「井の中の蛙」という言葉があるように、一つの世界で完結できるものがある。
それは例えばこの幻想郷だったり、あるいは人里だったり妖怪の山だったり。
私は境界を操る妖怪じゃないが、境界ってのはいわゆる仕切りなんだ。
別に、向こうに無理して手を伸ばす必要なんてない――。
「・・・・・・・・・」
視界を覆っていた腕をどかす。
少しだけ眩んだ目に、青々とした空と白雲が飛び込んでくる。
空とは対照的な、紅白の色も。
「・・・・ちょっと、大丈夫?」
「ん? 大丈夫だぜー」
「それにしては一向に起きようとしないじゃない」
寝転がったままの私を覗き込む顔は、言葉に反して全然心配そうじゃない。
まーそういう奴だし、いつも通りだな。
「趣味だぜ」
「悪趣味ー・・・今度から落ち葉と一緒に掃いて捨てる事にするわ」
「おいおい、せっかく青空を楽しんでるのにそれは無いだろー?」
「空?」
霊夢が空を見上げ、そしてすぐ視線を落とす。
「・・・・・・やっぱり悪趣味よ、それ」
「草むらも縁側もさして変わりないぜ」
「そーゆー問題じゃなく。」
しれっと返すと、霊夢は何やら呆れた溜息をついて隣に腰を下ろす。
同じように空を見上げてみると、今度はこいつの影で少しばかり空が暗く見えた。
「・・・・・・うりゃ。」
「あ、ちょ、」
なんか癪だったので袖を引っ張って同じように横にさせた。
ごつっ、とか隣から痛そうな音がしたと思ったら、次の瞬間に私の額にもお払い棒の一撃が入った。
一回は一回。やっぱりいつも通り。
いや、今のは受け身しなかったお前が悪いと思うぞ。
「・・・・・・・・」
神社で寝そべって空を見る。
はたから見たら何やってるんだって感じだろうなぁと思考の端に思う。
肌に感じる日の光と風が心地良い。目を閉じる隣で、ふと霊夢が言う。
「さっきので何戦目?」
「あぁ、確か今月で37戦目だったか。んで、19勝17敗1引き分け。」
「・・・・・・それ逆でしょ」
「なんだよ、覚えてるじゃないか」
「なんか鼻っ柱折りたくなったのよ」
「お払い棒でか?」
「ホントにやるわよー」
そんな言葉に、おー怖い怖いと笑う。
今日も今日とてスペルカードに興じ、そして盛大に負けた私である。
今回はちょっとマスパ使うタイミングが早すぎたかも知れない。でも忍耐力よりは、素早さ? うん、それを伸ばした方が分からなかったかもなぁと思う。鳥みたいな素早さでもあればいいんだが。
並んでは離され、離されては並んで。
霊夢とのスペルカード戦はだいたいそんな感じだ。
「・・・珍しく負け越したわね、あんた」
「まー・・・・・・そういう日もあるだろ」
私は答え、すぐ側にに落ちていた帽子を被った。
――今日、いつも通りじゃないのは、これだけだ。
何が悪かったのか、というのはもう幾つか考えてある。さっきの素早さ云々も然り。
簡潔に結論づけるなら、”今日の自分は悪かった”。終わり。
明日になったら良くなっているのかと言うと、どうなんだろうな。
私は今日も、いつも通りでいたはずなんだが。
帽子を上げれば、穏やかな日差しと青の色。
ふと陰りを感じて見上げれば、何羽かの鳥が影を落として、視界から消えていくとこだった。
ひらひらと、空には数枚の羽が置いてかれている。
舞い落ちてくるそれに、何となく手を伸ばす。
「鳥の研究でもするかな」
寝ころんだまま伸ばした手に丁度良く、一枚の羽が落ちてきた。
それを掴もうとしたところで、ぽつりと霊夢が言った。
「・・・鳥にでもなりたいわけ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
目の前に持ってきた手には、何もなかった。
ひらひらと顔の隣に落ちてきた羽に、あぁすり抜けられたんだと思った。
羽を隔てた向こうには、あいつの黒々とした瞳が見えた。
鳥のように。
・・・・鳥のように。
「――違うなぁ。」
がばっと体を起こす。
私はその目の前にあった羽を摘み、立ち上がる。
「鳥じゃあ、ないな」
立ち上がって、それを空に掲げる。風に煽られ、それはひらひらと身を揺らす。
隣から視線が追ってくる。
「なら、魔女?」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れん」
「曖昧ねー」
「あぁ、曖昧だな」
風に遊ばせた羽根は、手を離せば呆気なく飛ばされていった。
そのまま空へと手を伸ばす。
お天道様の温かさ。
風を感じる手。
今は、空ばかりを掴む手だが。
「霊夢」
「んー?」
