博霊神社は今日ものどかな午後を送っていた。
その縁側に、裸足を投げ出してゆっくりと進む時間を博霊の巫女、霊夢は温くなった緑茶で楽しむ。
異変も起こらなければ、妖怪退治の依頼もない。少し退屈なのは不満だったが、それもまた一興と余裕を持てた。
「最高に暇、っていいわね。隣にアンタがいなければ」
「霊夢さん、私はただ分社の様子が気になっているだけです」
「とか言って私に修行を強要するのはやめてよほんと、だるいったらありゃしない」
「それは霊夢さんが普段怠けているからでしょう?」
霊夢の隣には守矢の巫女、東風谷早苗が自身の茶を注いでいた。
「ほんと、言う時言うわよね、めんどくさくならないの?」
「何がです」
「自分が」
「霊夢さんこそ、そうやってダラダラ過ごすのって有意義なんですか?」
霊夢は立ち上がり台所へと進もうとするが、その裾を早苗に引っ張られた。
「逃げないでください」
「確か羊羹があったから取りに行こうとしただけよ」
「おようかん?」
「こしあんよ、それでもいい?」
霊夢は早苗と話す時は必ずいらついていた。
先にも修行と称して弾幕勝負を挑まれたところだった。受けて立つも、結果は霊夢の勝ちだが乗せられてしまったので負けた気分にさせられる。
その前にも同じ様な事が何度もあった。分社として、と勝手に部屋を掃除されている、夕食の準備をされている、風呂の準備をされている。
「アンタ、私のなんなのよ」
「いきなりなんですか、霊夢さん」
「それもムカついてるの」
「は?」
「さん、とか言われるの」
「え、じゃあ……霊夢?」
早苗の行動に悪意はないと言う事は、霊夢自身よく知っていた。
だからと言って自分の心に踏み込まれるのは、性質が悪い。それを早苗に教えてやりたかった。
「それでいいですわよ早苗さん、いい加減離して」
「あ、はいごめんなさい」
早苗は裾を放し、台所へと向かう霊夢を見送った。そして一回、ため息。
なんでいつも霊夢を怒らせてしまうのか早苗はわからなかった。
同じ巫女として、そして幻想郷に来て初めて会った人間として、ただ親切にしたい。
自分の常識はここでは通用しない、それを身と弾幕で教えてくれたのが霊夢だった。それほど幻想郷での生活は早苗には辛かった。
その辛さを和らげてくれるのであれば、その恩を返したい。早苗はそう感じて足繁く博霊神社に通っていた。
「霊夢さんと仲良くしたいだけなのになぁ」
「ほら、またさん付け」
ぶらぶらと足を振らせていた早苗の後に、盆を持つ霊夢が立つ。
「霊夢さ……霊夢は私と仲良くなりたくないんですか?」
「普通さ、自分でそんな事言わないよね」
「まぁそうですけど」
「面倒なのよ、人妖問わず付き合いって」
「寂しくありません?」
「別に。退屈ってのはあるけど」
「でもそれじゃあお友達は」
「だから、アンタは私のなんなのよ」
早苗はそれを聞くと不機嫌そうに黙った。その脇へと霊夢は持ってきた羊羹を置き、早苗の隣に座る。
「ほら、食べなさい。せっかくの貰い物が痛みかけてたんだから」
「私は霊夢の残飯係なんですね」
「はぁ……めんどくさいわね。悪かったわよ友達よ、早苗は」
「面倒って言った」
「じゃあなんなのよ、もぉ」
あー、と唸る霊夢に早苗は貰った羊羹を口に運ぶ。と、途端に早苗は目を丸くした。
「……おいし」
「うっそ、ほんとに?」
「えぇ、霊夢も食べてください」
「……あ、ほんとだ美味しい」
そして一口、もう一口と二人は羊羹をあっという間に平らげていた。至福の時間の余韻が口元に残る。
「御馳走様でした」
「寝かしておいたのは勿体なかったわね。一人で食べれば良かった」
