Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

妹紅のグルメ

2009/09/18 16:58:22
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 店を畳んでいる途中で腹が鳴った……。
 何となく気恥かしさから、真っ白い頭髪をぐしゃぐしゃとかく。
 いかんな……。
 長いシャツの袖で額を拭うと、やや大ぶりな自分のズボンをパンパンと叩いた。



 私は朝から、我が家から結構遠く離れた集落まで行商に来ていた。
 品物は、家の近くの竹林から勝手に切り出した竹で作った細工物。


 店と言っても、品物を包んでいた風呂敷を地面に広げ、見栄え良く並べただけだ。
 かさばらないように、やや乱雑に商品を重ねると、風呂敷を包む。



 ……ふと視線に気づけば、物珍しい顔で、子供がこちらを見ていた。
 私は包みかけた風呂敷から竹トンボを取り出すと、空に飛ばす。
 驚いた顔で、それを目で追う子供。
 その顔が嬉しそうな笑みに変わるのを見ながら、さっと荷物をまとめ上げ、歩き出す。
 高度を落とし始める竹トンボを追いかける子供は気づかない。


 子供は好きだ。


 さて、私は風呂敷を担ぐと、どこか飯を食べられる場所を探し始めた。
 小さな集落だが、飯屋の一つはあるだろう。




 少しくらい飯を食べなかったところで、人間死にはしないし、私はそれ以上に丈夫なので死ねもしない。
 いや、実際は死ぬのだが。
 とにかく餓死というのは何よりも辛く苦しい死に方だと、身をもって体感し、悟っていた。
 故に、わざわざこんな行商の真似事なんぞやって、日銭を稼いでいるのだ。
 とにかく、女一人、食うに困らない程度の金は常に持っていたい。
 何より食事をすること自体、私は割と好きなのだ……。




 そうこう考えている内に、集落の外れ辺りまで来てしまっていた。
 まずいな……。
 どこでもいいんだが、こういう時に限って中々見つからない。
 集落を出て、街道沿いで探すか?
 もやもやと考え続けながら歩いていると、数軒先に古びた看板が掲げてあるのに気づいた。


「蕎麦、か……」


 こんな所で蕎麦屋に目にかかるとは思わなかった。
 蕎麦か、それもいいな。
 安心したような心地で暖簾をくぐった。



「あ、いらっしゃいませー」


 中に入って見渡すと、小じんまりとした店の中に客はいなかった。
 時間を外したか……?
 一瞬不安に駆られるが、とにかく空いている席へ腰を下ろすと、給仕と思しき中年の女が茶を運んできた。


「どうも」


 小さく礼を言うと、貼り付けてある品書きへ目を移す。

 狸か……確か西と東では中身が違うのだったよな。
 ここはどっちだろうか、油揚げでも揚げ玉でも、どちらにしても悪くない。
 月見か、玉子を乗せるのもいいな。
 鴨が入ってるのも、値は張るが魅かれるな。
 移り気に、黙々と考えていると、ふとある品が飛び込んできた。

 天ぷら蕎麦……?

 まさか、ここで天ぷらの字を見るとは思わなかった。
 静かに驚いている所へ、給仕の声がかかる。

「御注文、お決まりですか?」

 あ。
「ああ、じゃあ、天ぷら蕎麦を……」

「天ぷら蕎麦ですね、天そば一丁ー!」

 威勢のいい声が、店の奥へ飛ぶ。




 まいったな、目をひかれている所へ聞かれたものだから、思わず注文してしまった……。

 天ぷら蕎麦、か。

 随分前に食べたことがあるが、あれは笊の方だっただろうか。
 確かにうまくはあったんだが、この地にもあったとは知らなかった。
 ……しかし、果たしてそれは本当に天ぷら蕎麦だろうか。

 蕎麦が運ばれてくるまでの間を、私は密かに考え続ける。

 何故なら、ここには海がない。
 海産物というのが全く流通していない土地なのだ。
 ということは、天ぷらの主役であるところの海老もないわけで……。

 ……一体どんなものが運ばれてくるのだろう。
 少々の不安と、おぼろげな好奇を感じながら、一口茶を啜った。


「はい、おまちどう」
 来た。


 運ばれてきた蕎麦は、意外にもまともだった。
 普通のかけの上に、天ぷらがのっているという基本的な形。
 汁は、色がやや濃い目だろうか。
 問題の天ぷらは、やはり海老は入っていなかった。
 しかし、海老こそないが、他は茄子、南瓜、獅子唐、と、基本の野菜類は抑えてある。
 そして、海老の代わりか、やや大ぶりな野菜のかき揚げがのっている。



 うーん、そうか、やはり海老というのは、初めからないものとしてここでは扱われているんだな。
 代わりに、器からはみ出さんばかりに野菜の天ぷらがのっている。
 何とも食いでがありそうな代物だな……。


 味を壊さない程度に七味をふりかけると、手を合わせてから食べ始める。


 初めに蕎麦だけをすすり、少し汁を飲む。
 うん、悪くない。いい味だ。
 天ぷらはどうだろうか、茄子を半分まで齧り、蕎麦も一緒に含む。
 少し残っている衣の歯ごたえと、茄子の素朴な味が、蕎麦と交わっていい感じだ。
 次は獅子唐と。ああ、南瓜もいいな、うまい。
 かき揚げも……。
 噛んだらざくりとする、ふやけた部分と交わって絶妙だ。
 うん、野菜だけの天ぷらというのも、案外悪くないものだなぁ。



「ふぅ……」
 うまかった。
 汁まで飲み干すと、残った茶で一息ついた。
 しばらくしてから、勘定を払い店を出る。


 腹はしばらく虫も鳴きそうにない、結構な量だった。
 再び風呂敷を背負って、ゆっくりと街道へ歩き始める。


 しかしというか、今更だが……。
 やはり、天ぷらというのは海老がないと、何となくしまらないものだなぁ。
「野菜だけの天ぷら蕎麦、か……」
 はは。
 不思議なもやもやを抱えたまま、私は力なく笑った。
妹紅にはハードボイルドな食いしん坊がよく似合うと思う

そんなコンセプトで書いてみたのですが
「しかし……この口調だとどこまでいってもゴローちゃんだな」と言った感じのものが出来上がってしまいました
ただの孤独なグルメの劣化二次創作のような…
まあ、こんな独白をする妹紅を想像してもらえたら、ありがたいです
ここまでお読みいただきありがとうございました
ロディー
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
全く持ってゴローちゃんだ。だがいい雰囲気。
2.名前が無い程度の能力削除
うん、この時間に読むんじゃなかった。
余計に腹減ってきた。
3.名前が無い程度の能力削除
もっこす「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」
4.名前が無い程度の能力削除
お腹すいてきた。
5.名前が無い程度の能力削除
てっきり「天ぷら蕎麦! そういうのもあるのか」ってくるかと思ったw
6.名前が無い程度の能力削除
タイトルが卑怯であります!
7.名前が無い程度の能力削除
ゴローちゃん直伝のアームロックはまだですか?
8.名前が無い程度の能力削除
確かにネタ自体は単純だが、語り口に妹紅の特徴が出てるし普通にアリだと思った。
9.奇声を発する程度の能力削除
お腹空いて来た…