月夜の晩に。
――ごーりごーりこんこんこんこん、ごーりごーりこんこんこんこん
妙にリズミカルな音で妹紅は目覚めた。
とりあえず水でも一杯飲もうかなあ、とぼんやり考えて台所に向かうと、慧音がなにやらすり鉢でごりごりやってる。
「慧音、何をやってるんだ?」
びくり、と一瞬背を震わせた慧音は振り返りもせずに答えた。
「なあに、歴史を作っているのだよ」
はて、歴史とは台所で作れるものなのだろうか? 妹紅が手元を覗いてみると、すり鉢の中にあったのは、慧音の角だった。
「歴史って……それ、角だよね?」
「ああ、これが歴史だよ」
そう答えると、1番と書かれた箱の中にすり鉢の中の粉になった角をさらさらと移していく。
そうか歴史は角だったのかあ、とぼんやり考えている妹紅をよそに、慧音は二本目の角に取り掛かる。
――ごーりごーりこんこんこんこん、ごーりこーりこんこんこんこん
「それさ、どうするの?」
「決まってるじゃないか。食べるんだよ」
そう答えると、2番と書かれた箱の中にすり鉢の中の粉になった角をさらさらと移していく。
そうか角って食べられるんだなあ、とぼんやり考えている妹紅をよそに、慧音はリボンを細かく刻み始めた。
――ちゃきちゃきちゃきちゃき、ちゃきちゃきちゃきちゃき
「ねえ、歴史っておいしいの?」
「こうやって手を加えることでおいしくなるんだよ」
そう答えると、ハサミをおいて3番と書かれた箱の中に短冊になったリボンをさらさらと移していく。
そうか大変なんだなあ、とぼんやり考えている妹紅をよそに、慧音は水差しを手に取った。
――ぐるこーん、ぐるこーん
1番と書かれた箱の中の粉に、水を注ぐと匙でかき混ぜ始める。
ダマになっている部分を丁寧につきほぐし、均一になるまでその作業は続いた。
ついで、2番と書かれた箱の粉をどろどろの1番の箱に入れる。
さらに匙でかき混ぜるうちに、黄色みを帯びた角粉が徐々に桃色に変わっていく。
ぷっくりと膨らんできた桃色の物体を匙で掬い上げると、3番と書かれた箱の中のリボンの短冊にからめる。
ぱくりと一口。
――てーれってれー
「うまい。じつにうまい。この甘酸っぱい風味。これだから歴史喰いはやめられない」
「ねえ、それ、なんの歴史なの?」
「決まってるじゃないか、もこたんとの昨日の夜の歴史だよ」
そう答えると、匙に再び桃色の物体を掬い上げ、リボンをからめては次々口に運ぶ。
そうか私の夜の歴史かあ、とぼんやり考える妹紅の頭に一気に血が巡った。
「こうやって歴史を食べておけば、いつだって新鮮な初々しいもこたんが食べれるし、一石二鳥とはまさにこのこと」
「ねえ」
「なんだいもこたん」
「そんなことを私が知って怒らないとでも思ってるの?」
「思ってないさ」
そう答えると、慧音はたった今生えた小さい小さい角をもぎ取り、素早く自分の口に放り込んだ。
奥歯で噛み砕く音が台所に響く。
――こりこりこりこりこりごっくん
「で、なにを怒っているんだい? もこたん」
「……あれぇ? なんだろう?」
「寝ぼけてたんだろう。まだ夜明けには早いからおやすみ」
そうか寝ぼけてたのかあ、とぼんやり考えながら寝床に戻る妹紅をよそに、慧音は再び匙を手に取った。
「歴史を食べるときはね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ、独り静かで豊かで……」
歴史を食べつくした慧音は、満足したかのように腹をさすり、1番2番3番と書かれた箱を重ねて頭に乗せた。
――ごーりごーりこんこんこんこん、ごーりごーりこんこんこんこん
妙にリズミカルな音で妹紅は目覚めた。
とりあえず水でも一杯飲もうかなあ、とぼんやり考えて台所に向かうと、慧音がなにやらすり鉢でごりごりやってる。
「慧音、何をやってるんだ?」
びくり、と一瞬背を震わせた慧音は振り返りもせずに答えた。
「なあに、歴史を作っているのだよ」
はて、歴史とは台所で作れるものなのだろうか? 妹紅が手元を覗いてみると、すり鉢の中にあったのは、慧音の角だった。
「歴史って……それ、角だよね?」
「ああ、これが歴史だよ」
そう答えると、1番と書かれた箱の中にすり鉢の中の粉になった角をさらさらと移していく。
そうか歴史は角だったのかあ、とぼんやり考えている妹紅をよそに、慧音は二本目の角に取り掛かる。
――ごーりごーりこんこんこんこん、ごーりこーりこんこんこんこん
「それさ、どうするの?」
「決まってるじゃないか。食べるんだよ」
そう答えると、2番と書かれた箱の中にすり鉢の中の粉になった角をさらさらと移していく。
そうか角って食べられるんだなあ、とぼんやり考えている妹紅をよそに、慧音はリボンを細かく刻み始めた。
――ちゃきちゃきちゃきちゃき、ちゃきちゃきちゃきちゃき
「ねえ、歴史っておいしいの?」
「こうやって手を加えることでおいしくなるんだよ」
そう答えると、ハサミをおいて3番と書かれた箱の中に短冊になったリボンをさらさらと移していく。
そうか大変なんだなあ、とぼんやり考えている妹紅をよそに、慧音は水差しを手に取った。
――ぐるこーん、ぐるこーん
1番と書かれた箱の中の粉に、水を注ぐと匙でかき混ぜ始める。
ダマになっている部分を丁寧につきほぐし、均一になるまでその作業は続いた。
ついで、2番と書かれた箱の粉をどろどろの1番の箱に入れる。
さらに匙でかき混ぜるうちに、黄色みを帯びた角粉が徐々に桃色に変わっていく。
ぷっくりと膨らんできた桃色の物体を匙で掬い上げると、3番と書かれた箱の中のリボンの短冊にからめる。
ぱくりと一口。
――てーれってれー
「うまい。じつにうまい。この甘酸っぱい風味。これだから歴史喰いはやめられない」
「ねえ、それ、なんの歴史なの?」
「決まってるじゃないか、もこたんとの昨日の夜の歴史だよ」
そう答えると、匙に再び桃色の物体を掬い上げ、リボンをからめては次々口に運ぶ。
そうか私の夜の歴史かあ、とぼんやり考える妹紅の頭に一気に血が巡った。
「こうやって歴史を食べておけば、いつだって新鮮な初々しいもこたんが食べれるし、一石二鳥とはまさにこのこと」
「ねえ」
「なんだいもこたん」
「そんなことを私が知って怒らないとでも思ってるの?」
「思ってないさ」
そう答えると、慧音はたった今生えた小さい小さい角をもぎ取り、素早く自分の口に放り込んだ。
奥歯で噛み砕く音が台所に響く。
――こりこりこりこりこりごっくん
「で、なにを怒っているんだい? もこたん」
「……あれぇ? なんだろう?」
「寝ぼけてたんだろう。まだ夜明けには早いからおやすみ」
そうか寝ぼけてたのかあ、とぼんやり考えながら寝床に戻る妹紅をよそに、慧音は再び匙を手に取った。
「歴史を食べるときはね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ、独り静かで豊かで……」
歴史を食べつくした慧音は、満足したかのように腹をさすり、1番2番3番と書かれた箱を重ねて頭に乗せた。