・ミッションレコード
紫の頼みで紅魔館へ侵入することになった幽々子。彼女は伝説の傭兵、幽々子=スネークとなって紅魔館で極秘裏に開発された秘密レシピの奪取を狙う。
スキマ通信によるサポートを務める大佐(紫)、ナオミ(藍)、チェン(橙)、マスター(妖夢)の援護を受け、ユネークは地下に監禁されている民間人チルノを目指していた。
その途中、謎の協力者から無線で情報を提供されるという不可解な状況に遭遇する。だが煙に巻かれ、その正体は掴めずじまいに終わる。
そしてチルノへと接触するユネーク。しかし食欲をもてあます彼女の牙を制するように、一本のナイフがユネークの足元へと投げつけられた。
姿を現した仮面のメイド、サクヤ・ザ・リッパーとの死闘が幕をあけたのだ……
■ ● ■
ユネークは鋭く飛び出し、遮蔽物の陰を巧みに利用しながらサッパー(略称)との距離をとった。
その影を縫うように、無数のナイフがガキンガキンと壁に跳ね返ってユネークの身体をかすめていく。
身を隠したユネークの向こうから、サッパーが余裕げに声を上げた。
「隠れても無駄だ! 私にはナイフの気持ちが分かる、跳弾を操ることが出来る!」
「跳弾、そんなことが……」
空を裂く音にぎくりとして首をすくめる。その鼻先すれすれを投げナイフが一本通り過ぎていった。
直接投げられる軌道ではない……ハッタリではなさそうだ。
「ならば先手必勝!」
ユネークはバッと飛び上がると、着地と同時に思い切り身をかがめて飛燕の如き加速で一気に間合いを詰める。その動きを正確にトレースしてナイフが追ってくるが、この速度にはついてこれまい――!
微妙な弧を描くように接近する。至近距離でナイフをかわし、表情のない仮面のメイドへと手を伸ばす。見えた!
「もらったぁ! 食欲をもてあます!」
ユネークは相手の体の一部を握って動きを封じると、体を入れ替えるように足を払って地面へと押し倒す――
つもりが、不意に両手から敵の重さが消えた。
「ぁら?」
「どこを見ている、そこではない!」
同時に思い切り飛び膝蹴りで吹っ飛ばされると、容赦なく投げられた大量のナイフをビシバシとまともにくらってしまった。
「何でよー!?」
回転してナイフをはじきつつ、追い討ちを避けるため再び柱の陰に隠れる。すぐ近くからチルノが苦しげな声で、何か呪いの言葉でも囁いているように聞こえたが、ユネークは気にせずスキマ通信を開いた。
ピリリ……ピリリ……
プシュン。
「大佐!」
『ユネーク、今のは一体? あと頭にナイフが刺さったままよ』
「分からない。私は確かに彼女を掴んだはずだった……だけど、気づいたら一瞬で逃げられていたのよ! 時間を止めたとか手品とかそんなちゃちな小細工ではなかったわ」
額をパタパタ叩いてナイフを落としつつ、叫ぶ。
『掴んだ場所は?』
「胸よ」
『相変わらず、マニアックねユネーク』
とそのとき、どたどたと隙間の向こう側で誰かが走ってくる音が聞こえた。
『――ユネーク様、ご無事ですか!?』
「マスター、戻ってきてくれたのね」
『先ほどは取り乱してしまって、すみません、つい……。それよりもユネーク様、戦闘前にお伝えしておくべきでした』
「伝え……何?」
『サクヤ・ザ・リッパーのオッパイは偽物です』
「!?」
『何ですって!』
マスターの一言に大佐まで衝撃を受けた様子だ。
マスターはさらに続けた。
『彼女のスリーサイズを知ったときから、不審に思って調べてみたのですが……』
「それで……?」
『全てデタラメです』
「何ですって……!」
『では、彼女は……』
『おそらくは――ペチャパイ』
『ペチャパイですって……ありえないことだわ……』
ユネークは戦慄と共にサッパーの姿を窺った。余裕たっぷりにナイフを垂らしたまま、「早くしないと⑨の冷気がもたんぞ!」などとプレッシャーをかけてくる。その胸部は確かに若干、違和感がないこともない……
