※ 百合的描写が含まれます。また、表現の一部に不快感を覚えることがあるかもしれません。注意してお読みください。
あの地底を騒がす異変の起きる、ほんの少し前のこと。
私はいつものように地上を放浪して、いつものように地霊殿に帰ってきた。
無意識の能力を解いて、ただいま、と声をかける。
返事がないので珍しいなと思ったら、お姉ちゃんがソファで眠っていた。
机の上には散乱した書類がある。珍しく徹夜だったのかな、と私は首をかしげた。
お姉ちゃんはこういうのはきちんと仕上げるから、疲れて眠っているというのは珍しい。
是非曲直庁から急ぎの仕事でもあったのだろうか。
起こすこともないので、私は毛布をとってきてお姉ちゃんの体に掛けてあげた。
寝乱れた髪を手で梳き整えてあげる。
お姉ちゃんの、肩口まで伸ばされた葡萄色の髪が私は好きだった。
手間がかかるとぼやくけど、私はお姉ちゃんのきれいな髪を見ているだけで幸せになれるから、どんどん手間をかけてほしい。
目を閉じたお姉ちゃんの寝顔はきれいで、どれだけ見ても飽きそうになかった。まあ、身内補正がかかっているとは思うけど、それにしても、整っている。
胸の第三の目だけが、穏やかなお姉ちゃんの寝姿なかで一つ異質に、ぽっかりと虚空を見つめていた。
お姉ちゃんはどんな夢を見ているのだろう。
不思議だ、起きているときはうまく話せなくて、なかなか気持ちを伝えることもできないのに、寝ている間のお姉ちゃんとは良く話している気がした。このままだと私はお姉ちゃんの寝ている間にしか地霊殿に帰らなくなるかもしれない。
そんな馬鹿なことを思いながら、私はお姉ちゃんの髪を手で梳いてその感触を楽しんでいた。
ふわふわで、サラサラして、砂糖菓子のように軽い。
甘い香りも漂ってくる。お姉ちゃんの匂い。
どうしてだろう、同姓なのに、お姉ちゃんの髪だけは例えようもなく私は魅了された。
お姉ちゃんの髪を一束そっと手にして、思わず頬に摺りよせた。
やわらかい感触。ふんわりとした香りが心地よい。
そっと口付けて、甘く噛む。
幸せな味がする。
お姉ちゃんの香りが口内に広がる。
もしもこのまま意識を手放してしまったら、私は迷わずこれを食べてしまうかもしれない。
「――こいし?」
気配に、気付くのが遅れた。
はっ、と思ったときにはお姉ちゃんはぼんやりと目を開けて私を見ていた。
「―――――あ、」
どうしよう
見られてしまった
頭の中は言い訳でいっぱいになる。秘密を見られたことの焦りと、嫌われたくないという衝動が体の中で跳ね回る。
しかしこの場を切り抜けるうまい言い訳なんてもちろん見つかるはずもなくて。
私が動きを止めてしまっている間にお姉ちゃんは数度瞬きをした。
それで、完全に目が覚めたらしい。お姉ちゃんはむくりと半身を起こす。
そのまま、机の上にあった文房具入れからハサミを手に取った。
「欲しいのなら、あげましょうか?」
「…………え?」
そう言うと。
お姉ちゃんは私の答えも聞かず、あっという間にはさみで髪の毛を、一房ざっくりと切り落とした。
「お姉ちゃん」
「はいどうぞ」
お姉ちゃんは何も知らない笑顔で笑う。
笑って、私に髪を差し出す。
私は。
私は、よくわからないままそれを受け取った。
本当は、こんなものが欲しいんじゃなかったのに。
「あり……がとう」
かすれた声が喉に引っかかる。
手から髪が消えるとお姉ちゃんは、何事もなかったかのように立ち上がった。
「うん……このままだと、いけないですね」
お姉ちゃんはくるんとはさみを持ち直して。
躊躇なく自分の髪を掴んだ。
ざくざくという音が部屋に響く。
私の好きだったものが、次々と切り落とされていく。
お姉ちゃんは無造作に、まるでそれが大事でもなんでもないかのように切り落とす。
「ふぅ……こんなものですか」
お姉ちゃんは、そう言って小さな手鏡を取り出した。
自分のばらばらに切られた髪を眺める。
私は呆然としてそれを見ていた。
「掃除はペットに任せますか。こいし、私は洗面所で細かいところを整えてきますね」
「あ、うん」
「それから夕食にしましょう」
お姉ちゃんはそう言って、もう一度私に笑いかけると部屋を出て行った。
私はどうすればいいのかわからなくて、とりあえずいつも通りの笑みを浮かべただけだった。
私はなんということもなく、床を見つめた。
今は床に零れ落ちている髪達が、本当に愛おしいもののように思えた。
あの地底を騒がす異変の起きる、ほんの少し前のこと。
私はいつものように地上を放浪して、いつものように地霊殿に帰ってきた。
無意識の能力を解いて、ただいま、と声をかける。
返事がないので珍しいなと思ったら、お姉ちゃんがソファで眠っていた。
机の上には散乱した書類がある。珍しく徹夜だったのかな、と私は首をかしげた。
