それは、或る寝苦しい夜の事だった。
霊夢は夜中に意識を半分だけ覚醒させた。もしかしたら夢だったのかもしれないし、寝ぼけているだけかもしれない。
体を起こそうとして、それに失敗する。腹部に鈍い痛みがあったかだら。目は辛うじて開いているようだが、本当に開いているのかどうか定かではない。手足も動いてはくれなかった。
視界がぼやけているのは、蚊を通さないための蚊帳の為か、それとも自分の目が鈍っているからなのか。どちらにしろ、この視界に映る世界は霊夢にとって到底気に入るものではない。
状況を理解しようとしたが、それもやめた。体が動く動かない以前に、思考を巡らすのも首を動かすのも億劫で仕方が無かった。
寝ているのか起きているのかも分からない世界で、霊夢は再び意識を途絶させようと勤めるが、今度は腹部の違和感にそれも許されなかった。腹の中をゆっくりかき混ぜられるような違和感が意識を覚醒にも沈黙にも持っていかせない。酷く不愉快だ。
蚊帳。そう、蚊帳だ。何故蚊帳が垂れているのか。季節は夏だったか、そんな事も思い出せない。霊夢に蚊帳を垂らした憶えは無かった。
第一、蚊帳を垂らすような季節ならばそれこそ蝉の音の一つも聞こえなければおかしい。今は静寂そのものである。僅かに体に寒気がするのも、霊夢が知る季節を否定している。
ぐぢり、下腹部から音が染みた。酷く不快で不可解だ。
蚊帳の網目が段々と解けて行く。少しずつ覚醒する意識の中で、霊夢は理解する。今の季節は秋、もうすぐ秋も終わり、冬にさしかかろうとしている頃。寒気を憶えたのもその為だ。
手足に感覚が戻り、布団をかけていない事に気がつく。多少寝苦しくもあるので下着だけで寝ているが、だからと言って終秋に布団をかけぬ事はない。そうであれば、寒さで寝れないだろう。体がまだ動かないのは、起きる意識に体が付いていかない為か。
嗚呼然し、何故こんなにも腹が気持ち悪いのだろう。
体を動かすのは酷く億劫だ。億劫だが、この不快感の中、霊夢は寝ている自信が無い。寝返りを打つのも面倒だ。仕方無しに、一番面倒でない首を少しだけ起こすと言う動作を選んだ。頭は予想以上に重く、倦怠感が全身を襲う。
まだぼやけている視界に、二人の姿が映る。両者に羽が生え、片方は蝙蝠のような、もう片方は形容のし難い七枚の羽を背負って。犬歯はまるで牙のように長く、瞳は紅に染まっている。何と出来の悪い冗談か、この姿は――悪魔の様ではないか。
「ちゅーか、悪魔だし」
「あ、霊夢が起きたよ、お姉様」
「あぁ、予想より早かったねぇ」
「あんたら、こんな時間に何やってんのよ」
完全に目が覚めた霊夢は、面倒臭そうに言った。目が覚めた瞬間にだれる。
あー、めんどい。
「あのね、お姉様と一緒にぐりぐりやってるの。ぐりぐり」
「ぐりぐりー」
「答えになってねーよ」
良いながら、視線を腹部に移す。レミリアとフランドールの指先は、何故か霊夢の臍を抉っていた。
「寝苦しかったのはあんたらのせいか」
「ちょっと臍をいじってただけで寝苦しいのまで私達のせいなんて、失礼ね。ねー、フラン?」
「ねー」
「ぶっ飛ばすぞお前達」
口汚く霊夢が言う。凄みはするものの、悪魔どもは全く堪えていない。
寝ている時に臍を弄られれば、誰だって起きる。
「こんな夜中に尋ねてきて、ちったぁ人の迷惑考えてよ」
「何言ってんの、こんな夜中に何で起きてないのよ」
「俺様ルールはやめい。第一、なんであんたら私に何やってんのよ」
「霊夢の脇に飽きたから、次は臍にしたのよ」
「脇か臍かを聞いてんじゃねぇよ」
霊夢とレミリアが会話している間も、フランドールは霊夢の臍を弄る。ドリルのように、ぐりぐり。
「あんたもいい加減止めろよ」
「霊夢ぅ、もっとちゃんとお臍掃除しなきゃダメだよ」
霊夢の臍から指を戻したフランドールが、自分の指先を見る。臍の胡麻でも見つけたのだろう。
「はいはいそうだね掃除だね。じゃあ帰れ」
「えい」
「戻すな!」
怒鳴る霊夢に、フランドールはけたけたと笑う。
「ええぃ、この真性サドっ娘悪魔め」
「ねぇ見てフラン。私霊夢と臍で繋がったわよ? やったわ、これで霊夢のお母さんね」
「じゃあ私も霊夢のお母さんになろうっと」
「聞けよ。私の話聞けよ」
「霊夢、お母さんって呼んで良いわよ」
「言わねーよ聞けよ」
流石は悪魔だ。他人の都合なんのその。
「けど私は霊夢のお母さんの前にお姉様の妹なのー」
「まぁ、フラン。可愛い事を言うわね」
「別に美しくないからね? っていうか今この状況でやられても腹立つだけだからね?」
言う霊夢をきょとんと見つめる悪魔二人。暫らく霊夢を見て、そしてまた暫らく二人で見詰め合う。何かを示し合わせて、そして霊夢を見ると同時に手を伸ばした。
「ぐりぐり」
「ぐりぐりー」
「止めろって言ってんのよ馬鹿たれ!」
霊夢は掴んだお払い棒で、二人の脳天を叩き割った。
そんな美しくも儚い幻想の世界の桃源郷の話。
