あなたは、まだ生きていますか？
生きているなら重畳。
死んでいるならご愁傷さま。
「死にたい……生きていても仕方がない……」
あらあら、それはいけない。
生きているのに死にたいの？
確かにあなたの命はあなたのもの
どう使おうと、誰も口は挟めやしない。
だ け ど
どうせ一度しかない命。
どうせなら、もう少し有効に使ってみませんか？
例えば巫女。
救いを求める者に神の言葉を伝え、心安らかに
例えば魔法使い
星と恋を司り、思い悩む乙女たちに正しき道を
そして、そうでないのなら
こんなのは、どうでしょう？
「これは、食べていいもの？」
答えない。
「食べちゃ駄目？」
答えない。
「ちょっとだけなら、いいかな？」
答えない。
「ちょっとだけなら、いいよね？」
答えられない。
少女はそっと齧りつく。
こりこりと
ぷちぷちと
少女はそっと齧りつく。
くちくちと
ぴちゃぴちゃと
「あ」
ぷちんぷちん
「あれ？」
べきんぼきん
「どうしよう」
ごくごく
「止められないや」
ぶき、ばき、くし、ぶち、めちゃ、ぽき、ぷち、くちゃ、どす、がり、こり、ぺき
ぶち、ぷちぷち、どひゅ、ざき、ぺきぽきぱきぶしぷちぷちがちくちぶしぺき……
…………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………………ぺき
少女の黒い服は真っ赤に染まり、されど黒は赤など容易く飲み干して
ほぅっと輝く白い頬は真っ赤に染まり、されどその輝きは曇る事なく
金色に輝く肩までの髪も真っ赤に染まり、されどリボンの赤には劣り
だから少女は、いつも通り
昨日も、今日も、明後日も
何一つ変わらない。変わりはしない。
ただ、明日だけが異なる。
ただ、明日だけが異なってる。
「あー、ちょっとだけのつもりだったのになぁ」
答えない。
答えない。
答える事ができない。
もう咽喉がないから
もう心臓がないから
もう脳髄がないから
「ごめんね」
少女はぺこりと頭を下げる。
「死んじゃうとは思わなかったんだよ」
ぺろっと舌を出し、照れくさそうに微笑みながら。
良かったですね。
あなたはちゃんと役に立ちましたよ？
きっと明日には、
巫女と魔法使いがやってきて
この悪戯っ子を懲らしめてくれるでしょう。
あなたは、あの娘の栄養として、
あなたは、運命を引き寄せる灯火として、
立派に役に立ちましたよ？
「首尾は上々？」
「えぇ、予定通りですわ」
これで、お嬢様とあの二人を紡ぐ糸が
交わる縁が出来ましたわ。
「さて、それじゃこの事を忘れましょうか？」
「そうですね。そして明日に備えて早めに休みましょう」
「楽しみね」
「楽しみですね」
さて、明日は忙しい。
二人のお客様をお迎えしなければ。
おっと、私とした事が
お客様に失礼のないように―――
ナイフを研いでおかなくちゃ、ね。
～To be continued 『東方紅魔郷』～
人の命って、とことん軽いねー。