Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

カラスが刺さった妹紅の話

2006/03/07 10:48:23
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 何かが頭に刺さったと思ったらカラスだった。
そいつはご自慢の嘴をシャッキリ立てて、藤原妹紅の額に突き刺さっている。
よくわからないが、上目遣いに見てみると殺気は感じられない。あったらあったで困るが、とにかく無い。
妹紅は困った。
いっそ引っこ抜いて追い払おうかと思ったが、カラスはなんだか居心地が良さそうなので放っておくことにした。
とりあえず今はタケノコ取りに専念しよう、と、再びしゃがみ込む妹紅。

それが三日前であり事の発端。




それから四日目。
目下の問題は寝返りが打てないことだ。
うっかりごろんと転がってしまったらカラスの嘴がねじれて妹紅の頭をほじくりそうで、それはとても危険である。
死にはしないが頭は特別イヤだ。
いい加減煩わしいので本格的に抜いちゃおうかとも考えたが、そういうつもりで手を伸ばすとカラスがカラスとも
思えぬほど強烈なメンチを切る(気がする。目は合わせられないが)ので、それも不可。
飢えて死なれても気分が悪いので自分の食事を嘴の隙間に押し込んでやる。
糞のときは、出すよとばかりに尾羽をヒクヒク動かすので対応しやすい。頭のいいカラスだと妹紅は思った。



五日目。
カラスに対し、慧音は変な顔をした。
何があったんだと問いたがるが、カラスが刺さってしまったということ以上に何の説明もできないのでただ単純に
『刺さった』とだけ告げてあとは黙ると、慧音はさめざめと泣き出した。グレてしまったのかと思われたのだろう。
妹紅は慌てて自分はグレてないと弁解した。何せ本当に唐突に刺さってしまったのだからしょうがない。
我が物顔で妹紅の額に刺さっているカラスの姿勢はいつものようにピシッとしていた。
誤解を解くのに30分ほど要した。
それからは二人と一羽でとりあえず夕食を食べた。



六日目。十五夜だった。
満月の夜には慧音に立派な角が二本生える。
妹紅にはカラスが一羽生えている。
二人並ぶとこれはこれでなかなか壮観だが、時折ピクリとカラスの尾羽が動くので緊張感はちょっと無い。



七日目。
時折興奮すると翼をバタバタ動かすことがあるので妹紅は困った。派手に動かれると嘴がねじれて痛い。
だから何の気なしにやめて欲しいと伝えてみたらそれぎりぱったりやらなくなったので驚いた。
話しかけると反応することが判明。相槌を打つように尾羽をもいもいと動かすのだ。ヒクヒクするときは脱糞警報。
翼は萎えてしまわないよう確認するために少し動かす程度で、前のように激しくなることは無くなった。
話し相手が出来た。



八日目。
庵の裏にある畑で農作業をする。
腕で汗を拭うと、眼前に羽が舞い降りた。カラスが落としたものらしい。
見上げると、こいつで拭えと告げている(腹が)。
たまたま手拭も忘れてしまったし厚意を無にするのもなんだから、妹紅はカラスの羽で汗を拭いた。
慧音が差し入れに水と饅頭を持ってきたので一緒に食べた。



九日目。
カラスの元気が急になくなった。話しかけても反応が薄い。
すわ、病気か、と思ったが、カラスはそれでも心配するなと言いたげに羽を動かす。
それならばと、少し気に掛けながらもその日は眠りについた。



十日目。
朝起きたら頭にかかる嘴の重みが増していることに気付いた。
カラスがぐったりしていた。
妹紅は大慌てで庵を飛び出す。どこに行けばいいのかわからない。
ふと竹林の向こうに目をやった。癪に障るが、あの薬師ならなんとかできるかもしれない。
そう思うのと永遠亭の方角に突っ込むように飛んだのはほぼ同時だった。

藤原妹紅が突っ込んできたのだ。イナバ達が迎撃体勢に入るのは当然だった。
しかしそんなものが妹紅の視界に入っている筈はない。イナバ達を疾風怒濤の勢いで吹き飛ばし突き進むが、問題の
薬師がどこにいるのかわからない。妹紅は立ち止まる。
服の裾にイナバが一匹引っかかっているのに気付いた。
他の者達とは違った服装をしているそいつは、確か薬師の弟子だか何だかであった筈だ。
きゅうと気を失っているそのイナバを張り手連発で叩き起こす。
頬を真っ赤にし、ビックリして目覚めたイナバに薬師の居場所を聞くが教える事はできないという。
襲撃に来たと思ったのだろうか。
事情を説明するのも面倒くさいので足の裏をくすぐり続けたら余りに効いたらしく泣き出した。
薬師はどこだ、答えなければ次は脇腹だ、と脅す妹紅。
イナバは息も絶え絶えになって薬師の居場所を吐いた。
妹紅は奥座敷に飛んだ。

