私の名前は魂魄妖夢。
ここ、幻想郷を離れた(と思われる)冥界の白玉楼にて庭師やっています。
……いや、実際の職業は庭師じゃないんですが、もう最近じゃ、そっちのがメインになりつつあるのが何とも悲しいやら情けないやら。
だって、私が悪いわけじゃないんですもん。文句を言おうにも言えないこの環境が悪いんです。っていうか、私が文句なんて言うと思いますか?
そりゃー、私が仕えている主人である、ここ白玉楼の主、西行寺幽々子さまは、ええ、ええ、もう何とも言いがたい人ですよ。自分勝手でゴーイングマイウェイで天然でおっとりぽややんさんで、そんでもって無自覚にとんでもないことやらかしてくれて謝りもしなければそれをマイナスに感じることもないという、何とも平和な思考回路をしておられる方なのです。
……まぁ、しっちゃかめっちゃかに言いましたけど、こんな人でも、私にとっては敬愛する主人なわけでして。
「今夜の晩ご飯もぉ、とぉっても美味しかったわぁ」
「ありがとうございます」
かちゃかちゃと、器やらお膳やらを下げながら、私。ちらりと視線をやれば、『私、とっても満足しています』というお顔の幽々子さま。ああ、もう、年頃の女性が……って、幽々子さまが実際にいくつなのかは知りませんけど、ともあれ、口の周りにご飯粒つけたままでにこにこしないでください。
「お茶とお菓子はぁ、まだかしらぁ?」
「あ、も、申しわけありません。今すぐに」
「うん、急いでねぇ」
これだけ食べてまだ食べたりないのだろうか。
つくづく思うんだけど、私って、どうしてこんなにたくさんの料理を毎日毎日作っているんだろう。そして、幽々子さまの、あの細い体のどこにこれだけのご飯が入るんだろう。不思議でかなわない。
でも、文句を言っても詮無いことであるし、それに……まぁ、『美味しい』って言ってもらえるのは嬉しいからよしとしよう。
「では、今すぐお持ち致します」
「この前ぇ、紫が持ってきたぁ、おまんじゅうがあったでしょぉ? 一緒に食べましょうねぇ」
「あ、はい。……でも、よろしいのですか? 私はこれから……」
「いいのよぉ。たまにはぁ、妖夢もぉ、のぉんびりした方がぁ、いいわよぉ」
「……はい」
こういう事を言ってくれるから嬉しい。
日頃の、強制的な粉骨砕身滅私奉公の日々を忘れられる一時である。
「お腹も一杯になったしぃ、体も、お風呂であったまったしぃ」
「はい」
「それじゃ、寝ましょうかぁ」
「かしこまりました。お布団のご用意は……」
と、言葉を続けようとする私を、なぜか幽々子さまがぐいっと引っ張った。この人、細い体に大量の食事にプラスして、何だか妙に腕力が強いときがある。具体的に言うと、どこぞの一千万パワーのすごい人に匹敵するくらいの。
そのまま、ぐいぐいと引っ張られ、あれよあれよという間に連れて行かれたのは。
「えーっと……」
「さあ、寝ましょうかぁ」
ぽんぽん、と布団を叩いて、幽々子さま。
……えーっと。
「……あの?」
「なぁにぃ?」
「……これは?」
「一緒に寝ましょう、ってことよぉ?」
「はい!?」
思わず、オウム返しに叫んでしまった。だって、そりゃそうでしょう。私は従者ですよ? そして、幽々子さまは主人ですよ? そんな、主人と従者が一つの布団で寝るなんておかしくありませんか? 百歩譲って同じ部屋に寝るというだけで、もうすでに不敬の極みではないでしょうか。
「昔はぁ、妖夢がぁ、『ゆゆこさま、こわくてねられません』って泣きながら私の所に来たものよぉ?」
「うぐ……」
そんな過去があったのか。出来ることなら忘れたい、恥ずかしい思い出だというのか。
っていうか、やっぱり、自分の過去を知っている人には、どう間違っても頭が上がらないと思う。それ抜きにしたって……。
「でもぉ……」
ちょっぴり上目遣いで、困っている顔をしてやる。もちろん、演技なのですが。
そんな私を見て、幽々子さまがにっこりと微笑んだ。
「ほら」
「あ……」
ぐいっ、と手を引っ張られて。
バランスを崩して、私はそのまま幽々子さまの胸の中へ。
「そんなに遠慮しなくていいの。たまには甘えてもいいのよ」
「……た、たまには、って。わ、私は、確かに……その……半人前ですが。でも……やっぱり、成人……っていうのもおかしいんでしょうか? ね、年齢上は、ほら、私も……」
「こんなに、どこもかしこもちっちゃいままなのに?」
ぐっさ!
