この話は、作品集48、『幽香、どSからの卒業 』等の続きになっております。
「ふたりとも。ご飯よ~。」
「「は~い!」」
季節は秋。私はこうしてまた、幽香さんとこの別荘で暮らすことになった。
ただ前回までと違って、二人きりというわけじゃない。どうした訳か幽香さんの庇護下ある、このメディスンという女の子も一緒だ。
「……? なに、リグル?」
「ううん、何でも無いよ。メディスン。」
正直、ちょぴり──ううん、かなり寂しいかも。
「ほらメディ。また顔を汚して……拭いてあげるからこっちいらっしゃい。」
「は~い!」
幽香さんに呼ばれて、嬉しそうに返事をするメディスン。
体に不釣合いな、大きめな椅子から滑り降りると、真っ直ぐ幽香さんの元へと向かう。
「もう。どうしたらこんなに顔を汚せるのかしら……って貴女、服もケチャップだらけじゃない!」
「へへへへ。」
だらしなく笑うメディスンに、幽香さんは「もう!」と声を上げるも、その実、顔は緩みっぱなしだ。
「着替えるしかないわね……着替え持ってくるから、ほら、それも脱いじゃって。」
甲斐甲斐しく子守をする幽香さん──母性に溢れててすごく素敵です。
幽香さんお手製のオムライスを頬張りながら、私も釣られて顔が緩むのを感じた。が──
そんな和やかな雰囲気は長くは続かない事を、私は知っている……。
「なに、リグル? 羨ましいの?」
来た──。
幽香さんが着替えを取りに席を外したことを良い事に、メディスンは先程と180℃変わった笑みを浮かべた。
「べ、別にそういう訳じゃあ……。」
「うそ。顔に書いてあるもの。」
「うっ……。」
「すこしくらい幽香と付き合いが長いからって、ちょうしに乗らないことね……幽香をひとりじめしていいのは、わたしだけなんだから。」
成る程、毒人形とはこういう事か──と、毎回思わせる程の毒舌ぶり……少々舌足らずな為、凄味は半減しているが。
「はぁ……どうして君はいつも──」
「ほら、メディ。これに着替えなさい。」
「は~い!」
幽香さんが戻るや否や、再び満面の笑みへと変わる毒人形……幽香さん。貴女は騙されている(泣)
幽香が満足そうにうなずいた。
わたしたちが、昼ごはんを残さなかったことを喜んでいるみたい。
幽香のつくるごはんはどれもおいしいから残すはずないのに。
でもピーマンは例外。あれは食べ物じゃない──なんて言ったら幽香におこられた。
食器を持って台所にいく幽香を追って、わたしやリグルも自分のを持ってあとに続いた。
自分で出来ることは成るべくやる様にと、幽香には言われてる。
なんて口では言っていても、お節介な幽香は結局ほとんどやってくれるのだけど。
着替えにしたってそう。喜々として手伝ってくれる。
──それに対してわたしは何も言わない。だってわたし人形だし。
つまるところ、幽香はわたしに夢中なのだ。ふふふ、人形として、これほどの幸せも無いと思う。
が、そんな私たちの幸せをこわそうと目論む、わるい妖怪がいた──そう、何を隠そう、リグルだ。
「幽香さん、私も手伝います。」
「あらそう? じゃあお願いしようかしら。」
流し台に立つ幽香のすぐ隣をじんどり、リグルはそんなことをいけしゃぁしゃぁといってる。
「わ、わたしも何かする!」
わたしだって黙って要られない。宙に浮いてまで己の存在を必死にアピール。
「ふふふ、良い子ね、メディ。じゃあテーブル拭いてきて貰えるかしら。」
まただ──。
こういったとき、わたしに回ってくる仕事は軽いものばかり。幽香のやさしさだって事は分っているけど、これではわたしだけ蚊帳の外だ。
しかし、ここで不平を漏らしたところで、幽香を困らせるだけ。ここは身を引くしかない。
「は~~い!」
顔で笑って、心で泣いて……ああ、かわいそうなわたし……。
幽香から台拭きを受け取ると、すぐさまテーブルへと引き返す。
一刻だって、二人きりになんてさせないんだからっ!
…………一刻って何分?
私は今、これまでに無いほどの幸せを噛み締めていた。
気が利いて、どんな些細なことも相談に乗ってくれる、優しいリグル。
生まれたばかりで手が掛かるも、どんな時も傍に居てくれると約束してくれた、メディ。
こんな暖かな家族に囲まれて、私は幸せ者だ──いや、正確にはまだ、家族ではない。
今はただ、寄り集まって生活しているだけ。
異端者である私が、二人に甘えているだけに過ぎないのだ。
それでは駄目なのだ。
そんな仮初の関係を私は望んでいるわけではない。
私が変わらなくては成らない──私の目標に、漸く具体性が備わった気がする。
そう、この二人を私の本当の家族にしてみせる……!
