Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

デートをしましょう

2009/09/05 22:57:40
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私は今、どうしようもなく機嫌が悪かった。

「……霊夢さん」

正座なんかして、恐る恐る呼びかけてくる文に少しいらつきながら返事をする。

「何? さん付けなんかして」
「いえ、なぜかものすごく怒っていらっしゃられるようなので敬語の方がよろしいかと」

なぜか、なんて物言いにこのやろう、みたいな苛立ちがさらに大きくなる。
いや、言ってないから分からないのだろうけれど。いつもながらにケンカを売るような口調だった。

「あんたずっと敬語じゃない……別に、さん付けはいらないし」
「一応取材対象なのは変わりませんから。ほぼ常に敬語ということで。
 それで、霊夢は何故そんなに怒り心頭の御様子で?」
「知らないわよ」

余計に機嫌悪くさせたかなあ、みたいな表情がまたむかつくなあ。そもそも、こいつが悪いのだ。
頭を振り乱して悩みたい気持ちで一杯のところを文の頭をぐしゃぐしゃにして我慢する。
そもそも私が機嫌悪いのはこいつのせいなのだから、さん付けなんてされたら余計に腹立つのは必然だった。
話は、今日の朝まで遡る。


 ◆

「デートをしましょう」

文が変なことを言い出した。
これまたおかしなことを、と思いながら適当に返事をする。

「行ってらっしゃい」

面白いこと思いついた、とばかりにきらきらと輝いていた顔が一瞬で暗くなる。
ちょっとしょんぼりした風に肩を落としながら私の頬を突いてきた。

「一緒に、デートに行きましょう」
「……あんたは、いつ私の恋人になったのよ」
「つれないですね。ちょっとしたジョークにくらい乗ってくれてもいいのに」
「うざったい。里くらい一緒に行ってやるから普通に誘いなさいよ」

手を払いのけながら、はあ、とわざとらしいため息をついてやる。
ぶーぶー言いながら、それじゃ意味がないとかなんとかつぶやいてるけど、知らん。

「うるさい。行くんでしょ。なら、さっさと準備する」
「……。まあ、暇つぶしに付き合ってくれるなら嬉しいですけど」

唇を尖らせながら納得出来なさそうにぽつりと漏らす。
暇つぶしにデートとか言うな。


 ◆


「で? 人里で何をしたいのよ」

村の入口で問い掛けてみるとうん? と首を傾げた。
考えるそぶりをしているところを見るに、本当に思いつきの暇つぶしだったらしい。
別に、思いつきでもいいけど、誘うなら誘うでちゃんと考えておきなさいよ。

「そうですねぇ。とりあえずはお茶にしましょうか。デートの定番ですし」
「ああ、それがいいわ。デート云々は知らないけど、お茶は大事だもの」
「……相変わらずロマンのない人ですね」
「ロマンより目の前のお茶のが重要よ」
「まあ、ロマンでお腹は膨れませんけど」
「でしょう。じゃあ行き先も決まったし、行きますか」

困ったような顔をしながらも付いてくる文。
眉をちょっぴりと下げながら、苦笑するような表情は珍しい。
なんだかんだ言ってロマンとやらが好きな奴なんだろう。

「待ってくださいよ」

声をかけられて立ち止まる。横にぴったりと並んだ文は嬉しそうに笑っていた。
何がそんなに面白いのだろうと思いつつ歩き出そうとすると、文がこっちに手を伸ばしてきて。

「…………」

私は、おもいっきり嫌そうな顔をしていただろう。
伸ばされた文の手は私の左手を緩く掴んで、離さない。
どういうことだ、と目線で問いかけてみてもにこにこ笑っているだけだった。
にやにやじゃなくて、にこにこなあたりなんか、もう、色々と反応に困る。
普段の皮肉めいた笑みだったらからかってんのかってぶん殴れるのに。
こうも嬉しそうだとどうも殴りにくいし。