……わかってます。わかってるんです。悪気なんて欠片もないってことが。
でも……でもですね……私だって気にしてるんですよぅ……。なまじ、周りに、色々大きな人たちがいると……。幽々子さまにこっそりと隠れて、朝早くに配達される冥界牛乳(250ml)の一気飲みから始まり、バストアップ体操なんかの本を紫様に借りたり、藍さんに『胸が大きくなる料理』を学んだり……。
……しかし、相変わらず、育たないんですよねぇ。これ。扁平すぎます。フラットです。断崖絶壁どころか一直線ですよ。
「それに、たまには甘えてくれないと、私が寂しいもの」
「うぅ……」
やっぱり、ここは断ってはいけないのだろうか。
向けられる視線はどこまでも優しくて。ああ、もう、見つめているだけで涙が出そうになって。
思わず、ぎゅうっと、幽々子さまに回した手に力を込めてしまう。
柔らかくていい匂い……。
「そうそう。妖夢も、たまにはこんな風にしてくれると嬉しいわ。
いつもいつも迷惑ばかりかけちゃっているものね。何かであなたに還元してあげないと、私はあなたの主人としてやっていけないだろうし」
「そんなことないです……」
「ありがとう」
そっと、視線を上向きにしてみれば。
……一瞬で顔が赤くなるのがわかった。
自分でそれをごまかすために、幽々子さまの胸元に顔を埋める。ふかふかで、とっても柔らかくて、あったかい。あわされた寝間着の胸元に、うっすらと覗く白い素肌。それで、少しだけ視線を左右に向けてみれば、大きく盛り上がった柔らかな丘が見えて。布を押し上げるその形はきれいなお椀型。つんとなったその形を見ていると、ごくりと喉が鳴る。
「あら、どうしたの?」
「あ、い、いえ……」
「私のおっぱいに興味があるの?」
「そ、それは……」
いや、実際、見入ってしまったのは確かですが。
幻想郷って、上下の格差が激しいと思う。格差社会なんです、この世界は。下は私のような大平原から、上はまさに富士山クラス。そのうち、幽々子さまは……ん~……蝦夷富士くらい? 形もいいし、柔らかくて触り心地もいいし……。
……って、何考えてますか、自分。
「こんな風に触ってきたものよ? ちっちゃい時は」
「……ふぇっ」
変な声が出た。
幽々子さまが軽く服の前をはだけて、より露わになった白い乳房に、私の片手を、……ぽん、と。
「うあ、あ……あの……」
「お母さんのおっぱいが恋しかったのかしら。わからないでもないのよねぇ。紫も、何かそんなこと言ってたし」
どこか遠いものを見つめるような眼差しの幽々子さま。そして私はどうしたらいいんでしょう。
この、押し当てられた手の下には。悔しいけど、私の掌なんかじゃ収まりきらないほどに柔らかくて大きなそれは、ふにょっと形を変えていて。完全に、手が、体が硬直してしまっている。そのためなのか、感覚は掌に集中していて、幽々子さまの柔らかさ、そして、ちょっぴり特徴的な、あのつんつんとした堅さもまた……。
「乳房は女の母性の象徴なんですってね。妖夢にも、いつかはわかる時が来るのかしら」
ど、どうしよう……。
手を離そうにも、何か筋肉こわばっていて動かないし。握るわけにもいかないし。さりとて、この絶妙で微妙なふわふわ感はまた何とも……って、いや、待て、魂魄妖夢。とりあえず自分を取り戻せ。こんな状況に陥って、歓喜の極み……じゃない、ピンチの極みじゃないか。私の幽々子さまに対する忠誠のためにも、ここは断腸の思いで涙を呑んで……じゃないって!
「大きな大きな赤ちゃんね、妖夢は」
「そ、そんなことないですよぉ……」
「そう?
……まぁ、それをあなたが感じているのならいいわね」
着替えてきなさい、と私を解放してくれる。
私は顔を真っ赤にしたまま、とりあえず、その場を辞した。さて、これからどうしよう、と悩みながら。
「……別にいいよね」
結局、その誘惑には抗えない。と言うか、私だって幽々子さまが好きなんだし。あの方が『一緒に寝よう』と言ってくれているのなら、それに従って、そっと枕を並べさせてもらうのも、またいいものだ。断る方が不敬だ。
うん、そうだ。そうに決まってる。
「よし、それじゃ……」
「……あの」
「ね~んねんころ~り~よ~♪ ……って、どうしたの?」
「……こ、この扱いは……」
何で幽々子さま、寝間着の上を完全にはだけてますか。何で私はその谷間の中に顔を埋めてますか。生で柔らかくてあったかくて……あああああああっ!!
