Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

マッド・レシピ・ユユコ II

2006/03/05 03:30:20
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・ミッションレコード

 ある日、白玉楼に突如現れた紫は、幽々子に紅魔館潜入ミッションを要請する。目標は極秘裏に開発された新型レシピ帳の奪取だ。
 大佐(紫)、ナオミ(藍)、チェン(橙)、マスター(妖夢)の無線サポートをバックに、伝説の傭兵ユユコ=スネークは単身紅魔館へと立ち向かう。
 門番をボコボコにのし倒し、邪魔なメイド兵は仲間を呼ばれる前に胃袋へ。ユネークは無事に紅魔館内部への潜入を果たした。
 レーダーにより監禁されていたことが判明したミスティアを救出すべく急行したユネークは、必要な情報を引き出すと大佐の制止を無視してミスティアを飲み込んでしまう。
 大佐は怒りつつも、もう一人監禁されている民間人、チルノの救出を指示。ユネークは再び紅魔館の影を走り抜けるのだった……

   ■ ● ■

 ユネークは焦っていた――
「いたぞー!」
「侵入者だ! 誰か来てくれー!」
 くっ、見つかったか……!
 追いすがるメイド兵たちから逃れ、ユネークは死角を求めて館のあちこちを走り回っていた。
 運悪く移動中、出会い頭にメイド兵と接触してしまったのがまずかった。敵は瞬時に全方位弾でユネークと間合いを開けると、大量のメイド兵を呼び寄せてしまったのだ。その隙を与えず平らげてしまえばよかったといまさら後悔しても、もう遅い。
 ヒットアンドアウェイを徹底するメイド兵の練度は脅威だ。チームワークを感じさせる手際のよさで、ユネークは徐々に袋小路へと追い込まれていった。このままではいずれやられる……
 ユネークは一瞬包囲網から姿を隠せる廊下に飛び込むと、素早く周囲を見回し手近な物陰に身を隠す。この辺は管理用の通路なのか、やたらと乱雑に物が置かれているのに救われた。照明も薄暗く、敵の目をくらますには好都合だ。
 ちょうど身体を押し込んだところにダンボール箱があった。……ユネークは何か本能が囁きかけるような直感に従って、ダンボール箱の中に身を隠す。
 そして石のように固まりながら素早く無線を呼び出した。
 ピリリ……ピリリ……
 プシュン。
「こちらユネーク。大佐、まずったわ」
『ユネーク、状況は?』
「現在確認できるだけでも八名のメイド兵に包囲されている。大佐、このままでは丸呑みに出来ない! 大至急火力支援を要請するわ!」
『火力支援……了解、変態を送る。何とかして逃げ切るのよ』
「分かった」
『いや、あの、紫様……? 変態というのは――そ、そこでなぜ私を見』
 プシュン。
 ナオミの声を最後に、スキマ通信が途絶える。
 そうこうしている間にもメイド兵が包囲の輪を縮めているようだった。油断なく腰ダメに弾幕を撃ち出す姿勢を維持しながら、常にツーマンセルで廊下をクリアリングしていく。廊下の両端から中央にかけて埋めていく格好だ。ユネークはそういった敵の動きをダンボール箱の取っ手部分から確認していた。
 見つかるのは時間の問題だった。ユネークは額にじっとりと汗を感じつつ(もちろん幽霊なので錯覚だが)何らかのアクションが起こされる時を待った。
 それから数秒も待たず、遠くから、
「……ぁぁぁぁぁぁあああああッッ……」
「…………?」
 メイド兵がそろって頭上に疑問符を浮かべる。
 だが突然現れた謎の物体は、そんな彼女らの困惑などお構い無しに右から左へとすっ飛んでいった。ものすごい勢いで――
「……ッッッッッパテンコォォォォォオオオオオ!!」
「きゃあああ!」
 メイド兵ごと巻き込み、不気味に回転する謎の物体は廊下を理不尽な軌道で駆け抜ると、余勢を駆って曲がり角を信じられない鋭さでカーブしどこかへと消えていった。
 いや、周辺へカバーに回ったメイド兵たちをなぎ倒しているのだろう、断続的に悲鳴が聞こえる。
 ユネークは鋭い眼光で付近の安全を確認すると、ダンボール箱をかぶったまま中腰にその場を離れた。足の生えたダンボール箱は傍目に見ればかなりシュールというか異様だろうが、気にしない。
 ピリリリ……ピリリリ……
 プシュン。
「大佐、助かったわ。ありがとう」
『どういたしまして。ただしスネーク、火力支援は気軽に使えることじゃないわ。スキマを使って今のを送り込んだけど……使えるのは最大でもあと二回までと考えておいて』
「まさにワンマンアーミーか……」
『そこをまっすぐ行くと地下に通じる階段がある。氷精の監禁されている区画は近いわ、気をつけて』
「了解」
 プシュン。
 無線を終え、ユネークは足早に階段へと移動した。途中白目をむいて伸びているメイド兵を見かけたが、多少の憐憫は感じたものの放置してその場を去る。
 ダンボール箱姿のユネークは一度背後を振り返って無人を確認すると、慎重に足音を立てず地下区画へと侵入していった。