「口汚れてますよ、ほら」
「ちょ、やめてよ自分で拭けるから」
早苗は持っていたハンカチで霊夢の口を拭おうとしたが、霊夢の手によって防がれる。
いいからと強引に口を拭き、満足な顔をする早苗に霊夢はまたいらついた。
「ほんっと、自分の思い通りじゃないと駄目なのね」
「はい?」
「何でもない」
「でもこっちでもこんなに美味しい和スイーツが食べられて良かった」
早苗のその一言は、霊夢に衝撃を与えた。霊夢は目を見開き、ゆっくりと早苗の顔へと振り向いてゆく。
「……和スイーツ?」
「……和スイーツ」
「……和菓子じゃないの?」
「やだもう霊夢ったら」
あははと早苗は笑うが、どうにも納得が出来なかった。
「いやいや、やだもうじゃなくって」
「えー? そっちの言い方の方が可愛いじゃないですか」
「かわ、え、かわ!? え、そんな判断基準なの!?」
「こっちじゃ、そう言わないんですか?」
「いや外の世界だとその言い方が当たり前なの?」
次第に早苗の目が据わっていくが、霊夢は疑問で頭がいっぱいになってゆく。
「和菓子って言いますけど、スイーツの方がやっぱり可愛いじゃないですか」
「いや、えー、でもやっぱりお菓子はお菓子でしょ」
「……スイーツ」
「お菓子」
「スイーツ!」
「お菓子!」
その言い合いは夕暮れまで続いた。
翌朝。霊夢と早苗は出かける準備をしていた。
「ていうか泊まりとか聞いてなかったわよ」
「言ってませんから」
「なんなのよあの日なの!?」
「それは霊夢の方でしょ!」
二人とも、昨日の事もあってか随分と機嫌が悪かった。
スイーツかお菓子か、両者だけでは決着がつかず、第三者の意見を頼りに今から出かける所であった。
「うっさいわね、いいから行くわよ」
「どこから行くんですか? 実はまだあんまりここの事を知らないものですから」
「さてどこから行こうか……」
「どこから行きましょうか」
「もちろんスイーツですわ、ねぇ橙?」
「うん、おばあちゃま」
手始めに八雲邸にやってきた霊夢と早苗は、目の前にいる八雲紫とその式の式、橙に一言申したかった。が、今はやめておく。
「ね、霊夢! スイーツじゃないですか!」
「いやいや、ちょっと紫! アンタこの前までお菓子って言ってたじゃないの!」
「でも橙が教えてくれたんだも~ん。スイーツの方がナウいのよ? ぷぷっ、霊夢って古い人? オールディーズ?」
「おばあちゃまだってそうだったじゃないの~、いいにおーい」
「もぉ~、橙ったら甘えん坊なんだから~」
座布団の上に座る紫の膝に、橙が座り抱きついている。胸元に橙は顔を埋めると、その頭を紫が優しく撫でていた。
「ほら、やっぱりスイーツですよ」
「えー? まぁ他にも聞きに行きましょうか。で、紫」
「なに? キャ、もぉ橙ったらくすぐったいー」
「えへへー」
「おばあちゃまって何よ。年寄り扱いされるの嫌ってたじゃない」
「え、紫さんって私たちより年齢高いんですか!?」
霊夢と早苗の一言は、最強と謳われる妖怪の目を鋭く光らせた。
「おばあちゃんって呼んでいいのは橙だけ。他が言ってみなさい、墜としますわよ?」
「……はい、すみません」
「え、え、霊夢、でも紫さんって」
「シッ! 早苗は黙ってて!」
その張りつめた空気がその一言で緩くなる。
「おばあちゃま、めっ! お客さん怖がらせたらダメだからね!」
「はぁーい。霊夢と早苗ちゃん、橙に感謝しなさい」
「……紫さ、こんなに疲れる奴だったっけ」
「橙ちゃん、ありがとう」
早苗が橙に礼を言うと、後頭部に紫の胸が当たるように体勢を変えて、橙は自慢げに笑って見せた。
