・東方創想話作品集その26に投稿しました「バレンタインの夜に」に関連するお話です。
・ですが特にどちらが先と言う事もありませんので読んでいなくても大丈夫だとは思います。
彼方に臨む事の出来るビル街の黒い影に沈み行く夕陽によって、橙色に染まる公園がある。
住宅街の真ん中にある、広い公園だ。
つい先ほどまであったのは少し離れたところにある国道を走る車の音を掻き消すほどにはしゃぐ子供の声。
今はそれも消え、漆黒の空を迎える時間が近づいている事を感じさせる。
冬とはいえ、昼の太陽に温度を上昇させられて半端に暖かくなり、手をつける気もしなかった滑り台の表面。
しかし沈み行く太陽と共に温度を下げ始めたそれは、座ると気持ちよくすらある冷ややかさになっていた。
そして、子供という主を失ったその滑り台に座るメリーは深い溜息をついた。
――畜生。
思う。女の子が使うにはちと汚い言葉なので声には出さず、思うに留める。
メリーは待ち合わせをして待つのは別に嫌ではない。
けれど、毎度のように待たされるのは嫌だ。
その、毎度のようにメリーを待たせる蓮子の遅刻時間は平均して7分と言ったところ。
最長は12分24秒で、その更新はここ半年近く途絶えている。
たまには、蓮子を待たせてみようと思った。
そこで10分ほど遅れて来てみたのだが、その2分30秒後には蓮子は遅刻記録を更新。
この時点でお仕置きが確定、必殺ハーンパンチは準備済みである。
メリーでもなければマエリベリーでもなく、ハーンである事がポイント。
気分的にいつもと違うと強くなれる気がするから。
「おーそーいー」
パシッ、パシッ、と携帯電話を手の上で遊ばせながら、呟いた。
メリーが公園に来てからの15分、空の色はすっかり移り変わろうとしているというのに。
「メリーごめん! 遅れた!」
きたこれ。そしてんな事はわかってる。
実に24分02秒の遅刻。今までの記録を大きく引き離し、2倍近くでの更新達成となった。
すっ、と。
メリーは立ち上がって蓮子に近づく。
「蓮子」
「な、なに?」
いつもとは違う空気に、若干気圧される。
これはヤバイ。何だか知らないがヤバイと思う。
今のメリーを例えるなら黒いオーラを纏った妖精。
黒い服を着たペタツンデレ妖精も世にはいるが親戚でもなければ糸一本の繋がりもない事は断言しておく。
次の瞬間に、蓮子の両頬に衝撃が走った。
ぺちっ、と。
全く痛くない、それどころか可愛らしくすら思える。
どうせならその手を掴んでそのまま押し倒したくなるぐらいの叩き方。
「いっつもいっつも待たせて……」
メリーの大きな瞳に、確かに浮かぶ涙。
――な、泣くのかしらー!?
どこぞの動く人形の口調のようなリズムを脳内に響かせる蓮子。
何故だ、何故泣く。怒るのではないのか。
動揺レベルMAX。だがそれだけで止まってはダメだ。
出来る限りの思考を展開、CPUは無事か、ファンを回せ。
「たまには……ちゃんと、ひっく、来て、よ」
「あ、メリー、その、私」
ドン、と。
蓮子の腹に衝撃が走った。
今度は重い。重すぎて何かを潰すどころか、ブラックホールのように周りのものを吸い込んでしまうのではないかと錯覚させる重さだ。
そもそも重いの意味が違ってくるのだが、まぁ蓮子にとってそんな錯覚を起こしたくなるほど痛かったという事である。
いつも突っ込まれるときならば蓮子が確実にとる防御姿勢を、しかしメリーは目薬というアイテムによって見事封じてみせた。
本日、蓮子の遅刻の代償は。
膝を地に着けた時に頭から滑り落ちて風によって砂場まで飛ばされ、帽子が砂まみれになった事と、奢る事になった缶コーヒー代120円。
及び、メリーに見られた白ぱんちゅ。 である。
*
「えー、では。今日呼び出しを行った理由を説明いたします。ズバリ、明日の活動について」
「あぁ、……やっぱりなのね」
日は完全に沈んだというのに顔を仄かに赤く染めた蓮子が、咳払いひとつのあとでそんな事を言う。
それに反応するメリーはというと半ば諦めを含んだ、けれど内心期待しているような表情だ。
そんなメリーを見ながら蓮子はふふん、と程よい大きさの胸を張り、スペアの帽子を被り、
「明日探しに行く結界は、あっちの山にある神社よ!」
「……は?」
ビル街とは正反対に位置する山。
そこを指差した蓮子に対しメリーは、お前は何を言っているんだ(画像略)と言わんばかりに声を向ける。
