「よう、魔理沙さんがお越しになられたぜ」
「それは解ったが、その壺は売り物だから腰掛けるなといつもいっているよな?」
それは失礼したぜ、と金髪魔女は飛び降り、
君が失礼なのはいつものことだろ、と銀髪店主は言った。
■
「そして、私に対して香霖がつっけんどんなのもいつものことなんだぜ」
「お客は神様、知り合いは知り合い、泥棒は問題外だ」
─夏の終わり。外では雨がしとしとと降っている。セミはもう鳴きやんだ。だがこの少女の減らず口だけはいつまでも変わらないのかもしれない、と
森近 霖之助は思った。 ─そしてその気楽さが、周りの人間には心地よく、なんだかんだで許される者でいられるのであろう。
だが、そういった雰囲気を身に纏っていようが、、泥棒は泥棒なのである。向日葵のような笑顔を浮かべながら、「これ借りてくぜ」という
呪文と共に道具を持っていかれること幾多星霜。だが、それでも強気になれないのは、彼女の実家に世話になったから──ではなく、後ろめたい事情があるから。
「──つまり、今日の私がお客さんだったら問題はないんだな」
「・・・・・・何の用かな」
「こいつをもう一段階強化して欲しいんだぜ」
魔理沙は帽子からミニ八卦炉を取り出して台の上に置いた。霖之助はそれを見やると、尋ねた。
「緋々色金ではまだ足りないというのかい?」
前回の依頼の際は、自分でも力を入れすぎたし、その出来を喜んだ魔理沙に思わずタダでやってもよかったかなあと思った霖之助だったが、
思わず目を見張った。彼女の力への好奇心は止まるところを知らない。その在り方は霊夢とは正反対のものであるが、彼は向上心を持つものが嫌いなわけではなかった。
「ああ、威力は申し分ないんだけどな、いかんせん魔力の消費量がちょっと厳しい。もう少し抑えられないか?」
「それならできる」
こと、魔道具の扱いにかけて、霖之助の右に出るものはあんまりいない(maybe)。
少々造りをいじることになるから、魔力の放出までの時間が少々延びることになるだろうななどと考えながら、疑問を吐き出す。日ごろより「思ったことをそのまま口に出すだけ」なことを避けている霖之助ではあるが、単純な質問さえできなくてはコミュニケーションが成立しない。大事なのは応用なのだ。
「だけど、どうしてそこまで強くなりたいのかな」
少女はほんの少しの間口元に手を添えて、目線を泳がせた。
「霊夢をぎゃふんと言わせてやりたいんだよ」
「・・・・・・そうか」
嘘つきは泥棒の始まりという。しかし、泥棒が嘘をついたら一体どうなるのか。
・・・・・・そんなのは知るべきことではない。神様にでも任せよう。と店主は疑問を投げ飛ばした。。
「解った。預かろう。六日後にでも来てくれ」
魔理沙がどうして更なる強化を望むか、その真意を無理やりに問いただすつもりはない。どうせ腐れ縁だ。今は仕事に集中すればいい。それだけ霖之助は考える。
「ああ。─また、鉄くずでいいのか?」
「かまわないよ」
即答だった。
「あのな香霖。いつも言ってるけど、私の実家に遠慮することはないんだぜ」
魔女はどことなくさびしげな声色で語る。
「だいたい、いつもいつも、私がミニ八卦炉のメンテナンスやらお酒やらを頼む度に、香霖は鉄くずを要求するじゃないか。なんでだ?」
「君の鉄くずは宝物のような鉄くずなんだよ」
「誤魔化すな。だーかーらー、遠慮してるんだろ?だからって鉄くずマニアになる必要はないんだぜ。この店がこれ以上汚れた責任の片棒をかつがされたくないしな」
「そんなことはないよ」
実は本当にそんなことはない。霖之助の言ったことはあながちごまかしでもないのである。
