[注意]
・わき。腋でも脇でもなくて『わき』。
夜の闇の中を一筋の光が突き抜ける。
雨上がりの空、星は沈黙したも同然の数しか輝かず、半分の月はそれらの存在をより一層希薄にしていた。
そして、その一筋の光は月の存在ですら希薄にしてしまうもの。
それどころか月は箒に乗ってその一筋の光を生み出す人影を美しく演出するかのように。
今この瞬間において、夜の主役は月ではなくその一筋の光を生み出す魔法使いだ。
かつてとは違い、結っていない髪が頬に纏わりつく。
月の光が照らす金の髪を、自らのものだというのに綺麗だと感じる一瞬。
思わず苦笑するが、人間としてそれなりに歳を重ねてなお自分で何気なくそう思えるのならそれもまたいい。
強がりでもなく、それなりに綺麗で居られているだろうから。
目的地が見えてきて、箒に流す魔力を絞る。
量を減らし、濃度を上げてコントロール性を増し、スピードを下げて降下していく。
箒を強く握る。
――さぁ、行こう。
魔力遮断。
落下開始。
精密な魔力の使用を以ってコントロールされていたスピードが、上がる。
それは落下による加速だ。
下から突き抜ける風が強く頬を打ち、しかしそれを快感に思う。
地面にぶつかるか、否か。
それを快感だと思ってしまう事に馬鹿な女だ、とは思うがそれこそがまさに彼女の生き方。
魔力を再び流し込む。
地上3mの位置で箒を持ち上げ、地面と平行し、停止した。
「とうちゃーく」
幻想郷元最速の魔法使いが降り立ったのは、人里の外れ。
彼女、霧雨魔理沙の見上げた看板には洒落た字でこう、あった。
……『スナック はくれい』、と。
*
カランカランと鳴るベルの音を聞いて、博麗霊夢はドアの方を見た。
「おっす、霊夢」
そう言って姿を現したのは客、とは少し言いがたい人物であった。
言うまでもなく、ツケにしてあまり金を払わないから。
今更になって、某夜雀やら某薬師相手にツケを溜めていた自分を少し情けなく思ってしまう。
罪悪感はなかったが。
「……で、今日はきっちり払ってくれるのかしら?」
「あぁ、払うぜ。今日の分はな」
霊夢はまったく、と思い溜息を吐く。
同時に今日の分は払うのならまぁいいか、とも。
「しかしま、巫女を娘に任せて里に行ったかと思ったら、なんでこんな店を始めるのかね、霊夢は」
「今更な質問ね……神のお告げか紫のいたずらか……ある日神社にやってきたひふうなんちゃらがどうとかいう2人にそそのかされてかしら」
「それってもう10年以上も前の話だろ?」
「そうね、10年以上も前の話だわ」
コト、といつも魔理沙が飲んでいる酒を入れたグラスを差し出す。
サンキュ、と一言言うと魔理沙はそれを煽った。
アルコールが身体に入り込む。
僅かに脳裏に浮かぶは、かつての自分たち。
「……私たちも、歳をとったもんだな」
「そうね、小皺が気になる歳だわ」
「アリスやパチュリーには絶対に負けないほどの大差をつけたと思ったら、今度は昔以上に勝つのが難しくなった」
「それが私たち人間ってもんでしょう。早く成長して輝ける見返り、僅かに強く輝いてあっという間に消える」
何か食べる? と続けた霊夢に魔理沙は今はいい、と返してグラスの中身を空にする。
里の人間に比べて遥かに多く妖怪に関わった2人。
だからこそ歳をとって、何となく一時期は歩みを共にしたとさえ言える彼女らとの違いを感じる。
たまにそれを話して、昔を懐かしむ。
時にはパッドという殻を加齢と共に脱ぎ捨てた(?)咲夜が加わり、大人っぽくなり微妙にむかつくくらいの大きさの胸に成長した半分人間の妖夢を一方的に加えたり。
――そんなのが楽しいなんて、本当に歳をとったものね。
ひとり思い、微笑。
苦笑いしたところだが、どうにもそれが微笑ましいような気がして。
「ところで霊夢、前から聞きたいと思っていたことがあったんだけどな」
「ん、なによ?」
「なんでここ……
スナック わき とかじゃないんだ?」
「帰れおばはん」