街頭が照らす蓮子の横顔は無駄に清々しくて、かえってメリーの不安を助長させた。
「蓮子」
「何かしら、メリー」
「私の記憶が正しければ、あの山にある神社は年末年始や何かしらの行事の際に、人でごった返すような神社だったと思うのだけれど」
「そうね、今年のお正月2人で初詣に行ったわ。メリーなんて、人ごみの中で痴漢に胸を触られたものね」
「まぁ犯人は蓮子だったんだけどね。触っただけじゃなく揉まれたような気もしたけどそれは置いといて。……そんな所に結界があると、大変じゃない?」
……詣でなどに訪れた人々が結界に入り込み、行方不明になる。
普通は結界の境目など見えないが、否、見えないからこそ何かの拍子に迷い込むと戻って来れない可能性は高いだろう。
だが、あの神社周辺でそういう事があったなどという話をメリーは聞いたことはない。
……まぁ、聞いた事がないだけで行方不明になった人がいる可能性も、いなくとも結界が存在している可能性も、なくはないだろうが。
「うーん、でも私が手に入れた情報と、写真によるとあそこで間違いないのよ。うん、間違いない」
「……まぁ、そこまで言うのなら信用してみるけど。一応、写真見せて?」
「ん、ちょっと待ってね」
そう言い、蓮子は鞄を漁り出す。
がさがさ。がさがさ。
「あれー? これは……帽子のスペアか」
家に2桁あったのは確認済みだったけどもいくつ持ち歩いているのか、とメリーは思う。
というか大学で使うものが入っているのに、さらに2個も3個もスペアの帽子が入るような大きさの鞄には見えない。
そんな事を思って訝しげな視線を向けるメリーなど意に介さず、蓮子は鞄の中の探索を続ける。
「これ……は、教授のヅラ着用シーンの写真……」
「何でそんなものが」
「まぁ、秘封倶楽部存続のために必要なのよ」
活動内容だけじゃなくて存在自体も危ない橋を渡っていたらしい、秘封倶楽部は。
「……メリーの着替えシーン隠し撮り写真か。まったく、羨ましいくらいいい胸ね。85のDってとこか」
「ちょ! なにそれちょっと待って蓮子!」
「なにめりー?」
「ぼ、棒読み!? まさかそれ……」
「大丈夫よぉ。売ったりしてないから。個人観賞用」
「それでもダメー!」
メリーは絶叫と共に、親指をたててウインクした蓮子から物凄い勢いで写真を奪い取って、破り捨てる。
ハァハァと息を荒くし、蓮子を睨みつけ、
「デジカメ万歳」
視界に映ったのは蓮子の笑顔と、細く白い中指と人差し指に挟まれたSDカード。
この様子ではバックアップも完璧なのだろうと、諦めた。
*
足元のアスファルトが街灯に照らされ、メリーはふとそれを綺麗に感じてしまう。
目を凝らせばゴツゴツしている感じで、硬くて、黒くて、そんなにいいものではないのだろうけど。
一瞬視界に映るだけなら、この世界のものはどれもこれも美しく思えるのだろうかと思考し、苦笑。
そんな事は、きっとないから。
結局、写真は見つからなかった。
蓮子が直接カメラにおさめたものではなく、どこからか入手したものなのでデジカメに入っているなんて事もない。
「にしても、写真があるならちゃんとそれを持って来て欲しいわね」
「まーまー、メリー。絶対に本物だから、私が保証するわ」
「……もうそれでもいいけど」
見上げた空は人工の光に照らされ、星はポツポツとしか見えない。
けれど、今日は空気が澄んでいるのだろうか、霞んではいなかった。
星は少なくとも、少し欠けた月は美しく輝いている。
「ま、何か空も綺麗だし、明日は晴れそうだし、構わないか」
「そうね……でもね、メリー」
「なぁに、蓮子」
「……ううん、何でもない」
数歩駆けて振り向いた蓮子の笑顔が、姿が、街灯の白い光に照らされて。
メリーは思う。
何となく、明日は。
――いい日に、なりそう。
*
明日が良くとも曇りで、恐らく雨が降り出すであろう事を、蓮子は知っている。
もしもメリーが予報を見ずに傘を持ってこなかったら、相合傘だろうか。
それもいいと思う。そうだ、どうせそうなるならちっちゃなちっちゃな折り畳み傘で、目一杯肩を寄せて、なんて。
帰ったら……大切な大切な親友に贈るチョコを仕上げよう。
夢中になり過ぎていつもよりずっと遅れてしまったくらい気合を入れて作り始めたもの。
きっとメリーは喜んでくれる。
蓮子は思う。
明日は多分、雨だけれど。
――絶対に、いい日になる。
・ですが特にどちらが先と言う事もありませんので読んでいなくても大丈夫だとは思います。