「えっへん!」
「橙ったら生意気~、ほーらこちょこちょー」
「おばあちゃまくすぐったーい!」
「……この二人、こんなに仲良かったっけ?」
「霊夢、ちょっと霊夢あれ見てください!」
「何よ早苗、そんなに肩を叩かないでうわ怖っ!」
早苗が指を差した方向には、窓の外から紫と橙を、血の涙を流しながら見つめている九尾の狐の姿があった。
「……あぁ、紫さん。お邪魔しました」
「え、えぇありがとう紫。参考になったわ」
「どういたしまして。ほらちぇーん」
「きゃー!」
そうして二人は八雲邸から出た。一番初めだというのに、異変が起こった時よりも疲れたのは初めてだった。
「……なんだったの、あれ」
「うわっ、まだ見てますよあの人! しかも何かブツブツ言ってるし!」
「聞いたら呪われるわよ、さっさと次行きましょう」
そうして二人は出て行った。
「私の橙と……私の橙とあんなに……ちくしょう誰がこんな事を……」
「おかしー、おかしよもちろんー。妖夢もそうでしょー?」
「あぁもう幽々子様零していますって!」
白玉楼、その一室でだらっとテーブルに顔を乗せて西行寺幽々子は煎餅を食べていた。
畳の下に落ちたその破片を、箒と塵取りを持って片付ける魂魄妖夢に霊夢と早苗は少し同情した。
「ほら見なさい、お菓子じゃないの」
「でもお煎餅はスイーツじゃありませんよ霊夢」
「すいーつかっこわらいー、って言うのを聞いた事があるわー。笑われちゃってるのよその言い方―」
「と言うよりも、あなた達はそんなくだらない事を聞きに来たの?」
妖夢のその一言は、霊夢や早苗はもちろん、主人である幽々子の目を鋭く光らせてしまう。
「くだらない!? じゃあ何よアンタはそんなくだらない物をいっつも幽々子に食べさせてるってわけ!?」
「そうですよ! くだらないんだったら妖夢さんは一生食べなくても生きていけますよね!」
「妖夢、今のは言い過ぎだわ。この二人にじゃない、すべてのお菓子に対してよ。何のために彼らは存在していると思うの?」
「え、いや、そんなつもりで言ったわけじゃ……」
二人の怒号、そして背を正し身構える幽々子のその冷徹な目に妖夢はその場を少したじろいだ。
「あぁそうよ! アンタの好きなあんみつ食べなくても大丈夫よね!」
「あんみつ美味しいお店が里で新しく出来ましたけど妖夢さんには教えなくても別にいいですよね!」
「そうよ、妖夢。貴女はあんみつを侮辱した。あんみつは貴女の事が大好きなのに、貴女はその気持ちを踏みにじる行為をした」
「だか、ふぇ……違うんです……」
妖夢の目は次第に潤んでいく。
「謝りなさいよ!」
「そうです謝ってください!」
「妖夢、貴女は過ちを犯してしまった。でも今ならまだ間に合う。大丈夫よ、そうして成長するのだから」
その一言を発した幽々子の顔は、まるで菩薩を思わせた。
「あ……ご、ごめん……なさい……」
「わかればいいのよ、妖夢。大丈夫、いつまでもあんみつは貴女を裏切る事はない。貴女もあんみつをいつまでも愛してあげなさい」
「ゆゆ……え、ごめ……ぐっ……ひっく……」
妖夢は泣いた。泣きじゃくった。なんで謝らなければわからなかった、故にいつまでも泣いた。
「それじゃあ、霊夢、早苗ちゃん」
「あ……ごめんね、なんか邪魔しちゃって」
「幽々子さん、貴重なご意見をありがとうございました」
そして二人は白玉楼の門まで戻ってきた。そしてそこからでも妖夢の泣き声は聞こえてきた。
「あんみつ食べたくなってきたわ」
「じゃあ今度行きましょうか、本当に美味しかったですよ」