霊夢は夜中に意識を半分だけ覚醒させた。もしかしたら夢だったのかもしれないし、寝ぼけているだけかもしれない。
体を起こそうとして、それに失敗する。腹部に鈍い痛みがあったかだら。目は辛うじて開いているようだが、本当に開いているのかどうか定かではない。手足も動いてはくれなかった。
視界がぼやけているのは、蚊を通さないための蚊帳の為か、それとも自分の目が鈍っているからなのか。どちらにしろ、この視界に映る世界は霊夢にとって到底気に入るものではない。
状況を理解しようとしたが、それもやめた。体が動く動かない以前に、思考を巡らすのも首を動かすのも億劫で仕方が無かった。
寝ているのか起きているのかも分からない世界で、霊夢は再び意識を途絶させようと勤めるが、今度は腹部の違和感にそれも許されなかった。腹の中をゆっくりかき混ぜられるような違和感が意識を覚醒にも沈黙にも持っていかせない。酷く不愉快だ。
蚊帳。そう、蚊帳だ。何故蚊帳が垂れているのか。季節は夏だったか、そんな事も思い出せない。霊夢に蚊帳を垂らした憶えは無かった。
第一、蚊帳を垂らすような季節ならばそれこそ蝉の音の一つも聞こえなければおかしい。今は静寂そのものである。僅かに体に寒気がするのも、霊夢が知る季節を否定している。
ぐぢり、下腹部から音が染みた。酷く不快で不可解だ。
蚊帳の網目が段々と解けて行く。少しずつ覚醒する意識の中で、霊夢は理解する。今の季節は秋、もうすぐ秋も終わり、冬にさしかかろうとしている頃。寒気を憶えたのもその為だ。
手足に感覚が戻り、布団をかけていない事に気がつく。多少寝苦しくもあるので下着だけで寝ているが、だからと言って終秋に布団をかけぬ事はない。そうであれば、寒さで寝れないだろう。体がまだ動かないのは、起きる意識に体が付いていかない為か。
嗚呼然し、何故こんなにも腹が気持ち悪いのだろう。
体を動かすのは酷く億劫だ。億劫だが、この不快感の中、霊夢は寝ている自信が無い。寝返りを打つのも面倒だ。仕方無しに、一番面倒でない首を少しだけ起こすと言う動作を選んだ。頭は予想以上に重く、倦怠感が全身を襲う。
まだぼやけている視界に、二人の姿が映る。両者に羽が生え、片方は蝙蝠のような、もう片方は形容のし難い七枚の羽を背負って。犬歯はまるで牙のように長く、瞳は紅に染まっている。何と出来の悪い冗談か、この姿は――悪魔の様ではないか。
「ちゅーか、悪魔だし」
「あ、霊夢が起きたよ、お姉様」
「あぁ、予想より早かったねぇ」
「あんたら、こんな時間に何やってんのよ」
完全に目が覚めた霊夢は、面倒臭そうに言った。目が覚めた瞬間にだれる。
あー、めんどい。
「あのね、お姉様と一緒にぐりぐりやってるの。ぐりぐり」
「ぐりぐりー」
「答えになってねーよ」
良いながら、視線を腹部に移す。レミリアとフランドールの指先は、何故か霊夢の臍を抉っていた。
「寝苦しかったのはあんたらのせいか」
「ちょっと臍をいじってただけで寝苦しいのまで私達のせいなんて、失礼ね。ねー、フラン?」
「ねー」
「ぶっ飛ばすぞお前達」
口汚く霊夢が言う。凄みはするものの、悪魔どもは全く堪えていない。
寝ている時に臍を弄られれば、誰だって起きる。
「こんな夜中に尋ねてきて、ちったぁ人の迷惑考えてよ」
「何言ってんの、こんな夜中に何で起きてないのよ」
「俺様ルールはやめい。第一、なんであんたら私に何やってんのよ」
「霊夢の脇に飽きたから、次は臍にしたのよ」
「脇か臍かを聞いてんじゃねぇよ」
霊夢とレミリアが会話している間も、フランドールは霊夢の臍を弄る。ドリルのように、ぐりぐり。
「あんたもいい加減止めろよ」
「霊夢ぅ、もっとちゃんとお臍掃除しなきゃダメだよ」
霊夢の臍から指を戻したフランドールが、自分の指先を見る。臍の胡麻でも見つけたのだろう。
「はいはいそうだね掃除だね。じゃあ帰れ」
「えい」
「戻すな!」
怒鳴る霊夢に、フランドールはけたけたと笑う。
「ええぃ、この真性サドっ娘悪魔め」
「ねぇ見てフラン。私霊夢と臍で繋がったわよ? やったわ、これで霊夢のお母さんね」
「じゃあ私も霊夢のお母さんになろうっと」
「聞けよ。私の話聞けよ」
「霊夢、お母さんって呼んで良いわよ」
「言わねーよ聞けよ」
流石は悪魔だ。他人の都合なんのその。
「けど私は霊夢のお母さんの前にお姉様の妹なのー」
「まぁ、フラン。可愛い事を言うわね」
「別に美しくないからね? っていうか今この状況でやられても腹立つだけだからね?」
言う霊夢をきょとんと見つめる悪魔二人。暫らく霊夢を見て、そしてまた暫らく二人で見詰め合う。何かを示し合わせて、そして霊夢を見ると同時に手を伸ばした。
「ぐりぐり」
「ぐりぐりー」
「止めろって言ってんのよ馬鹿たれ!」
霊夢は掴んだお払い棒で、二人の脳天を叩き割った。
そんな美しくも儚い幻想の世界の桃源郷の話。
これぞ幻想郷三大絶対領域
つまり姉妹は翌日霊夢のすかとr(殺
霊夢、臍掃除はしようぜ!