よ、下。見なさい、美味しそうにしたたる、この魅惑の味』
「し、したたる魅力の味っ……!?」
レミリアの頭の中に展開される部屋の光景。
それはもう何というか、色々と放送禁止のものだった。だが、まさか、という意思が働く。まさか、あの咲夜達……はともかくとして、フランドールまでがこんな会話に参加するはずなどないではないか。あんな、無邪気で子供っぽくて天真爛漫な彼女が、こんな、知ってしまったら、最初のうちは色々トラウマになりつつも、次第にそれが素敵に彩られていく過程を知る必要など、まだないのだ。あの子はまだまだ幼いままでいなくてはいけないというのに……!
『この部分を全体に絡めて口にすると、また味が変わって素敵ですよね。フランドール様』
『うん! 最初は、フランも、この下の部分は苦手だったけど、今は大好きだよ。めーりん、好き嫌いは、めっ!』
『す、好き嫌いしているわけじゃありません。私も大好きですよ、そこは。でも……やっぱり、割合的に考えたら、インパクトはあっても上には及ばないんです!』
『ほんと、こういうところにかけては、まだまだねぇ、美鈴。
上よりは下。全てはそこに収束するじゃない』
「し、収束しちゃうの……!?」
何だ、何が起こってるんだ。このドアの向こうでは、どんな魅惑的かつエレガントで、それでいて退廃的な世界が繰り広げられていると言うんだ。
ああ、ダメ、ダメよ、レミリア。見てはダメ、見てはダメなの。この先を見てしまったら、きっとあなたはダメになるわ。だ、だけど……!
「そ、そうよ。わたしはフランの姉だもの。い、妹が大人になっているのなら、それを祝福してあげるのも姉の務めなのよ!」
だから、これはのぞきじゃないわ。決して、いやらしい好奇心はないのよ! ただ、単純に、中がどうなっているかを知りたいという知的好奇心なのよ!
自分に言い聞かせ、ゆっくりと、ドアのノブに手を回す。
『上の甘さは下にはかなわないのよ。ねぇ? フランドール様』
『うん』
『う~……そうかなぁ』
「そーっと、そーっと……ゆっくり、ゆっくり……」
「あら、お嬢様。そんなところで何なさっているんですか?」
「へっ!?」
ちょうど、計ったかのようなタイミングで、横手から声がかけられた。
その拍子に、がちゃっと勢いよくドアが開き、そのまま、レミリアがドアの向こうに倒れ込む。ばたーん、という間抜けな音が響き渡った。
「わっ!?」
「お、お嬢様!? 大丈夫ですか!?」
「うわ……痛そう……。あの、お嬢様、大丈夫ですか~……?」
「うぅ~……いたたた……」
どうやら、しこたま強く顔面を床に打ち付けたらしく、涙目になって起きあがるレミリア。その姿は、何というか、これぞまさに『胸キュン』というかわいらしさだった。思わず、咲夜も足を止めようというものだ。
だが、レミリアには、まだやらなければならないことがある。
咲夜達が駆け寄ってくる気配を感じながら、神速の身のこなしで起きあがると、刹那の間にドアを叩きつけるように閉めて、そして、静かにつぶやく。
「……咲夜」
「は、はい?」
「……美鈴」
「はい?」
「フランのこと……知っていたの?」
「え?」
「何がですか?」
「そう……わたしだけだったのね……知らなかったのは」
「お姉さま?」
「フラン……いいのよ。あなたも、もうそろそろ五百歳だものね。もっともっと、色んな事を知って大人になっていくのだものね。ああ、いいのよ。お姉さまのことは気にしないで」
「……あの」
「お嬢様……?」
わけのわからない独白を始めるレミリアに、咲夜達が『どうするよ?』という雰囲気を漂わせ始める。しかし、それもレミリアは気にかけず、ただ一言、言った。
「……あなたも、大人になっていくのね。ああ、大人なフランドール……。きっと……」
そこで、レミリアは振り返る。
見事、立派な大人になった、我が妹を目に焼き付けるために。伏せていた視線を上げて、そして――。
「……あれ?」
想像していた光景は、そこにはなかった。
咲夜の部屋の中は、基本的に殺風景である。しかし、そこここに置かれたぬいぐるみなどが『女の子』な雰囲気を演出している中、部屋の中央に品のいいテーブルが置かれ、その周りに三人が椅子を出して座っている。
そして、テーブルの上には。
「……えーっと……あの……何してたの?」
「はい。フランドール様が、おやつが食べたいと仰られましたので」