「私の方が大きいですね」
「へ?」

いきなりなんのことだろう。思わず間抜けな声を返してしまった。

「身長が」

殴っておいた。綺麗な右ストレートだった。

「あんた高下駄履いてるでしょ!」
「だからと言って殴ること無いじゃないですか」
「うっさい。なんか理不尽じゃない」
「でも靴の分を抜いても私の勝ちです。数センチ程」
「あーはいはい。そうですか。数センチじゃ対した自慢にもならないわよ」
「なにおう。思春期には重要な問題ですよ」
「あんたの思春期って何百年前?」
「そんなひどい」

そんなことを言いながらも文は勝ち誇ったような表情を崩さなかった。
あれか。身長がそんなに大事か。
私はまだ成長期だし。まだ大きくなるし。もう何年かで絶対追い越してやるし。

「……でさ、これは何か意味があるわけ?」
「はい? いきなり何を?」
「これよ、これ」

手を持ち上げる。繋がれたままだったそれを文に突き付けるように見せた。
殴られても離さないあたり、何らかの意図があるのやら、ないのやら。

「手を繋ぐことに意味があったら驚きです。これって歩きにくいだけじゃないですか」
「……目の前の誰かさんは何がしたいのかしら」
「だーかーらー、デートだって言ってるじゃないですかー」
「腹立つ言い方するな。いい加減離せ」

軽く振ってみる。
文の手も一緒にぷらぷらと揺れるけれど、離れなかった。

「……デートで手を繋ぐって貧困な発想よね」
「うぐ。だって思いつきませんし」
「さっきも思ったけど、誘うならちゃんと考えておきなさい」
「そんなこと思われちゃ凹んじゃうなあ。そんなことで一々怒られたら、私は存在できません」
「威張るな。そもそもどうしてこんなこと思い立ったのよ」
「それには事情がありまして」

む、と文が渋い顔で黙り込む。
いきなりデートとか言い出すのにどんな事情が必要なんだろうか。

「友人――天狗なんですけれど。そいつが最近できた恋人を自慢してくるんですよ」
「はあ」

まあ、有りがちだろう。特に付き合いたてとか何かと自慢したがるのが多い気がする。

「で、デートの自慢なんかもされちゃいまして」
「へぇ」
「腹が立ったもんですから、頭をこう、べしっとしてやったんですよ。べしっと」
「それはさぞかし愉快でしょうね」
「叩いたその時はそれはそれは愉快でしたよ。しかしそいつ、へらへら笑ってるもんで」
「幸せオーラ振り撒いてたり?」
「まさにそれです。しかも、その笑顔で、嫉妬は見苦しいぜみたいなことを言われちゃあ!」
「あー」

なんか読めてきた気がする。

「それが昨日のことです」
「それで今日のことか」
「その通り。そこで、私はついさっき、考えました。
 デートとやらがそんなにいいもんなら、霊夢を実験台にしてやろうじゃないか、と」
「よーし、出るとこ出ましょうか」
「なぜに?」
「一言多い」

私は被害者なのに、と本気で不思議そうな顔をしている。
こっちはとばっちりだちくしょう。
実験台の一言が無かったら、普通に納得してやったものを。

「そこで私に白羽の矢が立つのもどうしてなのやら」
「山の連中に頼む訳にもいかないですし、魔理沙辺りに頼めばマスパが来るに決まってますし。
 他の連中は万が一了承が取れたとして、何をどうしろと言われるか分かりません」
「……そうね。理解できる私が悲しいわ」
「その点、霊夢なら面白半分に無理難題を押し付けられることもありませんよ」
「本人の前でその物言いはどうなのよ」
「仮に押し付けられたとして、おそらく実現出来る。もしくは踏み倒し可の難題です」
「こいつめ」

守る気が一切見えないではないか。確かに押し付ける気もないけれど。

「でもあれですよね。霊夢だとデートって言うか、単なる買い出しみたいな雰囲気に」
「買い出しいいわね。ついでになんか買っていっちゃいましょ」
「ああ、余計な一言で完璧な買い出しに」
「あんたはいつも一言多いのよ」
「そんなつもりはないのになあ。何ででしょう」