「れ、霊夢だって大して歳変わんないって言うかお前の方が年上だろう! 作者的に!」
「わけわかんない事言ってんじゃないわよ! なに『スナック わき』って? ふざけてんの? 幻想郷に風俗はいらないわよ!」
「ばっ、風俗じゃないぜ! 私が見た霊夢の永久不滅の美しき身体的特徴を店の名前に使うという素晴らしきアイディアだ!」
「そんなつまんない事考える前にツケ払え年増魔法使い!」
「おま……年増は紫の専売特許だろうが! 怒られるぞ!」
怒られるのか。
「あぁ!? 大丈夫よあいつにはまだ臭い靴下がある!」
「しまったぁ!」
何がしまったのか。
「とにかくね、『スナック わき』なんてするつもりないから! つーか外の世界にもそんなのないでしょう!」
「外の世界は幻想郷とは違ってこういうのが滅茶苦茶多いんだぜ!? あるかもしれないじゃないか!」
「そうね! しれないわね! 輝夜がニートを脱する事が出来る可能性と同じくらい低い確率で!」
「わーき! わーき! スナックわーき!」
「しつっこいわねぇ!」
「れいむのわーきはかおがふけてもまだハァハァ出来る!」
「褒めてんのか褒めてないかすらわかんないからそれ!」
「……あなたたちは何をしているの?」
「いらっしゃい、咲夜」
「おう、久しぶりだな」
「急に取り繕われても困るんだけど」
――元少女事情説明中――
「「「誰が元か!」」」
お詫びして訂正いたします。
――少女事情説明中――
「とまぁ、こんな感じよ」
「……呆れた。そんな卑猥とも言える名前のスナックなんて、普通思いつきもしないわ」
「なんだ、私が淫乱だとでも言いたげな目だな」
「そんな目はしていませんわ……馬鹿だとは思ったけど」
でも魔理沙がそうだと個人的に興奮s(削除
今夜も、騒がしくなってきた。
騒がしさそのままに、幻想郷のもt……げふん、げふん! 弾幕少女たちの夜は更けていく。
・わき。腋でも脇でもなくて『わき』。
夜の闇の中を一筋の光が突き抜ける。
雨上がりの空、星は沈黙したも同然の数しか輝かず、半分の月はそれらの存在をより一層希薄にしていた。
そして、その一筋の光は月の存在ですら希薄にしてしまうもの。
それどころか月は箒に乗ってその一筋の光を生み出す人影を美しく演出するかのように。
今この瞬間において、夜の主役は月ではなくその一筋の光を生み出す魔法使いだ。
かつてとは違い、結っていない髪が頬に纏わりつく。
月の光が照らす金の髪を、自らのものだというのに綺麗だと感じる一瞬。
思わず苦笑するが、人間としてそれなりに歳を重ねてなお自分で何気なくそう思えるのならそれもまたいい。
強がりでもなく、それなりに綺麗で居られているだろうから。
目的地が見えてきて、箒に流す魔力を絞る。
量を減らし、濃度を上げてコントロール性を増し、スピードを下げて降下していく。
箒を強く握る。
――さぁ、行こう。
魔力遮断。
落下開始。
精密な魔力の使用を以ってコントロールされていたスピードが、上がる。
それは落下による加速だ。
下から突き抜ける風が強く頬を打ち、しかしそれを快感に思う。
地面にぶつかるか、否か。
それを快感だと思ってしまう事に馬鹿な女だ、とは思うがそれこそがまさに彼女の生き方。
魔力を再び流し込む。
地上3mの位置で箒を持ち上げ、地面と平行し、停止した。
「とうちゃーく」
幻想郷元最速の魔法使いが降り立ったのは、人里の外れ。
彼女、霧雨魔理沙の見上げた看板には洒落た字でこう、あった。
……『スナック はくれい』、と。
*
カランカランと鳴るベルの音を聞いて、博麗霊夢はドアの方を見た。
「おっす、霊夢」
そう言って姿を現したのは客、とは少し言いがたい人物であった。
言うまでもなく、ツケにしてあまり金を払わないから。
今更になって、某夜雀やら某薬師相手にツケを溜めていた自分を少し情けなく思ってしまう。
罪悪感はなかったが。
「……で、今日はきっちり払ってくれるのかしら?」
「あぁ、払うぜ。今日の分はな」