「たまたま、私と咲夜さんが作っていたお菓子を食べてもらってるんです」
「美味しいよー、お姉さまも食べようよー」
にこにこ笑顔のフランドールの手には、銀色のスプーン。小さなお皿の上に載せられているのは。
「……プリン?」
「はい。会心の出来です」
「でも、私は、カラメルソースは少なめにした方がいいって言ったのに」
「何言ってるの。フランドール様にも好評じゃない、その下の部分」
「うー。プリンは、こう、入れ物に入れて、上の部分から食べていくものですよー。ソースの部分は邪道ですよー」
ああ、なるほど。そう、プリンなのね。
そう言えば、プリンって、入れ物に入れるときは上の方――つまり、黄色いところが上になっているわね。あそこってふわふわで甘くて美味しいわね。下の方――つまり、ソース部分は、確かにとろとろのカラメルソースが甘くて美味しいわね。プリン本体と絡まりあって、絶妙な味になるわよね。
「こうやってひっくり返すのは邪道ですよ」
「めーりんも、はい、あーん」
「……あーん」
「お嬢様もいかがですか? おかわりもございますよ」
「あは……あははは……なんだ、プリンだったの……あははははは……」
「……お嬢様?」
「……あのさ、咲夜」
「はい?」
紛らわしい会話するんじゃない! と、一喝したかったのだが。
「……わたしにも一個ちょうだい」
「かしこまりました」
そう言う内容を想像してしまう自分の頭の中を、信頼するもの達に知られてしまうのは嫌だったので、レミリアは適当な返事でお茶を濁したのだった。
と言うか、これも普段のわたしの節制ぶりがよくないのよ。よけいなことを考えてしまうのは、そういうのに必要なものを控えているせいだわ。よし決めた、今夜は存分に楽しもう。何するかって? 決まってるじゃないの。
「ふふ……うふふ……」
「お……お嬢様……?」
「お姉さま、何か怖いー……」
「……あの~」
「うふふふふふふふふふふふふ」
後に、フランドールは述懐す。
お姉さま、プリン嫌いなんだね、と。
と、どこかの独裁者のようなことを言いながら往来(廊下)を闊歩する少女がいる。
その名は、レミリア・スカーレット。見た目、誰が見てもロリロリ娘なのだが、実はこう見えても吸血鬼で、しかも五百年生きているというおまけつきである。つまり、『この子は十八歳以上だからいいんです!』というわけだ。何がいいのかは知らないが。
さて、そういう年齢なら、普通は老練な『何か』を想像するだろう。その深謀遠慮ぶりには神すらも舌を巻く、など。
だが、しかし。
この娘の場合、頭の中身もほとんどお子様と一緒なのである。自分勝手でわがまま一直線。何せ、夏の日よけのためだけに霧を呼び出して、ここ、幻想郷を丸ごと包んでしまうというほど、どうでもいいことで自分の力を誇示するような娘なのだから。
まぁ、そんな娘であるから、確かにカリスマはないこともないのだが、どちらかというと、そのカリスマの半分は『かしこまりました、お嬢様』というお子様に向ける意思で構成されていないような気がしないでもない。
「あら? 床の絨毯に汚れが……。
ちょっと。今日の廊下掃除は誰かしら?」
「あ、申しわけありません。まだこちらには掃除の手が行き届いていなくて」
「今、何時だと思っているの? あなた達の仕事はそんなに遅いのかしら」
小間使いとして雇っているメイドを一人、適当に捕まえてお説教。ちなみに現在の時刻、午後の三時を少し回った頃だ。吸血鬼ならむしろ夜行性なんじゃないかと思うのが当たり前だが、そうであるなら、夏の日差しよけに霧を呼び出したりはしないのだろう。今の世の中、吸血鬼もフレックスタイム制度を導入しているのだ。
「すいません。今日は、ちょっとお仕事が多かったものですから。すぐにお掃除に参ります」
「そう。
……ところで、仕事が多い、ってどういうこと?」
「今日は、一斉に、紅魔館の中に飾られている花瓶などの花を入れ替える日なんです。美鈴さまがお育てになりましたお花畑の花はとてもおきれいですから。それを、館内で利用しない手はないんじゃないか、と。メイド長が」
「なるほど。それなら、仕方ないかもしれないわね」
そして、そのお嬢様は、とある従者がお気に入り。このお嬢様を前にして会話などに詰まった場合、その人物の名前を出しておけば大抵切り抜けられる、というのは、この館の有名な都市伝説である。都市ではないが。
「その咲夜は、そう言えばどこにいったのかしら?」