むう、と考え込む顔は完璧に分かっていない顔だった。
歯に衣を着せないからだ。これで立ち回りは妙にうまいから変だ。
……もしやこいつ、分かってて言ったりするのではなかろうな。

「あ、ほら。お茶屋さんですよ。お団子食べましょう。みたらしで」
「はしゃぐな。で、離せ」

繋いだままの手をぶんぶんと振られる。人の視線が痛いと思ったのは初めてだ。
ついでに文の笑顔も痛い。いろんな意味で。
前言撤回したくなってきた。こいつは何にも分かってないんじゃないか。

「今更気にしなくてもいいじゃないですか。来るまでにも見られてましたし」
「余計に離せ!」
「私にしたドメスティックバイオレンスも目撃されてます。ばっちりです」
「間違っても家庭内暴力じゃないわよ。あんたが元凶だし」
「細かいことは置いといて、お茶です」

細かくないと言いたかったけど、お茶の魔力には逆らえない。
お茶うけにおいしいお団子とくればその威力はその倍以上だ。
甘いものにお茶。これを味わうこと以上の幸福があろうか。ああ、おいしい。

「はい、あーん」
「んー」

無駄に疲れた時の甘いものは格別である。
ズズーっとお茶を啜る。ちょっぴり文が赤くなっていた。

「何よ?」
「あなたの恥ずかしがる基準が、分かりません」
「はあ? 何をいきなり言い出すのよ」
「何で手繋ぐくらいであんなに恥ずかしがるのに、あーんは普通に受け入れるんですか」
「……あんたは何してんのよ!」
「気付いてなかったんですか」
「だ、だってお茶飲んでる時に目の前に甘いものがきたら食べるでしょ。当然」
「いや、適当に拒否される前提でやったんですけどね……」
「うるさい。やったあんたが悪い」
「今回ばかりは本気ですみません」

……そうも素直に反省されると、調子が狂う気がしないでもないなあ。
なんだろう。もしかして、私は素直に引かれると弱かったりするのか。

「あー、えーと。さっさと食べて出ましょうか」
「そ、そうね」

むぐむぐとお団子を詰め込む。
そのまま手を引かれて、外に出た。



「奢りって、どんな風の吹き回しよ」
「デートは誘った方が払うものだと思いまして」
「うわ。まだデートにこだわってたんだ」
「有言は実行するものですよ」
「余計なことしか言わないくせに」
「そうですけどね」

あははー、と笑う。いいけどさ。私が得するだけだし。
店から出た後も手を離してくれないと思ったらそういうことなのか。
こいつは妙なところ頑固で融通がきかないなあ。

「よーし、次は――何をしましょうか?」
「知らないわよ。私はそういうの、さっぱりだもの」
「私だって、さっぱりですよ」

なんともぐだぐだなデートだった。
文がそういうことを知らないあたり、意外ではある。
まあ、これに付き合えるのがいたとして、かなり奇特な人物か。

「何もないなら買い出しして帰ればいいじゃない」
「むう、そうですね。やっぱり家が1番なのかもしれません」
「でしょ。じゃ、またね」
「いやいや、ここまで来たら最後まで付き合ってくださいよ」
「……えー」

不満そうに返してみたものの、そんなことになるだろうなー、とは思ってたけど。
正確には、ここからは私の買い出しだから、私の用事に文が付き合うことになるわけだし。

「そうね。ここまで来たんだから夕飯も家で食べていっちゃいなさいよ」
「はあ。もとよりそのつもりですが。霊夢からそう言うなら喜んで」
「……あんたはやっぱり一言多い」

