それはいつも通りの博麗神社での出来事
「よーう霊夢。遊びにきてやったぜ」
「はいはい。どうせお茶飲みに来ただけでしょ」
この白黒魔法使いはどこかに行くと、必ず何かを奪っていく。図書館なら本、神社ならお茶とお菓子。
そしてここは博麗神社だった。
「そうとも言うな」
「まあ今日はちょっとしたお菓子もあるしいいけどね」
「お、珍しいな」
「何よ。お茶受けくらいならいつも出してるでしょ」
「私が珍しいと言ったのはお前からそれを言ったことだぜ。いつもなら私が要求してから渋々出すのに」
「お賽銭も入れない人に出すお菓子はありません」
「そんなこと言いつつもちゃんと用意してるお前が好きだぜ」
「な、何言ってるのよ! そうでもしないとあんたが何するかわからないからってだけよ」
「顔が赤いぜ?」
「ッッッ!?」
「ははっ冗談だぜ」
「くう……。そんなこと言ってるとこれあげないわよ」
「なんだそれは……って、おま……いくら貧乏だからってそれはないぜ……」
霊夢が持ち出してきた皿には藁が敷き詰められていた。しかしよく目を凝らすと何やら蠢いている。それに気が付いた瞬間背筋に寒気が走った。
「……? おいしいわよ、これ」
全く躊躇せずに『それ』を掴み口に放り込む霊夢。
「うわー! 霊夢が『虫』食べたー!」
「ちょっ!? 違うわよ! これはれっきとしたお菓子よ」
「本当か……?」
霊夢が指でつまんでいるそれはどうみても芋虫か何かにしか見えない。見てるだけでぶよぶよした感触が伝わってきそうだ。
「騙す気なんてないし食べてみなさいよ」
確かに蠢いていると感じたのは気のせいだったようだ。しかしそうは言っても見た目が見た目だ。口に運ぶには抵抗がある。
だが霊夢が嘘をつくような人間でないのは魔理沙もよく知っている。
そして魔理沙は恐る恐るそれに手を伸ばした。
「う……うまい!」
テーレッテレーという効果音が聞こえてきそうだ。
「ほらね」
「しかし変わった菓子だなどこで手に入れたんだ?」
「最初は紫からもらったのよ。外のお菓子らしいわ。はちのこモゾモゾキャラメルだったかしら」
「紫も変わったものを持ってくるんだな。しかし外の世界となると簡単には手に入らないか」
「そうでもないわよ。今では里でも扱ってて、これは里で買ったものよ。350円もしたんだから味わって食べなさい」
「買った!? 霊夢が!? いったいどこにそんな金が……」
霊夢が貧乏なのは周知の事実だ。別に食うに困っているわけではない。里から妖怪退治の報酬として食糧や生活必需品をもらっているし、定期的に開かれる宴会では妖怪達が食べ物を持ち寄るからだ。
しかしお菓子を買う……これは滅多にないことだ。これだけで異変と言えるかもしれない。
「ふふ。よくぞ聞いてくれました」
「楽しそうだな」
「聞いて驚け……」
「おう」
「昨日お賽銭箱に500円入ってたのよ!」
「それはすごいな!」
「でしょでしょ! 私の努力の賜物ね」
「でも冷静に考えると500円で驚けってちょっと空しくないか」
「空しくないわよ。世界には一日1ドル以下で生活している人が何万人もいるのよ。私はその人たちより何倍も豊かな生活を享受しているのよ」
「そしてその半分が今私の腹の中に消えたんだがな」
「ああ!? 食べるの早いわよ」
「この世は食うか食われるかだぜ」
「大事に食べようと思っていたのに……」
霊夢が本気で悲しそうな顔する。普段人を困らせてばかりの魔理沙だがこういうのには意外に弱い。
「わ、悪かったよ。お前の貴重なお賽銭を一瞬で消してしまって」
「うーん。そういえば不思議ね」
「ん? 何がだ?」
「消えたのよお賽銭」
「そりゃあ買い物すればなくなるだろう」
「まあそうなんだけど。賽銭箱に入った500円を持って買い物にいったのね」
「ふんふん」
「思わずスキップしちゃったりして買いにいったのよ」
「ぷ……」
「笑うな! あの手のひらのなかでお金がじゃらじゃら言う感覚は滅多に味わえない至福のときなのよ!」
「それで、肝心なのはここからか」
「そのときの私は確かに舞い上がってたわ。そしてお釣り……50円しかもらってなかったのに帰ってきちゃったのよ!」
「なんだそれは。じゃあお前のお賽銭はその店にあるんだろ」
「それも後で確認したんだけど、そんなことないって店主さんが」
「??? ならちゃんとお釣りを貰ってたんじゃないか?」
「うーん。お釣りは確かに50円玉一枚だったわ」
「まあ大体わかったぜ」
「本当!?」
「ああ。どこにあるかは知らんがどうしてお釣りがなかったのかなら」
「やっぱりあの店主が隠してるのね……!」
霊夢の身体からまるで異変解決に向かう時のように霊力が溢れでていた。いや異変の時以上かもしれない。
「ちょっ! 落ち着けって。ちょっと前に自分が言ったことをよく思い出すんだよ」
「聞いて驚け! お賽銭箱に500円が――」
「戻りすぎだろ! ていうかそのネタでどれだけ驚かせるつもりだよ!」
「んもうっ。それなら早く教えなさいよ」
「まあ待つんだ。私が答えなくても多分やさしい誰かがコメントしてくれるさ」
「こめ……? 何よそれ?」
「あと間違っても『はちのこモゾモゾキャラメル』で検索するなよ。絶対だからな!」
おしまい
やめときゃとかった・・・・・・
食欲が萎えそうだ。
なるほど!そうだったのか!