   ■ ● ■

 地下は地上に比べてシンプルな構造になっていた。直線的な造りが無意識に警戒心を刺激する。
 ユネークはかたくなにダンボール箱を手放さないまま、壁の向こうまで神経を張り巡らせつつチルノの居場所へと急いだ。
 と――
 ピリリリ……ピリリリ……
 着信音に足を止め、ごく自然なダンボール箱を演出する。この一帯にはダンボール箱が一つもないので偽装もへったくれもないが。
 プシュン。
『ユネーク』
「……!」
 聞き覚えのない声だった、作戦メンバーではない。いや……どこか懐かしい気はする。名前は思い出せないが――
『ユネーク、気をつけて。その通路にはサーヴァントフライヤーが仕掛けられている。人妖変化を使え!』
「あなた誰? スキマ通信ではないわね……近くにいるのかしら」
『そんなことはどうでもいい……』
「何が目的?」
『いい、あなたの前方に危険な手品師が待ち伏せしている』
「……あなた、誰なの?」
『ファンの一人だよ』
 プシュン。
 不気味な通信だった。まるで死者が語りかけてきたような……
 自分が何者か思い出し、ナンセンスな発想は頭から追い払う。
 ユネークはダンボールの中、亀のような姿勢で大佐を呼び出した。
 ピリリリ……ピリリリ……
 プシュン。
「大佐、今謎の人物から無線連絡が入った。何者?」
『分からない』
 プシュン。
 …………。
「……そりゃないでしょう?」
 虚空に向かってつぶやくが、聞いてくれるものはいない。
 ユネークは仕方なくダンボールを脱ぎ捨てると、懐から堅焼き煎餅を一枚取り出して通路の先を睨んだ。
 軽く息を吐くと同時に重心を落として右手を振りかぶる。これといった機を見出したわけでもなく、ユネークは自然な成り行きで煎餅を前方の闇に投げつけた。
 煎餅が数メートル空を裂くまでは何もなかった。が、その一線を越えた瞬間突如として無数の射線が煎餅を捕らえ、瞬く間に粉みじんに打ち砕く。
 思わず飛びのくユネーク。
「うぁ……もったいないことしちゃったかしらね」
 しかし射撃の瞬間、通路の隅に浮かび上がったコウモリの影をユネークは見逃さなかった。あれは確かにサーヴァントフライヤー。妖体ではあの弾幕から逃れるすべはない。
 ユネークは思案顔で再び懐に手を入れると、今度は妖夢等身大ダミー人形を――
 ピリリ! ピリリ!
 プシュン。
『ユネーク様っ!』
「あらマスター。血相変えちゃってどうしたの?」
『なな、何でそんないかがわしい人形なんか持ってるんですかぁっ!』
『ていうか、気味が悪いくらいに出来がいいわね、それ……』
 大佐の突っ込みは無視。
「マスター……私は悲しいわ。優れた従者ならばダミー人形など用意して当然。それがなぜ分からないの?」
『どこが当然ですかっ!』
 マスターは怒りのあまり口角泡を飛ばしているようだ。
 ユネークは気にせず続けた。
「ダミー人形は敵の目を欺く最高の偽装よ。古来よりこれに命を救われたという工作員は数知れない」
『そんなわけないでしょうが!』
「例えばマルス水道で珍獣調査の際、水面に浮かべて安全を図ったという火の尾の銀狐辺りが有名ね」
『うぅぅがぁぁぁ! 会話になってないぃぃぃぃ!』
「ダミー人形をいかに使いこなすかが任務の成否を決定するといっても過言ではないのよ。マスター、あなたも一人前の従者たらんとするのならこれは避けては通れない道なの」
『……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!』
 ちゃぶ台をひっくり返して立ち上がり、泣き声を上げながらふすまだけは律儀に開け閉めし、そしてどこへともなく走り去る……
 多分そんなことが起こっているだろうと思われる音が無線の向こうから聞こえてきた。間違いなくその通りだろうが。
『……ユネーク、マスターは泣きながらどこか遠くに行ってしまったわよ……』
「くっ、なんてこと。これからいよいよって時にマスターがいないとなると、一抹の不安は残るわね。あんなことで任務を投げ出してしまうなんて、何かよくないものでも食べたのかしら」
『…………。いや、いいけど。それよりいよいよって?』
「この先に厄介なメイドがいるらしいわ」
『……それが本当だとすると、大変なことになるわね。ユネーク、くれぐれも油断は禁物よ』
「分かってる。任務に戻るわ」
 プシュン。
 ユネークはダミー人形を床に立たせると、その内側へと憑依した。これで人間としての属性を得ることが出来る。
 再びダンボール箱をかぶりなおすと、ユネークは使い魔の跋扈する地下通路を素早く駆け抜けていった。