『ユネーク様、もはや接近戦で勝ち目はありません。しかしサクヤ・ザ・リッパーは投げナイフのストックに限りがあります。そのため彼女は戦闘中に時間を止めてナイフを回収する必要がある……その瞬間を狙って攻撃するんです!』
「なるほど、やってみる」
プシュン。
ユネークは物陰から躍り出ると、ジグザグにステップを踏みながら弾幕を撃ち出した。
それに応えてサッパーも投げナイフを乱射してくるが、ユネークは守りを固めてそれら全てを撃ち落す。
やがて手の中からナイフが切れるサッパー。
「く……弾切れか!」
短く毒づくと、ぐっと体勢を低くするサッパー。ユネークはその瞬間を見逃さない。
「今だ! 寿命『无寿国への約束手形』霊力バージョン!」
「ぐぁっ……?」
命中した瞬間、痛恨のうめきと共に時間を止め、見えなくなる銀メイド。疑問符がついていたのは当たり所が悪かったのですぐに効果が現れなかったからか。頭に当たると一発なのだが。
一瞬後、ユネークの右手でせこせことナイフを拾っているサッパーの姿があった。
気づいたらしく、慌てて顔を上げる――
「解けた……霊力が!」
「そう、吸収したの」
頭上から力いっぱい蹴りを食らわせて派手に転がす。サッパーはごろごろと床を滑っていったあと自力で起き上がった。受身を取ったらしい。
「ふ……」
ざっ!
と構えを取ってユネークに向き直るサッパー。
「んー……いいセンスだ。そろそろ本気を出していこうか」
「……まだ余裕があるみたいね」
ユネークも合わせて距離をとろうとしたとき――
ブンッ!
「何っ?」
虹色の閃光のようなものが、サッパーの右腕に直撃した。
「右手が……っ!」
即座に飛び退ってから理解する。今のは誰かがサッパーにとび蹴りを放ったのだ。その誰かが、今大きくトンボを切って部屋をゴムまりのように飛び回っていた。
ブンッ!
再び羽虫の大群のような耳障りな音が響いたかと思うと、今度は部屋の中央に鎮座していたオオガマが猛烈な衝撃を受けたように大爆発する!
「ぐぁぁぁあああ!」
間違いなくチルノのものだろう。それまででもっとも悲痛な叫びが部屋にこだました。
「ちぃっ。邪魔が入った、また会おう!」
混乱した戦場の端からサッパーの声が聞こえる。急いでそちらを見ると、視界の端に扉の向こうへ消えていく銀髪が映った。
乱入者はひとしきり室内を荒らしたあと、中央に立って虚空の一点を見つめている。逃げたサッパーは気にもしないようだ。
ユネークは乱入者の前に飛び出して鋭く声を上げた。
「あなたは!?」
「名前などない……」
ぼんやりとつぶやくその声には聞き覚えがあった。この部屋に入る直前に無線でアドバイスをくれた誰か……
見た目も記憶に引っかかるものがあった。長い赤毛に緑の民族衣装。帽子には星をかたどった金属板に龍の一字。
(どういうこと? 私がこの地味な妖怪を知っていることと、何か関係が!?)
地味だということははっきりと覚えていた。
ユネークは今見た内容を、じっくりと胸中で反芻した。と――
それまで意味を成さなかった情報の羅列が、ふっと的確な完成を見せる!
「そうよ、地味! あなたは確か竜料理! 食欲をもてあます」
「……」
「あれ、違った? 地味なのは覚えてるんだけど……」
「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
乱入者は突然涙を流しながら、呆然と見送るユネークを尻目に正面の扉からどこかへと去っていった。
「……奴は一体……」
ぽりぽりと頭をかきながらつぶやくユネーク。またどこかで会いそうな気がした。
とりあえず、今は⑨だ。
ユネークは、オオガマの破片をもろに浴びてうつぶせに横たわるチルノのもとへと移動した。
「大丈夫?」
「うぅ……かつてないくらいひどい目にあったわ……」
べちょべちょになって全身真っ黒になっているため、落ちている鉄パイプを使ってつついて起き上がらせる。疲れきっているのか怒鳴り返す気力もないようだ。
「歩けそう?」
「何とか……」
「そう……食欲を持てあま――」
ピリリ!