何しろ魔理沙の持っている「鉄くず」の中には、本当の宝物が眠っていることが多いのだ。
例えば、『草薙の剣』がそうであるように。
魔理沙はそんな貴重なものが紛れ込んでいることを知らない。霖之助は宝物が混ざっていることを言わない。
しかし、いつか魔理沙にも物の価値がわかるようになった時、あまり強く言われないように、普段譲歩しているだけなのである。
─これが後ろめたい事情というやつだ。
「ふん。じゃあいいぜ。とにかく、」
魔女は店の入り口の扉に手をかけると、一度だけ真摯な眼で霖之助を見やり、「頼んだぜ」と呟いて出て行った。
■
五日後、魔理沙はやって来た。いつも通り、予定の期限よりも一日早いご登場である。霖之助がそれを見越して六日と告げていたのは、長年の付き合いからすれば当然である。
「よう、来たぜ」
「魔理沙か。いらっしゃい」
霖之助に珍しく客として迎え入れられた魔理沙はこともなげに「ああ、いらっしゃったぜ」と言うと、霖之助の右手のひらに載せられたミニ八卦炉をかすめとった。
それをスカートの中に突っ込むと、今度は鉄クズを取り出し、台の上にばら撒く。壊れたトンカチ、錆びて切れ味を失ったナイフ、なんらかの部品・・・・・・。今回はお宝も無さそうだななどと霖之助は予想する。実際のところ、今回の作業はそこまで難しいわけでもなかったので、別に良いのだが。
目的を果たした魔理沙は、また次の目的へ向けて空のかなたへ飛んでいくのかと思いきや、ただ立ち尽くしていた。開きっぱなしのドアから差し込む美しい夕暮れの陽は、彼女の金髪をより絢爛に仕立てていた。ボクネンジンのトウヘンボクも突っ立ったまんまそれを見ていた。
「・・・・・・あ~」
罰の悪そうに魔女は後ろ頭をかく。
「やっぱ人間中身だよな」
「そうだね」
唐突に始まった脈絡の無い話題に、店主はしっかりと応答する。
「いくら虚勢を張っていてもだめだよな。そういうところで差が出てきちゃうんだから」
「ああ。だけど、虚勢を張るのはタダだ。それによって中身をより深く見せることもできる。君も店をやっているなら覚えておくと良い」
「あ~?でも、いくら外面が良くても中身がないと、みっともなくないか?」
「虚勢とはつまりはったりだ。はったりってのは、中身が伴ってないとそもそも通用しないものだ」
「それもそうかもな。でも、虚勢も張らず、努力も要らないヤツもいるよな」
「そうだね」
「そういうやつのとなりで虚勢を張って努力してるるのって、かなりみっともなくないか?」
「そんなことはない。努力の苦しみと、それをこなすごとに少しづつ成長していく感覚を知らない者はだめだ。僕はプライドを重んじて向上心のあるやつの方が好きだね」
「・・・・・そうか」
「そう思っているよ」
白黒魔女は外へと振り返る。何かをつかんだかのように、右手をぎゅっと握り締めて。
それからもう一度店主に向き直ると、言った。
「じゃあさ、もう私の実家に遠慮はするなよ。プライドが許さないんだぜ」
「そんなことはない」
「嘘つけ。本当は鉄くずなんて要らないだろ?」
「僕は道具が使い手に恵まれ、喜んでくれればそれでいいんだ。それから、僕は打算的な人妖で、甘くはない」
「どういうことだ?」
「考える努力をするんだね」
魔理沙はくすくす笑った。「そうさせてもらうぜ」
■
店の外は、なおも美しい夕日に照らされていた。
「じゃあ、魔理沙さんはお帰りになられるぜ」
「それは解ったが、これまでのツケはちゃんと払ってくれるんだろうな?そのプライドにかけて」
考えておくぜ、と言って少女は空へと飛び去り、
考えるだけにはしてくれるなよ、と青年は呟いた。