ここまで来ると、こいつは本当にケンカを売ってるんじゃないかと勘繰ってしまう。
繰り返しやってると慣れてくるから困りものだけど。

「あんたは遠慮ってものを知らないのかしら」
「やだなあ。遠くから相手を慮ることなんて知ってる訳無いじゃないですか」
「……ああ、そうね。あんたはそういう奴よ」

でしょう、となぜか嬉しそうに胸をはられる。褒めてはいないのだけれど。

「私がいれば、おまけくらいはしてもらえますし。お得ですよ?」
「はあ? 何であんたがおまけされるのよ」
「里に最も近い天狗ですから。……宴会のお使いにもよく行かされますし」
「へえ。意外ね。あんたはそういうパシリみたいな真似嫌いかと思ってた」
「………………」

あ、本気で嫌そうな顔してる。
今にも呪詛を吐きそうだ。

「大っ嫌いです」
「じゃあ何でよ」
「上。立場。知り合いの鬼。最速」

あー、単語だけで結構分かるもんだ。
雄弁なこいつがぽつぽつしゃべるあたり、嫌で嫌で堪らないんだろう。

「ああ、私の人脈の広さが時として仇となってしまうとは」
「それだけ聞くと自慢に聞こえるけどね」
「私の脚が速かったばかりに貧乏くじを引いてしまうとは」
「やっぱり喧嘩売ってんのか」
「いえ、そんな滅相もない」

どうだろう。ここまでだと売る売らないじゃなくて、個人的なソレで殴ってもいいんじゃないか。

「えー、さて、晩御飯は何にしましょうか」
「そうね。二人じゃ鍋物も寂しいし」

準備が楽なんだけどね。鍋物は。
……ちょっぴり話を逸らされた感がなくもないが。
首を傾げてみるとそうだ、と何かを思い出した風に文が口にした。

「成長期の霊夢さんにはまっこと申し訳ないのですが、肉は控えてくださると嬉しいです」
「ん? ああ、そうね。申し訳なさそうにはしなくていいけど」

申し訳なさそうなのは字面だけだったけど。
動物虐待を常に訴えてるあたり、肉は確かに酷だろう。
でも、そこまで言われるほど、お肉好きっ子じゃないんだけどなあ。

「いえ、霊夢さん」
「何よ」
「お肉は大事なんですよ?」
「そうなんだ」

止めろって言った割には深刻そうに言うもんだ。
タンパク質とやらは体の成長に必要らしいけど、あんまり詳しくはない。

「成長期に肉を食べないと背ばかりか、胸も大きくなりま」

我ながら見事な右アッパーを繰り出した。

「――じゃあ、夜は文の意を汲んで魚にしましょう」
「ありがとうございます……」

うん。すっきりした。超すっきりした。これで口数も減ればいい。
ご飯の方はメインに魚。後は適当にみそ汁とか野菜とかでいいだろう。
朝ご飯みたいなスタイルだけど、団子が腹にたまってるしちょうどいいと思う。
何より、こいつがいるからはりきってると思われたら癪だ。

「魚屋なら私もよく行きますし。いい魚がもらえますよ」
「そう。八百屋はどう?」
「そっちもばっちりです」
「ん。じゃあ今日はその二つでいいか」
「それだけですか?」
「あんたがいいならお米も買うけど」
「それは勘弁」

うん。どう考えても荷物持ちそうじゃないしね。
ないわけじゃないし。まだ結構あるから消費に困るくらいだ。

「じゃあ八百屋から行きます?」
「魚屋からよ? だって野菜は重いじゃない。鮮度は二の次」
「……まあいいですけどね」

そんな不満そうな顔するなら食わんでいい。
いや、不満というか呆れ顔か、あれは。

「ここからなら魚屋の方が近いですし」
「そういうこと。じゃあおまけ係よろしく」
「はーい」



いや、買い物とはこれほどまでに寒々しいものだったろうか。
目の前で飛ばされるお世辞の応酬になんだか背筋が痒くなってきた。
可愛いねえとか、お嬢さんとか、嫁に来てくれだとか。
これほど文に似合わない言葉があろうか。聞いてるこっちが気持ち悪い。
……成果はあったからいいものの。
お魚二匹で一匹分以下の値段はサービスしすぎじゃないかとは思う。