彼方に臨む事の出来るビル街の黒い影に沈み行く夕陽によって、橙色に染まる公園がある。
住宅街の真ん中にある、広い公園だ。
つい先ほどまであったのは少し離れたところにある国道を走る車の音を掻き消すほどにはしゃぐ子供の声。
今はそれも消え、漆黒の空を迎える時間が近づいている事を感じさせる。
冬とはいえ、昼の太陽に温度を上昇させられて半端に暖かくなり、手をつける気もしなかった滑り台の表面。
しかし沈み行く太陽と共に温度を下げ始めたそれは、座ると気持ちよくすらある冷ややかさになっていた。
そして、子供という主を失ったその滑り台に座るメリーは深い溜息をついた。
――畜生。
思う。女の子が使うにはちと汚い言葉なので声には出さず、思うに留める。
メリーは待ち合わせをして待つのは別に嫌ではない。
けれど、毎度のように待たされるのは嫌だ。
その、毎度のようにメリーを待たせる蓮子の遅刻時間は平均して7分と言ったところ。
最長は12分24秒で、その更新はここ半年近く途絶えている。
たまには、蓮子を待たせてみようと思った。
そこで10分ほど遅れて来てみたのだが、その2分30秒後には蓮子は遅刻記録を更新。
この時点でお仕置きが確定、必殺ハーンパンチは準備済みである。
メリーでもなければマエリベリーでもなく、ハーンである事がポイント。
気分的にいつもと違うと強くなれる気がするから。
「おーそーいー」
パシッ、パシッ、と携帯電話を手の上で遊ばせながら、呟いた。
メリーが公園に来てからの15分、空の色はすっかり移り変わろうとしているというのに。
「メリーごめん! 遅れた!」
きたこれ。そしてんな事はわかってる。
実に24分02秒の遅刻。今までの記録を大きく引き離し、2倍近くでの更新達成となった。
すっ、と。
メリーは立ち上がって蓮子に近づく。
「蓮子」
「な、なに?」
いつもとは違う空気に、若干気圧される。
これはヤバイ。何だか知らないがヤバイと思う。
今のメリーを例えるなら黒いオーラを纏った妖精。
黒い服を着たペタツンデレ妖精も世にはいるが親戚でもなければ糸一本の繋がりもない事は断言しておく。
次の瞬間に、蓮子の両頬に衝撃が走った。
ぺちっ、と。
全く痛くない、それどころか可愛らしくすら思える。
どうせならその手を掴んでそのまま押し倒したくなるぐらいの叩き方。
「いっつもいっつも待たせて……」
メリーの大きな瞳に、確かに浮かぶ涙。
――な、泣くのかしらー!?
どこぞの動く人形の口調のようなリズムを脳内に響かせる蓮子。
何故だ、何故泣く。怒るのではないのか。
動揺レベルMAX。だがそれだけで止まってはダメだ。
出来る限りの思考を展開、CPUは無事か、ファンを回せ。
「たまには……ちゃんと、ひっく、来て、よ」
「あ、メリー、その、私」
ドン、と。
蓮子の腹に衝撃が走った。
今度は重い。重すぎて何かを潰すどころか、ブラックホールのように周りのものを吸い込んでしまうのではないかと錯覚させる重さだ。
そもそも重いの意味が違ってくるのだが、まぁ蓮子にとってそんな錯覚を起こしたくなるほど痛かったという事である。
いつも突っ込まれるときならば蓮子が確実にとる防御姿勢を、しかしメリーは目薬というアイテムによって見事封じてみせた。
本日、蓮子の遅刻の代償は。
膝を地に着けた時に頭から滑り落ちて風によって砂場まで飛ばされ、帽子が砂まみれになった事と、奢る事になった缶コーヒー代120円。
及び、メリーに見られた白ぱんちゅ。 である。
*
「えー、では。今日呼び出しを行った理由を説明いたします。ズバリ、明日の活動について」
「あぁ、……やっぱりなのね」
日は完全に沈んだというのに顔を仄かに赤く染めた蓮子が、咳払いひとつのあとでそんな事を言う。
それに反応するメリーはというと半ば諦めを含んだ、けれど内心期待しているような表情だ。
そんなメリーを見ながら蓮子はふふん、と程よい大きさの胸を張り、スペアの帽子を被り、
「明日探しに行く結界は、あっちの山にある神社よ!」
「……は?」
ビル街とは正反対に位置する山。
そこを指差した蓮子に対しメリーは、お前は何を言っているんだ(画像略)と言わんばかりに声を向ける。
街頭が照らす蓮子の横顔は無駄に清々しくて、かえってメリーの不安を助長させた。
「蓮子」
「何かしら、メリー」
「私の記憶が正しければ、あの山にある神社は年末年始や何かしらの行事の際に、人でごった返すような神社だったと思うのだけれど」