プシュン。
『ユネーク!』
「くっ……私としても食欲をもてあましたかったのだけれど、残念だが先にしなければいけないことがある」
「何よ」
「秘蔵レシピについて知りたい」
「え、あのレシピ帳? さっきの危ないメイドが熱心に研究してるってのくらいしか知らないけど」
「そうか……それだけ?」
「あ、あとパチュリーってのがどうとか言ってるのを聞いた気がする」
「パチュリー……なるほど、図書館長」
考えてみれば、大図書館の資料を使うのは当然だ。
だとすると次に向かうべきはそこか……
「……もういい? いい加減帰って寝たいんだけど。わけわかんないのにつき合わされて疲れてんのよ」
プシュン。
ユネークはさりげなく通信を切ると、チルノの進路をふさぎながら告げた。
「チルノ、いや、⑨。もういちど食欲をもてあます」
「は? ……いや、ちょっと待っ」
……ヒィユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイィッ!
……もしゃもしゃもぐもぐ。
ごっくん。
「また食べたいわぁ」
ピリリ……ピリリ……
プシュン。
『馬鹿者ぉ! 何てことをしてるの!』
『ユネーク様、もうやめて!』
『変態』
『いやぁぁぁぁあああ! チルのんんんんー!』
例によって騒がしい司令室。
ユネークももう慣れてきたので、適当に右から左へと流しながしながら部屋を後にする。
「そういうことで大佐。次は大図書館に向かうわ」
『先に言っておきますけどね、食べちゃダメよ!』
「あーはいはい、分かった分かった」
楊枝で歯のスキマをいじりつつ返した。敵がいないことを確認すると、廊下に置きっぱなしだったダンボール箱を持ち上げる。
「……それでは、任務に戻る」
がぽっ。
再びダンボール箱に身を包んだユネークは、紅魔館の暗がりの中を大図書館目指して走っていった……
続く。
紫の頼みで紅魔館へ侵入することになった幽々子。彼女は伝説の傭兵、幽々子=スネークとなって紅魔館で極秘裏に開発された秘密レシピの奪取を狙う。
スキマ通信によるサポートを務める大佐(紫)、ナオミ(藍)、チェン(橙)、マスター(妖夢)の援護を受け、ユネークは地下に監禁されている民間人チルノを目指していた。
その途中、謎の協力者から無線で情報を提供されるという不可解な状況に遭遇する。だが煙に巻かれ、その正体は掴めずじまいに終わる。
そしてチルノへと接触するユネーク。しかし食欲をもてあます彼女の牙を制するように、一本のナイフがユネークの足元へと投げつけられた。
姿を現した仮面のメイド、サクヤ・ザ・リッパーとの死闘が幕をあけたのだ……
■ ● ■
ユネークは鋭く飛び出し、遮蔽物の陰を巧みに利用しながらサッパー(略称)との距離をとった。
その影を縫うように、無数のナイフがガキンガキンと壁に跳ね返ってユネークの身体をかすめていく。
身を隠したユネークの向こうから、サッパーが余裕げに声を上げた。
「隠れても無駄だ! 私にはナイフの気持ちが分かる、跳弾を操ることが出来る!」
「跳弾、そんなことが……」
空を裂く音にぎくりとして首をすくめる。その鼻先すれすれを投げナイフが一本通り過ぎていった。
直接投げられる軌道ではない……ハッタリではなさそうだ。
「ならば先手必勝!」
ユネークはバッと飛び上がると、着地と同時に思い切り身をかがめて飛燕の如き加速で一気に間合いを詰める。その動きを正確にトレースしてナイフが追ってくるが、この速度にはついてこれまい――!
微妙な弧を描くように接近する。至近距離でナイフをかわし、表情のない仮面のメイドへと手を伸ばす。見えた!
