Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

焼き芋

2009/09/04 02:17:33
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 朝。空気の澄んだ朝。
 さて、ようやくヤツメウナギの仕込みも済んだことだし、今日も一日頑張っていきましょう。
 屋台を引いて、私は売り歩くのです。
 美味しいものをみんなの口に~♪

 とは云っても、まだ此処は森の中。歌って引き寄せてもただの迷い人作成機。
 無理に呼んでもお金持ってなかったりで慈善事業なこともあり。
 これではいかんと思うのところ。

 そこで私は考えました。
 それならどうすれば好いのか。
 でもそれは考えるまでもないこと。
 人や妖怪の大勢いる方向へ往けば好いんです。

 そう思い立ったのも何時のことか、今では里で商売しちゃったりしちゃう妖怪だったりします。
 妖怪はこっそり馴染むのです。
 もうこれで、なかなかそつなく人間相手の客商売もこなすのですよ。
 えへん。
 
 ……ただまぁ、一つ云いたいことがあるとすれば、羽根の付け根へのセクハラは困るなぁなんて。

 でもそれはそれ。
 私がするのは客商売。笑顔と出汁はこぼしても、涙と愚痴はこぼさない。
 よぉし、気合い入れてくぞー。

 本日もいつも通り、とりあえずは屋台を引いて森を抜けて、迷ってる人見付けてはヤツメウナギと恩を売りながら、夕刻辺りに里に出て堂々開店といたしましょう。
 迷い人いますかね。送るのはいいとして、お腹空かせてたりお金持ってたりしますかね。
 ま、その時その時ですね。
 
 がらがらがらがら。車輪が回る~。
 整備頑張ってますが、ちょいとボロが。ん~。大幅な修理が必要かなぁ。

 がらがらがらがら。

 おや? 前方に見知った顔。
 おやおや、あれは妹紅さんじゃないですか。ご同業者さんですね。
 ここだけの話、私の方が妹紅さんより屋台歴は長かったりするんですよ。先輩です。
 色々ノウハウ教えてあげたのも遠い過去。今では教えたり教わったり、もはや宿敵と云っても差し支えない商売人に。
 嬉しいやら悲しいやら。
 
 そんな昔話は置いておいて、どうも妹紅さんの引いている屋台がいつもと違う様子。
 おやおや? 妹紅さんのも壊れましたかね。
 とりあえず寄ってみましょう。

「ちょいとそこ往く、妹紅さん」
「ん? ミスティアか。おはよう、ご同業」
「あれ、いつもと屋台が違いません?」
「あぁ、これか。ちょっとね。もう秋も近いし。屋台は永遠亭のを借りたのさ」
「?」

 えっと……あっ。
 なるほど、理解しました。

 まだ少し温かいですし、少しばかり早過ぎる気はしますが、それもそれで風情があるのかも知れません。
 これはあれですね、石焼き芋の屋台ですね。

「そうですか、旬の味ですね」
「そういうこと」

 ちょっとわくわく。
 私甘いの大好きなんですよねぇ。
 
 でも、どうしてサツマイモがこんな時期に?

「妖怪の山にいる秋の神様から、美味しそうなのを結構いただいてね」

 あぁ、なるほど。

「先駆けですね」
「そうなるわね」

 初物。これは縁起が良いかもしれません。
 鰹じゃないですけどね~。
 
「それで焼き芋ですか」
「どうせだから、焼いて売ってみようかなって」
「いいですね」

 甘い匂いがします。
 食欲が刺激されますね。
 
 と、妹紅さんが、焼く前の芋を一本見せてくれました。
 おぉ、これは御立派。

「わぁ、長くて太くて固くて、立派なお芋ですね」
「……なんか卑猥」
「はい?」
「なんでもない」

 なんか云われたような気がしたのだけど、そっぽ向かれたので気のせいでしょうか。

「しかし、これは立派なお芋ですね」
「そうね」
「さぞや食べがいがあるでしょうね」
「売りがいもあると思うわ」
「楽しそう」

 美味しそうなのも好いけれど、やっぱり私たちは商売人。売るのが楽しい。接客が楽しい。
 あぁ、この芋を買って、喜んでくれた人の顔が見たいなぁ。

 そんな風にキラキラした目で屋台を見ていたら、妹紅さんが一本、焼けてる芋を差し出してくれました。
 おぉ、大きい。良い匂い。

「もう焼けてるわよ。一本いる?」
「わぁ、いいんですか、こんなの」
「あぁ、焼き芋美味しいです」
「石焼きは好いでしょ」
「甘さが好いですね」

 美味しー。
 あまーい。
 流石秋の神様の恵。あぁ、舌が震える。おいち~。

「里の子供ら、買ってくれるかな」
「美味しいからこれ売れますよ」

 こんなもの食べて幸せそうな顔をしている人が一人いれば、あとは釣られて買いますよ。
 これぞ幸福の連鎖。
 客商売人の至福!

 そこまでベタ褒めすると、妹紅さんもなんか照れくさそうに頬を掻いていました。
 嬉しそう。
 
 さすが同業者ですねぇ。

 と、長話もなんですね。
 
 お芋のお礼を言うと、妹紅さんも話を切り上げて屋台を引き始めました。
 焼き芋なので、昼間から屋台を出す様子。それで夕方までに切り上げて、自分の屋台で焼き鳥を売るのだとか。
 仕込みが終わってるとは、なかなかやりますね。見習わないと。

 また夜に一緒に、屋台並べて商売が出来ます。
 それはきっと、いつも通り楽しいのでしょうね。

「それじゃ、また里で会おう」
「はい。それではまた」

 妹紅さんはゆっくりと去っていきます。
 
 がらがらがらがら。
 
 うん、私も往きましょう。
 
 がらがらがらがら。
 
 何か心が躍ります。
 屋台も心なしか弾んでいる様子。
 
 では一緒に歌いながら、夜を待ちましょう。
 
 屋台の車輪の音。私の歌。
 今日の日は酔ったお客さんと同じほど、渋ってなかなか沈んでくれませんでした。
前作のコメントを読んで僕の名前は間違え易いのだと知った。
改めて自分のペンネームを見て納得した。

お陰で少しお腹が空いた。焼き芋一つ下さい。
焼き竿
コメント



1.謳魚削除
焼き芋の前に

>>大幅な修理が必要かなぁ。
この部分で「ミスにと、ミスにとですね!焼き竿さん、ゴチになります!」

とお腹いっぱいになっちゃった私はどうすれば…………!
2.名前が無い程度の能力削除
タイトル中の芋を竿と見間違えられた私より大丈夫。
季節にあったいい雰囲気でした。
3.名前が無い程度の能力削除
もうすぐ秋ですね、私も焼き竿食べたくなってきました
4.名前が無い程度の能力削除
みすちー! 仲間が焼かれてるって!
5.奇声を発する程度の能力削除
最近、焼き芋を売る屋台を見かけなくなったのは気のせい…?