霊夢はまったく、と思い溜息を吐く。
同時に今日の分は払うのならまぁいいか、とも。
「しかしま、巫女を娘に任せて里に行ったかと思ったら、なんでこんな店を始めるのかね、霊夢は」
「今更な質問ね……神のお告げか紫のいたずらか……ある日神社にやってきたひふうなんちゃらがどうとかいう2人にそそのかされてかしら」
「それってもう10年以上も前の話だろ?」
「そうね、10年以上も前の話だわ」
コト、といつも魔理沙が飲んでいる酒を入れたグラスを差し出す。
サンキュ、と一言言うと魔理沙はそれを煽った。
アルコールが身体に入り込む。
僅かに脳裏に浮かぶは、かつての自分たち。
「……私たちも、歳をとったもんだな」
「そうね、小皺が気になる歳だわ」
「アリスやパチュリーには絶対に負けないほどの大差をつけたと思ったら、今度は昔以上に勝つのが難しくなった」
「それが私たち人間ってもんでしょう。早く成長して輝ける見返り、僅かに強く輝いてあっという間に消える」
何か食べる? と続けた霊夢に魔理沙は今はいい、と返してグラスの中身を空にする。
里の人間に比べて遥かに多く妖怪に関わった2人。
だからこそ歳をとって、何となく一時期は歩みを共にしたとさえ言える彼女らとの違いを感じる。
たまにそれを話して、昔を懐かしむ。
時にはパッドという殻を加齢と共に脱ぎ捨てた(?)咲夜が加わり、大人っぽくなり微妙にむかつくくらいの大きさの胸に成長した半分人間の妖夢を一方的に加えたり。
――そんなのが楽しいなんて、本当に歳をとったものね。
ひとり思い、微笑。
苦笑いしたところだが、どうにもそれが微笑ましいような気がして。
「ところで霊夢、前から聞きたいと思っていたことがあったんだけどな」
「ん、なによ?」
「なんでここ……
スナック わき とかじゃないんだ?」
「帰れおばはん」
「れ、霊夢だって大して歳変わんないって言うかお前の方が年上だろう! 作者的に!」
「わけわかんない事言ってんじゃないわよ! なに『スナック わき』って? ふざけてんの? 幻想郷に風俗はいらないわよ!」
「ばっ、風俗じゃないぜ! 私が見た霊夢の永久不滅の美しき身体的特徴を店の名前に使うという素晴らしきアイディアだ!」
「そんなつまんない事考える前にツケ払え年増魔法使い!」
「おま……年増は紫の専売特許だろうが! 怒られるぞ!」
怒られるのか。
「あぁ!? 大丈夫よあいつにはまだ臭い靴下がある!」
「しまったぁ!」
何がしまったのか。
「とにかくね、『スナック わき』なんてするつもりないから! つーか外の世界にもそんなのないでしょう!」
「外の世界は幻想郷とは違ってこういうのが滅茶苦茶多いんだぜ!? あるかもしれないじゃないか!」
「そうね! しれないわね! 輝夜がニートを脱する事が出来る可能性と同じくらい低い確率で!」
「わーき! わーき! スナックわーき!」
「しつっこいわねぇ!」
「れいむのわーきはかおがふけてもまだハァハァ出来る!」
「褒めてんのか褒めてないかすらわかんないからそれ!」
「……あなたたちは何をしているの?」
「いらっしゃい、咲夜」
「おう、久しぶりだな」
「急に取り繕われても困るんだけど」
――元少女事情説明中――
「「「誰が元か!」」」
お詫びして訂正いたします。
――少女事情説明中――
「とまぁ、こんな感じよ」
「……呆れた。そんな卑猥とも言える名前のスナックなんて、普通思いつきもしないわ」
「なんだ、私が淫乱だとでも言いたげな目だな」
「そんな目はしていませんわ……馬鹿だとは思ったけど」
でも魔理沙がそうだと個人的に興奮s(削除
今夜も、騒がしくなってきた。
騒がしさそのままに、幻想郷のもt……げふん、げふん! 弾幕少女たちの夜は更けていく。
ロックで。
おおっとチェイサーは要らねぇよ。
その答えは、これからもずっと
探し求めていかなければ
ならないのかもしれない…。
もう、彼女達の時代なのだから……。