「もらったぁ! 食欲をもてあます!」
ユネークは相手の体の一部を握って動きを封じると、体を入れ替えるように足を払って地面へと押し倒す――
つもりが、不意に両手から敵の重さが消えた。
「ぁら?」
「どこを見ている、そこではない!」
同時に思い切り飛び膝蹴りで吹っ飛ばされると、容赦なく投げられた大量のナイフをビシバシとまともにくらってしまった。
「何でよー!?」
回転してナイフをはじきつつ、追い討ちを避けるため再び柱の陰に隠れる。すぐ近くからチルノが苦しげな声で、何か呪いの言葉でも囁いているように聞こえたが、ユネークは気にせずスキマ通信を開いた。
ピリリ……ピリリ……
プシュン。
「大佐!」
『ユネーク、今のは一体? あと頭にナイフが刺さったままよ』
「分からない。私は確かに彼女を掴んだはずだった……だけど、気づいたら一瞬で逃げられていたのよ! 時間を止めたとか手品とかそんなちゃちな小細工ではなかったわ」
額をパタパタ叩いてナイフを落としつつ、叫ぶ。
『掴んだ場所は?』
「胸よ」
『相変わらず、マニアックねユネーク』
とそのとき、どたどたと隙間の向こう側で誰かが走ってくる音が聞こえた。
『――ユネーク様、ご無事ですか!?』
「マスター、戻ってきてくれたのね」
『先ほどは取り乱してしまって、すみません、つい……。それよりもユネーク様、戦闘前にお伝えしておくべきでした』
「伝え……何?」
『サクヤ・ザ・リッパーのオッパイは偽物です』
「!?」
『何ですって!』
マスターの一言に大佐まで衝撃を受けた様子だ。
マスターはさらに続けた。
『彼女のスリーサイズを知ったときから、不審に思って調べてみたのですが……』
「それで……?」
『全てデタラメです』
「何ですって……!」
『では、彼女は……』
『おそらくは――ペチャパイ』
『ペチャパイですって……ありえないことだわ……』
ユネークは戦慄と共にサッパーの姿を窺った。余裕たっぷりにナイフを垂らしたまま、「早くしないと⑨の冷気がもたんぞ!」などとプレッシャーをかけてくる。その胸部は確かに若干、違和感がないこともない……
『ユネーク様、もはや接近戦で勝ち目はありません。しかしサクヤ・ザ・リッパーは投げナイフのストックに限りがあります。そのため彼女は戦闘中に時間を止めてナイフを回収する必要がある……その瞬間を狙って攻撃するんです!』
「なるほど、やってみる」
プシュン。
ユネークは物陰から躍り出ると、ジグザグにステップを踏みながら弾幕を撃ち出した。
それに応えてサッパーも投げナイフを乱射してくるが、ユネークは守りを固めてそれら全てを撃ち落す。
やがて手の中からナイフが切れるサッパー。
「く……弾切れか!」
短く毒づくと、ぐっと体勢を低くするサッパー。ユネークはその瞬間を見逃さない。
「今だ! 寿命『无寿国への約束手形』霊力バージョン!」
「ぐぁっ……?」
命中した瞬間、痛恨のうめきと共に時間を止め、見えなくなる銀メイド。疑問符がついていたのは当たり所が悪かったのですぐに効果が現れなかったからか。頭に当たると一発なのだが。
一瞬後、ユネークの右手でせこせことナイフを拾っているサッパーの姿があった。
気づいたらしく、慌てて顔を上げる――
「解けた……霊力が!」
「そう、吸収したの」
頭上から力いっぱい蹴りを食らわせて派手に転がす。サッパーはごろごろと床を滑っていったあと自力で起き上がった。受身を取ったらしい。
「ふ……」
ざっ!
と構えを取ってユネークに向き直るサッパー。
「んー……いいセンスだ。そろそろ本気を出していこうか」
「……まだ余裕があるみたいね」
ユネークも合わせて距離をとろうとしたとき――
ブンッ!
「何っ?」
虹色の閃光のようなものが、サッパーの右腕に直撃した。
「右手が……っ!」
即座に飛び退ってから理解する。今のは誰かがサッパーにとび蹴りを放ったのだ。その誰かが、今大きくトンボを切って部屋をゴムまりのように飛び回っていた。
ブンッ!
