「行ってくるわね」
そういい残して、紫様はスキマを開いて出掛けられた。
また霊夢のところに行くのだろう。
ここ最近は何かあるごとに霊夢のところを訪れてはちょっかいをかけているようだ。
まあ、紫様の機嫌も良いようで何よりである。
ただ、私個人としては、少し複雑だ。
霊夢と紫様と私、その関係に少し悩んでいるからだ。
紫さまは私にとって母であると同時に、主人でもある、とても大切な方だ。
私は幼い頃には母として慕い、一人前になってからは主人として紫様にお仕えしている。
たまには甘えたくなることもあるが、まあ、おおむね上手く回っているといっていいだろう。
だが、霊夢との関係がからむと、その関係はかなり複雑なものになる。
私にとって霊夢は、母であり主人でもある方と、ちょっと良い関係にある年下の女の子、だろうか?
母を取られたような寂寥感、主人がいいひとを見つけた喜び、年下を母と呼ぶかもしれない戸惑い。
様々な要因が渾然一体となっているため、最適な距離感を決定することが難しいのだ。
最近は紫様が霊夢のところに行っている間に、将来を見越して考え込んでしまうことがしばしばだった。
「わっすれっものー」
にゅい、スキマが開いて紫様が顔を出す。
大方、霊夢に菓子でもねだられたのだろう。
そう思って見ていると、紫様が不思議そうな顔でおっしゃられた。
「あら、藍。また計算が詰まってるの?」
「え、そんなに顔に出てましたか?」
「そうね。こーんな」
といって、目じりを手で吊り上げる。
「狐みたいな顔してたわよ」
「私はもともと狐です」
「まあ藍のことは昔から見ているからね。そのぐらいのことは分かるのよ」
「……そう、ですね。計算に詰まっていたといえば、そうかもしれません。
ちょっと、三体問題について考えていたもので」
「それはまた、難しいテーマね」
「はい、三体が相互に影響を及ぼす運動の厳密解、ちょっと解析的に解くのは難しいかもしれません」
「ふーん。でもそれは厳密解でしょう?私としては」
紫様はそう言ってにやりと笑い、
「こうすることをオススメするわ」
私もろとも、スキマに落ちた。
博麗神社にて
「……なるほど」
「ね、これなら分かるでしょう」
紫さまは私を博麗神社まで連れてきたかと思うと、私の自慢の尻尾にじゃれついて言ったのだ。
「霊夢も触ってみたら?」と。
最初は興味津々でもふもふしていた霊夢も、そのふかふかな感触にやられてしまったのか、
尻尾を枕に寝てしまっている。
紫様もふかふかとその感触を楽しんでいらっしゃるので、二つの重りを抱えた尻尾がいささか重い。
「三体問題の厳密解はそうそう出せるものではないけど、
その運動方程式を満たすのは簡単なのよ。だって」
私のしっぽにぎゅーっと抱きついて言う。
すべての距離がゼロならいいんだから。
でも僕はこんな話が大好き
藍様の尻尾モフモフしたい
でもゆかりんなら生きてそう
みたいなお話を読んでみたいなと思っていたところにジャストタイミングでした。
でもやっぱり、みんな幸せが一番ですね!
limr1,r2,r3→0 で
三人の間に働く万有引力
f1,f2,f3→∞ となり
三人はずっと一緒
秀逸です