「さあ? 自室ではないでしょうか」
「わかったわ。ありがとう」
せっかくだから、お茶でも飲ませてもらおうかしら、と思いながら歩みを進めるお嬢様。
そこに漂うカリスマに、メイド達からの憧憬の視線が向けられる。なかなか気持ちがいいわね、と胸を張って歩くお嬢様なのだが。
「ほんと、かわいいわよね~」
「うんうん。階段を、よいしょよいしょ、って上っているところとか最高よね~」
と言う事実もあったりするのだが、気にしてはいけません。
そうして、やってくる部屋の前。
先のメイドの話を信じるなら、咲夜はここにいるはずね、などと思いながらドアをノックしようと手を伸ばす。
――と、
「……あら。誰か他にいるみたいね」
ドアの向こうから複数の声。
部屋の主――咲夜以外のものがここに住んでいるという話は聞いたことがないから、恐らく、誰かを客として迎えているのだろうと察する。
レミリアは、ふむ、とうなずくような仕草を見せた後、改めて手を伸ばす。
しかし。
『フランドール様、美味しいですか?』
『うん、甘くておいしー』
「あら、フランがいるのね」
聞き覚えのある、甘ったるい声。それは、彼女の妹の声。何だ、客はフランか、などと思う。
しかし、ここからが違った。
『フランドール様、その食べ方、ちょっと違いますよ』
「あら、美鈴の声もするわね……」
何を話してるのかしら。
部屋の中には、最低でも三人の人物。何やら微笑ましいノリで交わされている会話だったので、少しだけ、ドアに聞き耳を立てるという、およそ、品がいいとは言えない行為に走ってしまうのだが、この場合は――。
『そうなの? でも、フランは上よりも下の方が甘くて好きだよ?』
『そうですよね、やはり、このとろとろの部分が美味しいですよね。
美鈴、あなたの意見は間違いなのよ』
『なっ……! それってひどくありませんか? 咲夜さん。
やっぱり、上の、このふわふわ部分が美味しいと思いますよ? 私は。下のとろとろ部分も美味しいことは美味しいですけど……何というか、舌の上に粘つくような感覚が……』
「……はい?」
待て。ちょっと待て。
何だ、この会話は。何、不穏当なこと話してるんだ、こいつら。
思わず、レミリアは体を乗り出してしまう。
『でも、フランはどっちも好き。ふわふわの甘いのも、とろとろの甘いのも。
お口に入れると、溶けていくんだもん』
『ですけど、フランドール様。やっぱり、下のこの部分は邪道だと思うんです。上の柔らかさのプラスがなければ、ここに魅力なんてありませんよ』
『甘いわね、美鈴。やっぱり、下よ、下。見なさい、美味しそうにしたたる、この魅惑の味』
「し、したたる魅力の味っ……!?」
レミリアの頭の中に展開される部屋の光景。
それはもう何というか、色々と放送禁止のものだった。だが、まさか、という意思が働く。まさか、あの咲夜達……はともかくとして、フランドールまでがこんな会話に参加するはずなどないではないか。あんな、無邪気で子供っぽくて天真爛漫な彼女が、こんな、知ってしまったら、最初のうちは色々トラウマになりつつも、次第にそれが素敵に彩られていく過程を知る必要など、まだないのだ。あの子はまだまだ幼いままでいなくてはいけないというのに……!
『この部分を全体に絡めて口にすると、また味が変わって素敵ですよね。フランドール様』
『うん! 最初は、フランも、この下の部分は苦手だったけど、今は大好きだよ。めーりん、好き嫌いは、めっ!』
『す、好き嫌いしているわけじゃありません。私も大好きですよ、そこは。でも……やっぱり、割合的に考えたら、インパクトはあっても上には及ばないんです!』
『ほんと、こういうところにかけては、まだまだねぇ、美鈴。
上よりは下。全てはそこに収束するじゃない』
「し、収束しちゃうの……!?」
何だ、何が起こってるんだ。このドアの向こうでは、どんな魅惑的かつエレガントで、それでいて退廃的な世界が繰り広げられていると言うんだ。
ああ、ダメ、ダメよ、レミリア。見てはダメ、見てはダメなの。この先を見てしまったら、きっとあなたはダメになるわ。だ、だけど……!
「そ、そうよ。わたしはフランの姉だもの。い、妹が大人になっているのなら、それを祝福してあげるのも姉の務めなのよ!」
だから、これはのぞきじゃないわ。決して、いやらしい好奇心はないのよ! ただ、単純に、中がどうなっているかを知りたいという知的好奇心なのよ!