再び羽虫の大群のような耳障りな音が響いたかと思うと、今度は部屋の中央に鎮座していたオオガマが猛烈な衝撃を受けたように大爆発する!
「ぐぁぁぁあああ!」
間違いなくチルノのものだろう。それまででもっとも悲痛な叫びが部屋にこだました。
「ちぃっ。邪魔が入った、また会おう!」
混乱した戦場の端からサッパーの声が聞こえる。急いでそちらを見ると、視界の端に扉の向こうへ消えていく銀髪が映った。
乱入者はひとしきり室内を荒らしたあと、中央に立って虚空の一点を見つめている。逃げたサッパーは気にもしないようだ。
ユネークは乱入者の前に飛び出して鋭く声を上げた。
「あなたは!?」
「名前などない……」
ぼんやりとつぶやくその声には聞き覚えがあった。この部屋に入る直前に無線でアドバイスをくれた誰か……
見た目も記憶に引っかかるものがあった。長い赤毛に緑の民族衣装。帽子には星をかたどった金属板に龍の一字。
(どういうこと? 私がこの地味な妖怪を知っていることと、何か関係が!?)
地味だということははっきりと覚えていた。
ユネークは今見た内容を、じっくりと胸中で反芻した。と――
それまで意味を成さなかった情報の羅列が、ふっと的確な完成を見せる!
「そうよ、地味! あなたは確か竜料理! 食欲をもてあます」
「……」
「あれ、違った? 地味なのは覚えてるんだけど……」
「……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
乱入者は突然涙を流しながら、呆然と見送るユネークを尻目に正面の扉からどこかへと去っていった。
「……奴は一体……」
ぽりぽりと頭をかきながらつぶやくユネーク。またどこかで会いそうな気がした。
とりあえず、今は⑨だ。
ユネークは、オオガマの破片をもろに浴びてうつぶせに横たわるチルノのもとへと移動した。
「大丈夫?」
「うぅ……かつてないくらいひどい目にあったわ……」
べちょべちょになって全身真っ黒になっているため、落ちている鉄パイプを使ってつついて起き上がらせる。疲れきっているのか怒鳴り返す気力もないようだ。
「歩けそう?」
「何とか……」
「そう……食欲を持てあま――」
ピリリ!
プシュン。
『ユネーク!』
「くっ……私としても食欲をもてあましたかったのだけれど、残念だが先にしなければいけないことがある」
「何よ」
「秘蔵レシピについて知りたい」
「え、あのレシピ帳? さっきの危ないメイドが熱心に研究してるってのくらいしか知らないけど」
「そうか……それだけ?」
「あ、あとパチュリーってのがどうとか言ってるのを聞いた気がする」
「パチュリー……なるほど、図書館長」
考えてみれば、大図書館の資料を使うのは当然だ。
だとすると次に向かうべきはそこか……
「……もういい? いい加減帰って寝たいんだけど。わけわかんないのにつき合わされて疲れてんのよ」
プシュン。
ユネークはさりげなく通信を切ると、チルノの進路をふさぎながら告げた。
「チルノ、いや、⑨。もういちど食欲をもてあます」
「は? ……いや、ちょっと待っ」
……ヒィユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥイィッ!
……もしゃもしゃもぐもぐ。
ごっくん。
「また食べたいわぁ」
ピリリ……ピリリ……
プシュン。
『馬鹿者ぉ! 何てことをしてるの!』
『ユネーク様、もうやめて!』
『変態』
『いやぁぁぁぁあああ! チルのんんんんー!』
例によって騒がしい司令室。
ユネークももう慣れてきたので、適当に右から左へと流しながしながら部屋を後にする。
「そういうことで大佐。次は大図書館に向かうわ」
『先に言っておきますけどね、食べちゃダメよ!』
「あーはいはい、分かった分かった」
楊枝で歯のスキマをいじりつつ返した。敵がいないことを確認すると、廊下に置きっぱなしだったダンボール箱を持ち上げる。
「……それでは、任務に戻る」
がぽっ。
再びダンボール箱に身を包んだユネークは、紅魔館の暗がりの中を大図書館目指して走っていった……
続く。
勘違いしないで欲しい!私は…サクヤメイド長だっ