「それは解ったが、その壺は売り物だから腰掛けるなといつもいっているよな?」
それは失礼したぜ、と金髪魔女は飛び降り、
君が失礼なのはいつものことだろ、と銀髪店主は言った。
■
「そして、私に対して香霖がつっけんどんなのもいつものことなんだぜ」
「お客は神様、知り合いは知り合い、泥棒は問題外だ」
─夏の終わり。外では雨がしとしとと降っている。セミはもう鳴きやんだ。だがこの少女の減らず口だけはいつまでも変わらないのかもしれない、と
森近 霖之助は思った。 ─そしてその気楽さが、周りの人間には心地よく、なんだかんだで許される者でいられるのであろう。
だが、そういった雰囲気を身に纏っていようが、、泥棒は泥棒なのである。向日葵のような笑顔を浮かべながら、「これ借りてくぜ」という
呪文と共に道具を持っていかれること幾多星霜。だが、それでも強気になれないのは、彼女の実家に世話になったから──ではなく、後ろめたい事情があるから。
「──つまり、今日の私がお客さんだったら問題はないんだな」
「・・・・・・何の用かな」
「こいつをもう一段階強化して欲しいんだぜ」
魔理沙は帽子からミニ八卦炉を取り出して台の上に置いた。霖之助はそれを見やると、尋ねた。
「緋々色金ではまだ足りないというのかい?」
前回の依頼の際は、自分でも力を入れすぎたし、その出来を喜んだ魔理沙に思わずタダでやってもよかったかなあと思った霖之助だったが、
思わず目を見張った。彼女の力への好奇心は止まるところを知らない。その在り方は霊夢とは正反対のものであるが、彼は向上心を持つものが嫌いなわけではなかった。
「ああ、威力は申し分ないんだけどな、いかんせん魔力の消費量がちょっと厳しい。もう少し抑えられないか?」
「それならできる」
こと、魔道具の扱いにかけて、霖之助の右に出るものはあんまりいない(maybe)。
少々造りをいじることになるから、魔力の放出までの時間が少々延びることになるだろうななどと考えながら、疑問を吐き出す。日ごろより「思ったことをそのまま口に出すだけ」なことを避けている霖之助ではあるが、単純な質問さえできなくてはコミュニケーションが成立しない。大事なのは応用なのだ。
「だけど、どうしてそこまで強くなりたいのかな」
少女はほんの少しの間口元に手を添えて、目線を泳がせた。
「霊夢をぎゃふんと言わせてやりたいんだよ」
「・・・・・・そうか」
嘘つきは泥棒の始まりという。しかし、泥棒が嘘をついたら一体どうなるのか。
・・・・・・そんなのは知るべきことではない。神様にでも任せよう。と店主は疑問を投げ飛ばした。。
「解った。預かろう。六日後にでも来てくれ」
魔理沙がどうして更なる強化を望むか、その真意を無理やりに問いただすつもりはない。どうせ腐れ縁だ。今は仕事に集中すればいい。それだけ霖之助は考える。
「ああ。─また、鉄くずでいいのか?」
「かまわないよ」
即答だった。
「あのな香霖。いつも言ってるけど、私の実家に遠慮することはないんだぜ」
魔女はどことなくさびしげな声色で語る。
「だいたい、いつもいつも、私がミニ八卦炉のメンテナンスやらお酒やらを頼む度に、香霖は鉄くずを要求するじゃないか。なんでだ?」
「君の鉄くずは宝物のような鉄くずなんだよ」
「誤魔化すな。だーかーらー、遠慮してるんだろ?だからって鉄くずマニアになる必要はないんだぜ。この店がこれ以上汚れた責任の片棒をかつがされたくないしな」
「そんなことはないよ」
実は本当にそんなことはない。霖之助の言ったことはあながちごまかしでもないのである。
何しろ魔理沙の持っている「鉄くず」の中には、本当の宝物が眠っていることが多いのだ。