「こういう風にしてあげると、ちっちゃい頃はすやすや寝てたのよ?」
「い、今は違いますよぅ……」
「そう?」
「……うぅ……ちょっぴり否定出来ませんけど……」
両手はきっかり幽々子さまの胸の上。ずらそうとしたら怒られた。昔はこうしてたのよ、って。
……私は幼い頃は、よっぽどお母さんに甘えていた子供だったらしい。否定も出来なきゃ容赦もない。ふわふわ漂う半幽霊も、何かちょっぴり恥ずかしそうにしてるし。
この状況って、ある意味では天国です。ここは冥界でも天国です。
こんな風に、幽々子さまの優しい母性に触れられるのは私だけと思うと、これ以上ないほどの優越感です。出来ることなら、このまま、何か色々してみたくなっちゃうくらいです。でも、その『何か』って何?
……まぁ、それはともあれとして。
「寝てる間におっぱいに吸い付いてきたり。ちゅうちゅうって。
してみる?」
「……がふっ」
その光景をリアルに想像してみて、さすがにクリティカルダメージを受ける私でした。
ああ、もう、幽々子さま。あなた様の天然は最強です。そしてその胸部の武器も最強です。この私が受け身も取れず、もろに喰らいました。さすがにダウン確定です。起きあがれません。KOです。
……でも、何ででしょう。
この『人生勝ち組!』な優越感は。
「紫ぃ! 妖夢が! 妖夢がぁ!」
「あ~……すごい鼻血ね……。藍、ティッシュ。あと、永琳にもらってきた止血剤。あれ渡して」
「は、はい……。
……あの、一体何が?」
「うぅ~……ごめんねぇ、妖夢ぅ……。何をしたのかよくわからないけど、これからは何か気をつけるからねぇ……」
「……ふふ……うふふ……ゆゆこさまぁ~……」
「……なんか幸せそうなのよね、この子」
合掌。
ここ、幻想郷を離れた(と思われる)冥界の白玉楼にて庭師やっています。
……いや、実際の職業は庭師じゃないんですが、もう最近じゃ、そっちのがメインになりつつあるのが何とも悲しいやら情けないやら。
だって、私が悪いわけじゃないんですもん。文句を言おうにも言えないこの環境が悪いんです。っていうか、私が文句なんて言うと思いますか?
そりゃー、私が仕えている主人である、ここ白玉楼の主、西行寺幽々子さまは、ええ、ええ、もう何とも言いがたい人ですよ。自分勝手でゴーイングマイウェイで天然でおっとりぽややんさんで、そんでもって無自覚にとんでもないことやらかしてくれて謝りもしなければそれをマイナスに感じることもないという、何とも平和な思考回路をしておられる方なのです。
……まぁ、しっちゃかめっちゃかに言いましたけど、こんな人でも、私にとっては敬愛する主人なわけでして。
「今夜の晩ご飯もぉ、とぉっても美味しかったわぁ」
「ありがとうございます」
かちゃかちゃと、器やらお膳やらを下げながら、私。ちらりと視線をやれば、『私、とっても満足しています』というお顔の幽々子さま。ああ、もう、年頃の女性が……って、幽々子さまが実際にいくつなのかは知りませんけど、ともあれ、口の周りにご飯粒つけたままでにこにこしないでください。
「お茶とお菓子はぁ、まだかしらぁ?」
「あ、も、申しわけありません。今すぐに」
「うん、急いでねぇ」
これだけ食べてまだ食べたりないのだろうか。
つくづく思うんだけど、私って、どうしてこんなにたくさんの料理を毎日毎日作っているんだろう。そして、幽々子さまの、あの細い体のどこにこれだけのご飯が入るんだろう。不思議でかなわない。
でも、文句を言っても詮無いことであるし、それに……まぁ、『美味しい』って言ってもらえるのは嬉しいからよしとしよう。
「では、今すぐお持ち致します」
「この前ぇ、紫が持ってきたぁ、おまんじゅうがあったでしょぉ? 一緒に食べましょうねぇ」
「あ、はい。……でも、よろしいのですか? 私はこれから……」
「いいのよぉ。たまにはぁ、妖夢もぉ、のぉんびりした方がぁ、いいわよぉ」
「……はい」
こういう事を言ってくれるから嬉しい。
日頃の、強制的な粉骨砕身滅私奉公の日々を忘れられる一時である。
「お腹も一杯になったしぃ、体も、お風呂であったまったしぃ」
