*この作品は東方創想話に投稿したマヨヒガの来訪者のもう一つの終わりです。
*マヨヒガの来訪者を読んでいただいてからこちらをお読み下さい。
「この穴を通っていけば貴方がこちらに迷い込んだ周辺に出るわ」
紫さんが指し示す空間の裂け目の前に立つ。
振り返ると橙ちゃんは悲しそうに藍さんを服を握っていた。
俺は橙ちゃんに笑うと藍さんを見た。
「これを持って行くといい・・・お守りだ」
藍さんが小さな勾玉を渡してくれた。
「ありがとう・・・そしてさようなら」
俺は裂け目の中へ入ろうとする。
「白!」
俺は思わず立ち止まってしまった。
動け!俺の脚!ここで止まってしまっては・・・!
「行くな・・・行かないでくれ!」
俺が躊躇しているうちに藍さんが俺を抱きしめた。
「頼む・・・行かないでくれ・・・」
「泣いて・・・いるのかよ・・・」
背中に感じる藍さんの涙。
ゆっくりと湿り気を帯びて行く服。
「ここで分かれてしまったら・・・もう会えない・・・こんな事を言うのは卑怯だと思うが・・・お前が好きだ・・・!」
「・・・っ!」
動け!振り払え!頼む!動いてくれ!
俺の体を抱きしめる藍さんの力は凄く弱いものだ。
ほんの少し力を込めるだけでその束縛は解き放たれる。
だが体に力が入らなかった。
「ここに残ってくれ!頼む!」
動け!ウゴカナクテモイイジャナイカ・・・!動け!ウゴクヒツヨウナンテドコニアル・・・!ウゴケ!どこにおれがうごくひつようなんてあるんだ!ウゴケ・・・!そうだな、藍の方を向く為に動こうじゃないか!
俺の二つの意思が対立する。
しかし帰ると決心した意志はあっさり覆されてしまった。
・・・女の涙は最終兵器・・・なんてな・・・。
何処かの誰かが言ったような言葉を思いながらゆっくりと振り向く。
「藍さん・・・いや、藍・・・」
「なんだ・・・」
見上げる藍。
涙と恥ずかしさで真っ赤に染まった顔は見た瞬間に惚れさせるほどの威力だった。
・・・最もこれを見る前から惚れていたがな・・・。
「俺の一生を奪うつもりなんだな?」
「そのつもりだ・・・私は九尾狐だ・・・男を魅了して何が悪い・・・」
やれやれ・・・こいつは現代の玉藻御前か?
それとも妲己だろうか?
まあ俺にとってはどっちでもありどっちでもない・・・か。
こいつは八雲藍。
俺の一生を奪う女・・・なんてな。
「いいぜ・・・何百年も年下な男でよければこの一生、お前に捧げてやろう」
「・・・女の前で年齢の事を言うのはデリカシーに欠けるぞ・・・」
「そう文句言うな。長い付き合いになりそうなんだからよ」
これもまた自分で選んだ道だ。
後悔はしないさ。
「木嶋白改め八雲白って所か・・・」
「あら?橙ですらまだ名乗っていないのだから当分名乗らせないわよ?」
「お手柔らかに頼むぜ」
こうして俺は紫さん・・・いや紫様の新たな式となった。
「白~、橙を知らないか~?」
「いや?どうしたんだ?」
居間で本を読んでいた俺に藍が声をかける。
良く見ればその腹部は若干膨らみを帯びている。
「いやお使いを頼もうと思っていたのだが・・・」
「俺が行って来よう。本は何時でも読めるしな」
「そうか、すまんな」
「気にするな。夫婦だろ?」
一瞬で真っ赤になりながらも嬉しそうに微笑む藍に送られつつ買い物へと行く。
母になったせいなのか前はこんな事を言うと恥ずかしそうに怒るのだったが今では落ち着いたものだ。
うーむ俺としてはツンデレもすてがt・・・げふんげふん。
そんな妄想をかき消すとフワリと空へ浮かび上がる。
式になってからそろそろ1年が経過しようとしているが空はまだゆっくりとしか飛べない。
まあ気を操る事は大分できるようになったから多少なら弾幕も作れるようになってきた。
「・・・最近蜜柑の消費量が増えてきたな・・・」
見事に妊娠の症状が出ている。
今日の買い物メモにも蜜柑と書かれている。
「しっかしまあなんとも・・・言いがたい気分だねえ」
一人呟きながら人里にある八百屋へとやってきた。
「おういらっしゃい!奥さんの体調はどうだい?」
くぉ~・・・言わないでくれ~・・・。
しかも威勢がよすぎるぞ八百屋のオヤジ!