「やっぱりあそこのおじさんは気前がいいですね」
「よすぎる気がするけれど」
「こっちが損しなきゃいいんですよ」

文は褒めちぎられたせいか上機嫌だけど。
こっちはさっきの一言が気にくわなくて、気分急降下中だ。

「まあ、次の店でもお姉ちゃんに任せておくことですね」
「……期待は、しとくわ」

何でこいつが調子に乗るようなことばっか言うのか、あのおじさんは。
手を繋いで歩いてると姉妹みたいだ、なんて。
こんなのと姉妹になるとか、生まれ変わってもごめんだ。
そこ、うるさい。姉面するな。

「ふふん、こう見えても子供の扱いは手慣れたものなんですよ?」
「あっそう」
「慧音さんの所にもたまに行きますし」
「……へぇ」
「寺子屋の子供はまだ素直な時期で扱いやすいですし」
「…………ふーん」
「段々あなたの私に対する視線が厳しくなってません?」
「気のせいよ」

何でこいつのことで私が怒らなくちゃいけないのやら。
こいつの交友関係が広いのは分かりきってることだ。

「うーん、ますますきつくなってるような気もしますが……怖いのであえて触れない方向で」
「あら珍しい。いつもなら一言増やしたがるのに」
「うう、言葉に針がぶっ刺さってますよう」

いつも通りの対応をしてるつもりだけど。そこまで怖がられる理由が分からない。
――もしかしたら、さっきの姉妹発言が尾を引いてるのか。
細かいことは気にしない性格だったんだと思うんだけどなあ。

「はあ。気にしててもしょうがないし、お買い物を再開しましょ」
「そうですね。墓穴を掘るのは流石の私も避けたいです」

常に掘ってるようなものだという突っ込みは胸の奥にしまっておこう。



「………………疲れた」
「そうですか?」

なんというか、疲労困憊。青息吐息が漏れそうだ。
くそう。何だか肌をつやつやさせやがって。
八百屋でおまけしてもらったはいいものの、子供に話し掛けられるのは予想外だった。
子供って何であんなに元気いっぱいなんだろう。
そのうえ一人の相手してるといつの間にか増えてるし。
最終的には十数人いなかったか。あいつらは。

「霊夢は子供に耐性なかったんですね」
「どう接していいか分からないのよ。泣かれるともう駄目」
「普通に遊んであげてれば大丈夫なのに」
「ロリコン?」
「違いますよ」

普通に遊んであげるってどうすればいいのか。
というか、文はやたら子供に優しい気がするのだが。
さっきも抱っことせがまれる度にしてやってたし。

「あーもう、さっさと帰るわよ」

なんとなく腹が立ってきた。うじうじ悩むくらいなら早く帰ってしまえ。
文の手をぐい、と引っ張ってやる。
あれだけこだわってたことを簡単に止めてしまうのは、よくないと思う。
決して手を離したことに怒ってるわけじゃなく。

「ちょっと待ってくださいよ」

私に手を掴まれた文が小走りでついてくる。
今度は、待ってやらなかった。


 ◆

そんな感じで今に致る。
文がうぅ、と呻きながら乱された髪を直していた。

「やっぱりあれですか? そこまで子供が嫌いだったんですか?」
「子供自体は嫌いじゃないわよ。あんたになんとなく苛ついてるだけ」
「そうですか……」

連れ回したのはやっぱり悪かったかな、と文が言う。

「連れ回されたのは怒ってないわよ。なんだかんだで楽しかったし。
 私が苛ついてるのはなんて言えばいいのか分かんなくて……あー、それがまたいらいらする」

はあ、と感嘆したような息をつかれた。
きょとんとして、まるで驚いたみたいな表情だ。

「私、あなたは結構直情型だと思ってました。シンプルな思考だと」
「それ、暗に何も考えてないって言ってるでしょ」
「簡単で素晴らしいですよ。しかし、それが分からない――不可思議ですねぇ」