「はい」
「それじゃ、寝ましょうかぁ」
「かしこまりました。お布団のご用意は……」
と、言葉を続けようとする私を、なぜか幽々子さまがぐいっと引っ張った。この人、細い体に大量の食事にプラスして、何だか妙に腕力が強いときがある。具体的に言うと、どこぞの一千万パワーのすごい人に匹敵するくらいの。
そのまま、ぐいぐいと引っ張られ、あれよあれよという間に連れて行かれたのは。
「えーっと……」
「さあ、寝ましょうかぁ」
ぽんぽん、と布団を叩いて、幽々子さま。
……えーっと。
「……あの?」
「なぁにぃ?」
「……これは?」
「一緒に寝ましょう、ってことよぉ?」
「はい!?」
思わず、オウム返しに叫んでしまった。だって、そりゃそうでしょう。私は従者ですよ? そして、幽々子さまは主人ですよ? そんな、主人と従者が一つの布団で寝るなんておかしくありませんか? 百歩譲って同じ部屋に寝るというだけで、もうすでに不敬の極みではないでしょうか。
「昔はぁ、妖夢がぁ、『ゆゆこさま、こわくてねられません』って泣きながら私の所に来たものよぉ?」
「うぐ……」
そんな過去があったのか。出来ることなら忘れたい、恥ずかしい思い出だというのか。
っていうか、やっぱり、自分の過去を知っている人には、どう間違っても頭が上がらないと思う。それ抜きにしたって……。
「でもぉ……」
ちょっぴり上目遣いで、困っている顔をしてやる。もちろん、演技なのですが。
そんな私を見て、幽々子さまがにっこりと微笑んだ。
「ほら」
「あ……」
ぐいっ、と手を引っ張られて。
バランスを崩して、私はそのまま幽々子さまの胸の中へ。
「そんなに遠慮しなくていいの。たまには甘えてもいいのよ」
「……た、たまには、って。わ、私は、確かに……その……半人前ですが。でも……やっぱり、成人……っていうのもおかしいんでしょうか? ね、年齢上は、ほら、私も……」
「こんなに、どこもかしこもちっちゃいままなのに?」
ぐっさ!
……わかってます。わかってるんです。悪気なんて欠片もないってことが。
でも……でもですね……私だって気にしてるんですよぅ……。なまじ、周りに、色々大きな人たちがいると……。幽々子さまにこっそりと隠れて、朝早くに配達される冥界牛乳(250ml)の一気飲みから始まり、バストアップ体操なんかの本を紫様に借りたり、藍さんに『胸が大きくなる料理』を学んだり……。
……しかし、相変わらず、育たないんですよねぇ。これ。扁平すぎます。フラットです。断崖絶壁どころか一直線ですよ。
「それに、たまには甘えてくれないと、私が寂しいもの」
「うぅ……」
やっぱり、ここは断ってはいけないのだろうか。
向けられる視線はどこまでも優しくて。ああ、もう、見つめているだけで涙が出そうになって。
思わず、ぎゅうっと、幽々子さまに回した手に力を込めてしまう。
柔らかくていい匂い……。
「そうそう。妖夢も、たまにはこんな風にしてくれると嬉しいわ。
いつもいつも迷惑ばかりかけちゃっているものね。何かであなたに還元してあげないと、私はあなたの主人としてやっていけないだろうし」
「そんなことないです……」
「ありがとう」
そっと、視線を上向きにしてみれば。
……一瞬で顔が赤くなるのがわかった。
自分でそれをごまかすために、幽々子さまの胸元に顔を埋める。ふかふかで、とっても柔らかくて、あったかい。あわされた寝間着の胸元に、うっすらと覗く白い素肌。それで、少しだけ視線を左右に向けてみれば、大きく盛り上がった柔らかな丘が見えて。布を押し上げるその形はきれいなお椀型。つんとなったその形を見ていると、ごくりと喉が鳴る。
「あら、どうしたの?」
「あ、い、いえ……」
「私のおっぱいに興味があるの?」
「そ、それは……」
いや、実際、見入ってしまったのは確かですが。
幻想郷って、上下の格差が激しいと思う。格差社会なんです、この世界は。下は私のような大平原から、上はまさに富士山クラス。そのうち、幽々子さまは……ん~……蝦夷富士くらい? 形もいいし、柔らかくて触り心地もいいし……。
……って、何考えてますか、自分。
「こんな風に触ってきたものよ? ちっちゃい時は」
「……ふぇっ」
変な声が出た。
幽々子さまが軽く服の前をはだけて、より露わになった白い乳房に、私の片手を、……ぽん、と。
「うあ、あ……あの……」
「お母さんのおっぱいが恋しかったのかしら。わからないでもないのよねぇ。紫も、何かそんなこと言ってたし」
どこか遠いものを見つめるような眼差しの幽々子さま。そして私はどうしたらいいんでしょう。
この、押し当てられた手の下には。悔しいけど、私の掌なんかじゃ収まりきらないほどに柔らかくて大きなそれは、ふにょっと形を変えていて。完全に、手が、体が硬直してしまっている。そのためなのか、感覚は掌に集中していて、幽々子さまの柔らかさ、そして、ちょっぴり特徴的な、あのつんつんとした堅さもまた……。
「乳房は女の母性の象徴なんですってね。妖夢にも、いつかはわかる時が来るのかしら」
ど、どうしよう……。
手を離そうにも、何か筋肉こわばっていて動かないし。握るわけにもいかないし。さりとて、この絶妙で微妙なふわふわ感はまた何とも……って、いや、待て、魂魄妖夢。とりあえず自分を取り戻せ。こんな状況に陥って、歓喜の極み……じゃない、ピンチの極みじゃないか。私の幽々子さまに対する忠誠のためにも、ここは断腸の思いで涙を呑んで……じゃないって!
「大きな大きな赤ちゃんね、妖夢は」
「そ、そんなことないですよぉ……」
「そう?
……まぁ、それをあなたが感じているのならいいわね」
着替えてきなさい、と私を解放してくれる。
私は顔を真っ赤にしたまま、とりあえず、その場を辞した。さて、これからどうしよう、と悩みながら。
「……別にいいよね」
結局、その誘惑には抗えない。と言うか、私だって幽々子さまが好きなんだし。あの方が『一緒に寝よう』と言ってくれているのなら、それに従って、そっと枕を並べさせてもらうのも、またいいものだ。断る方が不敬だ。
うん、そうだ。そうに決まってる。
「よし、それじゃ……」
「……あの」
「ね~んねんころ~り~よ~♪ ……って、どうしたの?」
「……こ、この扱いは……」
何で幽々子さま、寝間着の上を完全にはだけてますか。何で私はその谷間の中に顔を埋めてますか。生で柔らかくてあったかくて……あああああああっ!!
「こういう風にしてあげると、ちっちゃい頃はすやすや寝てたのよ?」
「い、今は違いますよぅ……」
「そう?」
「……うぅ……ちょっぴり否定出来ませんけど……」
両手はきっかり幽々子さまの胸の上。ずらそうとしたら怒られた。昔はこうしてたのよ、って。
……私は幼い頃は、よっぽどお母さんに甘えていた子供だったらしい。否定も出来なきゃ容赦もない。ふわふわ漂う半幽霊も、何かちょっぴり恥ずかしそうにしてるし。
この状況って、ある意味では天国です。ここは冥界でも天国です。
こんな風に、幽々子さまの優しい母性に触れられるのは私だけと思うと、これ以上ないほどの優越感です。出来ることなら、このまま、何か色々してみたくなっちゃうくらいです。でも、その『何か』って何?
……まぁ、それはともあれとして。
「寝てる間におっぱいに吸い付いてきたり。ちゅうちゅうって。
してみる?」
「……がふっ」
その光景をリアルに想像してみて、さすがにクリティカルダメージを受ける私でした。
ああ、もう、幽々子さま。あなた様の天然は最強です。そしてその胸部の武器も最強です。この私が受け身も取れず、もろに喰らいました。さすがにダウン確定です。起きあがれません。KOです。
……でも、何ででしょう。
この『人生勝ち組!』な優越感は。
「紫ぃ! 妖夢が! 妖夢がぁ!」
「あ~……すごい鼻血ね……。藍、ティッシュ。あと、永琳にもらってきた止血剤。あれ渡して」
「は、はい……。
……あの、一体何が?」
「うぅ~……ごめんねぇ、妖夢ぅ……。何をしたのかよくわからないけど、これからは何か気をつけるからねぇ……」
「……ふふ……うふふ……ゆゆこさまぁ~……」
「……なんか幸せそうなのよね、この子」
合掌。
妖夢役は任せろ!
とりあえず妖夢そこどけ。どけよもう!
どいてようむ