「ね、ねぇ。リグル?」
「なんですか、幽香さん?」
「私の事……“幽香”って、呼んでも良いのよ?」
「…………え?」
流石に早すぎたかしら……? 洗い立ての食器を片手に固まるリグルを横目に私は内心焦っていた。
「ご、ごめんなさい。変なこと言って、今のは忘れて──」
「うん……分ったよ、幽香。」
「え……?」
今度は私が固まる番だった。
隣に立つリグルをよくよく見てみると、顔を真っ赤にしていた。
──どうしよう、すごく嬉しい……。
その後私たちは、気恥ずかしさからか、特に会話もなく黙々と食器を洗っていた。
「「あっ。」」
不意に、食器を取ろうとした二人の手が触れた。
危うく落としかけたが、リグルが辛うじてそれを防いだ。
「ご、ごめんなさい、リグル……。」
「ううん、こちらこそ……幽香。」
そんな見詰め合う二人を目の当たりにしたわたしは、唖然とするばかりだった。
(だめ……! 幽香が取られちゃう……!!)
そう思った時には、わたしは幽香を後ろから抱き締めていた
もちろん背丈が違うから、わたしが抱き付いたのは幽香のお尻だ。
「ちょっ!? 危ないっ!!……どうかしたの、メディ?」
幽香は一瞬怯んだものの、直ぐに優しく声を掛けてくれた。
──どうもこうも無い。幽香と一緒に居て良いのはわたしだけの筈なのに……
わたしは、幽香を取ろうとする不届き者を思いっきり睨んでやった。
「はははは……。」
(これは……完全に嫌われた、かな……?)
「……すんっ。」
(渡さない、幽香は絶対に渡さないんだからっ!)
「もう……仕方の無い子ね……。」
(もう、メディったら甘えん坊なんだから……そこがまた可愛いんだけど。)
すれ違う三人の心。
それにも気付かず、幽香は暖かい家族を夢見て、更なる行動に出るのだが……。
それはまた、別のお話し。
「ふたりとも。ご飯よ~。」
「「は~い!」」
季節は秋。私はこうしてまた、幽香さんとこの別荘で暮らすことになった。
ただ前回までと違って、二人きりというわけじゃない。どうした訳か幽香さんの庇護下ある、このメディスンという女の子も一緒だ。
「……? なに、リグル?」
「ううん、何でも無いよ。メディスン。」
正直、ちょぴり──ううん、かなり寂しいかも。
「ほらメディ。また顔を汚して……拭いてあげるからこっちいらっしゃい。」
「は~い!」
幽香さんに呼ばれて、嬉しそうに返事をするメディスン。
体に不釣合いな、大きめな椅子から滑り降りると、真っ直ぐ幽香さんの元へと向かう。
「もう。どうしたらこんなに顔を汚せるのかしら……って貴女、服もケチャップだらけじゃない!」
「へへへへ。」
だらしなく笑うメディスンに、幽香さんは「もう!」と声を上げるも、その実、顔は緩みっぱなしだ。
「着替えるしかないわね……着替え持ってくるから、ほら、それも脱いじゃって。」
甲斐甲斐しく子守をする幽香さん──母性に溢れててすごく素敵です。
幽香さんお手製のオムライスを頬張りながら、私も釣られて顔が緩むのを感じた。が──
そんな和やかな雰囲気は長くは続かない事を、私は知っている……。
「なに、リグル? 羨ましいの?」
来た──。
幽香さんが着替えを取りに席を外したことを良い事に、メディスンは先程と180℃変わった笑みを浮かべた。
「べ、別にそういう訳じゃあ……。」
「うそ。顔に書いてあるもの。」
「うっ……。」
「すこしくらい幽香と付き合いが長いからって、ちょうしに乗らないことね……幽香をひとりじめしていいのは、わたしだけなんだから。」
成る程、毒人形とはこういう事か──と、毎回思わせる程の毒舌ぶり……少々舌足らずな為、凄味は半減しているが。
「はぁ……どうして君はいつも──」
「ほら、メディ。これに着替えなさい。」
「は~い!」
幽香さんが戻るや否や、再び満面の笑みへと変わる毒人形……幽香さん。貴女は騙されている(泣)
幽香が満足そうにうなずいた。
わたしたちが、昼ごはんを残さなかったことを喜んでいるみたい。
幽香のつくるごはんはどれもおいしいから残すはずないのに。
でもピーマンは例外。あれは食べ物じゃない──なんて言ったら幽香におこられた。
食器を持って台所にいく幽香を追って、わたしやリグルも自分のを持ってあとに続いた。
自分で出来ることは成るべくやる様にと、幽香には言われてる。
なんて口では言っていても、お節介な幽香は結局ほとんどやってくれるのだけど。
着替えにしたってそう。喜々として手伝ってくれる。
──それに対してわたしは何も言わない。だってわたし人形だし。
つまるところ、幽香はわたしに夢中なのだ。ふふふ、人形として、これほどの幸せも無いと思う。
が、そんな私たちの幸せをこわそうと目論む、わるい妖怪がいた──そう、何を隠そう、リグルだ。
「幽香さん、私も手伝います。」
「あらそう? じゃあお願いしようかしら。」
流し台に立つ幽香のすぐ隣をじんどり、リグルはそんなことをいけしゃぁしゃぁといってる。
「わ、わたしも何かする!」
わたしだって黙って要られない。宙に浮いてまで己の存在を必死にアピール。
「ふふふ、良い子ね、メディ。じゃあテーブル拭いてきて貰えるかしら。」
まただ──。
こういったとき、わたしに回ってくる仕事は軽いものばかり。幽香のやさしさだって事は分っているけど、これではわたしだけ蚊帳の外だ。
しかし、ここで不平を漏らしたところで、幽香を困らせるだけ。ここは身を引くしかない。
「は~~い!」
顔で笑って、心で泣いて……ああ、かわいそうなわたし……。
幽香から台拭きを受け取ると、すぐさまテーブルへと引き返す。
一刻だって、二人きりになんてさせないんだからっ!
…………一刻って何分?
私は今、これまでに無いほどの幸せを噛み締めていた。
気が利いて、どんな些細なことも相談に乗ってくれる、優しいリグル。
生まれたばかりで手が掛かるも、どんな時も傍に居てくれると約束してくれた、メディ。
こんな暖かな家族に囲まれて、私は幸せ者だ──いや、正確にはまだ、家族ではない。
今はただ、寄り集まって生活しているだけ。
異端者である私が、二人に甘えているだけに過ぎないのだ。
それでは駄目なのだ。
そんな仮初の関係を私は望んでいるわけではない。
私が変わらなくては成らない──私の目標に、漸く具体性が備わった気がする。
そう、この二人を私の本当の家族にしてみせる……!
「ね、ねぇ。リグル?」
「なんですか、幽香さん?」
「私の事……“幽香”って、呼んでも良いのよ?」
「…………え?」
流石に早すぎたかしら……? 洗い立ての食器を片手に固まるリグルを横目に私は内心焦っていた。
「ご、ごめんなさい。変なこと言って、今のは忘れて──」
「うん……分ったよ、幽香。」
「え……?」
今度は私が固まる番だった。
隣に立つリグルをよくよく見てみると、顔を真っ赤にしていた。
──どうしよう、すごく嬉しい……。
その後私たちは、気恥ずかしさからか、特に会話もなく黙々と食器を洗っていた。
「「あっ。」」
不意に、食器を取ろうとした二人の手が触れた。
危うく落としかけたが、リグルが辛うじてそれを防いだ。
「ご、ごめんなさい、リグル……。」
「ううん、こちらこそ……幽香。」
そんな見詰め合う二人を目の当たりにしたわたしは、唖然とするばかりだった。
(だめ……! 幽香が取られちゃう……!!)
そう思った時には、わたしは幽香を後ろから抱き締めていた
もちろん背丈が違うから、わたしが抱き付いたのは幽香のお尻だ。
「ちょっ!? 危ないっ!!……どうかしたの、メディ?」
幽香は一瞬怯んだものの、直ぐに優しく声を掛けてくれた。
──どうもこうも無い。幽香と一緒に居て良いのはわたしだけの筈なのに……
わたしは、幽香を取ろうとする不届き者を思いっきり睨んでやった。
「はははは……。」
(これは……完全に嫌われた、かな……?)
「……すんっ。」
(渡さない、幽香は絶対に渡さないんだからっ!)
「もう……仕方の無い子ね……。」
(もう、メディったら甘えん坊なんだから……そこがまた可愛いんだけど。)
すれ違う三人の心。
それにも気付かず、幽香は暖かい家族を夢見て、更なる行動に出るのだが……。
それはまた、別のお話し。
ゆうかりんカワイイよカワイイよゆうかりん