輝夜がいた。
目が合った瞬間ニヤニヤしながら仕掛けてきたのでグーパンチ全力でぶっとばした。
エンカウントから3秒足らず。今まででも最短に近い決着である。

薬師――永琳は面食らった様子で妹紅を迎えた。無理もあるまい。
主の宿敵が突如額にぐったりしたカラスを突き刺して殴り込んできたのだ。
それも必死な表情で、カラスの様子がおかしい、見てくれと言う。
何がなんだか状況を飲めなかったが、診てくれというのなら医者として断るわけにはいかない。

いつからあったのだろう、カラスの右翼の裏に竹の破片が刺さっていたのだ。
傷口自体はそう酷いものでもなかったが、まったく処置をせず放っておいたようで、化膿していた。
永琳は破片を抜き、刺傷と化膿によく効く薬を塗って包帯を巻いた。

妹紅は永琳に礼を言い、傷に気付けなかった己を恥じて、何度もカラスに頭を下げた。
それに伴ってぶいぶい揺れるカラスの体は、気にするなと言っているように思えた。

輝夜がニヤニヤしながら覗いていたので蹴っ飛ばした。



十一日目。
慧音がやってきて、カラスの包帯に目を丸くした。
なあにちょっと怪我をしただけさと言う。カラスも首肯、いや尻肯する。
慧音はそれで納得し、手に持っていたものを出した。村人達の作った大根だ。
彼らの作る野菜は実にうまい。これを食えば元気が出るぞと妹紅は笑った。
それに応えてカラスは尻尾を動かす。感触が心地よかった。



十二日目。
いつものように農作業をしていた日。
風の強い日だった。
作業も一段落つき近くに切り株に座り込んだとき、ひときわ強い風が吹いた。

止んだと思ったとき、そこには少女がいた。

黒髪に、幻想郷には珍しいカメラ。
知っている。烏天狗のブン屋、射命丸文だ。
また何かの取材かと思って、ネタは無いから帰れと妹紅は言う。
だが文は、今回は違うんですと言う。
視線は妹紅の額のカラスに注がれていた。

どうやらカラスは文の相棒だったらしい。
ちょっと喧嘩をやらかして、家出してしまったのだそうだ。今までずっと探していたのだという。
カラスはつんとしているが、どうやら文に対する怒りは残っていないようだった。
文は妹紅やカラスに何度も謝って、額から、カラスをずこっと抜いた。急に軽くなった。
カラスは名残惜しいんだか決まりが悪いんだか、どうにも妙な視線を妹紅に送る。

行きなよ、と妹紅は言う。
そこがあんたの帰る場所なんだから、と。

夜。寝返りはいくらでも打てた。
眠らなくてはならないのに、いやに寂しくて、何度か外に出た。
もしかしたら、近くを飛んでいるかも知れないと思ったのだ。勿論そんな筈はなかった。
カラスは明日にでも、相棒の文と共に幻想郷を駆け抜けるのだ。





妹紅は前髪を短く切った。
長く伸ばした後ろ髪と、ちょっとアンバランスなほどに。
なんでまた前髪だけをと慧音が問う。

またいつでも遊びに来れるように、と妹紅は答えた。
ほのぼのを書くつもりがよくわからないものが出来上がっていました。
たまにはこういうのもいいと思いたい。
位置
コメント



1.名無し妖怪削除
いいと思います。
2.名無し妖怪削除
こういう話は大好きです。
3.名無し妖怪削除
とんでもない勢いで和んだ。上手いなぁ。
4.A削除
じっくりしっかりと和みました。
5.名無し妖怪削除
ほのぼのでいいですね~。なぜか読んでる間額がむずむずしましたが。
6.削除
もこたんが反抗期につД`)(違
7.削除
ほのぼのはしてるんだ。それは間違いない。
ただ……原因の分からないみょんな違和感があるだけなんだ。
8.名前もない削除
そうだ、髪を切りに行こう。
9.はむすた削除
うわぁ、いいなー、面白い。
慧音の反応がテラカワイイっす。
10.rock削除
最高です。何かこう、心が癒される。
11.no削除
とんでもない方向から切り込んでいるのに、
このさわやかな読了感は何事だろう?
12.ぱるー削除
うん。読み終えた後が凄くいい感じ。
ごちそうさまでした。
13.削除
一種の天才を見た
14.まっくす削除
いいなあ。腹の底からいいなあと感じます。
15.爪影削除
温かくて、美味しゅうございました。
16.床間たろひ削除
タイトルと冒頭に騙されたw
いやぁ、うん、面白いw
17.名前が無い程度の能力削除
ギャグだと思ったら最後に良い話にするなんて!