「デザート、そう、その呼び方しか私は認めないわ」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットは謁見の間で霊夢と早苗に伝えた。その高貴な振る舞いに早苗は感動して口を開いた。
「あのちびっこ、なんであんなに偉そうなんですか霊夢?」
「ほんとよ、なんなのかしらねあのちびっこ」
「ちびっこ呼ばわり!?」
うわーうわー、と霊夢と早苗はヒソヒソと話すその光景が、レミリアの怒りを久しく思い出させた。
「ちびっこって何よ! あなた達より年上なのよ!?」
「でもちびっこじゃないですか」
「そうよちびっこじゃない」
「そうですわよ、ちびっこ様」
「咲夜にまで!? 下克上万歳!?」
不意に背後に立たれた自らのメイドの一言に、レミリアはショックを隠せない。
「だってちびっこ様はおねしょをまだするし、妹様が他の妖怪と遊んでると空気を読まずにその空気を破壊してしまいますし、おやつ……あぁちびっこ様はデザートでしたわね、自分の方が小さいと駄々をこねますし、私とおねえ……美鈴との逢瀬も邪魔しますし」
「わー! 本当にメイドさんっているんですね霊夢! しかも百合の香りがしますよ!」
「アンタそっちに感動してたのね、あと咲夜、おねえってなによ」
「ちびっこじゃないもん! ゆかっちとえりりんと一緒に遊んでるからもう大人だもん! それにフランの方がいっつもケーキ大きいもん! あと私だってめーりんと一緒に遊びたいもん! さくやばっかりずるいんだもん!」
先に見せたそのカリスマの溢れる姿はとうに消え、母親に訴える一人の少女しかそこにはいなかった。
「やっぱりちびっこだ」
「見なさい早苗、あのちびっこがこの紅魔館を取り仕切っているのよ」
「最近は私と美鈴の間に入って寝ているではありませんかちびっこ様。妹様を見てください、ちゃんと一人で寝ているじゃないですか」
「フランと私はちがうもん! あいつはもう」
「お嬢様!」
ばしん、と咲夜はレミリアの頬に叩く。何かまずいものを見たような、八雲邸とはまた違った、居た堪れない気持ちに霊夢と早苗はなった。
「…………さくやがぶったぁー! めぇーりぃーん!」
「あ! 駄目ですお嬢様! 美鈴は私のです!」
そうして二人は、謁見の間から離れていった。その場に取り残される霊夢と早苗。
「そうか、おやつって言い方があったわね」
「スイーツとはまたちょっと違うんですけどね、おやつって」
「ふむ、どっちだろうな? 貴女はどう思う」
「うーん、悩むわね」
人間の里の寺子屋、そこに上白沢慧音はいたのはわかったが、なぜ八意永琳もいるのか二人はわからなかった。
「なんでいるのよアンタ、永遠亭はどうしたのよ」
「そうですよ永琳さん、かぐや姫さまはどうしたんですか?」
「ばっ、やめろその話はするな!」
「……いいのよ……私は捨てられたもの」
急に暗くなる永琳にあたふたする慧音を見て、二人の頭の上に『?』のマークが浮かび上がる。
「大丈夫だから、貴女は私がずっといるから」
「……うん、けーねちゃん……じゃあちゅーして」
「なっ! 貴女はまたそんな事を言って! ほら二人が怪訝そうな顔をしふがぐぐ」
「…………ん、元気出たわ」
えへへ、と永琳は顔を慧音に向ける。首を永琳の手に回されている慧音の顔は真っ赤になっていく光景に霊夢と早苗は唖然とした。
「……女性同士の……初めて見ちゃった」
「いや……私もよ」
「でももう一回、慧音……」
「だ、だから貴女はんぅ!」
霊夢と早苗は、何も言わずにその場を後にした。しかし永琳と慧音だけの空間はまだ続いている事だろう。
「……気持ちいいのかな、女の子同士のキスって」
「やめて、私はそっちの趣味ないんだからそんな目で見てこないで」
「それよりも手伝ってくれ! さぁさぁ!」
「ちょっと魔理沙! 何逃げ出そうとしてるのよ!」
「ちょ、埃っぽすぎでしょ……あ、これ持ち出してたのね魔理沙」
魔法の森の霧雨魔法店、霧雨魔理沙の家にやって来た霊夢と早苗は、そのドタバタ振りを見て逃げ出そうと考えていた。
「あぁ掃除中だったのね、ごめんなさい。また後日にするわ」
「えぇ。あぁそうだ霊夢、また洗濯物ほったらかしにしてましたね」
「だからアンタは私のなんなのよって言ってるでしょ!」
「そんな風に言われたくなかったらきちんとしてください!」
「だからお前ら手伝えって!」
魔理沙は二人の手を強引に引っ張り、自らの家に招き入れた。そうするなりアリス・マーガトロイドに掃除用具を渡された。
「じゃあ霊夢はあっち、早苗はあそこお願いね」
「いやちょっとアリス!」
「そうですよなんでアリスさんが魔理沙さんの家を……霊夢、やっぱり幻想郷ってそっち系の人ばっかりなんですか?」
「いやいや、んなわけないわ。私がそうでしょ?」
「あぁ……」
「無駄口叩いてる暇あるんなら早く動く!」
と、二人は言われた持ち場についた。その頃、もう一冊見つけたとパチュリー・ノーレッジはげほげほと吸引器を取り出していた。
「パチュリーはなんでいるの?」
「えぇ、図書館に籠りっきりって聞きましたよ? はじめまして」
「あぁうん、いい機会だから……まずい、咳出る」
「あぁもうパチュリーは寝てなさい! あとで探してあげるから!」
アリスに怒鳴られ、パチュリーは取り込まれた魔理沙の布団にもぞもぞと入ってゆく。それを魔理沙は見逃さない。
「あー! パチュリーにお日様の匂い取られた―!」
「いいから魔理沙は食器洗いなさい!」
「うるさい母ちゃん! うるさい母ちゃん!」
「黙りなさい!」
「……ママー、絵本読んで―」
「パチュリーも黙って寝ててよもう!」
霊夢と早苗の目にはアリスが一人だけ騒いでいるように見えた。それ以上にアリスを母さんと呼びたくなってなってうずうずとしてしまった。
「で、お菓子かスイーツかどっちか?」
「はい」
「そうよ、この子ったらスイーツスイーツって。スイーツ馬鹿かってぐらい言うのよ?」
「そんなの言ったらお菓子馬鹿じゃないですか霊夢は」
魔理沙を横目に、霊夢と魔理沙は睨み合った。
どうやらひと段落したのか、アリスは全員分の紅茶を用意し、三人が座っているテーブルへと運んだ。
「ありがとな」
「どういたしまして。パチュリーは?」
「まだ寝てるぜ……返さなくていいよな?」
「駄目よ、返しなさい」
「いいだろー別にー、死んだら返すってさ」
「長生きしそうだから今来てるんじゃないの」
「ちぇー」
ぶー、と口を尖がらせながら紅茶を飲む魔理沙の隣に座り、茶請けのクッキーをアリスは齧った。
「ほら、霊夢も早苗もどうぞ。お掃除手伝ってくれたんだから」
「ん? ありがとうアリス。この『お菓子』はとても美味しそうだわ」
「ありがとうアリスさん、本当にこの『スイーツ』は美味しそうです」
そうして二人はまたも睨み合う。それを見て魔理沙とアリスは笑った。
「仲良いなこいつら」
「ほんと。前から思ってたけど姉妹ってくらい仲が良いわね」
「「はぁ?」」
霊夢と早苗は同時に声を上げた。
「いやだって、今同時に声上げてたし、なあ?」
「えぇ、羨ましいわ」
「いや、アンタ達に言われたくないわよ」
「そうですよ、恋人みたいに仲が良いじゃないですか」
恋人、と言われ魔理沙とアリスは互いを見て、同時に首を傾げた。
「え、仲良いのか私達?」
「良いのかしら?」
「ほら今おんなじタイミングで首曲げたじゃない」
「それにカップの持ち方だって」
それを聞き、魔理沙とアリスは同じ体勢を取っていたのに気付いた。が二人とも動じなかった。
「ほんとだな、アリスは私の事好きだったのか。いやまいったねこりゃ」
「あら、魔理沙が私の事を好きだと思っていたわ。これは失礼」
「なんたって私の家を掃除しにくるもんだからなー」
「あなたの家が汚いからよ、遊びに来るのもたまったものじゃないわ……何よ、二人とも」
二人が平然と会話を進めていくのを見て、霊夢と早苗は少しにやついていた。
「いえいえ?」
「なんでもありませんよ?」
「変な子たちね。あ、ほら零れてるわよ魔理沙」
「んー」
魔理沙の口元についていたクッキーのかすを指でアリスは取った。そしてそのまま口へ運ぶ。
「間接キスですよ霊夢」
「あららごちそうさま」
「あら、紅茶美味しかった? 魔理沙に礼を言ってね」
「しかもこれ、上等のだぜ? 隠してたのになんでアリスが知ってるんだよ」
「あー、ずるいー、私もお茶するー」
と、寝ぼけ眼でパチュリーがその場に現れた。
魔理沙とアリスは少し離れ、パチュリーの為にスペースを作った。パチュリーは自然にそのまま間に入り込む。
「……せいろん?」
「いいえ、アールグレイよ。文句は魔理沙に言いなさい」
「魔理沙のバーカ」
「じゃあパチュリーはパクリーだな、人の本勝手に持っていこうとして」
「それはあなたじゃないの魔理沙。ほら、パチュリーの」
「ありがとアリス、愛してるわ」
「パチュリーに振られたから本返したくなくなったー」
「はいはい、魔理沙も愛してる」
「よかったわね、魔理沙」
「返すのか……はぁ」
と、三人のやり取りを見ていて、霊夢と早苗はコントを見ている雰囲気になっていた。
「アンタ達……本当に仲良いわね」
「えぇ本当に」
「だからお前らには負けるって」
「えぇ本当に、いつからなの?」
いつから、とアリスに言われて何の事かわからなかった霊夢と早苗。軽く紅茶を含んでパチュリーは指をさす。
「ん……いつから繋いでるの、手」
手と言われ、霊夢と早苗は腕を上げてみる。確かに繋いでいたが、二人は同時に首を傾げた。
「いや、これが普通じゃないの?」
「えぇ、普通ですよね」
「やっぱ仲良いじゃないか」
「良いわね」
「良いわ」
と、三人は口に同時に紅茶を口に運んだ。
「で、何の話をしていたんだっけか私ら」
「なんだっけ、パチュリーはわかる?」
「アリス、あなたは意地悪だから嫌いよ」
「あーあ、アリス振られたー」
「で、二人は何しにここに来たの?」
そのパチュリーの一言にいつの間にか話が脱線していたのに気づき、霊夢と早苗ははっと気付いた。
「お菓子よね魔理沙!」
「スイーツですよね魔理沙さん!」
二人はぐいと、互いに手を繋いだまま、テーブル越しに魔理沙に近づいた。それを見て魔理沙は笑いたくなった。二人とも真剣すぎるだろ。
「ぶっちゃけどっちでもいいぜ、私は」
「何言ってるのよ! お菓子でしょ!?」
「いいえスイーツですよね魔理沙さん!」
「いえ、私もどっちでもいいと思うわよ?」
「えぇ、どっちでもいいわね」
アリスとパチュリーも魔理沙に助け船を出す。しかしそれに霊夢と早苗は解せない顔をした。
「いや、私はお菓子って呼んでるけどな」
「でしょ魔理沙! やっぱアンタは親友よ!」
「私はスイーツかしら」
「そうですよねアリスさん! あぁ、アリスさん大好き!」
「その時によるわね、あと気分で」
「「パチュリー(さん)は優柔不断!?」」
