この作品には東方文花帖(ゲーム)のネタバレがあります。
現在進行形な方々はEXまで進んでから読むことをお勧めします。
「いいから黙って来なさい。あなただって内心じゃ、はらわたが煮えくり返っているのでしょう?」
「いや、私は普通に出ていることだし……」
「……そう。なら、やってしまいなさい、同士!」
「はい!」
「な!? し、しまった、今は……う、うわああああぁぁぁぁ」
「これでよし、と」
射命丸文は今日も熱心に新聞作りに勤しんでいた。購読者は相変わらず少数だが、いつか花が咲くこともある、と信じて日々努力している。
つい最近も、幻想郷に住む妖怪の取材に至るところを飛び回って写真を集めていた。生傷が絶えなかったが、苦労のかいがあってそれなりに見れる新聞になっていた。
「これなら発行部数も期待が持てそうね」
明日への期待を胸に笑顔の文。
だが、それは即座に失われることになる。
バギイ!
いきなりドアが吹き飛んだ。家の中にドアの残骸が散らばる。
「な、なんですかこれは……」
「邪魔するわね」
ずかずかと足を踏み入れる4人。それはアリス・マーガトロイド、鈴仙・優曇華院・イナバ、上白沢慧音(ハクタク)、そしてレミリア・スカーレットだった。
「な、何ですかあなたたち。強盗ですか? ここにはめぼしい物なんてありませんよ」
知っている面々ではあったが、筆舌し難いオーラのようなものを漂わせているので、どこか弱気になってしまう文。
「そんなことはしませんよ。ちょっと頼みがあるだけですから」
「た、頼み?」
人の家に問答無用で押し入ってきて頼みも何もあったものじゃないでしょ、と文は言いたいのだが、暗い目をしている鈴仙相手ではとても言えない。
「大したことじゃないわ。その記事、ちょっと作り直して欲しいだけよ」
「記事?」
アリスの言葉に視線を横に向ける。そこには出来立てほやほやの新聞がある。先ほどまで作っていた渾身の新聞だ。
「そう、それよ」
「な、何故です?」
文が聞くと、3人はアイコンタクトをして頷いた。そして、言う。
『分不相応な者が多すぎる!』
3人が口を揃えて言う。レミリアだけは俯いたまま黙して語らず、を貫いているが。
「ど、どういうことです?」
文の問いに一歩前に出たのは満月の影響でハクタクの姿をしている慧音だ。暗い笑みを浮かべながら話し出す。
「ふふふ。私はれっきとした1人のキャラクター。世間ではボロクソに言われることもあるけど、それでも名前すらない中ボスよりははるかに知名度は高いはず! それが、出番なしだと!?」
キモケーネなんて呼ばれる知名度なんてない方がいいのでは、と言いたくなるが、不気味に微笑みながら言う慧音にはある種の恐怖感がある。下手なことは言えない。
口篭っていると、今度はアリスが口を挟んできた。
「私は妖々夢で3面ボスだったのよ! それが何で同じ作品の2面ボスの黒猫風情に抜かれなくちゃいけないの!? それもレベルの差が3つもあるのよ! 私がレベル3だから2倍よ、ダブルスコアよ!」
頭を掻き毟りながら言葉を荒げるアリス。それに続いて今度は鈴仙も口を挟む。
「私だって永夜抄で5面のボスだったのに、今回はレベル4まで格下げ。しかも同レベルに中ボスのてゐまでいるし。さらにはEXを除けばここだけ3人組みだし」
「それもだわ! 何で初代人形マスターである私がたかだか自立型人形の下にいなければならないの!? 私はこれでも自機にだってなったことあるのにぃぃぃ!!!」
発狂するように暴れるアリス。とても都会派魔法使いとは思えない、などと文は思ったが、言う気にはなれなかった。天狗だって命は惜しい。
「ねえ……」
「ひっ!?」
そして、今まで口を割らなかったレミリアが静かに問いかけてきた。
「私は、誰?」
「こ、紅魔館の主、レミリア・スカーレットさんでは?」
つい敬語になってしまう文。満足したのか、レミリアは続ける。
「そう。私は紅魔館の主。そして誰もが憧れるラスボスの1人なのよ。それが……それが、従者と同じ扱い!? 狐の下!? 挙句の果てには死神のはるか下!? どういうことなのようきぃぃぃぃぃ!!!!!」
「いや、私も小町さんの扱いはちょっと過大評価かな、と思ったりはしましたけど……」
誰にも聞こえないような小声で、文。もっとも、小町はすでに同等扱いにされた映姫から散々愚痴と共に自棄酒につき合わされているのだが、それは別の話。
「ふう~……ふう~……と。私としたことが熱くなってしまったわね。本題に入るわ。つまりこの順番を入れ替えて欲しいのよ。適切に、ね」
凄絶な笑みを浮かべて言うレミリア。笑顔で恐怖を振りまくのだから、対象になっている文は堪ったものではない。
「そ、それなら私じゃなくて本人達に言えば……」
「報復ならもう終わってるわ。咲夜は1週間美鈴の下に付かせることにしたし、黒猫は窒息するくらいのマタタビの中で天にも昇るような深い眠りにつかせたわ。死神の方はあることないこと閻魔に告げ口しておいたから今頃説教の嵐でしょう。くすくすくすくす……」
「……え~と」
報復、という割には妙にスケールが小さいような気がする。もっとも、変に凝ったことをされても困るのだが。
「あとはあなたがそれを発行する前に修正させれば万事解決、というわけなの」
「で、でも今更それを作り変えるなんて無理……」
「あなたの意見なんて聞いてないわ。イエスかノー。それだけ言ってくれればいいのよ。もっとも、ノーというのならこの新聞が日の目を見ることはないでしょうけど。ああ、ついでにあなたも明日の太陽が拝めないと思うけど」
「そ、それはあからさまな脅迫……」
文の抗議など歯牙にもかけず、3人はプレッシャーをかける。アリスはいまだ狂乱の中にいる。
「さあ!」
「う……」
「さあさあ!!」
「うう……」
「さあさあさあ!!!」
「ううう……」
じりじりと迫ってくる3人に、文はたじろくばかり。ついには背中が壁についてしまった。もはやこれまで、と思った直後、声が響いた。
「あああーーー!!!」
「どうしたの、アリス?」
「レミリア、これを見て!」
「あ、それは……」
いつの間にやら正常に戻っていたアリスが持っているのは、文が集めてきた写真を元に作った新聞。要するに今もめている記事なのだが、アリスが指しているのは最後に書かれている一文。
『なお、今後もこの特集は続ける予定です。現在の予定では、大妖精、小悪魔、ミスティア・ローレライ、プリズムリバー3姉妹、上白沢慧音(ハクタクVer)、風見幽香。そして博麗霊夢と霧雨魔理沙です。乞うご期待!』
食い入るように見つめるレミリアに鈴仙。数秒後、レミリアの視線の対象はこの場にいる1人に向けられた。
「裏切ったわねハクタク……っていない!? さては逃げたわね!」
「追いましょうレミリアさん!」
「当然よ! 1人だけ2度も出演しようなんて考えが起きないように修正してやるわ! 行くわよ、アリス、ウドンゲ!」
『はい!』
どたばたと出て行く3人。文への抗議もどこへやら、一直線に慧音が飛び去ったほうへ向かっていった。
「……いったい、何だったんでしょう……」
荒らすだけ荒らして、言いたいことだけ言って出て行った3人に、残された文は呆然とする以外なかった。吹き付ける風が新聞をぱたぱたなびかせる音を聞きながら。
しかしそれよりも遙かに俺の頭を支配していたのは美鈴強えぇぇぇえぇえぇぇ!!!な訳で。 跳び蹴りをクリアするのに何枚激写したか…orz