いつもと変わらない暢気な声に、にっと笑う。
「次は負けないぜ」
「・・・・・・・・・」
「?」
妙な沈黙に視線を落とすと、こちらに伸びてくる手。
意図が分からずに黙って見ていると、霊夢はその手をぶんぶんと振った。
「・・・・・・・・とりあえず起こしなさい」
「宣戦布告に対しての答えがそれかよ・・・・」
苦笑いしながら、伸ばされた手を掴んで引き上げる。
と、今度は逆に引っ張られ、そのまま霊夢がふわりと宙に浮いた。
「うおっ?」
驚いて思わず手を離す。
見上げると、空を背にして霊夢が腰に手を当てる。
「今日は人里で買い物でもしようかと思ってたのよ」
くい、っと親指で人里を指し示し。
「"次"は負けないんでしょ? それにいまさら宣戦布告されてもね」
首を竦める姿に、ぽかんとしていた意識が戻ってくる。
にやりと、自分の唇が歪むのが分かった。
「・・・・・・言ったな? 私は幻想郷最速の魔理沙さんだぜ?」
「なら私が勝って幻想郷最速ね」
「おいおい、そう簡単には取らせないぜ!」
「あ、それと今回は負けた方が自腹で夕食奢るか作るって事で」
「なにーーー!?」
「実は今金欠ですとか言っても知らないわよ」
「いや、私はお前じゃないし。それなら尚更負けられないな、無精な霊夢の手料理が掛かってるぜーーー!!」
「あんたの中で私はどんなヤツよ?」
「さーな、っと!」
箒を掴み、勢いよく地面を蹴り放つ。
「あ、こら!」
「そーなったら先手必勝だぜ!」
「こんの卑怯者ーー!!」
声が尾を引き、瞬く間に箒は空を翔る。
ちょっと調子に乗りすぎたか?
だが、そう思って振り返る鼻先に、まばゆい光球が掠めていった。
・・・って、あいつ夢想封印使いやがったな!? 宣言聞こえない距離でそれはフライングより卑怯だろ!
あー・・・・・・どうしようもなくいつも通りな。
人里はまだ遠い。この辺りが戦うにも良さげだな。
振り返る景色に、掴もうとした羽根はもう見えない。
ただ、今日も空は青く・・・・そこには親友の紅白の姿がある。
だから今は、"井の中の蛙"でも良いかな、とか思ったりする。
そうとも。
たとえ少し離れても、視線で、手で、意地で食いついていけばいいだけの話だ!
「よっしゃ、行くぜ!!」
私は叫び、蒼穹に高くスペルを掲げた。
それは例えばこの幻想郷だったり、あるいは人里だったり妖怪の山だったり。
私は境界を操る妖怪じゃないが、境界ってのはいわゆる仕切りなんだ。
別に、向こうに無理して手を伸ばす必要なんてない――。
「・・・・・・・・・」
視界を覆っていた腕をどかす。
少しだけ眩んだ目に、青々とした空と白雲が飛び込んでくる。
空とは対照的な、紅白の色も。
「・・・・ちょっと、大丈夫?」
「ん? 大丈夫だぜー」
「それにしては一向に起きようとしないじゃない」
寝転がったままの私を覗き込む顔は、言葉に反して全然心配そうじゃない。
まーそういう奴だし、いつも通りだな。
「趣味だぜ」
「悪趣味ー・・・今度から落ち葉と一緒に掃いて捨てる事にするわ」
「おいおい、せっかく青空を楽しんでるのにそれは無いだろー?」
「空?」
霊夢が空を見上げ、そしてすぐ視線を落とす。
「・・・・・・やっぱり悪趣味よ、それ」
「草むらも縁側もさして変わりないぜ」
「そーゆー問題じゃなく。」
しれっと返すと、霊夢は何やら呆れた溜息をついて隣に腰を下ろす。
同じように空を見上げてみると、今度はこいつの影で少しばかり空が暗く見えた。
「・・・・・・うりゃ。」
「あ、ちょ、」
なんか癪だったので袖を引っ張って同じように横にさせた。
ごつっ、とか隣から痛そうな音がしたと思ったら、次の瞬間に私の額にもお払い棒の一撃が入った。
一回は一回。やっぱりいつも通り。
いや、今のは受け身しなかったお前が悪いと思うぞ。
「・・・・・・・・」
神社で寝そべって空を見る。
はたから見たら何やってるんだって感じだろうなぁと思考の端に思う。
肌に感じる日の光と風が心地良い。目を閉じる隣で、ふと霊夢が言う。
「さっきので何戦目?」
「あぁ、確か今月で37戦目だったか。んで、19勝17敗1引き分け。」
「・・・・・・それ逆でしょ」
「なんだよ、覚えてるじゃないか」
「なんか鼻っ柱折りたくなったのよ」
「お払い棒でか?」
「ホントにやるわよー」
そんな言葉に、おー怖い怖いと笑う。
今日も今日とてスペルカードに興じ、そして盛大に負けた私である。
今回はちょっとマスパ使うタイミングが早すぎたかも知れない。でも忍耐力よりは、素早さ? うん、それを伸ばした方が分からなかったかもなぁと思う。鳥みたいな素早さでもあればいいんだが。