簡単って褒められた気がしない。否定もされないし。
今はそれどころじゃないから、後でとっちめるけど。

「訳わかんなくて、また苛立つから悪循環なのよ」
「面白いですね」
「私は面白くないわ。あんたに八つ当たりしようかしら」
「それはやめてください」

本気半分だったのに。
元凶なんだから、私のストレス解消に付き合うくらいはするべきだと思うのだ。

「あ、もしかしたら霊夢の苛立ちって嫉妬だったり。
 ほら、私が里でうんぬんってあたりから機嫌悪かったですし」

不穏な何かを感じ取ったのか。
それはないかー、と自分に突っ込みながら乾いた笑いをしている。

「……あんたみたいな新聞馬鹿に嫉妬なんて有り得ないわね」

そうだそうだ。こんなのに嫉妬なんて、幻想郷が崩壊してもお断りだ。
嫉妬は断れるようなものかは知らないが。

「新聞馬鹿って。酷いですね。そもそもそこで何で新聞が出てくるのやら」
「だって毎日新聞新聞言ってるから。一々それに嫉妬しなきゃいけないじゃない」
「あなたのそれは筋が通ってるのか、通ってないのか……」

何だその理論、とちょっと困ったような目が告げていた。

「無機物にまで嫉妬するのは相当病んだ人です」
「だって魔理沙とか、アリスの人形に嫉妬したりするし」
「……あー、あの人形馬鹿っぷりはちょっと異常というか。嫉妬しない方がおかしいというか」

頭を掻きながらどう説明したもんか、と言われてしまった。
何だその、何も分かってない子供にするような表情は。

「そこまであれだと、説明するのが面倒臭くなってきました」
「あれって何よ」
「単なる感情の問題ですし。分かんなきゃそれでいいんです。いらいらしてればいい」

私の文句を軽く無視しながら、至極真面目な顔で言い切った。
いつものケンカ口調のくせに、それは真剣で、真摯な言葉だったと思う。
きっと、これはこいつにとって重要なことだったんだろう。

「無理に分かんないことを知ろうとすると傷を負うこともありますし」
「あんたは、知りたがりの極みみたいなもんじゃない」
「私はいいんですよ。霊夢は駄目。だって、人間は脆いですから」
「人間差別よそれ。妖怪が特別頑丈な訳でもないくせに」
「妖怪が頑丈に思えないのはあなたに限った話ですよ。
 とりあえず、知りたいのが感情なら尚更。無理に知ろうとしてもいいことなんてないですから」

――だから、この話の続きは気付いた時にでも、と。
へらり、といつもよりもふにゃけた顔で、ごまかすように笑う。
その表情は、妹を見守る姉のようで。

「嫉妬は見苦しいらしいですしね。霊夢に見苦しいのなんて似合わない」
「それは、買い被りだと思うけど」
「本心ですよ? だからこそ撮るのが楽しい――ああ! 今日写真撮るの忘れてた!」

……どうして、最後まで真面目に出来ないのかな、こいつは。
初めから撮るつもりなんかなかったくせに。
やるならやるで、それをうっかりなんかで忘れるやつじゃないだろう。
本当、妙に頑固で融通がきかないんだから。
なんとなく悔しかったから、呻いている文の頭をぐしゃぐしゃにして、頭をべしっとしてやった。
ちょっと前に書いた作品が出てきました。
嫉妬霊夢が書きたかったんだと思う。
霊夢は妹タイプ。異論は結構認める。
田北
http://takita12.blog93.fc2.com/
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
お姉さん文も悪くない!!!
と、いうより物凄く好みです!!
2.喉飴削除
あやれいむは素晴らしい。
もっと数増えれば良いと思ってます。
くはー! 面白かったです!
3.名前が無い程度の能力削除
霊夢さんはイザという時の包容力に定評のあるお姉さんから素直になれない甘え下手の妹まで幅広くカバーできるキャラクターですよ!

素敵なあやれいむ有難うございました。次も期待しています
4.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい