「霊夢」
「何よ」
「私はお前が大好物だぜ」
「……はぁ?」
がさがさ。
互いの声以外には、箒を動かす音しか聞こえない、博麗神社の境内。
春だというのに寂しげな静寂が場を支配していたのは、夕方だからか。
境内の掃除をしていた霊夢は、突然ずかずかとやってきた魔理沙の唐突な言葉に、呆気に取られた。
『大好き』ならまだ納得がいく。
『大好物』って何だ。
「……参考までに聞くけど、どこが?」
「乳」
「具体的部位を即答すなッ!」
すぱこーんっ
軽快で小気味の良い音が、昼以上に響き渡る。
箒の柄に対し魔理沙の頭は実に良い楽器となった。
「何よ乳って……いきなり不気味な奴ね」
が、魔理沙はすぐに引っぱたかれた頭を上げ、露骨なまでに高笑い。
「はっはっはー。こういうところは鈍いんだな霊夢」
「…………何が……、――はッ!」
「ようやく気付いたか」
霊夢には心当たりがあった。
今の自分は成長期で、ご飯もちゃんと食べているというのに、一向に胸が成長しないのだ。
「さては、あんたの仕業か!?」
「そうさ、お前の胸にいく筈だった脂肪を私の魔術で奪い取っているのさー!
いやあ霊夢の乳肉はさっぱりまったりこってりしていて実においしいなあ」
「こ、この……!」
「おっと、やめろったって聞かないぜ。あーんなうまいもの、食わずにいられるかってんだ」
「よくも! 出てけー!!」
札や針や座布団が飛び交う中、魔理沙は慌てて逃げ去っていった。
博麗神社の少し上空。
「……ねー、そんな魔術ってあるの?」
「知らないわねぇ」
空に生じたスキマの中から、紫と幽々子が二人の様子を覗き見ていた。
理由はというと大したことではない。
もうすぐ日が暮れるし、ちょうど手元にいい酒があるから、ちょっと早い晩酌でもどうだと誘うつもりでスキマから
顔を出したのだ。
が、その霊夢が急にやってきた魔理沙の応対をしていたので、急遽観察モードに入ったのである。
「じゃあどうして魔理沙はあんなこと言ったのかしら?」
「あの子なりの優しさなんじゃないかしら。霊夢は最近、胸のこと気にしてたから」
「本当に? そんな素振り見せてた?」
「幽々子ったら、ニブチンさんなんだから」
「むう……」
「ふふ」
紫がくすりと笑った。
幽々子もちょっと微笑んだ。
「まあでも、私達にはわからない話よねぇ」
「そうねぇ」
空のどこかで、カラスがカーと鳴いた。
小さいのは未来へと繋がる浪漫がありますです。はい。
霊夢の胸囲かえしてー
かえしてー
かえしてくださいー