朝。欠伸の出る朝。腕と尻尾をピンと立てて、朝を身に染みさせる。
ふあぁ。眠いにゃぁ。でも二度寝するのもつまらないし。
ん~。早朝の散歩でもしようかな。ついでだし、死体運びでもしようかな。
そういえば怨霊の管理で予定詰まってたような。
うえぇ、気が滅入る……
ふぅ。何にしても起きなきゃ駄目だぁね。
面倒面倒思いながら、あたいはのろのろ服を着替えてから廊下へ出た。
澄んだ空気が流れて、いるわけでもないね。でもおかしいな、大概部屋より風が吹き込んでるハズなのに……
……心なしか焦げた香りがするような。
まさか火事? そんな馬鹿な。
でも、お空が火災を起こしてるとしたらあたいは納得してしまう。
納得? いやいや、逃げないと! 危ないどころの問題じゃない!
そんなことを考え、焦げた香りの正体を探すために慌てて駆け出す。
勢い良く曲がり角を曲がってみれば、そこに見慣れない影があった。
……何故、地霊殿の廊下に屋台が。
ゆっくりと前進していく屋台。どうも焦げ臭さの原因はあそこにある様子。
はて、誰が引いてるのだろう。
そして何を売っているのだろう。
よくよく見れば、どうもそれを引いているのはさとり様に見える。
……またなんかよからぬこと考えてんじゃないかなぁ。
気になって屋台を追い、追い越して振り返る。
「そんなの引いて何処往くんです。さとり様」
「あら、お燐。早くからご苦労様」
「ところで、なんで屋台なんて引いてるんですか?」
「あ、これ? ちょっとね。もう秋も近いですし。屋台はお燐の車を改造したわ」
「はぁ!?」
……えっと?
うん、理解できない。
差し当たって、私の車が大惨事だってことだけはかろうじて理解しました。
が、それはまぁいいとしよう。何せ今更なのだろうから。新しいのまた買って貰わないといけないかな……
……こいし様が心労で倒れませんように。
「つまり、旬の味ってこと」
「どういうこと?」
何が旬なのだろう。この焦げ臭い香りが? 確かに秋冬は火事が多いって云いますけど。
……でもそれをどう売るの?
うん、火事じゃないか。そうだね、さすがにそれは嫌だ。そもそも売れないし、売れても嫌だし、何売るの?って話だし。
と、目の前でさとり様が何かを取り出して屋台の中に放り込む。
……えっと、小さく切ってあったけど、あれってもしかして……
「香霖堂の店主から、丈夫そうなのをいくつかいただいたのよ」
それを見せてくれた。
「竿竹です、よね?」
「その通りね」
竿竹焼いて、旬?
え、何コレ、意地悪クイズ? あたいそういうの苦手なんだけど。
……苦手なんだけど、もしかして、万に一つ、今あたいの頭に浮かんだのが正解だとしたら、あたいはどうしたらいいんだろう。
焼き芋と焼き竿って、似てるとか、そういう。
……まずい、ビンゴっぽい!
「もしかして、焼き竿ですか?」
「折角だから、焼いて売ってみようかなぁって」
「い、意味が」
まずい、この人いつも以上に頭がハッピーになってる!
きっとまた徹夜したんだろうなぁ。徹夜するとすぐネジが外れるんだもんなぁ。
こいし様~、助けて~。
「あの、屋台の内部でバンバンと、竹が炸裂してますが」
「……なんか卑猥」
「はい!?」
「なんでもないわ」
助けて~!
寝不足のさとり様って何するか判らないから恐いんだよ!
「あ、あの、これは大きなお世話ですが」
「なぁに?」
「竿は食べられないんじゃないでしょうか?」
「食わず嫌いは良くないと思うわ」
「歯折れそう……」
普段なら絶対に云わない様なことを真顔で。
すごい、ナチュラルハイすごい。
睡眠って大事だね!
「もう焼けているけど、一本いる?」
「わぁ!? いいですよ、そんなの!」
差し出されたけど、それ単に燃えてる竹ですから! 危ない! 恐い!
手に乗せようとしている!?
あり得ない!
逃げた。私は。
しかし、あろうことか火箸で竹持って追ってきた!?
なんぞですかその行為!?
本気の鬼ごっこ。
何故かさとり様が私と拮抗!? なんで!?
曰く、駆け足自慢の私が足で負けるというトラウマを実現させたのだそうな。
新しいトラウマ作成しないで! さとり様が超速いとかなんか恐い!
さとり様の持つ竹の火が消えるまで、あたいたちは走った。マジ死ぬかと思った。あたいの命の火が消えるかと思った。
「はぁ、はぁ……こいし様が恋しいです」
「ツッコミいるでしょ」
「あなたが云いますか」
ツッコミなかったから死にそうだった。やっぱり寝不足さとり様にはこいし様が……でもこいし様も巻き込まれるからなぁ。
適切なツッコミキャラが不足している。やっぱりパルスィさんかヤマメさんいないと駄目だ。そうだ、あの二人がいた。
……今度寝不足さとり様に会ったら迷わず呼んでみよう。
と、突然さとり様は立ち上がり、とことこと屋台に戻っていく。
また追われては敵わないが、それでも屋敷が炎上するのはもっと困るのでついていくことにした。
屋台の傍に立つと、さとり様はぼそりと呟いた。
「誰か間違えて買ってくれるかな」
「どうしたらこれが売れるんですか!」
むしろ売れたら困る! 焼けた竹なんて渡されたら危なすぎる!
……あ、でも竹炭なら売れるかな。
いやいや駄目! そういうの作ってるんじゃない。ボロボロの灰しか残らない!
「それじゃ、里に往ってくるわ」
「……はい、お供します」
放火魔現る。
そんな大見出しが脳裏を過ぎる。
……見張らないと。そして、どこかで完膚無きまでに破壊しないと。
ぐっばい、我が愛しの死体車。パーツを使って次代死体車作るから。
私は変わり果てた我が相棒に敬礼をした。
ちなみに、屋台は地霊殿を出たところで人形を踏んづけて爆発炎上しました。
あいぼーーーーーーー!!!!
『さようなら、お燐』
夜空の彼方で、相棒の声が聞こえた気がした。
そこでハッとする。
さとり様は!?
慌てて駆け寄った。
さとり様、アフロだった。
あと、偶然鉢合わせたお空もアフロだった。
どっちも爆発直撃して未だに起きてこない。
あぁ、静かになったよ。
ちなみに、目覚めたさとり様にアフロの件について怒られました。
納得いきません。
こんないつも通りな地霊殿があたいは大好きです。
こいし様~、自己暗示に疲れたので、早く帰ってきて~……
P.S
お空のアフロに小鳥が住み始めました。
そんな日も有りますよ。
>>あたいの命の火が消えるかと思った
そんな事になったら私を含む二億四千万の『おりんりんファン倶楽部』の皆さんが号泣しますよ。
アフロお空ちゃんあいしてる。
P.S.こいしさん頑張れ。超頑張れ。
天然なさとりんが可愛すぎてもう
こいしさん頑張って
いやまさか芋と竿でこんなコンボがくるとは…ww
さぞ住み心地が良いんでしょうねwww
腹筋崩壊して死にそうになったwww