並んでは離され、離されては並んで。
霊夢とのスペルカード戦はだいたいそんな感じだ。
「・・・珍しく負け越したわね、あんた」
「まー・・・・・・そういう日もあるだろ」
私は答え、すぐ側にに落ちていた帽子を被った。
――今日、いつも通りじゃないのは、これだけだ。
何が悪かったのか、というのはもう幾つか考えてある。さっきの素早さ云々も然り。
簡潔に結論づけるなら、”今日の自分は悪かった”。終わり。
明日になったら良くなっているのかと言うと、どうなんだろうな。
私は今日も、いつも通りでいたはずなんだが。
帽子を上げれば、穏やかな日差しと青の色。
ふと陰りを感じて見上げれば、何羽かの鳥が影を落として、視界から消えていくとこだった。
ひらひらと、空には数枚の羽が置いてかれている。
舞い落ちてくるそれに、何となく手を伸ばす。
「鳥の研究でもするかな」
寝ころんだまま伸ばした手に丁度良く、一枚の羽が落ちてきた。
それを掴もうとしたところで、ぽつりと霊夢が言った。
「・・・鳥にでもなりたいわけ?」
「・・・・・・・・・・・・。」
目の前に持ってきた手には、何もなかった。
ひらひらと顔の隣に落ちてきた羽に、あぁすり抜けられたんだと思った。
羽を隔てた向こうには、あいつの黒々とした瞳が見えた。
鳥のように。
・・・・鳥のように。
「――違うなぁ。」
がばっと体を起こす。
私はその目の前にあった羽を摘み、立ち上がる。
「鳥じゃあ、ないな」
立ち上がって、それを空に掲げる。風に煽られ、それはひらひらと身を揺らす。
隣から視線が追ってくる。
「なら、魔女?」
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れん」
「曖昧ねー」
「あぁ、曖昧だな」
風に遊ばせた羽根は、手を離せば呆気なく飛ばされていった。
そのまま空へと手を伸ばす。
お天道様の温かさ。
風を感じる手。
今は、空ばかりを掴む手だが。
「霊夢」
「んー?」
いつもと変わらない暢気な声に、にっと笑う。
「次は負けないぜ」
「・・・・・・・・・」
「?」
妙な沈黙に視線を落とすと、こちらに伸びてくる手。
意図が分からずに黙って見ていると、霊夢はその手をぶんぶんと振った。
「・・・・・・・・とりあえず起こしなさい」
「宣戦布告に対しての答えがそれかよ・・・・」
苦笑いしながら、伸ばされた手を掴んで引き上げる。
と、今度は逆に引っ張られ、そのまま霊夢がふわりと宙に浮いた。
「うおっ?」
驚いて思わず手を離す。
見上げると、空を背にして霊夢が腰に手を当てる。
「今日は人里で買い物でもしようかと思ってたのよ」
くい、っと親指で人里を指し示し。
「"次"は負けないんでしょ? それにいまさら宣戦布告されてもね」
首を竦める姿に、ぽかんとしていた意識が戻ってくる。
にやりと、自分の唇が歪むのが分かった。
「・・・・・・言ったな? 私は幻想郷最速の魔理沙さんだぜ?」
「なら私が勝って幻想郷最速ね」
「おいおい、そう簡単には取らせないぜ!」
「あ、それと今回は負けた方が自腹で夕食奢るか作るって事で」
「なにーーー!?」
「実は今金欠ですとか言っても知らないわよ」
「いや、私はお前じゃないし。それなら尚更負けられないな、無精な霊夢の手料理が掛かってるぜーーー!!」
「あんたの中で私はどんなヤツよ?」
「さーな、っと!」
箒を掴み、勢いよく地面を蹴り放つ。
「あ、こら!」
「そーなったら先手必勝だぜ!」
「こんの卑怯者ーー!!」
声が尾を引き、瞬く間に箒は空を翔る。
ちょっと調子に乗りすぎたか?
だが、そう思って振り返る鼻先に、まばゆい光球が掠めていった。
・・・って、あいつ夢想封印使いやがったな!? 宣言聞こえない距離でそれはフライングより卑怯だろ!
あー・・・・・・どうしようもなくいつも通りな。
人里はまだ遠い。この辺りが戦うにも良さげだな。
振り返る景色に、掴もうとした羽根はもう見えない。
ただ、今日も空は青く・・・・そこには親友の紅白の姿がある。
だから今は、"井の中の蛙"でも良いかな、とか思ったりする。
そうとも。
たとえ少し離れても、視線で、手で、意地で食いついていけばいいだけの話だ!
「よっしゃ、行くぜ!!」
私は叫び、蒼穹に高くスペルを掲げた。
いいね。グッド。
ありがとうございます!
自分の中で二人の持つ空気?を最優先に書いたので、そう言っていただけてとても嬉しいです・・・・。