例えば、『草薙の剣』がそうであるように。
魔理沙はそんな貴重なものが紛れ込んでいることを知らない。霖之助は宝物が混ざっていることを言わない。
しかし、いつか魔理沙にも物の価値がわかるようになった時、あまり強く言われないように、普段譲歩しているだけなのである。
─これが後ろめたい事情というやつだ。
「ふん。じゃあいいぜ。とにかく、」
魔女は店の入り口の扉に手をかけると、一度だけ真摯な眼で霖之助を見やり、「頼んだぜ」と呟いて出て行った。
■
五日後、魔理沙はやって来た。いつも通り、予定の期限よりも一日早いご登場である。霖之助がそれを見越して六日と告げていたのは、長年の付き合いからすれば当然である。
「よう、来たぜ」
「魔理沙か。いらっしゃい」
霖之助に珍しく客として迎え入れられた魔理沙はこともなげに「ああ、いらっしゃったぜ」と言うと、霖之助の右手のひらに載せられたミニ八卦炉をかすめとった。
それをスカートの中に突っ込むと、今度は鉄クズを取り出し、台の上にばら撒く。壊れたトンカチ、錆びて切れ味を失ったナイフ、なんらかの部品・・・・・・。今回はお宝も無さそうだななどと霖之助は予想する。実際のところ、今回の作業はそこまで難しいわけでもなかったので、別に良いのだが。
目的を果たした魔理沙は、また次の目的へ向けて空のかなたへ飛んでいくのかと思いきや、ただ立ち尽くしていた。開きっぱなしのドアから差し込む美しい夕暮れの陽は、彼女の金髪をより絢爛に仕立てていた。ボクネンジンのトウヘンボクも突っ立ったまんまそれを見ていた。
「・・・・・・あ~」
罰の悪そうに魔女は後ろ頭をかく。
「やっぱ人間中身だよな」
「そうだね」
唐突に始まった脈絡の無い話題に、店主はしっかりと応答する。
「いくら虚勢を張っていてもだめだよな。そういうところで差が出てきちゃうんだから」
「ああ。だけど、虚勢を張るのはタダだ。それによって中身をより深く見せることもできる。君も店をやっているなら覚えておくと良い」
「あ~?でも、いくら外面が良くても中身がないと、みっともなくないか?」
「虚勢とはつまりはったりだ。はったりってのは、中身が伴ってないとそもそも通用しないものだ」
「それもそうかもな。でも、虚勢も張らず、努力も要らないヤツもいるよな」
「そうだね」
「そういうやつのとなりで虚勢を張って努力してるるのって、かなりみっともなくないか?」
「そんなことはない。努力の苦しみと、それをこなすごとに少しづつ成長していく感覚を知らない者はだめだ。僕はプライドを重んじて向上心のあるやつの方が好きだね」
「・・・・・そうか」
「そう思っているよ」
白黒魔女は外へと振り返る。何かをつかんだかのように、右手をぎゅっと握り締めて。
それからもう一度店主に向き直ると、言った。
「じゃあさ、もう私の実家に遠慮はするなよ。プライドが許さないんだぜ」
「そんなことはない」
「嘘つけ。本当は鉄くずなんて要らないだろ?」
「僕は道具が使い手に恵まれ、喜んでくれればそれでいいんだ。それから、僕は打算的な人妖で、甘くはない」
「どういうことだ?」
「考える努力をするんだね」
魔理沙はくすくす笑った。「そうさせてもらうぜ」
■
店の外は、なおも美しい夕日に照らされていた。
「じゃあ、魔理沙さんはお帰りになられるぜ」
「それは解ったが、これまでのツケはちゃんと払ってくれるんだろうな?そのプライドにかけて」
考えておくぜ、と言って少女は空へと飛び去り、
考えるだけにはしてくれるなよ、と青年は呟いた。
なかなか面白れぇじゃねぇか。
次も期待してるぜ。
干「………」
≦「………」
あ、勿論面白かったですよ?