@注意・微グロアリ升 アリマリデス
表
(アリス)
膝の上。幸せそうに眠る魔理沙の頭を、アリスはゆっくりと撫でる。
金の髪に手を入れてすすく。さらさらと流れ落ちる髪を、アリスは好きだった。
魔理沙の全てが好きだった。彼女の姿も、仕草も、生き方も。
こうして、今彼女といることは、何よりも幸せだった。
「ねぇ魔理沙。楽しかったわよね」
眠る魔理沙に語りかける。返事は期待しない。
彼女が起きていれば、こんなことは恥ずかしくて言えなかった。
「何度も弾幕ごっこをしたわ。私、いつも勝てなかったけど、あなたと遊ぶのは楽しかった。
一緒に月を捜しにいったの覚えてる? 私、魔理沙魔理沙って言ってばかりだったね。
本当は、貴方のこと、頼りにしてたのよ。」
髪を撫でる手が、頬へとのびる。
紅色のひかれた魔理沙の唇を、アリスは見つめる。
言葉は、それ以上、出てこなかった。
ただ無言のまま、その唇に吸い寄せられるように、アリスは動いた――
――唇は柔らかく。
甘い、魔理沙の味がした。
アリスは考えてみる。
いつからこうなのかを。
いつからこうなったのかを。
きっかけを思い出すことすらできない。
きっかけかあったかどうかすら定かではない。
いつも、そこに魔理沙がいた。
そこにいるのが当然だった。そこにいないことはなかった。
まるで常に付き添う半霊のように、魔理沙はそこにいた。
そして、アリスもまた、魔理沙のそばにいた。
味方として。
敵として。
友人として。
相棒として。
そして――恋人として。
アリスのそばに魔理沙はいた。
魔理沙のそばにアリスはいた。
味方でも敵でも友人でも相棒でも恋人でもない――かけがえのない存在として。
二人は、つねに一緒だった。
離れるだなんて、思ってもいなかった。
離れるだなんて、考えもしなかった。
――たとえ死が訪れたとしても。
魔理沙は誓う。
――二人を別つことはできない。
アリスも誓う。
そういうことが、昔にあった。
そして――
――それは、今。
二人の間で、確かに守られている。
◆ ◆ ◆
裏
(霖之助)
ザッ、という足音とともに、男が現れる。香霖堂店主、森近 霖之助だ。
彼がそこに来るのは珍しい。
霖之助は、ここ『数十年』ここには現れなかった。
ここ――魔理沙の家には。
魔理沙の家の前。
木に背を添えるようにして座る二人の少女を――二人の少女だったものを――霖之助は見る。
ソレを見ても、眉一つ変えない。
ため息をはくことも侮蔑の目で見ることもなく、ソレらを見つめた。
「今さら何しにきたの?」
アリスの冷ややかな問い。悪意すら感じさせる。敵意をはらむ声。
その声に、霖之助は冷ややかに答える。
悪意も敵意も感じさせない、感情のない声で。
淡々と事実を言うように、霖之助は言う。
「――ソレ。埋めないのかい?」
ソレ。もう、霖之助は、魔理沙を人扱いしていなかった。
アリスはそれが悔しかった。
――魔理沙は、ここにいる。ここに、ちゃんといるのに。
それはしかし、アリスにしか分からない論理だ。
彼女の論理。
彼女の倫理。
彼女の理論。
彼女の世界。
それはもう破綻していると、霖之助は思う。
けれども、同時に。
破綻しても――破綻したからこそ、彼女の世界は幸せなのだと、霖之助は思うのだ。
「魔理沙はここにいるわ」
魔理沙だったものを抱き寄せるアリス。
その様子を霖之助はじっと見詰める。
魔理沙だったものを、じっと見つめる。
見つめて、言う。
「金の髪は抜け落ちて。頬はこけて、肉は無くなり。枯れた唇には、君の血が塗られている。
それはもう、かすかに肉がついた骨だ。
それはもう、人ではない。人だったものだ。
それはもう、霧雨 魔理沙という少女ではない。
それはもう――君の幻想だ」
そこにいるのは――そこにあるのは、ただの死骸だった。
霖之助の言うとおりの、ただの死骸を、アリスは愛しそうに抱きしめている。
不自然に赤い紅が、魔理沙だったものと、アリスについている。
血のキス。
血の味のキス。
死の味のキス。
けれど。
アリスの目には、そこに、魔理沙が『いる』のだ。
いつまでも変わらない、美しく、流れ星のような、少女が。
魔理沙のキスの感触を、アリスは、たしかに感じていたのだ。
霖之助の指摘に、アリスは、微笑んでこたえる。
その顔は――
「ええ、幻想よ。それでも彼女はここにいるわ」
――心のそこから、幸せそうだった。
終わらない。終われない。終わりはない。
永遠に続く。
アリスの中で少女は永遠となる。
魔理沙の中で少女は永遠となる。
傷だらけの永遠は、終わらない。
表
(アリス)
膝の上。幸せそうに眠る魔理沙の頭を、アリスはゆっくりと撫でる。
金の髪に手を入れてすすく。さらさらと流れ落ちる髪を、アリスは好きだった。
魔理沙の全てが好きだった。彼女の姿も、仕草も、生き方も。
こうして、今彼女といることは、何よりも幸せだった。
「ねぇ魔理沙。楽しかったわよね」
眠る魔理沙に語りかける。返事は期待しない。
彼女が起きていれば、こんなことは恥ずかしくて言えなかった。
「何度も弾幕ごっこをしたわ。私、いつも勝てなかったけど、あなたと遊ぶのは楽しかった。
一緒に月を捜しにいったの覚えてる? 私、魔理沙魔理沙って言ってばかりだったね。
本当は、貴方のこと、頼りにしてたのよ。」
髪を撫でる手が、頬へとのびる。
紅色のひかれた魔理沙の唇を、アリスは見つめる。
言葉は、それ以上、出てこなかった。
ただ無言のまま、その唇に吸い寄せられるように、アリスは動いた――
――唇は柔らかく。
甘い、魔理沙の味がした。
アリスは考えてみる。
いつからこうなのかを。
いつからこうなったのかを。
きっかけを思い出すことすらできない。
きっかけかあったかどうかすら定かではない。
いつも、そこに魔理沙がいた。
そこにいるのが当然だった。そこにいないことはなかった。
まるで常に付き添う半霊のように、魔理沙はそこにいた。
そして、アリスもまた、魔理沙のそばにいた。
味方として。
敵として。
友人として。
相棒として。
そして――恋人として。
アリスのそばに魔理沙はいた。
魔理沙のそばにアリスはいた。
味方でも敵でも友人でも相棒でも恋人でもない――かけがえのない存在として。
二人は、つねに一緒だった。
離れるだなんて、思ってもいなかった。
離れるだなんて、考えもしなかった。
――たとえ死が訪れたとしても。
魔理沙は誓う。
――二人を別つことはできない。
アリスも誓う。
そういうことが、昔にあった。
そして――
――それは、今。
二人の間で、確かに守られている。
◆ ◆ ◆
裏
(霖之助)
ザッ、という足音とともに、男が現れる。香霖堂店主、森近 霖之助だ。
彼がそこに来るのは珍しい。
霖之助は、ここ『数十年』ここには現れなかった。
ここ――魔理沙の家には。
魔理沙の家の前。
木に背を添えるようにして座る二人の少女を――二人の少女だったものを――霖之助は見る。
ソレを見ても、眉一つ変えない。
ため息をはくことも侮蔑の目で見ることもなく、ソレらを見つめた。
「今さら何しにきたの?」
アリスの冷ややかな問い。悪意すら感じさせる。敵意をはらむ声。
その声に、霖之助は冷ややかに答える。
悪意も敵意も感じさせない、感情のない声で。
淡々と事実を言うように、霖之助は言う。
「――ソレ。埋めないのかい?」
ソレ。もう、霖之助は、魔理沙を人扱いしていなかった。
アリスはそれが悔しかった。
――魔理沙は、ここにいる。ここに、ちゃんといるのに。
それはしかし、アリスにしか分からない論理だ。
彼女の論理。
彼女の倫理。
彼女の理論。
彼女の世界。
それはもう破綻していると、霖之助は思う。
けれども、同時に。
破綻しても――破綻したからこそ、彼女の世界は幸せなのだと、霖之助は思うのだ。
「魔理沙はここにいるわ」
魔理沙だったものを抱き寄せるアリス。
その様子を霖之助はじっと見詰める。
魔理沙だったものを、じっと見つめる。
見つめて、言う。
「金の髪は抜け落ちて。頬はこけて、肉は無くなり。枯れた唇には、君の血が塗られている。
それはもう、かすかに肉がついた骨だ。
それはもう、人ではない。人だったものだ。
それはもう、霧雨 魔理沙という少女ではない。
それはもう――君の幻想だ」
そこにいるのは――そこにあるのは、ただの死骸だった。
霖之助の言うとおりの、ただの死骸を、アリスは愛しそうに抱きしめている。
不自然に赤い紅が、魔理沙だったものと、アリスについている。
血のキス。
血の味のキス。
死の味のキス。
けれど。
アリスの目には、そこに、魔理沙が『いる』のだ。
いつまでも変わらない、美しく、流れ星のような、少女が。
魔理沙のキスの感触を、アリスは、たしかに感じていたのだ。
霖之助の指摘に、アリスは、微笑んでこたえる。
その顔は――
「ええ、幻想よ。それでも彼女はここにいるわ」
――心のそこから、幸せそうだった。
終わらない。終われない。終わりはない。
永遠に続く。
アリスの中で少女は永遠となる。
魔理沙の中で少女は永遠となる。
傷だらけの永遠は、終わらない。
如何し様も無い、彼女を保つのは彼女の存在のみ