 見張りはいなかった。安全に侵入できるのはいいのだが、不気味さは募る。
 やがて両開きの扉が現れた時点で、ユネークは足を止めた。ダミー人形から抜け出し、懐にしまいこむ。ダンボール箱は念のため通路の端の方に置いておくことにした。
 扉は開いている。これはつまり――誘っているのだろう。
 慎重を期し、壁に張り付いて内部を窺う。中にいるのはチルノ一人だけ……一通り見回すと、奥にもう一つ扉があった。
 が、どうにもチルノの様子がおかしい。ユネークは油断なく姿を現すと、室内へと踏み込んだ。
「湖上の氷精、チルノね」
「う……うう……」
「食欲をもてあます」
「さ、触るな……!」
 ふと、ユネークは足を止めた。チルノは何かロープのようなもので何重にも縛られている。ただ縛られているのではない、背後の岩のようなものにくくりつけられていた。
 チルノは台のようなものに乗っている。空気ポンプらしき物体で、側面からはチューブ……と言うより、ストローが伸びていた。尋常なストローではないらしく、やたらと長い。目で追うと、チルノを縛っているのはそのストローだということに気がついた。チルノの冷気のせいか、周囲一帯が凍り付いてしまっているため、ポンプは空気を送る前の段階で止まっている。
 そしてストローのもう一方の先に目をやったとき、ユネークは一瞬にしてそれら全ての認識が誤りであることを悟った。戦慄と共に理解する――ストローは岩に突き刺さっていた。いや、違う。これは岩ではない、これは――
「……オオガマ爆弾!」
 身体の半分が凍結したオオガマだった。肛門にストローが連結され、あそこから空気が入り込めばオオガマは木っ端微塵に炸裂するだろう。なんと恐ろしい……!
 瞬間、ユネークは刺し貫くような殺気を感じてその場を飛び退った。鋭く風を裂く音が室内にこだまする。ユネークが全身に緊張をみなぎらせながら着地すると、直前まで彼女が立っていた地面に一振りのナイフが突き立っていた。
 反射的にナイフの軌道を辿る。持ち主は奥の扉から現れたところだった。余裕げにナイフをもてあそびながら、朗々と告げてくる。
「そうだ、そのストローに触れるとそいつともどもオオガマが爆発する!」
 それは翼のような羽飾りの仮面をつけた銀髪のメイドだった。
 くるくるとナイフを回転させながら、謎のメイドはユネークに不敵な笑みを向ける。
「お前がボスのお気に入りか」
「あなたは!?」
 ボス……? 気にはなったが、それを聞いていられる状況でもなさそうだ。
「私はサクヤ・ザ・リッパー。お前が噂どおりの女かどうか試してやろう……」
「その⑨は必要よ! 手出しはさせない!」
 言下、気合と共に構えを取ると力を練るように集中する。迸るパワーが戦いの幕開けを祝福しているようだ。
 サクヤ・ザ・リッパーとやらも臨戦態勢に入っていた。妖しげな手つきで両手いっぱいのナイフを揺らしている。
「こい!」
 その瞬間、火花を散らしあう両者の視線は真っ向から激突した。



 続く
 どうも。
 マッドなレシピのユユコさん、三作目です。
 書いていて収拾つくのかなぁ、これ……などと思っています。ちょっと暴走しすぎ……

 SSコンペというものがあるそうで、筆者も現在、なけなしの精力を振り絞ってそちら用の原稿を書いていたりします。
 創想話もたくさんの小説が投稿されますが、コンペみたいに限定された条件下の創作というのもいいものですよね。

 それではこの辺で。
腐りジャム
コメント



1.削除
ま、まさかここでヴァイスの二つ名を聞くことになろうとは・・・
ところで、妖夢は例の薬で三日三晩苦しみぬき生死の境を彷徨って全身の皮を剥いたんですか?
2.腐りジャム削除
>ところで、妖夢は例の薬で三日三晩苦しみぬき生死の境を彷徨って全身の皮を剥いたんですか?

剥きました。
賞味期限の切れたお菓子を巧妙に妖夢に食わせ、腹を壊したところで例の薬をひそかに混入。症状悪化を装って薬の存在を気取られないまま三日三晩寝かせ続けて。
唸っている間、意識がないのをいいことに半分剥いて中途半端な格好でやめたり、首狩りねじりもぎ取り君を開発して遊んだり……

そういう小話も考えたんですが、省略ということで。
3.ウェスカー削除
火力自重www