Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

二人っきりの病室で

2006/03/09 09:38:25
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※この話は創想話投稿の「紅魔館の人々 胸の話 前編」とちょっと繋がってますが、別にそっちは読んでなくても大丈夫です。



あらすぢ
小町が八つ当たりで咲夜さんに滅多差しにされて三途の川に流され「ぼく、ドザエもん」になりました。
で、その後発見されてあの世病院に緊急入院しました。




『二人っきりの病室で』




「う゛ー」
 静かな室内にごりごりと林檎の皮を剥く音が小さく響く。
「う゛ーー」
 ストーブの上では薬缶がゆるゆると湯気を上げて、窓の外を冬場の冷えた風が吹き抜けていった。
「う゛ーーー」
「小町、気持ちはわかるけどもう少し静かにしなさい。ここは病院なのだから」
 ベッドの上で呻きながらミイラのようになって横たわるのは、この前三途の河原で通り魔に穴だらけにされた小町。
 仰向けに横たわる彼女は、何とも情けない声を上げながら静かに白いシーツに横たわっていた。
「まったく……あの娘にも困った物ですね……」
 林檎の皮を剥ききって小さなまな板の上で林檎を半分に切る映姫は、脳裏にあの人間らしくもない裁くにも七面倒くさい少女の姿がよぎる。
 八割りにした林檎の芯を切り取りつつ、はぁ、また仕事してないって言われる……とぼやいた映姫は、皿の上に花のように林檎を並べて楊枝を刺し、小町の方に差し出した。
「……映姫さまぁ゛、これうさぎじゃないー……」
 食べなさい、と差し出された林檎は薄黄色一色の剥き身。
 それはもう神経質なまでに一片の皮も残さず剥ぎ取られていて、というかどこまで皮と認識して剥いたのだろうかと問いたくなるような剥き方で切られた林檎は、ほっそりと情けない姿を楊枝の上で晒していた。
「……てゆーか剥くのへたでうね」
 喉に傷の入った声がそんなことを呟けば、映姫は目の笑ってない笑顔を浮かべて、良いから食べなさい、と小町の口に林檎を一切れ押し込む。
「うぼぁー!」
 弱った喉に林檎が詰まった。


「あ゛ー……三途の川を同僚に渡ざれかけまひたよー」
 いくら渡し慣れていても渡されるのはまっぴらだ。
 掃除機を口に突っ込まれた小町は何とも疲れた顔をして、看護婦さんに怒られてしょんぼりする映姫の頭に手を乗せそう呟く。
「……私としたことが……少々頭に血が上ってしまいました……」
 そう言って小さく縮こまる映姫はいつもにまして小さくて、小町はそこまでされるとどうにも居たたまれなくなって頭に回した手をずらし、映姫の頭を胸元に引き寄せる。
 あ、と弱々しい声が上がって小町の胸に小さな頭が埋まり、噛みつぶしたような呻きがごく僅かに漏れた。
「んむっ!こ、小町!?」
 思わず声を荒げて問いかける映姫に小町はにへらと笑って、大丈夫へすよ、と返し、ゆっくりと小さな後頭部を撫でた。
「あの世印の薬れ傷は全部閉じてますひね。ちょと中は痛いれすけど」
 そう言って彼女はもう片手で包帯の一部をずらして新しい皮膚まで出来はじめている傷跡を僅かに覗かせる。
 それでも中は未だ痛むのだろう、柔らかな胸元に埋もれた映姫の頭が藻掻くたび、彼女の頬が僅かに引きつるのを映姫は見逃さなかった。
「もうっ……無理はしないように。あなたが居ないと本当に仕事にならないのですから」
 そんな彼女の優しさに、だから映姫は眉を顰めて少し呆れるように声を返してしまう。
 小町は静かに声を上げて笑って、映姫はゆっくりと頭を回してなるべく負担にならないように体をずらした。
 二人はそしてしばし無言になる。
 優しく頭を撫でる指にさらさらの髪が小さな音を立て、僅かな衣擦れに混じって消えていく時間。
 冬の風が窓を揺らして、薬缶の蓋はごく静かに踊る。


「そういえは映姫さは、仕事はどーなってるんれす?」
 不意に小町が珍しいことを言うと、映姫は居眠りを咎められたようにびくりと跳ね起きて少し慌てたように返事を返した。
「え、ええ、その事についてはそう心配はありません」
 跳ねられて少し痛んだ小町は堪えても僅かに顔をしかめて、言いかけた映姫は、あ、と情けない声を上げる。
 小町は小さく咳き込んで、気にしらい気にしらい、と小さく笑う。
 すると映姫はまた少ししょんぼりとした顔になって、しかしこくりと頷くと、話をそらすように言葉を続けた。
「元々ここの区域はたった一人の死神があなたのような勤務態度でも問題が出ないような地域だもの、花の異変でも起こらない限り一月休んだって大丈夫よ」
 弱々しく微笑んで言うと、小町はそれに笑い返して、へぇ、じゃあもっとさぼっても大丈夫なんれすね、と陽気に声を返す。
「あなたがあれ以上サボったら三年寝太郎を上回ります!」
 映姫が反射的にそんな言葉を返すと小町は少しがんばって笑い、そうそう、映姫さまはそーれなきゃ、とその頭をおもむろに胸元に引き寄せた。
「きゃん!?」
 またもや胸にぱふりと押しつけられた映姫は思わず声を上げて、小町は、それ私の台詞ですよぉ、とからかうように頭を撫でる。
 もう、と膨れた映姫の下で、小町は感慨深げに口を開く。
「そーれすよねぇ……ここはすごく平和れ……三つ隣ろ区域じゃ死神がまた増員したっへ聞きましたしれぇ」
 呟いた小町の脳裏にはこの前の忘年会でみた、死神らしく骨じみた体になるまで働いてヒイヒイ言っていた同僚達の姿が浮かぶ。
「あぁ……あそこは特にひどいと聞きますけど……」
 ああ、ここは本当にザナドゥ(楽園)なのだろうな。
 小さく窓ガラスが揺れて、クリーム色の壁に湯気が消えていく。
 映姫はおそるおそると優しい小町の胸に頭を預けた。


「……映姫さま?」
 小町が呟いてゆっくり頭を撫でると、ころりと転がる小さな頭を捕まえる。
「……はやくげんきになってね……」
 すると映姫はとろけたように唇から零した。
 疑問符を浮かべた小町が確かめると、彼女は確かに眠っている。
 寝言だ。
 何ともかわいらしい上司に彼女が思わず微笑むと、映姫は次いで、こんな寝言を口走った。

「それがいまのあなたにできるぜんこぉ……」

 思わず吹いた。
 看護婦さんに怒られた。
 あと、喉も痛かった。


 ああ、良い職場だわ。

コマザナドゥー
二人っきりと言いつつ看護婦さんも出てますが気にしない。
というか掃除機だの妙に文化じみてますが、これは場所が幻想郷じゃなくてあの世(幻想郷の三途の川の向こう)だから。
あの世は外とも繋がっていると言うか共通だろうと思われるので、今ある物は大体あるかと。
小町の台詞は誤字じゃなく喉の痛みから来る発音の不良。

たった一つの、暖かい空気に包まれた病室。
冬の世界と窓一つだけで繋がり、何もない世界にぽっかりそこだけが浮かんで優しい時間が流れているような、そんなイメージが作れていたらいいなぁ。
もそきよ
コメント



1.煌庫削除
いい関係だなぁもう。
2.ぐい井戸・御簾田削除
うおお、気になってたこまっちゃんの行方が!
あのまま渡ってなくてよかった…