Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

猫と朝顔 私と花

2006/03/13 10:53:22
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 彼女、風見幽香は珍しく朝早くに目が覚めた。好きな時に寝て好きな時に起きる彼女ではあったが、夜明けに半刻も無いこの時間に目が覚めるのは珍しい。少し睡眠時間が足らず欠伸をするが、折角普段は起きない時間に起きたのだ、普段見ない風景を見なければ勿体無い。
 空を飛びながら、風を感じる。風は気持ちよくはあっても、決して肌寒い事はない。実に快適な明け方飛行だ。
 気持ちよさに目を細めていると、下のほうに一匹の妖怪がいた。二本の尻尾を生やし、微動だにせずしゃがんでいる。脅かしてやろうか、幽香はそう思い、高度を下げて妖怪の後ろに立つ。
 花の一つでも当ててやれば驚くのだろうか、そう思ったが留まる。目の前の妖怪は腹痛などで蹲っているのではなく、ただ黙して見ていたのだ。朝顔の蕾を。
「貴女、何をやっているのかしら?」
 自慢の傘をくるりと回しながら、幽香が聞いた。目の前の猫の妖怪はびくりと肩を震わせ、背後を見る。もしやしたら花をいきなり当てるのよりも驚かせる効果があったかもしれない。
 妖怪は幽香を確認し、安堵する。誰かに見つかる事を警戒していたようだ。
 猫の妖怪は幽香に人懐っこい笑みを浮かべる。そして、嬉しそうに語った。
「朝顔が咲くのを待ってるの。私の最近の楽しみ。これは紫様にも藍様にも秘密なんだ」
 へへへ、と笑いながら再び朝顔に目を向ける。朝顔が咲くのにはまだ少し早い時間だろうに。それでも彼女は楽しそうに見ていた。
 幽香は紫、と言う名に何かを思い出し、記憶を探す。確か自分と同じほどの歴史を積んだ妖怪だったと記憶している。彼女の式が藍で、またその式が橙と言う名だったとか。成る程、彼女は橙か、納得する。
 とはいえ、幽香にとって橙の素性などどうでもいい。彼女にとって花を愛でる者は善人であるし、花を蔑ろにする者は悪人だ。幽香の基準で言えば、橙は善人。善人であるならば、誰だっていい。
 橙は一本しか生えていない朝顔を尻尾を振りながら見続ける。その姿は実に楽しそうだ。だが、楽しそうであるのと同時にどこか寂しさを感じる。朝顔が一本しかないからだろうか。
「私ね」
 橙が語り始めた。幽香の顔を見もせず朝顔に目が向いているところを見ると、別に返答が欲しいわけではないのかもしれない。
 聞くことはやぶさかではない。幽香は橙の隣に腰を下ろして、一緒に朝顔を見た。蕾はまだ咲きそうも無い。
「私ね、紫様にも藍様にも本当は必要ないんだ。だってこんなに力が弱いし、紫様の事は全部藍様がやってるんだもん。大事な事を私に話してくれない事も多いの。だから、この朝顔だけは私の秘密。私だけがこうやって、朝顔見るんだ」
 その言葉に、幽香は腹が立った。幽香は花の妖怪であり、花に等しい。そんな花をいつも悲しみを持ちながら見ているのは、どうしても我慢ができない。
 だから、幽香は橙を殴った。橙の脳天に落とした拳は、幽香も痛かった。
 橙はいきなりの事に何が起きたか分からず、ただ目を白黒させている。
「貴女、本当に馬鹿ねぇ」
 幽香は立ち上がり、橙を見下ろした。見下ろされる橙は相手の突如の変貌に、ただ怯えている。
「世の中は必要な事の方が少ないのよ。だって、生き物は食べて寝ていられれば生きているんだもの。けどね、それだけじゃあ貴女にはならないし私にもならないのよ。私の花を操る能力だって、本当は必要ないわ。でもね、私が私で居るためにはこの能力は無くてはならないものなの」
 幽香は橙から視線を外して、傘を回した。橙は黙して幽香の話を聞く。
「紫や藍も、貴女なくしては彼女達じゃないわ。貴女だって、彼女達なくしては貴女じゃないでしょ? 必要な事って言うのは少ないけど、無くてはならないものっていうのはとても多いの。花もその一つ。人間は、たしかこんな事を因果と呼んだわ。貴女の過去の全てがあって今がある。だから、貴女が必要ない訳ないじゃない。そうやって悲しい目で花を見るのはよして頂戴」
 幽香の言葉に、橙は頷いた。答えに満足し、幽香は橙に笑いかける。
「じゃあ、これは私からのご褒美」
 幽香が傘をかざした。その先には、色とりどりの朝顔が、視界一面に咲き誇る。
「……うわぁ、凄い」
 橙が感嘆の声を上げた。花は、全て橙の方を向いている。
「この花は私が在る限り、決して枯れないわ。これだけの花があれば、もう寂しくないでしょう? 今度は貴女の主達も誘ってここにいらっしゃいな」
 ふわり。まるでタンポポの種に乗るように、幽香が浮く。
「あの!」
 橙が大きな声で幽香を呼ぶ。今更、名前を教えてなかった事に気付くが、どうでも良い事だろう。
 幽香は止まる事無く振り返り、橙を見た。
「ありがとう!」
「ふふ。どういたしまして」
 幽香は小さく手を振った。橙は、大きく手を振って幽香を見送る。
 橙がこれから主とどうなるか、それは幽香にはわからないが、どうでも良かった。ただ、彼女が花を愛でてくれる、それだけで幽香は満足である。少しだけ、彼女が主と上手く行く事を願ってはいるが。
 ふわりふわりと浮きながら、やがて橙が見えなくなった。幽香は橙の居る方向に目を細め、非常に充実した気分を胸に仕舞う。
 たまには早く起きてみるものだ。こういう事があるのなら、普段と違う事も悪くは無い。幽香はそう思いながら、風が舞うままに流された。
どうも、西方より色々こめて、略して西色です。
たまには短く軽い話も書いてみたくなります。つーわけで書きました。
西色
コメント



1.削除
ゆうかりんかっこいいよ!!!111!!!11
2.名前が以下略削除
久々に素敵なお姉さんをするゆうかりんを見た!
3.名前が無い程度の能力削除
幽香も橙もすごくいい!!
4.奇声を発する程度の能力削除
幽香カッコいい!!