お姉ちゃんはこういうのはきちんと仕上げるから、疲れて眠っているというのは珍しい。
是非曲直庁から急ぎの仕事でもあったのだろうか。
起こすこともないので、私は毛布をとってきてお姉ちゃんの体に掛けてあげた。
寝乱れた髪を手で梳き整えてあげる。
お姉ちゃんの、肩口まで伸ばされた葡萄色の髪が私は好きだった。
手間がかかるとぼやくけど、私はお姉ちゃんのきれいな髪を見ているだけで幸せになれるから、どんどん手間をかけてほしい。
目を閉じたお姉ちゃんの寝顔はきれいで、どれだけ見ても飽きそうになかった。まあ、身内補正がかかっているとは思うけど、それにしても、整っている。
胸の第三の目だけが、穏やかなお姉ちゃんの寝姿なかで一つ異質に、ぽっかりと虚空を見つめていた。
お姉ちゃんはどんな夢を見ているのだろう。
不思議だ、起きているときはうまく話せなくて、なかなか気持ちを伝えることもできないのに、寝ている間のお姉ちゃんとは良く話している気がした。このままだと私はお姉ちゃんの寝ている間にしか地霊殿に帰らなくなるかもしれない。
そんな馬鹿なことを思いながら、私はお姉ちゃんの髪を手で梳いてその感触を楽しんでいた。
ふわふわで、サラサラして、砂糖菓子のように軽い。
甘い香りも漂ってくる。お姉ちゃんの匂い。
どうしてだろう、同姓なのに、お姉ちゃんの髪だけは例えようもなく私は魅了された。
お姉ちゃんの髪を一束そっと手にして、思わず頬に摺りよせた。
やわらかい感触。ふんわりとした香りが心地よい。
そっと口付けて、甘く噛む。
幸せな味がする。
お姉ちゃんの香りが口内に広がる。
もしもこのまま意識を手放してしまったら、私は迷わずこれを食べてしまうかもしれない。
「――こいし?」
気配に、気付くのが遅れた。
はっ、と思ったときにはお姉ちゃんはぼんやりと目を開けて私を見ていた。
「―――――あ、」
どうしよう
見られてしまった
頭の中は言い訳でいっぱいになる。秘密を見られたことの焦りと、嫌われたくないという衝動が体の中で跳ね回る。
しかしこの場を切り抜けるうまい言い訳なんてもちろん見つかるはずもなくて。
私が動きを止めてしまっている間にお姉ちゃんは数度瞬きをした。
それで、完全に目が覚めたらしい。お姉ちゃんはむくりと半身を起こす。
そのまま、机の上にあった文房具入れからハサミを手に取った。
「欲しいのなら、あげましょうか?」
「…………え?」
そう言うと。
お姉ちゃんは私の答えも聞かず、あっという間にはさみで髪の毛を、一房ざっくりと切り落とした。
「お姉ちゃん」
「はいどうぞ」
お姉ちゃんは何も知らない笑顔で笑う。
笑って、私に髪を差し出す。
私は。
私は、よくわからないままそれを受け取った。
本当は、こんなものが欲しいんじゃなかったのに。
「あり……がとう」
かすれた声が喉に引っかかる。
手から髪が消えるとお姉ちゃんは、何事もなかったかのように立ち上がった。
「うん……このままだと、いけないですね」
お姉ちゃんはくるんとはさみを持ち直して。
躊躇なく自分の髪を掴んだ。
ざくざくという音が部屋に響く。
私の好きだったものが、次々と切り落とされていく。
お姉ちゃんは無造作に、まるでそれが大事でもなんでもないかのように切り落とす。
「ふぅ……こんなものですか」
お姉ちゃんは、そう言って小さな手鏡を取り出した。
自分のばらばらに切られた髪を眺める。
私は呆然としてそれを見ていた。
「掃除はペットに任せますか。こいし、私は洗面所で細かいところを整えてきますね」
「あ、うん」
「それから夕食にしましょう」
お姉ちゃんはそう言って、もう一度私に笑いかけると部屋を出て行った。
私はどうすればいいのかわからなくて、とりあえずいつも通りの笑みを浮かべただけだった。
私はなんということもなく、床を見つめた。
今は床に零れ落ちている髪達が、本当に愛おしいもののように思えた。
興を削ぐようで申し訳ないですorz
>同姓
確かにそうだけど!w 「同性」ですかね?
訳:さとりんの負い目から来るだろう、自己犠牲と混ざってしまった歪な形の愛情
背信してなお、姉を求めてしまい床に擲たれた髪にまで執着と愛情を感じるこいしたん
二人とも互いに向ける思いは大きいのに全くグレイズしていない
すごくツボでした、もう純粋にお互いに触れられないのが古明地姉妹
ラストで笑うしかないこいしたんに息が詰まりそうになりますた
古明地姉妹はシリアスぎみが似合いますね(個人的にですが。
さとり様とこいしたんはすれ違いが多い気がします。お互い空回りしっぱなし。少し、寂しくも感じられます。
〉多分クセっ毛でダメなんでしょうけど。
くせっ毛ってロングだと髪の重みで目立たなくなるんですよ。ショートは軽いからびよんびよんw
元ロングで現在ショートな私の体験談。