「そうね、今年のお正月2人で初詣に行ったわ。メリーなんて、人ごみの中で痴漢に胸を触られたものね」
「まぁ犯人は蓮子だったんだけどね。触っただけじゃなく揉まれたような気もしたけどそれは置いといて。……そんな所に結界があると、大変じゃない?」
……詣でなどに訪れた人々が結界に入り込み、行方不明になる。
普通は結界の境目など見えないが、否、見えないからこそ何かの拍子に迷い込むと戻って来れない可能性は高いだろう。
だが、あの神社周辺でそういう事があったなどという話をメリーは聞いたことはない。
……まぁ、聞いた事がないだけで行方不明になった人がいる可能性も、いなくとも結界が存在している可能性も、なくはないだろうが。
「うーん、でも私が手に入れた情報と、写真によるとあそこで間違いないのよ。うん、間違いない」
「……まぁ、そこまで言うのなら信用してみるけど。一応、写真見せて?」
「ん、ちょっと待ってね」
そう言い、蓮子は鞄を漁り出す。
がさがさ。がさがさ。
「あれー? これは……帽子のスペアか」
家に2桁あったのは確認済みだったけどもいくつ持ち歩いているのか、とメリーは思う。
というか大学で使うものが入っているのに、さらに2個も3個もスペアの帽子が入るような大きさの鞄には見えない。
そんな事を思って訝しげな視線を向けるメリーなど意に介さず、蓮子は鞄の中の探索を続ける。
「これ……は、教授のヅラ着用シーンの写真……」
「何でそんなものが」
「まぁ、秘封倶楽部存続のために必要なのよ」
活動内容だけじゃなくて存在自体も危ない橋を渡っていたらしい、秘封倶楽部は。
「……メリーの着替えシーン隠し撮り写真か。まったく、羨ましいくらいいい胸ね。85のDってとこか」
「ちょ! なにそれちょっと待って蓮子!」
「なにめりー?」
「ぼ、棒読み!? まさかそれ……」
「大丈夫よぉ。売ったりしてないから。個人観賞用」
「それでもダメー!」
メリーは絶叫と共に、親指をたててウインクした蓮子から物凄い勢いで写真を奪い取って、破り捨てる。
ハァハァと息を荒くし、蓮子を睨みつけ、
「デジカメ万歳」
視界に映ったのは蓮子の笑顔と、細く白い中指と人差し指に挟まれたSDカード。
この様子ではバックアップも完璧なのだろうと、諦めた。
*
足元のアスファルトが街灯に照らされ、メリーはふとそれを綺麗に感じてしまう。
目を凝らせばゴツゴツしている感じで、硬くて、黒くて、そんなにいいものではないのだろうけど。
一瞬視界に映るだけなら、この世界のものはどれもこれも美しく思えるのだろうかと思考し、苦笑。
そんな事は、きっとないから。
結局、写真は見つからなかった。
蓮子が直接カメラにおさめたものではなく、どこからか入手したものなのでデジカメに入っているなんて事もない。
「にしても、写真があるならちゃんとそれを持って来て欲しいわね」
「まーまー、メリー。絶対に本物だから、私が保証するわ」
「……もうそれでもいいけど」
見上げた空は人工の光に照らされ、星はポツポツとしか見えない。
けれど、今日は空気が澄んでいるのだろうか、霞んではいなかった。
星は少なくとも、少し欠けた月は美しく輝いている。
「ま、何か空も綺麗だし、明日は晴れそうだし、構わないか」
「そうね……でもね、メリー」
「なぁに、蓮子」
「……ううん、何でもない」
数歩駆けて振り向いた蓮子の笑顔が、姿が、街灯の白い光に照らされて。
メリーは思う。
何となく、明日は。
――いい日に、なりそう。
*
明日が良くとも曇りで、恐らく雨が降り出すであろう事を、蓮子は知っている。
もしもメリーが予報を見ずに傘を持ってこなかったら、相合傘だろうか。
それもいいと思う。そうだ、どうせそうなるならちっちゃなちっちゃな折り畳み傘で、目一杯肩を寄せて、なんて。
帰ったら……大切な大切な親友に贈るチョコを仕上げよう。
夢中になり過ぎていつもよりずっと遅れてしまったくらい気合を入れて作り始めたもの。
きっとメリーは喜んでくれる。
蓮子は思う。
明日は多分、雨だけれど。
――絶対に、いい日になる。
誰が上手い事言えとwwwww
メリーは黒レースって電波がゆんゆん来た。
蓮子は・・・メリーの指が視えた。 ・・・・・・え?
でもしょうがないよね、メリーは巨乳で蓮子はちっさいもんね。
触ったり揉んだり擦ったり舐めたりしたくもなりますよね。
あと、薔薇乙女吹いた。