─ 魔界にて ─
「アリスちゃんの様子を見に行くの!いーくぅーのぉーっ!」
「駄目ですってば神綺!仮にも貴女神なんですから、大人しくしてて下さい!」
「仕方ないわ。こうなったら夢子ちゃんを引き摺ってでも向かうわよ!」
「頼みますからその労力を魔界の繁栄に役立てて……って、本当に引きずっていかないでください!」
「ふんす!ふんす!誰にも!私を!止められ!ないわ!」
─ 従者説得中 ─
「むー、分かったわ。そこまで言うなら私は行かない事にしましょう」
「はぁ、やっとお分かりになってくれましたか」
「……と見せかけてシュワッチ!」
「全然分かってくれてねぇー!」
おーっと 神綺くん たかだかと とびあがったー !!
夢子くん ひっしに おいすがる !
夢子 「 いいかげんに してください ! 」
夢子くんの 心突釘刺脚 !!
神綺くん ごうかいに ふっとんだー !!
神綺 「 ゲェーッ !! 」
「くっ、夢子ちゃんもやるようになったわね!」
「伊達や酔狂で従者をしていませんから」
「仕方ないわね。つまり私が行かなきゃ良いわけでしょ?」
「ええ、まぁ」
「それじゃあ代理として夢子ちゃんに……」
「私が居なくなったら誰が神綺様の世話をするんですか」
「それじゃあユキちゃん……」
「大分前に『マイの足手まといにならないよう、修行の旅に出ます』と言って、現在行方不明です」
「じゃあそのマイちゃん……」
「ついこの間召喚されていったじゃないですか。 ふたりはプリなんとか って世界に」
「うーん、他に誰か……ああっ!適任の子が居たじゃない(はぁと)」
「神綺様、(はぁと)はもう古いです。ついでにご自分の年齢考えてください。で、誰ですか」
「ルイズちゃんよ、ルイズちゃん。確か最近戻ってきて、今は暇してるでしょ?」
「あー、ルイズさんですか。アリスも神綺様の次に懐いてましたしねぇ」
「あの子ならゲートを通り抜ける実力もあるし。休暇のついでに行かせて見たらどうかしら」
「良いお考えですね。では早速勅命を出しておきます」
「コラ、夢子ちゃん。これは公私に分ければ『私』の部分に該当する事よ?勅命で行かせちゃったら『公』になっちゃうじゃない」
「失礼しました。では直ぐにでも向かいます」
「ん、お願いね」
─ 従者移動中 ─
コンコン
「ルイズさん、居ますか?
ガチャリ
「はい、どちらで……あら、夢子ちゃん」
「お久しぶりです」
「立ち話も何だから上がって。大したお持て成しはできないけれど」
「はい、お邪魔します
「紅茶はダージリンで良いかしら?
「いえ、お構いなく。ちょっとした用事ですから」
「フフッ、相変わらず忙しいみたいね。でも、こういう時は素直に頂いておくものよ。はい」
「それでは頂きます……」
「それで、どんな用事なのかしら?夢子ちゃんが直々になんて、珍しいじゃない」
「実はですね、悪魔としてのルイズさんではなく、子としてのルイズさんに神綺様からのお願いがありまして」
「おかあさんとして…?ますます珍しいわね……」
「それほどの事でもないので率直に言います。アリスの様子を見てきてくれませんか?」
「アリスちゃんの?」
「はい」
「………」
「………」
「………ねぇ、夢子ちゃん。アリスちゃんはね、悩んで悩んで、悩みぬいた挙句魔界を出ていったわ
それはつまり、雛鳥が巣立ったのと同じ。あの子はもう独り立ちしたのよ
そうやって大人になった雛を親鳥が見て、どうすると言うの?
まともに生活している中に、口を挟むの?それとも、いらないお節介を焼くのかしら?
それはただ単に、子離れができないだけなのよ」
「ルイズさん………」
「……と、おかあさんに伝えておいて頂戴。私は支度をするから」
「え、じゃあ……」
「離れた家族の心配をしない家族なんて居ないわよ。おかあさんはただ度が過ぎてしまうだけ」
「あー、何だか分かります」
「ついでに結構前に呼び出された赤い髪のあの子の様子も見てくるわ。所で夢子ちゃん」
「何ですか?」
「今からサラちゃんの所に行って、ゲートを繋いで貰ってくれる?直ぐに出発したいし…ね?」
「分かりました、じゃあ失礼します」
ガチャリ、バタン
「…それじゃあ私も準備に取り掛かりましょうか。アリスちゃん、どんな顔をするのかしら……ね」
幻想郷に見慣れない人物が現れる、少し前の魔界の一日だった
実の姉妹だとは知らずに惹かれあう二人、しかしそれが許されぬ恋だと知ったとき――――
って王道ストーリーが頭をよぎったんですが。