と、霊夢と早苗は同時に立ち上がる。それを見て魔理沙がなだめる様に手を動かした。
「とまぁ私達でも言い方は違うわけだ、でもそんな事で喧嘩はしないぜ」
「えぇ、人それぞれなんですから。それでも上手くいくものよ」
「そうね、押し付け合っても無駄。妥協というわけではないけれど、認めるのはいい事よ」
三人の言う通りだ、と霊夢と早苗は目からうろこが落ちる気分だった。
「まぁ、その通りかしら」
「あはは、なんだか馬鹿らしくなってきちゃいましたね」
「えぇ、明日スイーツ食べにいきましょうか」
「はい、お菓子食べに行きましょう」
霊夢と早苗は笑い合っていた。それを見て三人は少しにやついていた。
「おやおや、これはちゅーするのか?」
「あら人前で? まぁはしたない」
「きっすしろ、きっすしろ」
三人の煽りを気にせずに、霊夢と早苗は席を立ちあがった。
「それじゃあ帰るわ、ありがとね」
「えぇ、御馳走様でした」
「おそまつで。さてほんとに返すのか?」
「返しなさいって、その前にお風呂入ってきなさい。その間に夕食作ってあげるから」
「え、私も?」
「そうよパチュリー。あなた達、臭いんだから」
「くさ……母ちゃんがいじめるー!」
「ママー、ママー」
「うっとうしい!」
そのやり取りを見つつ、霊夢と早苗は霧雨魔法店を後にした。
「そうよねぇ、別にどっちだっていいわよね」
「そうですね。でも霊夢、面倒じゃなかったんですか?」
「何がよ」
「人付き合い」
「まぁ……退屈しのぎよ退屈しのぎ」
「そう言って、嬉しそうな顔してましたよ。今日は色んな所に行って」
「はいはい、アンタといたから楽しかったのよ」
「霊夢は私のなんなのですか?」
博霊神社への階段、先に進む霊夢は夕闇に包まれている早苗へ振り返り、そして思った。
いらついてないな、そういえば。
「……なにかしら?」
「私と同じ答えにならないでくださいよ」
「あっそ、今日も泊まってくの?」
「嫌ですか?」
「ご飯、今日はアンタが作りなさいよ」
立ち止まる霊夢に、早苗は階段を駆け上がってその手を繋ぐ。そして思った。
ちょっとは自分の行動に気を付けないと。
「私がですか? めんどくさいなぁ」
「そう、面倒だからアンタに任せるの」
「はいはい」
「というわけで聞きましたよお二人とも」
と颯爽と空から、射命丸文が飛んできた。それを気だるそうに二人は降りてくるのを見守った。
「さて、お菓子とスイーツなんですが、これはなかなか興味深い議題としてわが文々。新聞のコラムで」
「あぁそれ、もういいの」
「えぇ、いいんですよ文さん」
「え?」
口をへの字に変え、文は境内へと上がっていく二人を呆然と見ていた。
「い、いやでもこれで発行部数が上が」
「どっちでもいいのよ」
「えぇ、どっちでもいいんです」
「……あやややや」
立ち尽くす文を余所に、霊夢と早苗は楽しそうに階段を駆け上がっていった。
アリスはどれだけママなんだよwww
一番可哀想なのは藍じゃないかと
すると二人はマザコンかっ!?
葡萄酒のほうが美味しそうかなぁ…
サナレイ万歳 アリスマム万歳
葡萄のワイン
葡萄酒のほうがおいしそうかな。
そして永けーねの裏にかぐもこが隠れてる気がしてならない
葡萄酒の方が美味しそうに聞こえる。
和テイストの洋菓子とか洋風の洒落た体裁とった和菓子とかのイメージ。
純粋な羊羹は和菓子であってほしい。
個人的に、葡萄酒って言うとワインよりもアルコールの入ったブドウジュースみたいな物を思い浮かべてしまいます。
>
> 魔理沙を横目に、霊夢と魔理沙は睨み合った。
魔理沙を横目に、霊夢と早苗は睨み合った。
じゃありませんか?