「あ~・・・とりあえず良好です・・・後これ下さい・・・」
「まいど!今度蜜柑一箱サービスしましょうか?」
ありがたいが・・・あ~・・・もう・・・むず痒い・・・。
みょんな気分になりながら帰る羽目になった。
む・・・何かと指南を依頼していたら口調が移ってしまったか・・・。
何分八雲家の弾幕は参考にしにくいからな。
同じ人間(?)な冥界の庭師に指南役を依頼したのだ。
おかげでみょんな・・・もとい妙な口調が移ってしまったようだ・・・。
「ただいま~」
「ああ、お帰り」
「お帰りなさ~い!」
どうやら買い物をしている内に橙も帰ってきていたようだ。
しばらく橙と遊んでいると紫様が起きてきた。
「珍しいですね。紫様が夕食前に起きるなんて」
「たまには私だって早起きするわよ?」
十分寝すぎだと思うが・・・。
「紫様、もう少しお待ち下さいね」
「焦らなくてもいいわよ。お腹に障るでしょ?」
なんでこっち見るんですか紫様!
夕食を終え、一息ついたら習慣になったマッサージを始める。
気を操れるようになったので直接揉むのと気を送る事を行っている。
「体の方は大丈夫か?」
「ああ、幸いつわりもさほど酷くはないし大丈夫だ」
味覚変化だけはしょうがないだろうがな。
「橙、そこよそこ」
「ここだね~」
大分上手になった橙が紫様の肩を揉んでいる。
こちらは藍の肩から背中にかけて気を送る。
気功メインにする事でうつぶせにする事を避けているのだ。
一通り気功を終えると夜風に当たる為に廊下へ出た。
空を見上げるとやはり満天の星空だ。
「どうした?」
「夜風はあまり子供に良くないぞ」
廊下へとやってきた藍を気遣う。
「少しぐらいなら問題ない」
「そうか・・・」
再び視線は星空へと向く。
「・・・向こうが気になるか?」
「・・・気にならないと言えば嘘になるな」
視線は夜空に向けたまま、意識は藍に向ける。
藍は悲しそうな顔をしていた。
「・・・やはり私が引き止めてしまった事が・・・」
「藍が気にする事じゃないさ」
今度は視線も藍へ向ける。
「後悔しているのだろ?ここに残った事を・・・」
「もし・・・向こうに帰っていたとしても。結局後悔はあったさ・・・」
「え?」
藍が聞き返す。
「人間ってのはね。絶対に後悔せずに生きていく事は無理なんだよ。俺で言えばあの時帰っていればと今後悔している。けれども帰っていれば確実に帰らなければと後悔しているはずさ」
「なぜだ?」
「お前に惚れてたからだよ」
尋ねてくる藍に真っ赤になりながら答える。
それでもなお納得していなさそうな顔をする藍。
「選んでしまった過去は変えれない。ならば今ある後悔を幸せで相殺すればいい。違うかい?」
それを聞いた藍は微笑んだ。
「・・・そうだな」
藍はゆっくりと腹部を撫ぜる。
そこには今ある後悔を相殺してなお余るであろう未来が住んでいるのだ。
終わり。
*マヨヒガの来訪者を読んでいただいてからこちらをお読み下さい。
「この穴を通っていけば貴方がこちらに迷い込んだ周辺に出るわ」
紫さんが指し示す空間の裂け目の前に立つ。
振り返ると橙ちゃんは悲しそうに藍さんを服を握っていた。
俺は橙ちゃんに笑うと藍さんを見た。
「これを持って行くといい・・・お守りだ」
藍さんが小さな勾玉を渡してくれた。
「ありがとう・・・そしてさようなら」
俺は裂け目の中へ入ろうとする。
「白!」
俺は思わず立ち止まってしまった。
動け!俺の脚!ここで止まってしまっては・・・!
「行くな・・・行かないでくれ!」
俺が躊躇しているうちに藍さんが俺を抱きしめた。
「頼む・・・行かないでくれ・・・」
「泣いて・・・いるのかよ・・・」
背中に感じる藍さんの涙。
ゆっくりと湿り気を帯びて行く服。
「ここで分かれてしまったら・・・もう会えない・・・こんな事を言うのは卑怯だと思うが・・・お前が好きだ・・・!」
「・・・っ!」
動け!振り払え!頼む!動いてくれ!
俺の体を抱きしめる藍さんの力は凄く弱いものだ。
ほんの少し力を込めるだけでその束縛は解き放たれる。
だが体に力が入らなかった。
「ここに残ってくれ!頼む!」
動け!ウゴカナクテモイイジャナイカ・・・!動け!ウゴクヒツヨウナンテドコニアル・・・!ウゴケ!どこにおれがうごくひつようなんてあるんだ!ウゴケ・・・!そうだな、藍の方を向く為に動こうじゃないか!
俺の二つの意思が対立する。
しかし帰ると決心した意志はあっさり覆されてしまった。
・・・女の涙は最終兵器・・・なんてな・・・。
何処かの誰かが言ったような言葉を思いながらゆっくりと振り向く。
「藍さん・・・いや、藍・・・」
「なんだ・・・」
見上げる藍。
涙と恥ずかしさで真っ赤に染まった顔は見た瞬間に惚れさせるほどの威力だった。
・・・最もこれを見る前から惚れていたがな・・・。
「俺の一生を奪うつもりなんだな?」
「そのつもりだ・・・私は九尾狐だ・・・男を魅了して何が悪い・・・」
やれやれ・・・こいつは現代の玉藻御前か?
それとも妲己だろうか?
まあ俺にとってはどっちでもありどっちでもない・・・か。
こいつは八雲藍。
俺の一生を奪う女・・・なんてな。
「いいぜ・・・何百年も年下な男でよければこの一生、お前に捧げてやろう」
「・・・女の前で年齢の事を言うのはデリカシーに欠けるぞ・・・」
「そう文句言うな。長い付き合いになりそうなんだからよ」
これもまた自分で選んだ道だ。
後悔はしないさ。
「木嶋白改め八雲白って所か・・・」
「あら?橙ですらまだ名乗っていないのだから当分名乗らせないわよ?」
「お手柔らかに頼むぜ」
こうして俺は紫さん・・・いや紫様の新たな式となった。
「白~、橙を知らないか~?」
「いや?どうしたんだ?」
居間で本を読んでいた俺に藍が声をかける。
良く見ればその腹部は若干膨らみを帯びている。
「いやお使いを頼もうと思っていたのだが・・・」
「俺が行って来よう。本は何時でも読めるしな」
「そうか、すまんな」
「気にするな。夫婦だろ?」
一瞬で真っ赤になりながらも嬉しそうに微笑む藍に送られつつ買い物へと行く。
母になったせいなのか前はこんな事を言うと恥ずかしそうに怒るのだったが今では落ち着いたものだ。
うーむ俺としてはツンデレもすてがt・・・げふんげふん。
そんな妄想をかき消すとフワリと空へ浮かび上がる。
式になってからそろそろ1年が経過しようとしているが空はまだゆっくりとしか飛べない。
まあ気を操る事は大分できるようになったから多少なら弾幕も作れるようになってきた。
「・・・最近蜜柑の消費量が増えてきたな・・・」
見事に妊娠の症状が出ている。
今日の買い物メモにも蜜柑と書かれている。
「しっかしまあなんとも・・・言いがたい気分だねえ」
一人呟きながら人里にある八百屋へとやってきた。
「おういらっしゃい!奥さんの体調はどうだい?」
くぉ~・・・言わないでくれ~・・・。
しかも威勢がよすぎるぞ八百屋のオヤジ!
「あ~・・・とりあえず良好です・・・後これ下さい・・・」
「まいど!今度蜜柑一箱サービスしましょうか?」
ありがたいが・・・あ~・・・もう・・・むず痒い・・・。
みょんな気分になりながら帰る羽目になった。
む・・・何かと指南を依頼していたら口調が移ってしまったか・・・。
何分八雲家の弾幕は参考にしにくいからな。
同じ人間(?)な冥界の庭師に指南役を依頼したのだ。
おかげでみょんな・・・もとい妙な口調が移ってしまったようだ・・・。
「ただいま~」
「ああ、お帰り」
「お帰りなさ~い!」
どうやら買い物をしている内に橙も帰ってきていたようだ。
しばらく橙と遊んでいると紫様が起きてきた。
「珍しいですね。紫様が夕食前に起きるなんて」
「たまには私だって早起きするわよ?」
十分寝すぎだと思うが・・・。
「紫様、もう少しお待ち下さいね」
「焦らなくてもいいわよ。お腹に障るでしょ?」
なんでこっち見るんですか紫様!
夕食を終え、一息ついたら習慣になったマッサージを始める。
気を操れるようになったので直接揉むのと気を送る事を行っている。
「体の方は大丈夫か?」
「ああ、幸いつわりもさほど酷くはないし大丈夫だ」
味覚変化だけはしょうがないだろうがな。
「橙、そこよそこ」
「ここだね~」
大分上手になった橙が紫様の肩を揉んでいる。
こちらは藍の肩から背中にかけて気を送る。
気功メインにする事でうつぶせにする事を避けているのだ。
一通り気功を終えると夜風に当たる為に廊下へ出た。
空を見上げるとやはり満天の星空だ。
「どうした?」
「夜風はあまり子供に良くないぞ」
廊下へとやってきた藍を気遣う。
「少しぐらいなら問題ない」
「そうか・・・」
再び視線は星空へと向く。
「・・・向こうが気になるか?」
「・・・気にならないと言えば嘘になるな」
視線は夜空に向けたまま、意識は藍に向ける。
藍は悲しそうな顔をしていた。
「・・・やはり私が引き止めてしまった事が・・・」
「藍が気にする事じゃないさ」
今度は視線も藍へ向ける。
「後悔しているのだろ?ここに残った事を・・・」
「もし・・・向こうに帰っていたとしても。結局後悔はあったさ・・・」
「え?」
藍が聞き返す。
「人間ってのはね。絶対に後悔せずに生きていく事は無理なんだよ。俺で言えばあの時帰っていればと今後悔している。けれども帰っていれば確実に帰らなければと後悔しているはずさ」
「なぜだ?」
「お前に惚れてたからだよ」
尋ねてくる藍に真っ赤になりながら答える。
それでもなお納得していなさそうな顔をする藍。
「選んでしまった過去は変えれない。ならば今ある後悔を幸せで相殺すればいい。違うかい?」
それを聞いた藍は微笑んだ。
「・・・そうだな」
藍はゆっくりと腹部を撫ぜる。
そこには今ある後悔を相殺してなお余るであろう未来が住んでいるのだ。
終わり。