自分に言い聞かせ、ゆっくりと、ドアのノブに手を回す。
『上の甘さは下にはかなわないのよ。ねぇ? フランドール様』
『うん』
『う~……そうかなぁ』
「そーっと、そーっと……ゆっくり、ゆっくり……」
「あら、お嬢様。そんなところで何なさっているんですか?」
「へっ!?」
ちょうど、計ったかのようなタイミングで、横手から声がかけられた。
その拍子に、がちゃっと勢いよくドアが開き、そのまま、レミリアがドアの向こうに倒れ込む。ばたーん、という間抜けな音が響き渡った。
「わっ!?」
「お、お嬢様!? 大丈夫ですか!?」
「うわ……痛そう……。あの、お嬢様、大丈夫ですか~……?」
「うぅ~……いたたた……」
どうやら、しこたま強く顔面を床に打ち付けたらしく、涙目になって起きあがるレミリア。その姿は、何というか、これぞまさに『胸キュン』というかわいらしさだった。思わず、咲夜も足を止めようというものだ。
だが、レミリアには、まだやらなければならないことがある。
咲夜達が駆け寄ってくる気配を感じながら、神速の身のこなしで起きあがると、刹那の間にドアを叩きつけるように閉めて、そして、静かにつぶやく。
「……咲夜」
「は、はい?」
「……美鈴」
「はい?」
「フランのこと……知っていたの?」
「え?」
「何がですか?」
「そう……わたしだけだったのね……知らなかったのは」
「お姉さま?」
「フラン……いいのよ。あなたも、もうそろそろ五百歳だものね。もっともっと、色んな事を知って大人になっていくのだものね。ああ、いいのよ。お姉さまのことは気にしないで」
「……あの」
「お嬢様……?」
わけのわからない独白を始めるレミリアに、咲夜達が『どうするよ?』という雰囲気を漂わせ始める。しかし、それもレミリアは気にかけず、ただ一言、言った。
「……あなたも、大人になっていくのね。ああ、大人なフランドール……。きっと……」
そこで、レミリアは振り返る。
見事、立派な大人になった、我が妹を目に焼き付けるために。伏せていた視線を上げて、そして――。
「……あれ?」
想像していた光景は、そこにはなかった。
咲夜の部屋の中は、基本的に殺風景である。しかし、そこここに置かれたぬいぐるみなどが『女の子』な雰囲気を演出している中、部屋の中央に品のいいテーブルが置かれ、その周りに三人が椅子を出して座っている。
そして、テーブルの上には。
「……えーっと……あの……何してたの?」
「はい。フランドール様が、おやつが食べたいと仰られましたので」
「たまたま、私と咲夜さんが作っていたお菓子を食べてもらってるんです」
「美味しいよー、お姉さまも食べようよー」
にこにこ笑顔のフランドールの手には、銀色のスプーン。小さなお皿の上に載せられているのは。
「……プリン?」
「はい。会心の出来です」
「でも、私は、カラメルソースは少なめにした方がいいって言ったのに」
「何言ってるの。フランドール様にも好評じゃない、その下の部分」
「うー。プリンは、こう、入れ物に入れて、上の部分から食べていくものですよー。ソースの部分は邪道ですよー」
ああ、なるほど。そう、プリンなのね。
そう言えば、プリンって、入れ物に入れるときは上の方――つまり、黄色いところが上になっているわね。あそこってふわふわで甘くて美味しいわね。下の方――つまり、ソース部分は、確かにとろとろのカラメルソースが甘くて美味しいわね。プリン本体と絡まりあって、絶妙な味になるわよね。
「こうやってひっくり返すのは邪道ですよ」
「めーりんも、はい、あーん」
「……あーん」
「お嬢様もいかがですか? おかわりもございますよ」
「あは……あははは……なんだ、プリンだったの……あははははは……」
「……お嬢様?」
「……あのさ、咲夜」
「はい?」
紛らわしい会話するんじゃない! と、一喝したかったのだが。
「……わたしにも一個ちょうだい」
「かしこまりました」
そう言う内容を想像してしまう自分の頭の中を、信頼するもの達に知られてしまうのは嫌だったので、レミリアは適当な返事でお茶を濁したのだった。
と言うか、これも普段のわたしの節制ぶりがよくないのよ。よけいなことを考えてしまうのは、そういうのに必要なものを控えているせいだわ。よし決めた、今夜は存分に楽しもう。何するかって? 決まってるじゃないの。
「ふふ……うふふ……」
「お……お嬢様……?」
「お姉さま、何か怖いー……」
「……あの~」
「うふふふふふふふふふふふふ」
後に、フランドールは述懐す。
お姉さま、プリン嫌いなんだね、と。
君とは永遠に解り敢え無そうだ
意味不明ですね(ぺこり
え? よからぬこと? はっはっは、何を馬鹿な。 ノ
あぁ何故かやめられない。
やっぱり上がカラメルだと思うんだ。
良い子は真似しないように。
でもここに居る人たちは色んな意味で大人だから真似していいかも!
ところで咲夜さん、伝説のバケツプリンは作らないのですか?
私もぐい井戸氏同様どっちの食べ方もしますねぇ。
でもやっぱり二見氏に賛成して上がカラメルだと思うんだ。
でもひっくり返さなくてもさくっと一気に根元まで突き刺せばとろとろの汁が溢れてきません? もちろん性的な意味d(スカデビ
最近はクリーム派です。
フランちゃんに萌えた。
レミリア様…エロイよw